高校生の睡眠を語るとき、まず出てくる質問は「何時間寝た?」です。分かりやすいし、数字にもできます。ただ、この質問だけだと、睡眠の大事な半分がするっと逃げます。同じ8時間でも、平日は午後11時から午前7時、休日は午前2時から午前10時なら、寝る時刻も起きる時刻も3時間動いているからです。時計の針は、合計だけ見て「はい同じ」とは言ってくれません。
9月4日にリセマムが伝えた「nishikawa 睡眠白書 2026」では、高校生について二つの数字が示されました。平日に8〜10時間という目安の範囲外だった割合は69.5%。もう一つは、平日と休日の睡眠タイミングのずれを表す「ソーシャルジェットラグ」が平均71.9分だったことです。ここで、どちらがより悪いかを決める話ではありません。高校生の睡眠は、長さと時刻のずれを一緒に見ないと全体像がつかめない。ここがミソなんです。

高校生の約7割、中学生の45.6%、小学生の43.2%が平日に厚生労働省の推奨する睡眠時間を確保できていない実態が、2026年9月3日に公開された「nishikawa 睡眠白書 2026」の結果から明らかになった。
今回の登場人物
- nishikawa 睡眠白書 2026: 寝具メーカーの西川が、日本睡眠科学研究所の監修でまとめた調査報告です。今回扱う高校生の数字は、子ども本人ではなく保護者の回答をもとにしています。
- 睡眠時間: 寝ていた時間の長さです。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、中学・高校生の参考値として8〜10時間を示しています。
- 睡眠中央時刻: 眠り始めと起きた時刻のちょうど真ん中です。午前0時に寝て午前8時に起きるなら、中央は午前4時になります。
- ソーシャルジェットラグ: 平日と休日の睡眠中央時刻の差です。日本語では「社会的時差ボケ」とも呼ばれます。飛行機に乗っていないのに、学校や仕事のある日と自由な日で時計がずれる、という考え方です。
- 厚生労働省の睡眠ガイド: 年齢に応じた睡眠時間や、睡眠で休めた感覚などを考えるための公的な資料です。個人を診断する採点表ではありません。
何が起きたか
西川は2026年9月3日、「nishikawa 睡眠白書 2026」を公開しました。リセマムの記事はそのうち、子どもの睡眠時間とソーシャルジェットラグを取り上げています。
白書の子どもに関する調査は、小学生から高校生までの子を持つ保護者333人へのウェブ調査です。このうち高校生について答えた保護者は95人でした。平日の睡眠時間を見ると、高校生の69.5%が、厚生労働省のガイドで参考値とされる8〜10時間の範囲外でした。ここでの睡眠時間は高校生本人の計測値ではなく、「親から見た子どもの睡眠時間」だという点には注意が必要です。
一方、ソーシャルジェットラグの高校生平均は71.9分でした。こちらの有効回答は78人で、睡眠時間が13時間以上の回答は集計から除かれています。95人と78人は同じ母数ではありません。数字が二つ並ぶと、つい同じ定規で測った双子のように見えますが、集計条件は別です。
ここが本題
69.5%は「長さ」が目安の範囲内かを、71.9分は「時刻」のずれを見ています。この二つは似ているようで、答えている質問が違います。
たとえば平日に6時間、休日に10時間寝る人がいたとします。週末に長く眠れば、休日単体の睡眠時間は増えます。でも寝起きの時刻が大きく後ろへ動けば、平日と休日の睡眠中央時刻の差も広がります。長さの帳尻は少し合っても、時刻の帳簿は別ページのままなんです。
逆の例もあります。毎日ほぼ同じ時刻に寝起きしていても、そもそもの睡眠時間が短い人はいます。この場合、時刻のずれだけなら小さく見えますが、長さの問題は残ります。だから「何時間」と「いつ寝るか」は、どちらか一方で代用できません。身長と体重くらい別の情報です。片方を聞いて、もう片方まで当てようとするのは、さすがに乱暴なクイズです。
71.9分はどう計算するのか
ソーシャルジェットラグは、白書では平日と休日それぞれの睡眠中央時刻を求め、その差の絶対値として計算されています。絶対値なので、前に動いたか後ろに動いたかではなく、どれだけ離れたかを表します。
例を一つ置きましょう。平日に午後11時30分に寝て午前6時30分に起きれば、睡眠中央時刻は午前3時です。休日に午前1時に寝て午前9時に起きれば、中央は午前5時。差は2時間です。寝た時間は平日7時間、休日8時間で1時間しか増えていませんが、睡眠の真ん中は2時間動いています。
