静岡茶というと、「生産量日本一」の看板をまず思い浮かべる人が多いはずです。ところが今、静岡県が前に出しているのは“首位奪還”より“世界で稼げる茶業”です。スポーツで言えば、打数を増やすより長打率を上げにいった感じですね。根性論でバットを振り回す回ではありません。

テレ朝NEWSが2026年4月8日に報じたところでは、静岡県は新たな茶業振興計画を示し、2028年までに県内事業者の茶輸出額を106億円から154億円へ、およそ45%増やす目標を掲げました。今回の本題はここです。なぜ静岡は「もう一度たくさん作って一位へ」より、「海外で高く売れる茶に寄せる」を本筋にしたのか。

静岡“稼げる”海外向け茶を強化 輸出額45%増で154億円目標 生産量が鹿児島トップで
静岡“稼げる”海外向け茶を強化 輸出額45%増で154億円目標 生産量が鹿児島トップで

農林水産省によりますと、去年の静岡県の荒茶の生産量はおととしから7%減り、2年続けて鹿児島県にトップの座を明け渡しています。 静岡県は6日、世界で稼げる茶業を目指す「新たな計画」を発表しました。 2

今回の登場人物

  • テレ朝NEWS: 今回の入口記事です。静岡県が新計画で何を目標にしたかを、いちばん短くつかむ起点になります。
  • 静岡県茶業振興計画: 静岡県がお茶産業をどう立て直すかを示す設計図です。どの商品を増やし、どこで稼ぐかまで書いてあります。地図アプリでいうと「目的地はどこか」だけでなく「どの道で行くか」まで入っているやつです。
  • 荒茶: 茶葉を摘んで蒸し、揉んで乾かした、いわば仕上げ前のベースの茶です。生産量日本一の話は、まずこの量で見られます。
  • 抹茶・粉末茶: 点てる抹茶だけでなく、飲料や菓子の原料に使う粉末状の茶も含むくくりです。海外需要が強く、単価が高いのが今回のキモです。
  • 輸出額: 海外に売って入ってくるお金の大きさです。同じ1キロでも高く売れれば、量が増えなくても稼ぎは伸ばせます。

何が起きたか

静岡県は「世界で稼げる茶業」を掲げる新計画をまとめました。入口記事によると、2028年までに県内事業者の茶輸出額を154億円に伸ばす目標です。計画案でも、現状値は2024年度ベースで106億円、目標値は2028年度で154億円と示されています。

一方で、生産量の現実はかなりシビアです。テレ朝NEWSは、農林水産省のデータとして、2025年産一番茶の荒茶生産量で静岡県が前年を下回り、鹿児島県に2年続けて首位を譲ったと伝えました。農水省が2025年8月に公表した「令和7年産一番茶」の統計でも、鹿児島県が初の全国1位、静岡県では4月から5月にかけて気温の低い日が続き、芽の伸長が抑制されたと説明されています。

つまり静岡は、量で押し切る戦いでは向かい風を受けている。だったら、どこで勝ち筋を作るのか。その答えとして前に出てきたのが、抹茶や粉末茶を増やし、輸出で単価を取りにいく戦略です。

ここが本題

静岡県が本気で見ているのは、「何トン作ったか」より「どの茶を、いくらで、どこへ売るか」です。理由はわりとシンプルです。量の勝負はきつくなっているのに、高く売れる分野はまだ伸びるからです。

県の計画案では、荒茶全体の生産量は2025年の2万4100トンから2040年に2万5400トンを目指す形で、「爆増」ではなく維持に近い線が引かれています。ところが中身はかなり変えます。抹茶・粉末茶は2024年の3200トンから2040年に8600トンへ。全体の3分の1程度まで拡大する目標です。

この差し替えが重要なんです。リーフ茶を昔の勢いそのままに大量生産するより、海外で需要が強い粉末茶を厚くする。お店で言えば、来客数が急に増えないなら、単価が高くて回転も見込める看板商品を育てる、という判断に近いです。売り場を広げるより、レジを通る時の金額を上げるわけですね。

