国連安全保障理事会には、1945年から鍵付きの椅子が5脚あります。日本がそこへ新しい椅子を置きたくても、会議室の多数決だけでは足りません。いま座っている5か国が、改装工事の最終承認まで握っています。

ロシアのラブロフ外相は国連総会の演説で、日本とドイツを「軍国主義的」だとする自国の見方を示し、両国へ常任理事国の席を追加すべきではないと主張しました。この発言だけで日本の候補資格が消えるわけではありません。しかし、安保理改革に必要な国連憲章改正の仕組みを読むと、「常任理事国1か国の反対」がなぜ重いのかが分かります。

ロシア・ラブロフ外相“日本の常任理事国入り認めてはならない”国連総会で演説 - ライブドアニュース
ロシア・ラブロフ外相“日本の常任理事国入り認めてはならない”国連総会で演説 - ライブドアニュース

ロシアのラブロフ外相は26日、国連総会で演説し、安全保障理事会の改革をめぐり、日本の常任理事国入りを認めてはならないと主張しました。ニューヨークで開かれている国連総会の一般討論演説で、ロシアのラブロフ外

今回の登場人物 ​

  • 国連安全保障理事会: 国際の平和と安全について主要な責任を持つ国連機関です。15か国で構成され、5か国は常任、10か国は総会で選ばれる非常任理事国です。
  • 常任理事国5か国: 中国、フランス、ロシア、英国、米国です。「P5」とも呼ばれます。安保理の実質事項では特別な拒否権を持ち、国連憲章の改正でも全5か国の批准が必要です。
  • セルゲイ・ラブロフ氏: ロシアの外相です。今回の演説で、安保理改革では「西側」の席を増やすべきでないというロシアの立場を述べました。
  • 国連総会: 全加盟国が一票ずつ持つ会議です。憲章改正案を採択する入口ですが、総会の賛成だけで改正は発効しません。
  • 国連憲章108条: 国連の基本ルールを変える手続きです。改正には総会で加盟国の3分の2の賛成と、加盟国の3分の2による批准が必要で、その批准には常任理事国5か国すべてを含まなければなりません。

何が起きたか ​

日テレNEWS NNNの記事によると、ラブロフ氏は9月26日、ニューヨークで開かれた第81回国連総会の一般討論で演説しました。安保理改革について、アジア、アフリカ、中南米の代表拡大とブラジル、インドの常任理事国入りを支持する一方、日本とドイツについては「軍国主義と報復主義への道を歩んでいる」とするロシア側の評価を述べ、常任理事国の席を加えることに反対しました。

ここで、言葉の持ち主をはっきりさせておきます。「軍国主義的」というのはラブロフ氏の政治的主張です。日本やドイツの現在の体制について、国連がそう認定したという話ではありません。

日本政府は逆に、現在の安保理が1945年の国際情勢を反映した構成のままだとして、常任・非常任の両方を増やす改革を求めています。9月22日の高市首相の国連総会演説でも、その立場を改めて示しました。では、両者の主張がぶつかったとき、制度上は何が起きるのでしょうか。

ここが本題 ​

結論を先に言うと、ロシアの今回の演説は、法律上の「拒否権行使」ではありません。総会の演説台で反対を表明しても、日本の常任理事国入りをその場で不採用にはできません。

ただし、日本を新たな常任理事国にするには、安保理の構成を定める国連憲章を変える必要があります。その改正が発効するには、常任理事国5か国すべての批准が必要です。ロシアが最後まで反対し、批准しなければ、その改正は発効できません。

つまり、発言はまだ停止命令ではないが、反対を貫けば最後の扉を閉められる。ここが今回の核心です。

「拒否権」は二つに分ける ​

ニュースでよく聞く拒否権は、安保理が紛争や制裁などの決議を採決するときのものです。国連憲章27条に基づき、手続き事項を除く決定には9か国以上の賛成に加え、常任理事国の賛成票を含むことが条文上の条件です。ただし実務では、常任理事国の棄権は採択を妨げない扱いが定着しています。常任理事国が反対票を投じると、必要な賛成数があっても決議は通りません。