この指標のよいところは、就寝時刻か起床時刻の片方だけを見ず、睡眠全体が時計の上でどこへ移ったかを一つの数字にできることです。休日の朝に長く寝たのか、夜更かしも重なったのか、その結果として睡眠の中心がどれだけずれたのかを見やすくなります。
ただし、71.9分は高校生全員がきっちり1時間11分54秒ずれるという意味ではありません。78人の平均です。個人差も分布も、この平均だけでは分かりません。平均身長を聞いてクラス全員の制服サイズは決められないのと同じです。
「寝だめできた」で終われない理由
休日に長く眠ること自体を、この調査だけで善悪判定するのは早計です。平日に足りなかった睡眠を補おうとした結果かもしれませんし、部活動、通学、塾、アルバイト、家庭の事情などで平日の起床時刻が固定されているのかもしれません。白書は平日と休日のずれを示しましたが、一人ひとりの事情や、ずれが生まれた原因まで確定したわけではありません。
それでも時刻の差を見る意味はあります。睡眠時間だけなら、休日に長く寝たことで週平均が増え、「まあ足りたかな」と見えやすいからです。そこへ睡眠中央時刻を加えると、平日と休日で生活の時間帯そのものが動いていないかを確認できます。
つまり「休日に何時間取り返したか」に加えて、「学校のある日に戻るとき、時計をどれくらい戻す必要があるか」という別の問いが出てきます。日曜の夜だけ急に早寝しようとしても、体は時刻表を一瞬で書き換えるアプリではありません。人間、更新ボタンの場所が見当たらないんですよね。
この調査で言えること、言えないこと
まず言えるのは、今回回答された高校生の睡眠では、平日の睡眠時間が8〜10時間の範囲外だった回答が多く、平日と休日の睡眠中央時刻にも平均で1時間を超える差があったことです。睡眠の問題を長さだけで眺めるより、生活時刻のずれも一緒に見る材料になる結果です。
一方、この調査は医療機関での診断ではありません。高校生95人という保護者回答を、日本の高校生全員へそのまま広げることもできません。71.9分の集計はさらに条件が異なる78人です。また、平日と休日のずれが、特定の体調や成績を引き起こしたと証明する設計でもありません。「ずれがあった」から「ずれのせいで何かが起きた」へ、一段飛ばしで着地してはいけないんです。
厚生労働省の睡眠ガイドも、必要な睡眠には個人差があることや、睡眠時間だけでなく、朝に休めたと感じられるかという「睡眠休養感」も重視しています。8〜10時間は大切な参考値ですが、8時間00分で突然満点ランプが点灯する仕組みではありません。数字は入口であって、本人の状態を丸ごと置き換えるものではないわけです。
大人側にも見える宿題
このニュースを「高校生はスマホを置いて早く寝よう」で終えると、話が急に細くなります。いや、それだけで時計がきれいに戻るなら苦労はありません。平日の時刻は本人の意思だけで決まらず、始業時刻、通学時間、部活動、塾や宿題、家族の生活時間が重なって、夜と朝の幅が決まるからです。
睡眠時間と時刻のずれを二つの軸で見ると、問いも変わります。「本人が何時まで起きていたか」だけでなく、「平日に必要な睡眠を置ける余白があるか」「休日に生活時刻を大きく動かさないと補えない設計になっていないか」を考えられます。これは特定の学校制度を今回の調査だけで変えるべきだ、という断定ではありません。ただ、問題を本人の根性だけに押し込めないための見取り図にはなります。
本人や家庭が睡眠の記録を見るときも、合計時間だけより、平日と休日の就寝・起床時刻を並べたほうが生活の形は見えやすくなります。ただし、この記事は個別の治療法を示すものではありません。強い眠気や不調が続くなど心配がある場合は、調査の平均値で自己診断せず、学校や医療の専門家へ相談する領域です。
まとめ
高校生の睡眠を「何時間寝たか」だけで測ると、休日に長く眠った裏で、生活時刻がどれだけ動いたかを見落とします。「nishikawa 睡眠白書 2026」では、高校生の保護者回答95人のうち、平日に8〜10時間という目安の範囲外だった割合が69.5%でした。別集計では、13時間以上の睡眠回答を除いた78人のソーシャルジェットラグが平均71.9分でした。
二つの数字は競争相手ではありません。69.5%は長さ、71.9分は平日と休日の睡眠中央時刻の差です。長さが足りていても時刻が大きく動くことはあり、時刻がそろっていても長さが足りないことはあります。
だから中心問いへの答えはシンプルです。高校生の睡眠では、総睡眠時間だけでなく、平日と休日で睡眠が時計のどこに置かれているかを見る必要がある。二つを並べて初めて、「足りない」と「ずれる」を混ぜずに考えられるんです。