JALモバイルを「ahamoにマイルが付くプラン」とだけ見ると、通信業界の本題から置いていかれます。ここで起きているのは、スマホ料金が航空会社の経済圏に組み込まれる話です。

今回の本題は、30GBで月2970円という料金ではありません。ドコモの比較的「色の薄い」オンラインプランが、JALのマイル経済圏へ差し込まれたことです。

JALモバイルはなぜ「ahamo」を選んだのか “薄い”経済圏が生むドコモの新戦略【石野純也のモバイル通信SE】
JALモバイルはなぜ「ahamo」を選んだのか “薄い”経済圏が生むドコモの新戦略【石野純也のモバイル通信SE】

日本航空とドコモは、6月25日に「JALモバイル powered by ahamo」を開始する。IIJmioの回線を使っていたJALモバイルを「JALモバイル powered by IIJmio」と位置づけ直し、ドコモ回線のahamoを選択可能にした格好だ。これまでと同様、毎月の料金に対してマイルが付与されるほか、新規契約やMNPの場合には上級会員になるために必要なLife Statusポイントもたまる。

今回の登場人物

  • JALモバイル: 日本航空が展開するモバイル通信サービスです。通信利用に応じてJALのマイルなどがたまる設計です。
  • ahamo: NTTドコモのオンライン専用料金プランです。シンプルな料金体系と海外ローミングの使いやすさが特徴です。
  • JMB: JALマイレージバンクのことです。飛行機の利用などでマイルをためる会員制度です。
  • 経済圏: 通信、決済、ポイント、旅行、金融などを一つのブランドの中で使ってもらう囲い込みの仕組みです。
  • ホワイトレーベル: ある会社のサービスを、別の会社のブランドで提供する形です。中身は提携先、顔は販売側というイメージです。

何が起きたか

Impress Watchは6月10日、日本航空とドコモが6月25日に「JALモバイル powered by ahamo」を始めると報じました。従来のIIJmio回線を使うJALモバイルは「JALモバイル powered by IIJmio」と位置づけ直され、ドコモ回線のahamoも選べるようになります。

記事によると、料金は通常のahamoと同じく30GBで月2970円、5分間の音声通話定額も含まれます。毎月の料金に対してマイルが付与され、新規契約やMNPではLife Statusポイントもたまります。また、契約者は「どこかにマイル」を年1回、1500マイルで利用できる特典も受け継がれるとされています。

JAL側は海外利用への要望が多かったことを理由の一つに挙げています。ahamoは91の国や地域で追加料金なしにデータローミングを使えるため、国際線を持つJALと相性が良い、というわけです。

ここが本題

今回の中心問いは、「なぜJALモバイルにahamoが入ることは、ただの通信プラン追加ではないのか」です。

答えは、通信が毎月必ず発生する顧客接点だからです。飛行機に乗る回数は人によって大きく違います。でもスマホ料金は、ほとんどの人が毎月払います。そこにマイルを結びつければ、JALは旅行していない月にも顧客とつながれます。

航空会社にとって、これはかなり大きい。旅行の時だけ思い出されるブランドから、毎月の通信費で思い出されるブランドへ近づくからです。飛行機は非日常ですが、スマホは日常です。JALがほしいのは、たぶん空港のカウンターだけでなく、毎月の請求画面にいるポジションです。

なぜahamoだったのか

記事で重要なのは、ahamoの「薄さ」です。ここでいう薄さは悪口ではありません。むしろ強みです。

ドコモの主力プランには、家族割、光回線、クレジットカード、電気など、ドコモ経済圏の要素が濃く絡みます。これはドコモ自身には強力ですが、JALのように自分の経済圏を持つ会社から見ると、ぶつかる部分が出ます。JALにはJALカード、JAL Pay、JALの旅行・マイル関連サービスがあります。そこへドコモの光や電気やカードが濃く入ると、ブランドの座席が混みます。

一方、ahamoはオンライン専用で、料金体系が比較的シンプルです。光回線や電気との結びつきが強すぎない。だからJALのブランドを載せやすい。白いキャンバスほど、別の会社のロゴを置きやすいわけです。通信プラン界の無地Tシャツです。無地だからこそ、コラボしやすい。