安保理の構成そのものを変えるときは、別の道を通ります。憲章108条は、まず総会で全加盟国の3分の2が改正案を採択し、その後、加盟国の3分の2がそれぞれの国内手続きで批准するよう定めています。そして、批准国には常任理事国5か国すべてが入っていなければなりません。

前者は安保理の採決で使う反対票です。後者は憲章改正を発効させるための必須条件です。効果はどちらも強いのですが、仕組みは同じではありません。「ロシアが総会で拒否権を使う」と説明すると、制度上の場面を取り違えます。

改革までの三つの関門 ​

日本の常任理事国入りを実現するには、大きく三つの関門があります。

一つ目は、どんな安保理にするかという政治交渉です。常任・非常任の席をいくつ増やすのか、どの地域に配分するのか、新しい常任理事国に拒否権を認めるのか。各国が「改革には賛成」と言っても、中身への答えが同じとは限りません。家を広くしようという合意と、誰の部屋をどこに作るかの合意は別です。

二つ目は、総会での採択です。加盟国の3分の2という高い賛成が要ります。日本が多くの国から支持を集めることは、ここで欠かせません。ただし、3分の2を取っても改革はまだ発効せず、次の批准段階へ進むだけです。

三つ目が批准です。総会採択後、加盟国の3分の2が国内手続きを進め、常任理事国5か国も全て批准しなければなりません。一つでも欠ければ、必要な条件がそろわない。この最終段階で、ロシアは単独でも改正の発効を止められます。中国、米国、英国、フランスも同じ力を持っています。

だから、安保理改革は「世界の多数派を作る外交」と「現在の大国全てを納得させる外交」を同時に求められます。多数決と全員同意を重ねた二重ロックです。

なぜ現職が鍵を持つのか ​

「新しいメンバーを決めるのに、いまのメンバー全員の許可が要るのはずるくない?」と思いますよね。制度の出発点は、第二次世界大戦後の国際秩序です。

国連は、大国が組織の決定を受け入れず、外で対立する事態を避けるため、主要国へ特別な地位を与えました。大国を制度の中につなぎ留める安全装置だった、と説明できます。その代わり、世界の勢力図が変わっても、既存の大国自身が同意しない限り構成を変えにくい仕組みになりました。

1945年当時、国連加盟国は現在よりはるかに少なく、アフリカやアジアでは独立前の地域も多くありました。現在の15議席、うち常任5議席という構成が、今日の地域バランスを十分に反映しているのかという不満は長くあります。日本だけでなく、アフリカ諸国やインド、ブラジルなどをめぐる代表性も改革論の中心です。

一方で、候補国を増やすほど、地域内の競争や拒否権の扱いも難しくなります。代表性を良くしたい。しかし、決定できない機関にはしたくない。さらに、改革案によって既存の常任理事国の相対的な影響力も変わるため、5か国の利害調整も必要です。この三つが同時にテーブルへ乗ります。

一度は変わっている ​

では、憲章改正は事実上不可能なのでしょうか。前例はあります。

国連総会は1963年12月17日、安保理の議席数を増やす憲章改正を採択しました。改正は1965年8月31日に発効し、安保理は11か国から15か国へ拡大しました。非常任理事国が6から10へ増えたのです。現在の常任5か国はそのままでしたが、地域の代表性を広げる変更は実現しました。

この前例が教えるのは、「国連は絶対に変わらない」ではありません。必要な数の加盟国と常任理事国すべてが合意すれば変えられる、です。裏返せば、常任理事国の了承を取れない改革案は、総会で支持を集めても発効しません。

