地下400メートルを超える施設を掘れても、住民との距離をショベルカーで縮めることはできない。
フィンランドの使用済み核燃料最終処分施設「オンカロ」は、世界で初めて実際の処分を始める施設になる可能性がある。日本は商業用原発の運転開始から約60年たっても、最終処分地が決まっていない。この差を「フィンランドは岩盤が強い、日本は地震が多い」で片づけると、半分しか見えない。候補地が断れる制度、長い時間をかけた対話、事業者と規制当局への信頼を、意思決定の手順へ組み込めたか。そこにもう一つの大きな差がある。

原発政策の宿題“核のごみ”の最終処分場。新たな候補地に東京都の南鳥島が浮上し、波紋が広がっています。一方、フィンランドでは、まもなく政府が認可し、世界で初めて運転が始まる見通しです。
今回の登場人物
- オンカロ: フィンランド南西部、エウラヨキ自治体のオルキルオトに造られた使用済み核燃料の最終処分施設。地下の処分部分はおおむね400〜430メートルの深さにある。
- Posiva(ポシヴァ): フィンランドの電力会社2社が所有し、使用済み核燃料の最終処分を担う会社。1995年に設立された。
- STUK(ストゥク): フィンランド放射線・原子力安全庁。事業者とは別に、安全性を審査し、監督する規制当局だ。
- NUMO(ニューモ): 日本で高レベル放射性廃棄物などの最終処分を担う原子力発電環境整備機構。候補地の調査と対話を進める。
- 文献調査: 日本の処分地選定で最初に行う机上調査。既存の地質図や論文、データを調べる段階で、処分場の建設決定ではない。
何が起きたか
テレ朝NEWSは7月17日、フィンランドがオンカロで世界初となる使用済み核燃料の最終処分開始へ進む一方、日本では処分地選びが難航している現状を報じた。番組は現地を訪れ、施設の構造だけでなく、事業者が地域で20年以上にわたり説明を重ねてきたことにも焦点を当てている。
オンカロでは、地上の施設で使用済み核燃料を容器へ封入し、地下400メートル超へ運ぶ。容器の周囲を水を吸う粘土のベントナイトで囲み、トンネルを埋め戻す。金属容器、粘土、埋め戻し材、岩盤という複数の壁で、放射性物質を人の生活環境から長期間隔離する考え方だ。
ただし、記事執筆時点で「もう処分が始まった」とは書けない。Posivaは2026年中の開始を目標に試験を続けているが、正確な開始日は許認可がそろってから決まるとしている。フィンランド政府も、実際の操業には政府の操業許可が必要であり、STUKの肯定的な安全評価が前提だと説明している。「開始へ」は現在地であって、「開始済み」ではない。
同じ地層処分でも、出発点が違う
フィンランドと日本は、どちらも放射性の強い廃棄物を地下深くへ隔離する地層処分を基本にしている。けれど、同じ方式を選べば同じ速さで進むわけではない。
フィンランドでは、政府が1983年に核廃棄物管理の方針と目標時期を示した。1990年代には複数地域で地質調査を行い、地質だけでなく、地域経済への影響や交通、社会条件も調べた。Posivaは1999年にオルキルオトを選び、地元エウラヨキの自治体議会は2000年、20対7で計画を支持した。その後、政府の原則決定を経て、国会が2001年に承認した。地下調査施設の建設は2004年に始まり、政府が建設許可を出したのは2015年だった。
ここには、調査、地元判断、政府判断、国会承認、地下での確認、建設許可、操業許可という段差がある。10万年規模の責任を一度の判断で確定させるのではなく、途中で安全性と社会的な妥当性を何度も確かめる仕組みだ。
日本でも、2000年の最終処分法により、文献調査、概要調査、精密調査の3段階で候補地を絞る制度ができた。標準的な目安は文献調査が2年程度、地上からボーリングなどを行う概要調査が4年程度、地下施設で試験する精密調査が14年程度。最初から約20年を見込む長い工程である。
それでも、日本では文献調査の入口に立つまでに時間がかかった。北海道の寿都町と神恵内村で2020年、佐賀県玄海町で2024年に文献調査が始まった。2026年5月には、国が初めて主導して申し入れた東京都小笠原村の南鳥島でも調査が始まった。どこも、処分地に決まったわけではない。
「信頼」は好感度ではなく、手続きで測る
最終処分でいう信頼は、「担当者が感じよかった」という好感度だけではない。少なくとも、誰が費用と責任を負うのか、安全を誰が独立して審査するのか、地元が反対したとき本当に止まるのか、不都合な情報も公開されるのか、何十年後も同じ約束が続くのか――そうした問いに制度で答えられる状態だ。
フィンランドの原子力法では、大きな原子力施設について政府が原則決定をする前に、立地自治体が建設を支持していることを確認しなければならない。住民や周辺自治体、一般の人が意見を出す機会も置かれている。最終的にエウラヨキが計画を受け入れた背景には、この「地元の賛成なしに国が前へ運ばない」という力関係があった。
さらに、オルキルオトはすでに原発が立地する地域だった。長年の運転実績、雇用、税収、事業者との接点があり、住民にとって原子力関連施設が突然空から降ってきた話ではなかった。経済協力開発機構(OECD)の原子力機関の記録では、環境影響評価の過程で地域団体や個人が参加し、批判や追加説明の要求を出せる場が作られた。信頼は説明会の回数だけでなく、質問や批判を判断過程に持ち込み、自治体が選択権を持つことで積み上がった。
