富士総合火力演習の映像を「戦車がドーン、煙がバーン」で見終えると、肝心なところを取り逃がします。迫力はあります。音もすごい。たぶん現地の空気は、ポップコーンではなく火薬のにおいです。

でも今回の本題は、初披露された25式高速滑空弾の発射機です。これは「遠くの相手を、上陸前に止める」ための装備で、日本の防衛の考え方が変わっていることを示しています。

国内最大規模「富士総合火力演習」を実施 島しょ防衛用に開発「25式高速滑空弾」発射機を初披露=陸上自衛隊 | TBS NEWS DIG (1ページ)
国内最大規模「富士総合火力演習」を実施 島しょ防衛用に開発「25式高速滑空弾」発射機を初披露=陸上自衛隊 | TBS NEWS DIG (1ページ)

陸上自衛隊は6月7日、実弾を使用する国内最大規模の演習「富士総合火力演習」を静岡県御殿場市の東富士演習場で行っています。小泉進次郎防衛大臣が見守る中行われた富士総合火力演習には、全国の部隊の隊員約3000… (1ページ)

今回の登場人物

  • 富士総合火力演習: 陸上自衛隊が東富士演習場で行う大規模な実弾演習です。装備や戦い方を示す場でもあります。
  • 25式高速滑空弾: 島しょ防衛用に開発された長射程のスタンド・オフ装備です。発射後に高速で滑空し、遠くの目標を狙う考え方の兵器です。
  • 島しょ防衛: 南西諸島など、島が多い地域を守る防衛です。海と空と陸がつながる難しい領域です。
  • スタンド・オフ: 相手の攻撃圏の外側から攻撃・抑止する考え方です。近づいて殴るのではなく、遠くから止める発想です。
  • ドローン対処: 無人機による偵察や攻撃に備える防衛です。今回の演習でも対ドローン装備が披露されました。

何が起きたか

TBSは6月7日18時2分、陸上自衛隊が静岡県御殿場市の東富士演習場で富士総合火力演習を実施し、島しょ防衛用に開発された25式高速滑空弾の発射機が初めて演習に組み込まれたと報じました。

記事によると、演習には全国の部隊から約3000人が参加しました。想定は、南西諸島など大小の島がある地域に外国が攻め込む事態です。演習では25式高速滑空弾の発射機に加え、ドローン攻撃への対処や対ドローン装備も披露されました。使用弾薬は69.5トン、8億2000万円分とされています。

陸上自衛隊の公式情報でも、富士総合火力演習は島しょ防衛を想定し、統合運用や領域横断作戦環境下での戦い方を展示する場と説明されています。

ここが本題

今回の中心問いは、「なぜ25式高速滑空弾の発射機が演習に出たことが重要なのか」です。

答えは、日本の防衛が「来てから押し返す」だけでなく、「来る前に遠くで止める」方向へ進んでいるからです。島しょ防衛では、相手が島に上陸してから戦うと、被害も政治的コストも大きくなります。だから、上陸部隊や艦艇が近づく前に、遠い場所から抑える力が必要になります。

スタンド・オフとは、相手の攻撃が届きにくい距離から対応する考え方です。格闘ゲームでいうと、密着して殴り合うのではなく、相手が近づく前に距離を取って止める感じです。もちろん現実はゲームではないので、ボタン連打で済みません。目標の確認、通信、衛星、部隊連携、政治判断が全部つながります。

島を守る難しさ

南西諸島の防衛は、地図で見るよりずっと難しい話です。島と島の間は海です。部隊や物資を動かすには船や航空機が必要です。天候も影響します。港や空港が使えなければ、増援や補給が遅れます。

相手が先に島へ入ってしまうと、取り返すには大きな作戦になります。市街地や住民が関われば、さらに難しい。だから「上陸させない」「近づけさせない」ことが重要になります。25式高速滑空弾のような装備は、その発想の中にあります。

ただし、長射程の装備は単体で完結しません。遠くを攻撃するには、遠くの相手を正確に見つける必要があります。海上の艦艇なのか、上陸準備中の部隊なのか、どこにいるのか。情報がずれれば、強い装備もただの高い置物になります。いや、置物としてはだいぶ圧が強すぎます。

