だし巻き卵は、見た目だけなら平和そのものだ。黄色くて、ふわっとしていて、皿の上で「争いごとは苦手です」という顔をしている。ところがその中身を分解すると、卵、砂糖、だし、米、光熱費、人件費まで、物価高の会議室みたいになっている。
今回の本題は、物価高は一品ずつではなく、材料の束になって店を押すということだ。値上げニュースは単独で見える。でも厨房では、まとめて来る。

神奈川・相模原市のだし巻き卵専門店で、卵・砂糖・だしの原材料高が三重苦となって重くのしかかっている。店は、現時点ではメニューの値上げは予定していないが、原材料のさらなる高騰が続けば値上げも検討せざるを得ないとしている。神奈川・相模原市のだし巻き卵専門店「卵魂 おがわや」では、卵を豪華に4個使った「だし巻き卵定食」(1650円・税込み ※生卵も食べ放題)が大人気。その味を目当てに、平日の24日も多くの客が訪れていた。しかし、そのだし巻き卵は今、三重苦ともいえる原材料のトリプル高に見舞われている。…
今回の登場人物
だし巻き卵
卵にだしを混ぜ、焼きながら巻いて作る料理。シンプルに見えるが、卵、だし、砂糖、しょうゆ、油、調理技術が必要な、実はなかなかの総合競技である。
卵魂 おがわや
FNNの記事に登場した神奈川・相模原市のだし巻き卵専門店。卵を豪華に4個使う定食が人気だが、原材料高に直面している。
トリプル高
今回の記事では、卵、砂糖、だしの三つが同時に値上がり圧力を受けている状態を指す。一つなら我慢できても、三つそろうと店の計算は一気に苦しくなる。
コメ価格
記事では、スーパーでのコメ平均販売価格が5kgあたり税込み3588円となり、4週連続で値下がりしたと紹介されている。下がる材料もあるが、それで全部が楽になるわけではない。
何が起きたか
FNNは2026年6月27日午前7時、神奈川・相模原市のだし巻き卵専門店が、卵、砂糖、だしの原材料高に直面していると報じた。
記事によると、卵1パックの平均価格は309円で高止まりし、2024年の同じ時期より62円高い。精糖大手2社は8月から一部製品の出荷価格を約3%以上引き上げる。さらに、海水温上昇などの影響で、5月の価格は2025年同月比で昆布が11.2%、かつお節が3.5%上がったという。
一方で、コメの平均販売価格は5kgあたり税込み3588円となり、1月の4416円から800円以上下がったとも紹介された。つまり、全部が同じ方向に動いているわけではない。
ここが本題
今回の本題は、「コメが下がったから外食は楽になる」と単純には言えないことだ。
外食メニューの原価は、一つの材料だけで決まらない。だし巻き卵なら、卵が上がり、砂糖が上がり、だしが上がる。そこに米が少し下がっても、全体の帳尻がすぐ合うとは限らない。家計簿でいうと、電気代が下がった日に、スマホ代と家賃と給食費が同時に上がるようなものだ。うれしいけれど、財布はまだ真顔である。
だから、だし巻き卵は小さな料理でありながら、物価高の構造をよく見せる。食品の値段は、農業、畜産、漁業、輸入、気候、加工、流通、店舗運営が混ざった結果なのだ。
深掘り前半: 卵の値上がりは、卵だけの問題ではない
卵価格が高いと聞くと、つい「卵が足りないのか」と考えがちだ。もちろん供給の問題はある。だが、卵の値段には飼料、燃料、物流、衛生管理、設備維持などが重なる。
FNNの記事で紹介された店は養鶏農家が営んでおり、市場価格に直接左右されない面がある。それでも、飼料価格や原料価格が上がって厳しいと説明している。ここが重要だ。自分で卵を扱っていても、卵を生む鶏を育てるためのコストからは逃げられない。
しかも、品質を落とせばよいという話でもない。だし巻き卵の看板商品で卵の質を落とせば、味が変わる。味が変わると、客は気づく。客はやさしい顔で食べながら、舌だけはかなり正直だ。
つまり、店は「値上げしない」「品質を落とさない」「利益も守る」という三つを同時に求められる。これはなかなかの無茶ぶりである。三つのボールを投げられた大道芸人が、なぜか足元の掃除まで頼まれている感じに近い。
