韓国が石炭火力のアンモニア混焼計画をやめると聞くと、「それ韓国の話でしょ」と流しそうになります。けれど、このニュースは日本のエネルギー政策にもわりと刺さります。しかも、刺さり方が少し地味なので見落としやすいです。
本題は、技術ができるかどうかだけではありません。アンモニアを燃やせるとして、その燃料を誰がどれだけ買い、どんな値段で、どんな供給網を前提にするのか。韓国の離脱は、その商売の前提を一段厳しくするという話なんです。発電所の煙突より、むしろ見積書のほうがざわつくニュースですね。

【ソウル=松浦奈美】韓国の金星煥(キム・ソンファン)気候エネルギー環境相は石炭火力発電の燃料にアンモニアを混ぜる計画を中止すると明らかにした。「石炭火力を延命させる手段」と述べ、脱炭素に向けた政策と整合が取れないと指摘した。7月下旬に日本経済新聞の取材に答えた。韓国は日本と並ぶアンモニアの主要な需要家として期待されていた。混焼をやめれば石炭火力向けにアンモニアを調達する主要国は日本だけとなり、
今回の登場人物
- アンモニア混焼: 石炭火力発電で、石炭にアンモニアを混ぜて燃やす方法。石炭だけより二酸化炭素排出を抑えられる可能性があるが、燃料供給やコストが大きな課題になる。
- 石炭火力: 石炭を燃やして発電する設備。安定供給しやすい一方、二酸化炭素排出が大きく、脱炭素の議論で中心に置かれやすい。
- 混焼率20%: 投入する熱量ベースなどで、燃料の一部をアンモニアに置き換える水準として語られることが多い。日本では碧南火力で20%混焼の実証が完了している。
- 資源エネルギー庁: 経済産業省のエネルギー政策を担う役所。アンモニア導入量や制度設計の前提を示している。
- 金星煥: 韓国の気候エネルギー環境相。日経に対し、石炭火力アンモニア混焼計画の中止方針を説明した。
- サプライチェーン: 燃料を生産し、運び、保管し、発電所で使うまでの流れ。技術があっても、ここが細いと大量導入は難しい。
何が起きたか
日本経済新聞によると、韓国の金星煥・気候エネルギー環境相は、石炭火力発電所でアンモニアを混ぜて燃やす計画を中止すると表明しました。理由は、石炭火力を延命し、脱炭素方針と整合しないというものです。
韓国は、日本と並んでアンモニア需要国の有力候補と見られてきました。日本ではJERAの碧南火力発電所で20%混焼の実証が完了しており、技術面の前進が注目されています。
一方で、資源エネルギー庁は、100万キロワット級の発電所1基で20%混焼を行うと、年間で約50万トンのアンモニアが必要になると説明しています。数字が急に大きい。体育館に砂を入れる話ではなく、港と船と長期契約が動く規模です。
ここが本題
今回の中心問いは、韓国が抜けることで日本の何が厳しくなるのか、です。
答えは、「日本だけが使うことになる」とまでは言えないものの、需要国候補が一つ減ることで、燃料の大量調達を支える供給網づくりや採算の前提が弱くなりうる、です。技術実証が成功しても、それだけで燃料の値段や安定供給がついてくるわけではありません。
ここは三つに分けると見やすいです。第一に、アンモニアを混ぜて燃やす技術が成り立つか。第二に、その燃料を十分な量だけ調達できるか。第三に、石炭火力の排出削減策として本当に妥当か。この三つは似て見えて、別の論点です。いっぺんに煮込むと味がぼやけます。
技術が進んでも、燃料ビジネスは別ゲーム
碧南で20%混焼の実証が完了したことは、日本にとって重要です。少なくとも「そんなもの物理的に無理です」という段階からは進んでいます。
ただ、実証成功はそのまま商用化の採算を保証しません。大量導入には、アンモニアの製造設備、輸送船、受け入れ基地、貯蔵設備、長期契約が必要です。つまり、発電所の中だけ完成しても足りない。舞台はできたけれど、役者も照明もまだ集める必要がある状態です。
