Paramount SkydanceによるWarner Bros. Discoveryの買収をめぐり、米国の12州が2026年7月13日、合併を止めるよう連邦裁判所へ訴えた。ここで早合点は禁物だ。両社は買収契約を結んでいるが、取引は完了前だ。訴えが起こされたのであって、裁判所が差し止めを決めたわけではない。

今回の本題は、どちらが勝つかの予想ではない。裁判所が「競争が減るか」を判断するとき、何を一つの市場として区切るのかだ。映画も配信もケーブルテレビも全部まとめて巨大な娯楽市場、と言いたくなるが、法廷ではその大ざっぱな袋の縫い目が問われる。

米12州がワーナー買収阻止求め提訴 パラマウントによる敵対的買収は「競争を阻害」
米12州がワーナー買収阻止求め提訴 パラマウントによる敵対的買収は「競争を阻害」

アメリカメディア大手パラマウント・スカイダンスによるワーナー・ブラザース・ディスカバリーの買収阻止を求めて、カリフォルニアなど12の州が提訴しました。 ワーナーの買収を巡っては、去年12月にネットフ

今回の登場人物

  • Paramount Skydance: 映画配給、テレビ局、動画配信などを持つ米国のメディア企業。Warner Bros. Discoveryを買収する契約を結んだ側だ。
  • Warner Bros. Discovery: 映画スタジオ、テレビチャンネル、動画配信などを持つ買収対象の企業。以下、Warnerと呼ぶ。
  • 12州の司法長官: カリフォルニア州を中心に、ニューヨーク州などと共同で原告になった州当局。米司法省が提訴しなくても、州は別に競争法上の訴えを起こせる。
  • クレイトン法7条: 買収によって競争が大きく弱まるおそれがある場合、その買収を禁じる米国法。実際に値上げしてからではなく、将来の競争への影響を調べる。
  • 関連市場: 競争を測る商品の範囲と地域の範囲。「何と何が現実に代わりになるか」で引く法的な競技場の白線だ。

何が起きたか

テレ朝NEWSは7月14日、カリフォルニア州など12州がParamountによるWarner買収の差し止めを求めて提訴したと報じた。

両社が買収契約を発表したのは2月27日。企業発表では、負債などを含む企業価値は1100億ドルとされた。米司法省の反トラスト局は6月12日、8カ月にわたる調査を終え、定額制動画配信、従来型テレビ、劇場映画の企画・製作・配給などについて、競争や米国の消費者を害する可能性は低いと判断し、審査を終了した。

ただし、これは裁判所が買収を「合法認定」した判決ではない。司法省が自らは止める訴訟を起こさなかった、という行政上の判断だ。12州は翌月、クレイトン法7条に反するとして、カリフォルニア北部地区の連邦地方裁判所へ訴状を出した。

州側が今回求めているのは、最終的に買収を禁じる命令だ。州当局の発表では、裁判中は買収を完了しないよう両社へ求め、同意しなければ一時的な差し止めも申し立てるとしている。つまり7月13日時点は「訴状が出た」。一時差し止めも永久差し止めも「裁判所が認めた」段階ではない。この順番を混ぜると、映画の予告編を見て結末まで語ることになる。

ここが本題

クレイトン法7条は、ある商品分野、ある地域で、買収が競争を大きく弱めるおそれがあるかを見る。そのため、最初に「どの競争を測るのか」を決めなければならない。これが市場画定だ。

米司法省の合併指針は、関連市場を商品と地域の組み合わせだと説明する。基本の問いは、ある商品群を一社だけが扱うと仮定して、価格や品質などの条件を悪くしても、顧客が十分に別の選択肢へ移れず、その変更が利益になるかどうかだ。

たとえば映画館が大型新作の上映条件を厳しくされたとする。そのとき、無名の小規模公開作へ置き換えて同じ人数を呼べるのか。ケーブル番組の配信事業者が番組使用料を上げられたとき、Netflixを仕入れて同じチャンネル編成を作れるのか。スマホの画面ではどちらも「動画」に見えるが、映画館や番組配信事業者の仕入れとして交換可能かは別問題だ。

裁判所が測るのは、会社ロゴの大きさではない。顧客が本当に逃げられる範囲である。

訴状が引いた三本の線

12州の訴状は、米国内に三つの関連市場があると主張する。

一つ目は、広範囲で公開される劇場映画の配給だ。訴状は、初回上映で少なくとも600館にかかる作品を「ワイド公開」の目安にする。限定公開作は観客数や興行収入が異なり、映画館にとって十分な代替にならないという立て方だ。州側の発表では、統合後の会社はこの市場で約27%を占め、上位の配給会社への集中がさらに進むと主張している。

二つ目は、その中でも公開前から大きな興行収入が見込まれる映画の配給だ。いわゆる大作、イベント映画である。訴状は、2022年から2025年に3000館超で公開された作品が、作品数では15%だった一方、米国内興行収入の88%を生んだとする。映画館にとって大作は、たまたま当たる小規模作品で毎回置き換えられる商品ではない、という主張だ。