深掘り後半: だしの値上がりは、気候変動が食卓に来る道でもある
だしの値上がりも見逃せない。記事では、海水温上昇などの影響で、昆布とかつお節が値上がりしていると紹介されている。ここで見えるのは、気候の変化が食卓に届く道だ。
海の温度が変わると、昆布や魚の生育、漁獲、加工品の価格に影響する。だしは日本の食文化の土台だが、その土台も自然条件とつながっている。つまり、だし巻き卵の値段には、遠くの海の変化まで混ざっている。
砂糖も同じだ。精糖会社の出荷価格が上がれば、菓子、惣菜、調味、外食まで広く波及する。砂糖は甘い顔をしているが、値上げの波及力はけっこう強い。
ここでコメ価格の下落が救いになる面はある。記事では、だし巻き卵定食のご飯を一杯おかわり無料で提供している店が、コメ価格の落ち着きにほっとしていると紹介された。だが、主食が下がっても、主役の卵と味の芯であるだしが上がれば、全体としては苦しい。
それで何が変わるのか
読者にとって大事なのは、値上げを見たときに「便乗だ」と即断しないことだ。
もちろん、すべての値上げが正しいとは限らない。消費者は価格に敏感でよい。だが、外食の一品には、複数の原材料と人件費、光熱費、家賃、設備費が入っている。メニュー価格は、店の気分で上下しているわけではない。
一方で、店側にも説明が必要になる。なぜ上げるのか。何を守るための値上げなのか。量を減らすのか、価格を上げるのか、別メニューで調整するのか。黙って値段だけ変わると、客は不信感を持ちやすい。
物価高の時代、店と客の関係は「安ければ勝ち」だけでは続かない。おいしさ、品質、働く人の賃金、仕入れ先の継続。そこまで含めて、価格を見る目が必要になる。
さらに、このニュースは「値下がり品目があるのに生活が楽にならない」理由も教えてくれる。コメが下がれば助かる。これは間違いない。ただし、家計や店の支出は一つの袋ではなく、たくさんの小袋に分かれている。コメ袋が軽くなっても、卵袋、砂糖袋、だし袋、電気代袋が重くなれば、持って帰る荷物全体はまだ重い。
ニュースで「平均価格が下落」と聞くと、景色が一気に明るくなったように感じる。でも実際の食卓では、品目ごとの動きがずれている。値下がりしたものを多く使う家庭や店は助かるが、別の材料に頼るメニューは苦しいままだ。だから物価ニュースは、平均だけでなく「自分が何をよく買うか」「店が何を多く使うか」まで分けて読む必要がある。
外食店の値上げ判断が難しいのは、客が見る価格と店が見る原価の時間差もあるからだ。客は今日の値札を見る。店は来月の仕入れ、次の契約、仕込み量、廃棄ロスまで見る。今日だけ黒字でも、来月の卵やだしが上がれば苦しくなる。逆に、すぐ値上げすると客足が落ちるかもしれない。店は、電卓とにらめっこしながら、客の顔色も見る。なかなか忙しい。
だから、だし巻き卵のニュースは「卵が高いね」で終わらせるともったいない。食文化を守るには、材料を作る人、加工する人、料理する人、食べる人の全員が、価格の変化を少しずつ理解する必要がある。おいしいものは、気合いだけでは焼けない。
値札の向こうに、仕入れの連鎖がある。そこまで見えると、物価ニュースは急に立体になる。
まとめ
だし巻き卵の原材料高は、小さな外食ニュースに見えて、実は物価高の連鎖をよく示している。
卵が上がる。砂糖が上がる。昆布やかつお節も上がる。コメが下がって少し助かっても、全体の重さは消えない。だから店は、値上げするか、品質を守るか、サービスをどう続けるかという難しい判断を迫られる。
次にメニューの値段を見たときは、その皿の裏にどれだけの価格変動が乗っているかを少し想像してみたい。だし巻き卵は、ふわっとしているが、背負っているものはわりと重い。
Sources
- FNNプライムオンライン「卵・砂糖に加え『だし』も高騰」(2026年6月27日)
- 農林水産省「食品価格動向調査」
- 総務省統計局「小売物価統計調査」