インバウンドの話をすると、つい「日本にたくさん来てくれて良かったね」で終わりそうになります。もちろん、来てもらうこと自体は大事です。来なければ宿も飲食も交通も潤いません。
でも、今回の数字は「たくさん来た」で満足していい段階ではないと教えてくれます。訪日客比率の高い上位100地点のうち72が7都道府県に集中し、25県はゼロ。これ、人気観光地が強いですね、で済ませるには偏りがだいぶ濃い。今回の本題は、観光客の数そのものより、日本の観光導線がまだ細いところにあります。
スマートフォンの位置情報を使い、全国で訪日客(インバウンド)の比率が高かった上位100地点を抜き出すと、7都道府県で72を占めたことが9日、IT企業ウネリー(東京)と共同通信の分析で分かった。
今回の登場人物
- 訪日客比率上位100地点: スマートフォンの位置情報から、訪日客の比率が高かった地点を上位100まで抜き出したものです。今回は2025年の人流データが使われています。
- オーバーツーリズム: 観光客が一部地域に集中し、住民生活や景観、交通に負荷がかかる状態です。観光客が多いこと自体より、偏り方が問題になります。
- 地方分散: 訪日客を東京、京都、北海道、沖縄など一部の定番地域だけでなく、他地域にも広げる政策課題です。
- 宿泊者数の偏在: 観光庁の集計では、2025年の外国人延べ宿泊者数の69.7%が東京、大阪、京都、北海道、沖縄の5地域に集中しました。
- 導線設計: どこを入口にし、どう移動し、何泊し、どこでお金を使うかまで含めた観光の流れです。広告だけでは作れません。
何が起きたか
大分合同新聞によると、ウネリーと共同通信の分析で、訪日客比率が高かった上位100地点のうち72が7都道府県に集中しました。トップ100は22都道府県に分布した一方、北陸など25県は1地点も入らなかったとされています。
記事では、都道府県別に京都が17で最多、北海道が16、神奈川が11で続き、山梨、大阪、沖縄、東京がそれに続きました。1位は北海道のニセコリゾート。京都では清水寺周辺、神奈川では箱根温泉街、山梨では富士五湖と、かなりおなじみの顔ぶれです。
さらに観光庁の2025年データでは、外国人延べ宿泊者数の69.7%が東京、大阪、京都、北海道、沖縄に集中し、31県は1%未満でした。つまり、人流上位地点の偏りは宿泊実績の偏りともつながっています。
ここが本題
本題は、「人気のある観光地に客が集まるのは当然だよね」で終わらせてはいけないことです。もちろん、魅力がある場所に人が集まるのは自然です。でも、25県がゼロという数字は、自然な差というより、導線の細さを示している可能性が高い。
観光は、魅力だけで客が動くわけではありません。航空便、鉄道、二次交通、予約のしやすさ、多言語情報、決済、周遊ルート、連泊の理由。そういう部品がそろって初めて「行ける場所」になります。逆に言うと、良い景色や良い温泉があっても、たどり着きにくく、情報が届かず、回遊の設計が弱ければ、定番地域の強さに吸い込まれやすい。
「地方に来てほしい」は願望だけでは足りない
ここでありがちな誤解は、「地方にも魅力はあるのに知られていないだけだ」という説明です。半分は正しい。でも半分は足りません。
知られていないなら広報すればいい、という話に見えますが、実際にはアクセスや滞在計画の組みやすさが大きい。たとえば京都や箱根や富士五湖は、海外の旅行者にとって情報が多く、移動も読みやすく、旅程に組み込みやすい。一方、地方の観光地は単体の魅力があっても、空港からの動線や多言語対応、周辺観光との束ね方が弱いと、検討の土俵に乗りにくいんです。
だから今回の数字は、地方の魅力不足というより、観光の組み立て不足として読むほうが正確です。「来てください」だけでは弱い。どう入って、何を回って、何泊して、次にどこへ行くかまで見せないと、旅行者は王道ルートに戻ります。旅行者も暇ではないので、よく分からない旅程に命を預けません。
日本の読者にとっての意味
この偏在は、人気観光地には混雑、地価上昇、住民負担という形で表れます。一方で、地方には「全国で記録的に訪日客が来ているはずなのに、自分の地域にはそこまで波及しない」という形で表れます。つまり、勝ち組と負け組の話というより、偏った成功の副作用なんです。
大事なのは、インバウンド政策がすでに次の段階に入っていることです。もう「日本に来てもらうかどうか」だけではない。「来た人をどう散らし、どう滞在を深くし、どう地域に落とすか」が勝負です。ここを間違えると、人気観光地は疲弊し、地方は待っているだけになる。観光の総量が増えても、体感としてはうれしさが均等に広がりません。
誤解しやすいところ
一つ目は、「人気観光地が勝っているだけだから市場原理で仕方ない」という見方です。観光は市場だけでなく、インフラ、広報、規制、交通、地域連携で大きく形が変わります。放っておいた結果の集中を、自然現象みたいに扱うのは少し違います。
二つ目は、「地方分散は、空いている県に客を振り向ければ解決」と考えることです。旅行者は“空いているから”だけで旅先を選びません。旅程の組みやすさや、次に回る場所とのつながり、情報量、予約のしやすさが必要です。分散は配給ではなく設計です。
三つ目は、「上位に入っていない県には魅力がない」と読むことです。そうではなく、旅程の入口に乗っていない可能性が高い。魅力があっても、そこへ行くまでのストーリーが弱いと、比較表にすら出てこないことがあります。
これから何を見るべきか
今後見るべきなのは、地方に観光客が増えたかどうかの単純な人数だけではありません。平均宿泊日数、周遊率、二次交通の利用、混雑の時間帯分散、地域ごとの消費単価まで見ないと、本当に分散できているかは分かりません。
政策面では、国の広域周遊ルートや地方空港の活用策が、実際の移動導線までつながっているかも重要です。ポスターでは地方創生でも、旅程表では京都と東京しか残らない、では意味が薄い。旅行者の一日単位の動きを変えられる設計がいる。
読者としては、「訪日客が増えた」という総量ニュースの次に、「どこへ偏ったか」を見る習慣を持つとかなり解像度が上がります。観光の成功は、人数だけで測ると見落としが多い。流れの偏りまで見て初めて、本当に強いのか、ただ詰まっているだけなのかが分かります。
それで何が変わるのか
この見方が広がると、観光ニュースの評価軸も少し変わります。訪日客数の過去最高だけで拍手するのでなく、「どこに集中し、どこに届いていないか」を一緒に問えるようになる。そうなると、地方の観光政策も、単発イベントより周遊導線の整備へ目が向きやすくなります。数字の見方が変わると、打ち手の優先順位も変わります。
住民目線でも意味があります。混雑に疲れている地域は「もっと客を増やす」より「どう散らすか」を求めやすくなり、逆に客足が弱い地域は「魅力を語る」だけでなく「どう旅程に組み込まれるか」を考えやすくなる。偏りを可視化すること自体が、次の議論の土台になります。
まとめ
訪日客が7都道府県に集中したニュースの本題は、人気観光地がやっぱり強い、という確認ではありません。地方分散の設計がまだ弱く、定番ルートへの流れを変えきれていないことにあります。
中心答えはこうです。観光の課題は「もっと来てもらう」から「どう偏らせないか」に移ったのに、受け皿と導線が追いついていない。数字の偏りは、その設計の弱さをかなり正直に映しています。観光って、客数の多さだけ見ていると、流れの詰まりを見落とすんですよね。