ナフサと聞いて、すぐ生活を思い浮かべる人は少ない。名前がもう専門用語すぎる。台所に置いてあったら、たぶん調味料ではなく危ない薬品に見える。
でも今回の本題は、そのナフサ不足が、宮崎のビニールハウス、点滴チューブ、ジュース容器、塗装現場まで押していることだ。石油の話は、結局、野菜と送料と店頭価格に帰ってくる。

アメリカとイランによる戦闘終結に向けた対面協議が5月22日までスイスで行われ、ホルムズ海峡の安全確保について一定の合意を見た。しかし、最終合意への道筋は依然として不透明な情勢が続いている。この中東情勢の緊迫は、石油製品の原料となるナフサの不足を招き、宮崎県内の農業や建設業界に深刻な影響を及ぼしている。資材の高騰や品薄という難局に対し、現場の創意工夫で立ち向かう経営者らの姿を追った。宮崎市清武町にある「宮崎なかむら農園」では、ビニールハウスでキュウリやナスを栽培している。現在、この農園を悩ませて…
今回の登場人物
ナフサ
原油を精製して得られる石油製品の一種。プラスチックや合成樹脂など、さまざまな化学製品の原料になる。
ビニールハウス
農作物を雨風や温度変化から守る施設。透明な被覆材やチューブなど、石油由来の資材に多く支えられている。
宮崎なかむら農園
FNN記事で取り上げられた宮崎市清武町の農園。キュウリやナスの栽培、日向夏ジュース販売などを手がける。
資材高
原材料、輸送、為替、需給などの影響で、事業に必要な材料が値上がりすること。家計でいう「全部ちょっと高い」の事業者版だ。
何が起きたか
FNNは2026年6月28日午前6時、アメリカとイランをめぐる中東情勢の緊迫が石油製品の原料であるナフサの不足を招き、宮崎県内の農業や建設業界に影響していると報じた。
記事によると、宮崎市清武町の宮崎なかむら農園では、ビニールやポリ製品の価格が5月から30〜35%上昇した。農園では、ビニールハウスを洗って光の透過量を維持し、使用期間を延ばすことや、作物に栄養を補給する点滴チューブを消毒して来年も使うことを検討している。
また、日向夏ジュースの販売では、プラスチック容器の確保が難しくなる可能性があり、ビンへの変更も検討している。ビンは重いため送料などがかさむが、容器価格の差が縮まっていることが判断材料になっている。
ここが本題
今回の本題は、ナフサ不足を「化学製品の原料が足りない」という一文で終わらせず、食べ物の生産現場へどう伝わるかを見ることだ。
私たちは、農業というと土、水、太陽を思い浮かべる。もちろんそれは正しい。だが現代の農業は、そこにビニール、チューブ、容器、包装、燃料、輸送が重なる。自然の仕事に見えて、実は化学工業と物流の上にも立っている。
つまり、ナフサ不足は遠い工場の話ではない。ビニールハウスの張り替えを遅らせる。点滴チューブを使い回す判断を迫る。ジュース容器をプラスチックからビンに変えるか悩ませる。資材の値上がりは、現場の小さな選択を次々に変える。
深掘り前半: 30〜35%上昇は「ちょっと高い」ではない
ビニールやポリ製品の価格が30〜35%上がる。これは、個人の買い物で考えるとかなりきつい。1000円のものが1300円台になる感覚だ。しかも農業資材は、必要だから買うものであり、今日は気分でやめるという選択がしにくい。
ビニールハウスの被覆材は、作物の生育に直結する。光を通し、雨風を防ぎ、温度を保つ。汚れれば光の入り方が落ち、収量や品質に影響する可能性がある。だから本来なら適切な時期に交換したい。
しかし資材が高い、または入りにくいとなれば、現場は「延命」を考える。洗って透過量を保つ。点滴チューブを消毒して再利用する。これは工夫であり、同時に余裕のなさの表れでもある。
ここで大事なのは、農家が単に節約している話ではないことだ。資材の調達不安は、生産計画そのものを変える。来年どれだけ作れるか、どの商品を売れるか、どの価格で出せるか。先の計算が難しくなる。
深掘り後半: 容器が変わると、商品設計も変わる
日向夏ジュースの容器をプラスチックからビンに変えるかもしれない、という話も見逃せない。
