病院の改革というと、つい「赤字をどうするか」の話に見えます。もちろんお金は大事です。赤字が続けば、病院そのものが持たない。でも病院は、帳簿だけで動く場所ではありません。医師や看護師や事務職員が、明日もここで働くつもりでいて、初めて回ります。

だから今回の静岡市立清水病院の話で気になるのは、指定管理者制度そのものより、その前段です。制度変更の説明が現場に「自分の給料や働き方はどうなるのか」という最低限の見通しとして届く前に、不信感が先に広がってしまった。こうなると、改革は紙の上で正しくても、現場では足場が抜けます。

市立病院で職員の4割が「退職したい」 指定管理者制度の導入めぐり職員「あまりに突然」 市「説明してきたつもりだった」 市長が謝罪も方針は変えず 「直営という形でやるのはもう無理」|FNNプライムオンライン
市立病院で職員の4割が「退職したい」 指定管理者制度の導入めぐり職員「あまりに突然」 市「説明してきたつもりだった」 市長が謝罪も方針は変えず 「直営という形でやるのはもう無理」|FNNプライムオンライン

静岡市が4月に表明した市立病院における指定管理者制度の導入。ただ、多くの職員は所得の減少が見込まれるため、反発が強まっている。これを受け、難波喬司 市長は「説明が不十分だった」と会見で謝罪したものの、方針を曲げる考えがないことを明らかにした。経営状態が危機的状況に瀕している静岡市清水区の市立清水病院。赤字は過去20年にわたって続いていて、2024年度は市が18億円もの運営費負担金を支出しながら22億5000万円の赤字を計上した。2025年度に至っては運営費負担金が19億円の中、最終赤字は29.…

今回の登場人物

  • 静岡市立清水病院: 静岡市清水区にある市立病院です。今回の制度変更の対象で、長年の赤字が課題になっています。
  • 指定管理者制度: 公の施設の運営を、自治体が指定した外部の団体に担ってもらう仕組みです。今回はJA静岡厚生連が前提として示されています。
  • JA静岡厚生連: 清水区で清水厚生病院を運営している団体です。静岡市はここが指定管理者となることを前提にしています。
  • 難波喬司市長: 静岡市長です。制度導入の方針を示し、説明が不十分だったと謝罪しました。
  • 職員アンケート: 静岡市職員の労組が公表した調査です。指定管理導入時の意向として「退職したい」が41.4%でしたが、FNN記事では複数回答者が一定数含まれる可能性にも触れています。

何が起きたか

FNNプライムオンラインの記事 によると、静岡市は4月24日、清水病院で2027年度から指定管理者制度を導入すると発表しました。前提として示されたのは、同じ清水区で清水厚生病院を運営するJA静岡厚生連が指定管理者となる案です。

背景にあるのは、清水病院の厳しい経営です。記事では、赤字が過去20年にわたって続き、2024年度は市が18億円の運営費負担金を支出しながら22億5000万円の赤字を計上したとされています。さらに2025年度は運営費負担金19億円に対し、最終赤字が29.5億円と見込まれ、実質的な損失額は50億円近くに上る見通しだと報じられています。

市の説明では、2040年を目標に入院機能を清水病院に集約し、清水厚生病院には総合的な診療機能を提供する外来機能のみを残す計画です。難波市長は、2つの病院が両方とも存続しようとすると「共倒れ」になると、その意義を説明しています。

ただ、ここで強い反発が起きました。静岡市職員の労組が4月28日に公表したアンケートでは、医師や看護師など職員731人を対象とし、回答は640件。FNN記事は、複数回回答した人が一定数含まれている可能性があると注記しつつ、指定管理が導入された場合の対応として「退職したい」が41.4%、「継続して働きたい」が12.0%、「悩んでいる」が44.1%だったと伝えています。

ここが本題

本題は、病院改革が失敗するかどうかは、制度の設計図だけでは決まらないということです。現場の人たちが「自分はこの改革のあとも働き続けられる」と思えないまま制度変更だけ先に進むと、改革が実際に始まる前から実行力が削れていきます。