ただし、これを「住民全員が賛成した成功物語」にしてはいけない。自治体議会の採決には反対票もあった。施設を担うPosiva自身の説明には事業者の立場がある。安全性の判断は、事業者自身の説明だけに委ねず、STUKの審査や政府の許可と分けて見る必要がある。信頼とは疑問が消えることではなく、疑問を出しても手続きが壊れず、答えと責任の所在を追えることだ。
日本にも「止める仕組み」はある
では、日本には地元の意思を無視して進む制度しかないのか。そうではない。
国は、文献調査から次の概要調査へ進むとき、知事と市町村長の意見を聴き、その意見に反して先へ進まないとしている。文献調査は既存資料を調べ、地域が議論する材料を増やす段階であり、それだけで建設が決まるものではない。この区切りを正確に伝えることは、信頼形成の最低条件だ。
一方、反対意見に反して次へ進まない仕組みを設けるだけで、信頼が自動的に生まれるわけでもない。日本では2002年にNUMOが候補自治体の公募を始めたが、最初の文献調査開始は2020年だった。調査受け入れをめぐって地域が割れたり、交付金が判断をゆがめるのではないかと疑われたり、国全体の責任を少数の地域へ押しつけるのではないかという不安が出たりしてきた。
南鳥島も、一般住民が暮らしていない国有地だから話が簡単になるとは限らない。行政区域は父島、母島などに住民がいる小笠原村に属する。2026年の文献調査開始までに父島と母島で説明会が開かれ、村長は国の判断を受け入れる際に五つの要請を付けた。無人の島を調べることと、地域社会への説明が不要になることは別の話だ。
差は信頼だけでも、地質だけでもない
ここで中心問いへ戻ろう。フィンランドが最終処分開始を目指す段階まで進み、日本が候補地選びで難航する差に、信頼形成は大きく関係している。地元が実質的な選択権を持ち、複数候補の調査から政府・国会・規制当局の判断へ段階を踏み、既存の原発立地地域で長い関係を作ったことは重要だ。
しかし、信頼だけを万能キーにするのも間違いである。オルキルオトでは古く安定した岩盤を長く調べ、処分に適するか確認してきた。フィンランドは国内で出た使用済み燃料を国内で処分する責任を法律で明確にし、発生者が費用を負担する体制を早くから整えた。候補地の地質、制度の連続性、原発地域としての歴史、事業者と規制当局の能力が重なっている。
日本には火山や活断層など、別の地質条件がある。ただし「地震国だから地層処分は全部無理」とも、「技術基準を満たせば社会の問題は解決」とも断定できない。文献、地上、地下の調査は、その場所が避けるべき条件に当たらないかを段階的に確かめるためにある。技術的に調べることと、誰がどんな手順で決めるかは、二者択一ではなく両輪だ。
日本が学べるのは「正解の場所」より決め方
フィンランドの経験から、そのまま日本の候補地を答えとしてコピーすることはできない。地質も人口分布も、原発と地域の関係も違う。学べるのは、むしろ決め方のほうだ。
最初に、文献調査は建設決定ではないと繰り返し明確にする。次に、次段階へ進む条件、地元が止められる地点、安全を判断する主体、費用負担、長期監視の責任を見える形にする。そして、賛成を取り付ける説明だけでなく、反対や保留の理由が調査や計画を変えうる対話にする。
信頼は「安全です」と大きな声で言った回数では増えない。分からない点を分からないと言い、確認方法を示し、約束どおり止まる。その実績が長く続いて、ようやく少しずつ増える。地下トンネルより建設に時間がかかることもあるが、近道を掘ろうとすると、たいてい地上で道に迷う。
まとめ
オンカロが世界初の最終処分開始へ近づいた背景には、地下400メートル超の技術だけでなく、1980年代から続く方針、複数候補の調査、立地自治体の支持を前提にする制度、政府・国会・独立規制当局が段階ごとに判断する手順があった。既存の原発地域で積み上げた関係や、安定した岩盤という条件も重なっている。
日本にも3段階の調査と地元意見を尊重する仕組みはある。だが、候補地がその約束を信じられるかは、制度の文章だけでなく、情報公開と対話、途中で止まれる実績で決まる。フィンランドとの差は信頼だけではない。それでも、技術を社会の決定へ変える最後の橋が信頼であることは、オンカロの長い道のりがはっきり示している。
Sources
- テレ朝NEWS「『核のごみ』の最終処分場 フィンランド“世界初”運転開始へ 日本の現状は」
- Posiva「Final disposal」
- Posiva「Site surveys」
- フィンランド政府「Dress rehearsal for the final disposal of spent nuclear fuel」
- Finlex「Nuclear Energy Act」
- OECD原子力機関「Stepwise Decision Making in Finland for the Disposal of Spent Nuclear Fuel」
- NUMO「文献調査:南鳥島(東京都小笠原村)」
- 資源エネルギー庁「2025年、『放射性廃棄物』の処分プロセスはどうなっている?(後編)」