容器は、ただ中身を入れる箱ではない。重さ、割れやすさ、送料、保管、見た目、販売場所、価格に関わる。プラスチック容器が手に入りにくいからビンにする、という判断は、商品全体の設計変更に近い。
ビンは高級感が出ることもあるが、重い。配送費が上がりやすく、割れ物対応も必要になる。店舗販売なら映えるかもしれないが、通販では送料が壁になる。容器が変わるだけで、売り方まで変わる。容器、なかなかの権力者である。
しかも、記事ではジュースの売り上げが4月時点で前年比11倍に伸びていたとされる。伸びている商品ほど、資材不足の打撃は大きい。需要があるのに、容器や資材が足りず、攻めきれない。これは地方の小規模事業者にとってかなり痛い。
それで何が変わるのか
読者にとっての意味は、食品価格や地域商品の値上げを、単に「便乗」や「企業努力不足」と決めつけない視点を持てることだ。
もちろん、すべての値上げが自動的に正当化されるわけではない。価格の説明責任は必要だ。しかし、農業や食品加工の現場では、原材料だけでなく、ハウスのビニール、栽培チューブ、容器、送料が積み重なる。小さなコスト上昇が束になって、価格や販売方法に跳ね返る。
事業者にとっては、資材調達の分散、再利用、代替素材、販売チャネルの見直しが課題になる。ただし、再利用には衛生や品質の管理が必要で、代替素材には重量や価格の問題がある。万能の答えはない。
消費者側も、「なぜ値上がりしたのか」を聞く姿勢が大事になる。納得できる説明があれば、少し高くても選ぶ理由になる。逆に、説明がなければ不信感が残る。値札は数字だが、その裏には資材の旅がある。
今回のナフサ不足は、中東情勢、石油精製、化学製品、農業、食品販売が一本の線でつながっていることを見せている。世界情勢が遠くで揺れると、宮崎のビニールハウスの張り替え時期まで揺れる。国際ニュースの長い腕である。
もう一つ大事なのは、資材高が「品質を落とす圧力」になりうることだ。農家が工夫して資材を長く使うこと自体は悪くない。むしろ現場の知恵だ。しかし、限界を超えて更新を先延ばしすれば、光の入り方、温度管理、衛生、作業効率に影響が出る可能性がある。安く作る努力と、無理を重ねることは別である。
行政や流通に求められるのは、こうした現場の変化を早めに拾うことだ。資材が足りないと分かってから慌てるのではなく、どの資材が詰まり、どの作物や加工品に波及しそうかを見る。価格対策だけでなく、代替資材の情報共有や共同調達の支援も選択肢になる。食を守る政策は、畑だけでなく資材置き場も見なければならない。
塗装店など建設・修繕の現場にも、同じ構図がある。塗料、養生材、容器、接着剤など、石油由来の材料は多い。農業資材の不足と建設資材の不足は別々のニュースに見えるが、原料側で見るとつながっている。ここを理解すると、「なぜこんなところまで値上がりするのか」という疑問に答えやすくなる。
地域経済にとって怖いのは、一つひとつの値上げが小さくても、同時に来ることだ。ビニール、チューブ、容器、燃料、送料。どれか一つなら我慢できても、束になると利益を削る。値上げできない事業者ほど、その圧力を自分の労働時間や設備更新の先送りで吸収しがちだ。これは長く続くと、地域の供給力を弱らせる。
まとめ
ナフサ不足は、専門的な化学原料の話に見える。しかし宮崎の現場では、ビニールハウス資材の30〜35%上昇、点滴チューブの再利用、ジュース容器の変更検討として表れている。
つまり、石油製品の不足は、農業の生産方法と食品の売り方を変える力を持つ。消費者が店頭で見る価格や容器の変化は、単なる包装の問題ではない。
食べ物は土から来る。だが現代では、土に届くまでにナフサも物流も通っている。そこを見ないと、値上げの本当の理由を読み違える。
Sources
- FNNプライムオンライン「ナフサ不足が深刻化『ビニールハウスは汚れを落として光の透過量を維持』宮崎の農家や塗装店が資材高騰と品薄に苦慮し経営努力で対応」(2026年6月28日)
- 経済産業省「石油化学工業の動向」
- 農林水産省「施設園芸をめぐる情勢」