病院は、建物と看板が残っていれば成立するものではありません。医師、看護師、検査、薬剤、事務など、いろんな職種が毎日ぎりぎりの連携で回しています。そこに「所得が下がる見通しです」「でも詳しいモデルはこれから示します」と来たら、現場は落ち着きません。そりゃそうです。人生設計の話に「詳細は後日」は、かなり心臓に悪い。

難波市長は5月11日、説明が不十分だったと謝罪しました。一方で、決定から発表までかなり時間をかけ、その間に現場へ説明するよう指示していたという認識も示しています。つまり市側には「説明してきたつもり」があり、現場には「あまりに突然」という受け止めがあった。このずれが、いちばん重い問題です。

なぜ信頼の崩れが先に来ると厳しいのか

FNN記事では、職員の多くは指定管理者制度の導入で所得が下がる見通しとされています。そのため市は、退職金の割り増しや、他市の事例を参考にした数年間の給与補償を検討し、一部職種では市職員としての配置転換も考えるとしています。

ただ、これは裏を返すと、職員が不安を抱く大きな理由がすでに市側も分かっているということです。だったら最初に必要だったのは、「改革は必要です」という大方針だけでなく、「あなたの待遇はどう変わるのか」「残る選択肢はあるのか」「移るならどんな条件なのか」という個人レベルの見通しでした。

病院の現場で信頼が崩れると、問題は人数の多寡だけでは済みません。誰が辞めるか分からない状態が長く続くこと自体が、職場を不安定にします。「退職したい」と言った人だけが影響するのではなく、「悩んでいる」人が多いことも重い。悩んでいる人は、まだ残るかもしれないけれど、安心して全力投球できる状態ではないからです。

「改革は必要」と「進め方が危うい」は両立する

ここは誤解しやすいところです。この記事のポイントは、「だから指定管理化は絶対にやめるべきだ」と断定することではありません。FNN記事が示す数字を見る限り、清水病院の経営がかなり厳しいのは事実です。難波市長が「直営の延長線上ではもう無理」と言う背景も、少なくとも記事上は理解できます。

でも、必要な改革であることと、進め方がうまいことは別です。むしろ本当に必要な改革ほど、現場の信頼を雑に扱うと失敗しやすい。なぜなら、最後に制度を動かすのは現場だからです。病院改革はパワーポイントでは診療しません。そこは残念ながら、スライドを何枚増やしても外来は回らない。

市は5月18日と19日に職員向け説明会を開き、今後の待遇や給与体系についてモデルケースを示す予定で、6月1日からは個別相談窓口も設けるとしています。順番としては、この種の具体策がもっと早く見えていれば、受け止め方は違ったかもしれません。少なくとも、現場が「判断材料なしで人生を賭けろと言われている」と感じる度合いは下げられたはずです。

読者にとって何が大事か

この話は、静岡の一病院だけの内部問題ではありません。公立病院の改革では、財政、地域医療、雇用、住民サービスが一気につながります。だから「赤字だから変える」は出発点にはなっても、成功条件にはなりません。

成功条件に近いのは、現場の人が将来像を具体的に描けることです。自分の給与、身分、働き先、職場の役割分担がどうなるのか。そこが見えないままでは、改革は発表された瞬間から「制度変更」ではなく「脱出レース」に見えてしまう。そうなると、共倒れを防ぐための改革が、別の意味で共倒れリスクを増やしかねません。

病院経営の話は、つい数字が主役になりがちです。でも病院は人でできています。かなり当たり前のことを言っていますが、こういう当たり前は、改革の説明資料になると急に席を外しがちです。そこが今回のニュースの肝です。

まとめ

清水病院の指定管理化をめぐるニュースで重要なのは、赤字の深刻さだけではありません。経営を立て直すための制度変更でも、職員が自分の待遇や将来を見通せず、説明への信頼が崩れたままでは、改革が動き出す前から実行力が細ります。

必要な改革ほど、現場に「痛みはあるが、どこへ向かうかは見える」と伝えられるかが問われます。今回の件は、ガバナンスの変更が届く前に職員の信頼が抜け落ちると、公立病院改革は設計より先に足元から崩れる、というかなり厳しい教訓を示しています。

Sources