スキー場の存廃を「残すか壊すか」だけで見ると、町の本当の悩みを見落とします。

宮崎県五ヶ瀬町は、経営難が続く「五ヶ瀬ハイランドスキー場」の今後のあり方について、継続・休止・廃止の各シナリオにおける財政への影響を町議会に報告した。どの選択肢をとっても多額の費用負担が避けられない厳しい現実が浮き彫りとなる中、町のシンボルの命運が7月上旬にも決断されることになった。日本最南端のスキー場として知られる「五ヶ瀬ハイランドスキー場」。2022年に台風14号の影響で営業休止を余儀なくされたが、町民と行政の懸命な努力により、2024年12月に営業を再開した。 待ちに待った再開だったが、…
今回の登場人物
五ヶ瀬ハイランドスキー場は、宮崎県五ヶ瀬町にある「日本最南端のスキー場」として知られる施設です。町のシンボルであり、観光資源でもあります。
五ヶ瀬町は、スキー場の今後について、継続、休止、廃止の選択肢を検討している自治体です。町財政への影響を考えながら判断しなければなりません。
第三セクターは、自治体と民間が関わる事業体のことです。公共性と経営の両方を背負うため、うまくいくと地域の柱になりますが、苦しくなると判断が難しくなります。
撤去費用は、施設をやめるときに必要になるお金です。「やめれば支出ゼロ」ではないところが、今回の一番ややこしい点です。
何が起きたか
FNNは6月22日、宮崎県五ヶ瀬町が「五ヶ瀬ハイランドスキー場」の今後について、継続、休止、廃止の各シナリオにおける財政への影響を町議会に報告したと伝えました。
同スキー場は2022年の台風14号の影響で営業休止となり、2024年12月に営業を再開しました。しかし、昨シーズンの入場者数は過去最少となるなど、厳しい経営状況が続いています。
報道によると、継続する場合は造雪機や水不足対策工事などで約5億円の投資が必要となり、年間4000万〜5000万円の維持費も見込まれます。一方、廃止を選んでも、リフトやスキーセンターなどの撤去費用に約5億円が必要です。休止でも、将来再開する際に多額の修繕費が必要になる可能性があります。町は7月上旬にも最終的な結論を出す方針です。
ここが本題
本題は、「思い出のスキー場を残すべきか、赤字だからやめるべきか」という二択ではありません。続けても、やめても、休んでも費用が発生する公共施設を、町がどう選ぶかです。
公共施設の議論では、よく「赤字ならやめればいい」と言われます。気持ちは分かります。家計なら、使っていないサブスクを解約すれば支出は減ります。ところがスキー場は、動画配信サービスではありません。リフトも建物も道路も斜面もあります。解約ボタンを押したら翌月からゼロ、とはいきません。
ここが、公共施設のしんどいところです。続けるには投資がいる。やめるにも撤去費がいる。休むにも管理費や将来修繕が残る。どのボタンを押しても請求書が出てくる券売機みたいなものです。選ぶ側はつらい。
「町のシンボル」はお金に換算しにくい
五ヶ瀬ハイランドスキー場は、日本最南端のスキー場として知られてきました。これは単なる施設名ではありません。町を外に知ってもらう看板であり、観光の理由であり、地元の誇りでもあります。
だから存続を望む声には、数字だけでは測れない重みがあります。スキー場があることで宿泊、飲食、雇用、地域イメージに波及する効果もあり得ます。子どもの頃から通った人にとっては、ただの斜面ではありません。思い出が積もった場所です。雪より厚く積もるやつです。
ただし、シンボルであることは、無限にお金を出せる理由にはなりません。町の予算は一つです。スキー場に使うお金は、道路、福祉、教育、防災、医療、子育て支援など、別の用途には使えなくなります。公共施設の存廃は、施設単体の人気投票ではなく、町全体の予算配分の問題です。
ここで必要なのは、感情を切り捨てることではありません。感情も地域の資産です。ただ、その価値を守るために、どれくらいの負担を、誰が、何年引き受けるのかを具体化することです。