需要国が複数あると、供給側は大型投資をしやすくなります。売り先が複数あり、長期需要が見込みやすいからです。逆に、期待されていた大口候補の一つが撤退すると、「本当にこの規模で設備を作って回収できるのか」という問いが重くなる可能性があります。
韓国離脱で何が変わるのか
もし韓国も日本も大きくアンモニアを使うなら、東アジアでまとまった需要が見込めます。すると生産国や商社、海運、インフラ事業者は、ある程度大きな供給網を描きやすい。量が見えると、契約も設備投資も組みやすくなります。
しかし韓国が石炭火力向けの需要から退けば、その絵は少し縮みます。日本の案件は残っても、地域全体の需要見通しは弱くなりうる。すると1トンあたりのコスト低下を当てにした計画、あるいは供給側の投資判断は、以前より慎重になりやすいです。
もちろん、これだけで価格上昇が確実だとは言えません。別の国で需要が伸びるかもしれないし、供給側の技術進歩でコストが下がる可能性もあります。ただ、少なくとも「需要国候補が多いほど作りやすかった前提」は弱くなります。大口需要の候補が一つ減れば、供給側の投資判断も以前より慎重になりうるからです。
しかもアンモニアは、発電所に届けば終わりではありません。受け入れ基地の整備、貯蔵タンク、安全対策、輸送契約まで含めてお金がかかります。資源エネルギー庁が示す年間50万トンという数字は、1基だけでも相当な量です。もし複数の発電所で導入を広げるなら、必要量はさらに積み上がる。そうなると「どこから持ってくるか」だけでなく、「その規模で回る市場が本当に育つか」が、商用化の現実味を大きく左右します。
日本国内で制度支援を厚くすれば進む余地はありますが、その場合は電力料金や公的支援の形で誰が負担するのかも論点になります。つまり韓国離脱の影響は、燃料商社の会議室だけの話ではなく、日本で導入を続ける時の説明責任にもじわっと効いてくるわけです。
脱炭素としての評価は、また別に厳しい
韓国側が中止理由として挙げたのは、石炭火力の延命につながり、脱炭素方針と整合しないという点でした。これは供給網とは別の論点ですが、かなり重要です。
アンモニア混焼は、石炭だけを燃やすより排出削減効果が見込まれます。一方で、石炭火力そのものを使い続けることになるため、「ゼロに向かう移行策」なのか、「石炭延命策」なのかで評価が割れやすい。さらに、アンモニア製造時の排出まで含めてどう考えるかでも見え方が変わります。
つまり、技術的に可能でも、政策として支持が広がるとは限らないわけです。ここを日本で考える時も、「燃やせるならOK」で終わらせると浅くなります。エンジンがかかることと、その車でどこへ向かうのかは別です。
日本の読者にとっての意味
日本は資源輸入国なので、新しい燃料に期待をかける時ほど、供給網と価格の前提を冷静に見る必要があります。アンモニア混焼は、再エネがすべてを一気に置き換えるまでの現実的な橋として語られることがありますが、その橋にも材料費がある。しかも、橋脚だけ先に立てても、向こう岸までつながるとは限りません。
今回のニュースが示すのは、日本の実証が進んでいても、周辺国の政策変更で商用化の前提が揺れうることです。今後の見どころは、日本がどこまで長期調達の道筋を作れるか、制度面でどこまで費用を支えるのか、そして排出削減策として社会的な納得を得られるかです。
まとめ
韓国が石炭火力アンモニア混焼計画を中止すると、日本の実証成果そのものが消えるわけではありません。碧南で20%混焼実証が完了したという技術面の前進は、そのまま残ります。
ただ、中心問いへの答えははっきりしています。韓国の撤退で厳しくなりうるのは、技術そのものより、燃料を大量に安定調達し、採算を合わせるための市場前提です。需要国候補が一つ減るぶん、供給網づくりの読みはこれまでより重くなります。そこに加えて、石炭火力延命との批判をどう超えるかという政策面の宿題も残るわけです。