路線バスの減便が増えていると聞くと、つい「じゃあ運転手を増やせばいいじゃないか」と言いたくなります。正論です。ただ、その「増やす」が思ったより重たい。バスはハンドルを握れば即戦力、ではなく、お客さんを乗せて時間通りに安全に走るための条件がかなり多いからです。

そこで最近注目されているのが外国人材の受け入れです。でも今回の中心問いはここです。外国人運転手は本当に人手不足の穴埋め策なのか。答えは、半分だけイエスです。人数の補い手にはなりうるけれど、実際は免許、研修、日本語、定着支援まで含めた制度設計が先に要る。つまり、人を入れる話というより、現場を作り替える話なんです。

2030年には3.6万人不足、都心でも進む「バス減便」に打ち出す「外国人人材」の育成 | TBS NEWS DIG
2030年には3.6万人不足、都心でも進む「バス減便」に打ち出す「外国人人材」の育成 | TBS NEWS DIG

深刻な人手不足により、全国で相次ぐ路線バスの廃止や減便。運転手を確保するため、バス会社が注目しているのが外国人人材の採用だ。

今回の登場人物

  • TBS NEWS DIG: 今回の入口記事です。2026年4月22日午後10時28分公開。減便の広がりと、外国人運転手受け入れの現場訓練を伝えました。
  • 国土交通省: バス業界の人手不足や特定技能制度の運用を所管する役所です。数字の土台を出している元締め。
  • 特定技能1号: 人手不足分野で一定の技能を持つ外国人が働く在留資格です。自動車運送業は2024年3月に対象分野へ追加されました。
  • 第二種運転免許: お金をもらって人を運ぶための免許です。バスの乗務には必須。ここが重い。
  • 新任運転者研修: 法令、安全、接客、路線理解などを含む必修の仕上げ工程です。採用したら即デビュー、にはならない理由その1。

何が起きたか

TBS NEWS DIGは、深刻な人手不足で全国の路線バスに減便や廃止が広がるなか、外国人人材の採用に注目が集まっていると報じました。記事では、インドネシア出身の女性運転手が神奈川でデビューし、路上教習、ルートを歩いて覚える研修、接客の言葉づかいの学習などを重ねてきた様子が紹介されています。

この話を支える大きな背景は、国土交通白書が示す数字です。2021年に11万6千人いたバス運転手は2030年に9万3千人まで減る見込みで、2022年の輸送規模を維持すると2030年に3万6千人不足するとされています。さらに白書は、路線バス会社のおよそ8割が2023年中に減便や廃止を行ったと整理しています。つまり、減便は「一部の地方の困りごと」ではなく、もう業界の標準トラブルになりつつあるわけです。

ここが本題

では、外国人材を受け入れればすぐ埋まるのか。ここが違います。

まず、自動車運送業が特定技能1号の対象分野に入ったのは2024年3月29日です。かなり最近です。しかも、バス分野は試験に合格したら終わりではありません。日本の第二種運転免許を取り、新任運転者研修を終え、実際の現場で安全運行と接客に耐えられる状態まで持っていく必要があります。国土交通省の資料では、この準備のために在留資格「特定活動」で最長12か月の在留を認める仕組みまで用意されています。要するに、採ってすぐ座席に座らせる制度ではないんです。

さらに制度は、会社側にもかなり重い宿題を出しています。直接雇用、協議会加入、働きやすい職場認証、日本人と同等以上の報酬、支援計画の作成、差別的取扱いの禁止。安くて便利な補充パーツ、みたいな発想で回る制度ではありません。むしろ「ちゃんと育てて、ちゃんと働ける職場を作れ」と会社側をかなり縛っています。

なぜ免許と日本語がボトルネックになるのか

バスの仕事は、ただ車を動かすだけではありません。お客さんを乗せるので、第二種運転免許が必要です。しかも接客業でもあります。「定期券をもう一度拝見させてください」みたいな日本語、あれ日本人でもちょっと固い。まして初学者にはかなり難しい。TBS記事が「拝見」のような表現の難しさを拾っていたのは、かなり本質的です。