廃止にも5億円という現実
今回のニュースで特に重要なのは、廃止しても撤去費用などに約5億円が必要と見込まれている点です。これは、多くの人の直感とずれます。
普通は「赤字施設をやめれば、支出が減る」と考えます。長期的にはそうなる可能性があります。しかし短期的には、施設を安全に片づける費用がかかります。リフトや建物を放置すれば、老朽化、事故、景観、防災の問題が出ます。山の施設は、置いておけば勝手に自然へ戻るほど単純ではありません。自然に返すにも、人間が作ったものは人間が責任を持って片づける必要があります。
休止も万能ではありません。営業を止めれば運営赤字は抑えられるかもしれませんが、施設を維持する最低限の管理は必要です。さらに、いつか再開しようとすれば、修繕費が膨らむ可能性があります。休止は「決めない決定」に見えますが、時間がたつほど選択肢が高くつく場合があります。
だから、五ヶ瀬町の判断は厳しいのです。存続、休止、廃止のどれを選んでも、町民に説明すべき負担がある。楽な選択肢がメニューに載っていません。レストランで全品からし入り、みたいな状態です。
それで何が変わるのか
今後の注目点は、町が7月上旬にも出す方針の中身です。単に「存続」「休止」「廃止」の札を上げるだけでは足りません。
存続なら、約5億円の投資をどう調達し、年間維持費をどの財源で支えるのか。入場者数をどう回復させるのか。気候変動や雪不足のリスクをどう見込むのか。観光効果をどう測るのか。
廃止なら、撤去費用をどう負担し、跡地をどう扱うのか。町のシンボルを失ったあとの観光戦略をどう作るのか。休止なら、いつまで休むのか、再開条件は何か、維持管理費はいくらか。
読者にとっての学びは、五ヶ瀬だけの話ではありません。全国の自治体が、似たような公共施設の老朽化、人口減少、観光需要の変化に向き合っています。プール、ホール、温泉施設、スキー場、道の駅、体育館。作るときは夢がありますが、維持と撤退には現実があります。夢は大事です。ただ、夢にも電気代は来ます。
そして、この手の判断で一番危ないのは、「誰かがうまくやってくれるはず」という空気です。存続を望むなら、利用者を増やす具体策、町外からお金を呼ぶ仕組み、冬以外の使い道まで考える必要があります。廃止を望むなら、撤去費をどう受け止め、次の地域資源をどう育てるかを示す必要があります。どちらの立場でも、スローガンだけでは足りません。
公共施設は、完成した瞬間がゴールではありません。むしろ、そこから維持費、修繕、災害復旧、利用者減少、人口減少との長い付き合いが始まります。五ヶ瀬の話は、地方の観光施設だけの特殊な悩みではなく、「作ったものをどう終わらせるか、または作り直すか」という全国共通の宿題です。宿題の紙が大きすぎて机からはみ出しています。
住民側が見るべきなのは、賛否の数だけではありません。町が出す試算に、楽観的な利用者数だけでなく、悪天候や雪不足の年も含まれているか。撤去費や維持費が単年度ではなく何年分で示されているか。町外からの観光収入と町民負担が分けて説明されているか。ここが見えると、感情論だけでなく、判断の材料として議論できます。
施設を残すにしても、閉じるにしても、町の未来をどう描くかが問われます。スキー場の話は雪の上で終わりません。予算、観光、人口、誇りが同じ斜面を滑っている話です。
まとめ
五ヶ瀬スキー場の存続危機の核心は、「残すか壊すか」の単純な二択ではありません。続けても投資と維持費が必要で、やめても撤去費が必要で、休んでも将来費用が残る。公共施設の難しさが、ここに詰まっています。
町のシンボルを守る価値はあります。しかし、その価値を守るなら、どれだけの費用を誰が負担するのかまで語らなければなりません。公共施設の本当の判断は、思い出と請求書を同じ机に置くところから始まります。
Sources
- FNNプライムオンライン「『日本最南端のスキー場』存続の危機 継続には5億円の投資と年間4000万円以上の費用が必要」