しかも単価差が大きい。テレ朝NEWSによると、粉末状の緑茶の輸出単価は1キロあたり6927円で、その他の緑茶の3007円の2倍超です。1キロで倍以上違うなら、「同じ面積で何を作るか」はかなり重いテーマになります。お茶畑にとっては、品目の選び方がほぼ経営判断そのものです。

なぜ「首位奪還」よりこちらなのか

まず、生産現場の条件が楽ではありません。静岡県の計画案は、生産者の高齢化や後継者不足、茶園の減少を繰り返し挙げています。2025年の茶園面積は1万1600ヘクタールで、前年から1200ヘクタール減。さらに農水省の2025年産一番茶統計でも、静岡県では気温低下の影響が出たと説明されています。

ここで「よし、もっと量を作ろう」と言っても、畑も人手も加工体制も勝手には増えません。ゲームなら資源ボタンを連打すれば済みますが、現実の茶園はそうはいかない。春の芽は課金で増えません。

その一方で、需要の伸びる場所は見えています。県計画案は、国内では急須でいれるリーフ茶の需要が減りやすい一方、抹茶・粉末茶、ドリンク原料、輸出需要は伸びると見ています。海外では抹茶が「一部のマニア向け」ではなく、飲み物や菓子の材料としてかなり定着してきた。だったら、少ない資源を伸びる市場へ向けた方が、産地としては理にかないます。

つまり、静岡県が捨てたのはプライドではなく、勝ち方の古い前提です。「日本一の量」は分かりやすい看板です。でも、経営を支えるのは看板だけではありません。売上げと所得です。県が輸出額を成果指標に置いたのは、その現実をかなりはっきり認めた動きだと読めます。

日本の読者にとって何が見えてくるか

この話は、静岡のお茶のニュースで終わりません。日本の農業や地域産業が、国内の量的な縮小とどう付き合うかの見本にもなります。人口が減る、担い手も減る、でも海外で評価される余地はある。そんなとき、「昔の最大サイズに戻す」より、「高く売れる形に組み替える」方が現実的な場面は増えます。

もちろん、輸出なら何でもバラ色ではありません。海外の規制、残留農薬基準、安定供給、加工設備、有機対応など、やることは山ほどあります。県計画でも、輸出需要に対応した茶生産への転換面積を広げる目標が置かれています。つまりこれは、キャッチコピーだけの海外シフトではなく、畑から工場まで作り替える話です。地味です。でも、こういう地味な工事がいちばん効くんですよね。

もう一つ大事なのは、単価の高い商品に寄せることが、産地の中の利益配分にも関わる点です。輸出向けの粉末茶が増えれば、茶葉を作る農家だけでなく、加工、選別、包装、営業まで含めた県内事業者の仕事が増えやすい。静岡県が目標にしているのも、県全体の荒茶トン数ではなく「県内事業者の茶輸出額」です。ここには、畑で終わらず、県内で値段のつく工程をどこまで持てるかが重要だ、という発想がにじみます。

逆に言えば、量の首位だけを追うと、この視点はこぼれやすいです。1位の看板は強い。でも、看板だけでは雇用も設備投資も続きません。地域経済として見るなら、「どれだけ作ったか」と同じくらい「どこで付加価値を取れたか」が大事になります。県がスコアボードを量から金額へ少しずらしたのは、その意味でもかなり筋が通っています。

日本の読者にとって大事なのは、「一位か二位か」だけで産地の強さを測らないことです。量の順位は大事です。でも、それだけだと今の競争の本質を見落とします。静岡が狙っているのは、たくさん作る県であり続けることより、ちゃんと稼げる県であり続けることです。

まとめ

静岡県が本筋にしたのは、生産量日本一の奪還そのものではなく、単価が高く、海外需要が伸びる抹茶・粉末茶を軸に輸出で稼ぐ形への転換でした。背景には、2025年産一番茶で鹿児島県が2年続けて首位に立った現実と、担い手不足や茶園減少があります。

だから今回のニュースは、「静岡が弱くなった」という単純な話ではありません。むしろ、量の看板より、売り方と商品構成を組み替える方が産地を守れると判断した、かなり現実的な方向転換です。勝負の土俵が変わった以上、見に行くべき数字も「何トンか」だけでは足りない、というわけです。

Sources