SASUKEが五輪に近づく、と聞くと、まず「へえ、なんか夢ある話だな」で終わりそうです。実際ちょっと夢はあります。あの手の番組が世界大会みたいな場所に行くの、だいぶロマンがあります。

でも今回の本題は、夢がかなったね、ではありません。もっと面白いのは、日本のテレビ番組が生んだ“見せ方”や“難しさの作り方”が、五輪競技の見せ方の一部に接続し始めたことです。

ロス五輪で「SASUKE」のデザインなどを利用できるライセンス契約 「近代五種」の統括団体「UIPM」とTBSテレビが協力強化 | TBS NEWS DIG
ロス五輪で「SASUKE」のデザインなどを利用できるライセンス契約 「近代五種」の統括団体「UIPM」とTBSテレビが協力強化 | TBS NEWS DIG

1997年から続くTBSテレビの番組「SASUKE」。TBSテレビは、オリンピック競技の「近代五種」を統括する団体「UIPM」との協力を強化。SASUKEの障害物デザインなどを、近代五種の新種目となった「オブスタクル」で利用…

今回の登場人物

  • SASUKE: 1997年から続くTBSの障害物レース番組です。海外では「Ninja Warrior」として広く知られています。
  • UIPM: 国際近代五種連合です。近代五種の国際統括団体で、ロサンゼルス五輪に向けた新種目オブスタクルも所管します。
  • 近代五種: フェンシング、水泳、オブスタクル、レーザーランなどを組み合わせる競技です。馬術が外れ、オブスタクルが新たに入った流れが大きな変化でした。
  • オブスタクル: 障害物を越えてタイムを競う種目です。SASUKEっぽい、と言われがちなあれです。
  • IP: 知的財産のことです。今回は番組のデザインや競技演出に関わる要素が、スポーツの場でどう使われるかが焦点です。

何が起きたか

TBS NEWS DIGによると、TBSテレビは2026年5月27日未明、近代五種の統括団体UIPMと協力を強化し、2028年ロサンゼルス五輪で採用されるオブスタクル種目において、SASUKEのデザインなどを利用できるライセンス契約を結んだと報じました。

UIPMの公式発表でも、TBSとUIPMがSASUKE/Ninja Warriorと障害物レースの発展で協力すること、ロサンゼルス2028に向けてオブスタクル競技の魅力と認知を高める狙いが示されています。

つまり今回は、「SASUKEっぽい競技が五輪に入る」より一歩進んでいます。すでに近代五種に入ったオブスタクルという競技に、日本の番組IPが正式に関与する形が整ってきた、というニュースです。

ここが本題

中央の問いはこうです。なぜこの契約が、ただのエンタメ話で終わらないのか。

答えは、コンテンツ輸出ではなく、競技の見せ方を作る側に日本IPが入ったからです。

普通、番組の海外展開というと、フォーマットを売る話だと思いがちです。国ごとに似た番組が作られる、というあれです。もちろんSASUKEにもそういう歴史があります。

でも今回は、番組の世界観がスポーツ競技の舞台設計や体験設計に接続しています。障害物の形、越え方の見せ方、観客が「おお」となる難所の作り方。そういう見せ方の一部に、テレビ側の発明が入ってくる。これはただの版権使用より、ずっと深い話です。

スポーツって、ルールだけでは成立しません。どう見えるか、どこで盛り上がるか、選手の能力がどう伝わるか、観客が何を難しいと感じるか。そこまで含めて競技です。今回の契約は、その「どう見えるか」の部分で、SASUKEが持っていた設計思想が使われうることを示しています。

「テレビ番組が五輪に行く」と言うと、少しズレる

ここは誤解しやすいので、いったん整理します。

SASUKEそのものが五輪競技になるわけではありません。五輪で行われるのは近代五種の中のオブスタクルです。ここを混ぜると、話が一気に雑になります。

ただし、「別物だから関係ない」と切ってしまうのも違います。なぜなら、競技としてのオブスタクルが、多くの人に分かりやすく伝わるためのデザイン言語として、SASUKEの蓄積がかなり強いからです。つまり制度上は別、体験上はかなり近い。ここが今回の面白いところです。