ドコモ側にも狙いがあります。JALの会員基盤を通じて、ahamoを知らなかった人や興味が薄かった人に届く。特にJALが課題とする若年層の航空利用拡大と、ahamoの比較的若い利用者像は重なります。JALは若い人に飛行機へ来てほしい。ドコモはJALの顧客へ通信を広げたい。お互いに「相手の入口」がほしいのです。

海外ローミングはただの便利機能ではない

JAL側がahamoを評価した理由として、海外ローミングがあります。IIJmioの回線では海外データローミングが標準で使えず、別途eSIMなどの対応が必要でした。ahamoなら、対象国・地域で30GBまで追加料金なしにデータローミングを使えます。

これは航空会社にとって、単なる通信機能ではありません。海外旅行や出張の不安を減らすサービスです。空港に着いてからSIMを探す、現地Wi-Fiに頼る、設定で焦る。あの時間はだいたい楽しくありません。旅先で最初にやることが「APN設定と格闘」は、旅情がカッターで削られます。

JALモバイルが海外でそのまま使いやすいなら、旅行前から旅行中までJALの接点が続きます。航空券を買う、空港へ行く、現地で通信する、帰ってマイルを使う。この流れを一つのブランドでつなぎやすくなる。

つまり、海外ローミングは通信業界の機能でありながら、航空会社にとっては旅行体験の一部です。

通信会社は回線だけを売りにくくなった

このニュースは、通信会社側の変化も示しています。スマホ回線は、かつては速度、エリア、料金が主な勝負でした。今もそれは大事です。でも、料金プランが似てくると、「どの生活サービスとつながるか」が差になります。

ポイント、動画、金融、買い物、旅行。通信は毎月の支払いがあるため、他のサービスを載せやすい土台です。ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天は、それぞれ自社経済圏を広げてきました。

ただ、経済圏が濃くなりすぎると、外部企業と組みにくくなります。自社カード、自社光回線、自社電気が全部前に出ると、相手企業のサービスと競合します。そこでahamoのような「比較的中立に見えるプラン」が、提携の素材として使いやすくなる。

これは今後、他の業界にも広がる可能性があります。鉄道、ホテル、小売、金融、スポーツチーム。毎月使う通信と、特定ブランドのポイントや会員制度を組み合わせる発想は、まだ余地があります。

それで何が変わるのか

利用者にとっては、携帯料金を払うだけでマイルがたまり、旅行特典につながる選択肢が増えます。特に、JALを年に数回使う人、海外旅行や出張がある人、マイルをためたいけれど飛行機に頻繁には乗らない人には分かりやすいメリットがあります。

一方で、注意点もあります。ahamoは中容量向けのプランです。小容量で安く済ませたい人には、IIJmio側のほうが合う可能性があります。マイルが付くから得、と決めつけるのではなく、自分の通信量、海外利用、JAL利用頻度を見たほうがいい。

業界にとっては、通信プランの「ブランド貸し」がどこまで広がるかが見どころです。ahamoはドコモの中でも提携しやすい位置にありますが、誰にでも貸せるわけではありません。JALほどの会員基盤やブランド力があるから成立した面もあります。

もう一つの見どころは、マイルの価値をどれだけ日常へ広げられるかです。マイルは飛行機に乗る人には分かりやすい一方、ふだん乗らない人には遠いポイントに見えます。通信費で毎月たまり、年1回の「どこかにマイル」につながるなら、飛行機に乗る前から旅行の理由が少しずつ積み上がる。JALにとっては、未来の搭乗を予約するような関係づくりです。

まとめ

JALモバイルがahamoを選んだ本題は、携帯料金にマイルが付くことだけではありません。通信という毎月の接点を、航空会社の経済圏に組み込む動きです。

ahamoの強みは、安さや海外ローミングだけでなく、ドコモ色が濃すぎないことでした。通信は回線から、他社ブランドを乗せる土台へ変わりつつあります。スマホ料金の請求書は、いつの間にか旅行の入口にもなっているのです。

Sources

  • Impress Watch「JALモバイルはなぜ『ahamo』を選んだのか “薄い”経済圏が生むドコモの新戦略」
  • 日本航空「JALモバイル」関連発表
  • NTTドコモ「ahamo」サービス説明