ドローンが演習に入る意味

今回、対ドローン装備も披露されました。ここも重要です。近年の戦争では、ドローンが偵察、攻撃、誘導、心理的圧力に使われています。高価な装備でも、小型ドローンに位置を見つけられれば危険です。

つまり、これからの防衛は「強いミサイルがあります」だけでは足りません。相手に見つからない、見つける、通信を守る、ドローンを落とす、偽装する、移動する。そういう細かい運用がセットになります。最新兵器の横に地味な電波や補給の話が並ぶ。安全保障は、派手な表紙の下に分厚い説明書があるタイプの本です。

25式高速滑空弾の発射機が車両で動くことも、運用上のポイントです。固定された基地だけに置くと、相手から狙われやすい。移動できれば、生き残る可能性が上がります。ただし、移動すれば補給、整備、通信、訓練も難しくなります。強い装備ほど、裏方の段取りが効きます。

反撃能力との距離感

ここで誤解しやすいのは、「長射程装備が出たから、すぐ攻撃的になった」と短絡することです。日本政府は近年、反撃能力やスタンド・オフ防衛能力の整備を進めています。これは抑止、つまり相手に「攻めても割に合わない」と思わせるための力として説明されています。

一方で、長射程装備は周辺国から警戒されやすいのも事実です。だからこそ、どの条件で使うのか、どの指揮命令で動くのか、国会や国民への説明が重要になります。装備を持つことと、運用の透明性を高めることはセットです。高性能な車を買ったなら、ブレーキの説明も必要です。

また、予算の問題も避けられません。TBSの記事は今回の演習で使われる弾薬が69.5トン、8億2000万円分だと伝えています。演習だけでも大きな費用がかかります。実際の装備体系を整えるには、ミサイル本体、発射機、訓練、保管、整備、情報システム、部隊の人員まで必要です。防衛力は買い物カゴにミサイルを入れて終わり、ではありません。レジのあとに、説明書と保管場所と練習時間が山ほど来ます。

だから、国民に必要なのは「賛成か反対か」の前に、何のためにどの能力を持つのかを理解することです。遠くから止める能力は抑止に役立ちますが、誤認や緊張上昇のリスクもあります。強い道具ほど、使わないための説明が重要になる。この少し面倒なバランスが、安全保障の現実です。

それで何が変わるのか

今回の演習は、日本の防衛が「本土を守る陸上戦」だけでなく、「海を越えてくる脅威を島の外側で止める防衛」へ変わっていることを示しています。南西諸島をめぐる緊張、中国軍の活動、台湾有事への備えなどを背景に、陸上自衛隊も海・空・宇宙・サイバーとつながる戦い方を求められています。

読者にとって大事なのは、演習映像の迫力に引っ張られすぎないことです。25式高速滑空弾の意味は、「すごいミサイルが出た」では終わりません。遠くを見つける情報網、発射後の誘導、部隊間の連携、住民避難、外交上の説明、予算の優先順位まで含めて、日本が何を守り、どこまで備えるのかを考える材料です。

防衛のニュースは、専門用語が多くて一気に眠くなりがちです。でも今回は比較的はっきりしています。日本は、島へ攻め込まれてから慌てるのではなく、遠くで止める力を整えようとしている。その一部が、演習の場で見える形になったということです。

その分、私たちも映像の迫力だけでなく、「何を抑止したいのか」「説明できる運用なのか」まで見る目を持つ必要があります。

まとめ

富士総合火力演習で25式高速滑空弾の発射機が初披露された本題は、火力の迫力ではありません。日本の防衛が、島しょ部を守るために「遠くから止める」スタンド・オフの発想へ重心を移していることです。

ただし、装備だけでは防衛は完成しません。見つける力、通信、補給、ドローン対処、政治判断、国民への説明がそろって初めて機能します。ドーンと撃つ映像の裏にある、地味で面倒な設計こそが本題です。

Sources

  • TBS NEWS DIG「国内最大規模『富士総合火力演習』を実施 島しょ防衛用に開発『25式高速滑空弾』発射機を初披露=陸上自衛隊」
  • 陸上自衛隊「富士総合火力演習」
  • 陸上自衛隊「荒井陸上幕僚長 定例記者会見」2026年5月26日
  • nippon.com「国内最大級の実弾演習実施=『高速滑空弾』発射機を初公開―陸自」