たとえるなら、料理名は違うけれど、レシピの基本技術が同じ厨房から来ているようなものです。食べた人が「あ、あの系統だ」と感じるやつですね。スポーツとテレビの境目で、そういうことが起きています。

なぜ今、価値が大きいのか

ロサンゼルス五輪に向けて、近代五種は馬術を外した後の新しい見せ方をまだ育てている最中です。オブスタクルは、観客にとって直感的に分かりやすく、映像にも強い種目です。しかし、新しいからこそ、「何を面白さの中心にするか」の設計が重要になります。

そこにSASUKEが入る意味は大きい。SASUKEは長年、身体能力の高さだけでなく、緊張感、失敗の納得感、観客が進行を追いやすい構造を磨いてきました。どこで挑戦者が詰まり、どこで突破がドラマになるかを、テレビとして相当研究してきたわけです。

スポーツビジネスの視点で見ると、これは日本のIPが「見てもらう技術」で勝負できる例でもあります。単に競技者を送り出すだけではなく、世界の大会体験を形づくる側に回る。けっこう強いポジションです。

ただし、テレビの面白さをそのまま競技に持ち込めばいいわけでもない

ここも少し大事です。

テレビ番組は、分かりやすさや盛り上がりを優先できます。でも五輪競技では、公平性、再現性、審判のしやすさ、選手の安全性が強く求められます。つまり「映える障害物」がそのまま「良い競技障害物」になるとは限らない。

だから今回の契約の価値は、SASUKEの演出を丸ごと輸出することではなく、競技として成立する範囲で、どのデザインや体験要素が使えるかを精密に選べることにあります。テレビの熱狂とスポーツの厳密さの間で、ちゃんと翻訳が必要なんですね。

逆に言えば、その翻訳がうまくいけば、日本のコンテンツ産業は「面白いものを作る」だけでなく、「国際競技の見せ方に関わる」側に一歩進めます。今回の話は、そこへの試金石でもあります。

そして、ここで成功すれば波及先は近代五種だけに限りません。若い競技や新設競技は、ルールの厳密さと観客への伝わりやすさを同時に育てる必要があります。SASUKEのような長年の映像資産が、その橋渡しに使えるなら、日本のIPは「番組販売」より広い商売になります。障害物一個のデザインの話に見えて、実は競技体験の輸出の話なんです。

しかも、これは日本の「ものづくり」だけでなく「見せ方づくり」が外貨を稼ぐ例としても読めます。わりと夢があるうえに、ちゃんと現実的です。

日本の読者にとっての意味

一つ目は、日本のコンテンツの価値が「作品を売る」だけでなく、「体験の設計を輸出する」段階に入っていることです。これはアニメやゲームとは別の、日本らしい勝ち筋として見る価値があります。

二つ目は、スポーツとエンタメの境界がますます薄くなっていることです。競技の公正さを守りながら、どう見せれば世界に届くか。その設計が重要になっており、SASUKEはその文脈で評価されています。

三つ目は、近代五種という少し分かりにくかった競技が、オブスタクルを通じて観客との距離を縮める可能性があることです。難しい種目の寄せ集め、という印象だった競技が、「あの障害物レースの系譜か」と理解されやすくなる。これは競技普及にとってかなり大きいです。

まとめ

今回のSASUKEとUIPMの契約で大事なのは、「日本の人気番組が五輪に出る」という見出し映えだけではありません。本当の意味は、日本のテレビIPが、競技の見え方や面白さづくりに関わる位置まで来たことです。

SASUKEは番組のまま五輪に行くわけではない。でも、その要素は五輪の新種目の見せ方に入り込んでいく可能性がある。そこまで読めると、このニュースはただの明るい話題ではなく、日本のコンテンツとスポーツビジネスの接点を示すニュースとして見えてきます。

Sources