加えて、路線バスは土地勘が必要です。道を覚え、時間を守り、歩行者の動きや停留所周辺の癖をつかまないといけない。だからルートを歩いて覚える研修まで出てくる。つまり、ここで必要なのは「人手」だけでなく、「地域交通の現場仕様に仕上げる時間」です。

ここを無視して「外国人採用で解決」と言うと、料理で言えば材料だけ届いてキッチンがない状態になります。人は来た。でも免許はこれから、研修もこれから、支援体制もこれから。これでは運行は増えません。

それでも外国人材が重要な理由

とはいえ、だから意味がないわけでもありません。国交省は自動車運送業分野の特定技能制度を動かし、日本バス協会も教材や効果測定の基準、修了証書の要領を整えています。業界側も「制度はできた、あとは現場でどう回すか」の段階に入っています。

大事なのは、これを短期の穴埋めと長期の公共交通維持の両方で見ることです。短期では、減便を少しでも抑えるために人材を増やす必要がある。長期では、採った人が続けて働ける職場にしないと意味が薄い。特定技能の受け入れ見込み総数は自動車運送業全体で5年間最大2万4500人で、バスだけの3万6千人不足をそれだけで埋める設計ではありません。だからこそ、外国人材は万能薬ではなく、他の待遇改善や生産性向上策と一緒に使う前提のカードです。

ここで見落としやすいのが、「採る会社側も変わらないと続かない」という点です。制度上、日本人と同等以上の報酬や支援計画、働きやすい職場認証などが求められているのは、外国人材保護のためだけではありません。雑な職場に人を入れても、定着しないからです。入った人が辞めれば、また免許取得と研修からやり直しになる。会社にとっても高い。だから受け入れは慈善事業でも安価な補充でもなく、職場改善を迫る鏡みたいなものです。

しかも、バスは地域の足です。電車がない地域では、1本減るだけで通学、通院、買い物の難度が上がる。だからこのテーマは移民政策の抽象論というより、公共交通をどう維持するかの話なんですね。外国人材の是非を叫ぶだけではあまり進まない。免許取得にどれくらいかかるのか、支援する日本語サポーターをどう置くのか、5年後の定着をどう考えるのか。地味ですが、そこが本当の設計図です。

もう一歩だけ現実を見ると、外国人材の受け入れは「日本語ができるか」だけの話でもありません。日本のバスは、時間厳守、安全確認、車内アナウンス、運賃の扱い、高齢者や子どもへの接客など、細かな期待値がかなり高い。つまり制度を広げるなら、会社側は教習所の延長ではなく、接客業の育成まで引き受ける覚悟がいる。ここを削ると、採用数だけ積んでも現場で詰まります。

だから読者が見るべき指標は、何人採ったかだけではありません。何人が免許を取れたか、何人が乗務まで進んだか、何人が1年後も残っているか。この三つです。バス不足は人数の話に見えて、実は育成と定着の話でもある。その両方を追わないと、問題の半分しか見えません。

減便が困るのは、ニュースでは数字でも、現場では「病院に行きにくい」「学校へ通いにくい」に変わるからです。だから受け入れ制度の成否は、採用人数よりまず運行本数の回復で見るべきです。

まとめ

路線バスの減便は、「外国人を採れば埋まる」という単純な話ではありません。本当に重要なのは、日本の第二種運転免許、法定研修、接客日本語、土地勘、受け入れ企業の支援義務まで含めて、現場をどう設計するかです。

それでも外国人材は重要です。なぜなら、運転手不足が構造問題で、何もしなければ減便が広がるからです。ただし、その役割は魔法の穴埋め要員ではなく、制度と育成を前提に公共交通を支える戦力です。ここを雑にすると、期待だけ大きくて運行は増えない、という残念な結末になります。

Sources