三つ目は、ベーシックケーブルチャンネルを米国内の配信事業者へ使用許諾する市場だ。ここでの直接の顧客は視聴者ではなく、ケーブル、衛星放送などの番組配信事業者である。訴状は、追加料金で買うプレミアムチャンネル、地上波、地域スポーツ局、消費者が直接契約する動画配信は、番組配信事業者にとって同じ仕入れ商品ではないとする。

この三本の線を見ると、訴訟の中心が「HBO MaxとParamount+の作品数を足したら多すぎる」という話ではないと分かる。作品カタログの足し算大会なら、表計算ソフトで終わる。裁判で争うのは、映画館や番組配信事業者が交渉相手を一社失ったとき、別の相手へ現実に切り替えられるかだ。

値上げはどこから来るのか

映画配給会社と映画館は、作品を上映するかだけでなく、興行収入の分け方、割引の上限、上映期間、どのスクリーンを使うかなどを交渉する。州側は、ParamountとWarnerが別会社なら映画館は両社を比べられるが、統合すれば交渉相手が一つ減り、残る会社の力が強くなると主張する。

ベーシックケーブルでも構図は似ている。番組配信事業者は、チャンネル群の使用料をそれぞれの保有会社と交渉する。合意できなければ番組が一時的に見られなくなる「ブラックアウト」も交渉材料になる。多数のニュース、スポーツ、子ども向け、娯楽チャンネルを一社がまとめて持てば、配信事業者が拒みにくくなり、増えた使用料が視聴料金へ回る、というのが訴状の筋書きだ。

もちろん、これは原告側の主張で、裁判所の認定ではない。Paramountは、訴訟は現在の娯楽産業の競争を誤って描いており、統合すれば巨大な配信・テクノロジー企業に対抗できる強い競争相手になると反論している。会社側は合併発表で、年間最低30本の劇場映画を製作する方針も掲げた。

ここで両者の地図がぶつかる。州側の地図では、劇場向け配給とベーシックケーブルは狭く独立した市場だ。会社側の説明では、配信やテクノロジー企業まで含む広い娯楽競争の中で規模が必要になる。裁判所が見るのは、どちらの物語が格好いいかではなく、顧客の切り替え、交渉記録、価格、作品供給などの証拠が、どの地図を支えるかである。

作り手への影響

州側は、競争相手が減れば新作への投資が弱まり、脚本家、俳優、監督、制作スタッフの仕事や交渉機会も減りうると訴える。企業が作品を買う側、働き手を雇う側として大きくなれば、作り手が別の発注元を選ぶ余地が細くなる、という見方だ。

ただし、今回の訴状が中心に置く三つの関連市場は、劇場映画の配給二市場とベーシックケーブルの使用許諾市場である。作り手への影響は重要な波及経路として書かれているが、独立したクリエイター労働市場について裁判所が競争減少を認定済み、という意味ではない。

「作品が減る」「仕事が減る」も、いまは州側の予測だ。会社側は逆に製作本数を約束している。裁判では、合併による経費削減が競争を傷つけずに生まれるのか、合併しなくても実現できるのか、数字と社内資料を含む証拠が問われることになる。

日本から見る線

訴状が画定する地域市場は米国だ。劇場映画の配給契約、公開日、宣伝、観客の好みは国ごとに異なるとして、日本の映画館や配信契約を同じ市場へ入れていない。だから、この訴訟から「日本の映画料金が上がる」「日本の配信作品が減る」と直接断定することはできない。

一方、買収対象は世界で映画や番組を製作・配給する企業だ。会社全体の製作投資、公開本数、海外ライセンスの方針が変われば、日本向けの作品供給や契約条件へ波及する可能性はある。ただし、その方向と大きさはまだ分からない。日本への意味は、米国の訴状に書かれた損害をそのまま輸入することではなく、世界的なメディア再編を見る物差しを持つことにある。

買収ニュースを読むときは、四つを順番に確認すると迷いにくい。買収契約なのか、提訴なのか、裁判所の決定なのか。どの商品と地域を市場にしているのか。直接交渉する顧客は誰か。その顧客は条件が悪くなったとき、何へ切り替えられるのか。ロゴを二つ並べて「でっかい」と言うだけより、かなりニュースに強くなれる。

まとめ

12州が問題にしたのは、ParamountとWarnerの作品棚を単純に足した大きさではない。米国の映画館が仕入れるワイド公開作と大作、そして番組配信事業者が仕入れるベーシックケーブルチャンネルで、独立した交渉相手が一つ消えることだ。

裁判所は今後、その市場の切り方が現実の代替関係に合うか、統合が価格、供給、品質、選択肢を悪化させる可能性があるかを証拠で判断する。現時点で確認できるのは、買収契約があり、司法省が自らは提訴せず、12州が新たに訴えたことまで。判決の結末は、まだスクリーンに映っていない。

Sources