ラブロフ氏の発言も、それ自体で未来を永久に固定するものではありません。政府の立場は交渉や国際情勢で変わり得ます。改革案の中身も、常任席の数、地域配分、拒否権の有無を組み替えられます。けれど、いま明確に反対を示した国を数に入れず、「世界の多数が賛成なら進む」と考えるのは制度上無理があります。

ロシアは改革全部に反対か ​

今回の演説を「ロシアは安保理改革そのものに反対」とだけまとめるのも正確ではありません。ラブロフ氏は、アジア、アフリカ、中南米の代表拡大とブラジル、インドの常任理事国入りには支持を示し、西側諸国の席をさらに増やすことに反対しました。

つまり争いは、拡大するかしないかだけではなく、増やす席を誰に配るかにあります。ロシア側は、現在の安保理でも西側諸国の影響が大きいと見ており、日本とドイツをそこへ数えています。日本側は、現在の構成が1945年の現実に寄りすぎており、日本の国際貢献や現在の世界を反映していないと主張します。

どちらの政治評価に同意するかとは別に、交渉の構図は押さえられます。日本が常任席を得るには、「改革一般への賛成」を集めるだけでなく、「日本を含むこの具体案ならよい」と常任5か国全てに言わせる必要があります。ここが、とても高い壁です。

日本にとって何が重いか ​

今回の発言を、ラブロフ氏による日本への強い非難としてだけ受け取ると、ニュースの半分しか見えません。重要なのは、批判した人が憲章改正の必須批准国であるロシアの外相だということです。

日本政府は、常任・非常任の双方を拡大して、現在の国際社会をよりよく反映する安保理を目指しています。日本は非常任理事国を繰り返し務めてきましたが、非常任の任期は2年で、常任席とは権限も継続性も違います。

ただし、「国連加盟国の多くが安保理拡大に賛成している」ことと、「日本の常任入りを含む一つの条文案に必要な支持がそろっている」ことは同じではありません。席数、候補、拒否権を一つの改正案へ落とした瞬間、連合は割れ得ます。抽象的な「改革したほうがよい」を、そのまま完成した設計図への賛成票として数えてはいけないわけです。

日本外交に必要なのは、反対発言へ反論するだけではありません。アフリカやアジア、中南米の代表性をどう高めるのか、新しい常任理事国の拒否権をどう扱うのか、安保理の実効性をどう保つのかを、具体案としてまとめることです。そのうえで、ロシアを含む5か国へ「この変更を受け入れる利益がある」と示さなければなりません。

何が変われば動くのか ​

今後見るべきなのは、強い発言の応酬だけではありません。加盟国間の交渉が、具体的な条文を使う段階へ進むか。増やす議席数と地域配分についてまとまりができるか。常任理事国が、どの案なら批准し得ると示すか。この三点です。

常任席の新設には憲章改正が必要なので、手続きの近道はありません。一方、会議の透明性を上げる、非常任理事国の参加を改善する、拒否権を使った国に説明を求めるなど、憲章改正を待たずに進められる運用改善はあります。ただし、それで日本が常任理事国になるわけではありません。できる改革と、椅子を増やす改革を混ぜないことが大切です。

まとめ ​

ラブロフ外相が日本とドイツの常任理事国入りに反対した今回の演説は、それだけで法的な拒否権の行使にはなりません。総会演説は立場の表明であり、日本の候補資格を消す決定ではないからです。

しかし、安保理の構成を変える憲章改正には、総会での3分の2の採択、加盟国3分の2の批准、そして常任理事国5か国全ての批准が必要です。ロシアが反対を維持して批准しなければ、特定の改革案は発効できません。一つの常任理事国は、各国が議論することまで止める力はありませんが、最後の扉を開けない力は持っています。

日本の常任理事国入りをめぐる本当の難しさは、支持国の数だけでは測れません。現在の5か国全てが受け入れられる改革案を作れるか。今回の発言は、その制度上の難所を改めて見せたニュースです。

Sources ​