「NISAで個人向け国債を買えるようにする案」と聞くと、かなり強そうに見える。運用益は非課税、元本は国が返す。文字だけ並べれば、ゲーム終盤に出てくる全部盛り装備みたいだ。

ただし、まだ装備は実装されていない。政府・与党が検討に入った段階で、対象商品も使う枠も決まっていない。そして何より、NISAが元本を守るわけではない。今回の本題は、税金の仕組みと金融商品の性格を分けて考えると見えてくる。

NISA対象に「国債」検討へ 片山さつき財務大臣と岸田元総理が会談 国債にかかる相続税の減免も視野に | TBS NEWS DIG (1ページ)
NISA対象に「国債」検討へ 片山さつき財務大臣と岸田元総理が会談 国債にかかる相続税の減免も視野に | TBS NEWS DIG (1ページ)

来年度の税制改正に向けて、政府・与党はNISA=少額投資非課税制度の対象に「国債」を加える方向で検討に入ったことが分かりました。片山財務大臣はきょう(14日)岸田元総理と会談し、今後の進め方などについて協… (1ページ)

今回の登場人物

  • NISA(少額投資非課税制度): 決められた範囲で、投資による利益に税金がかからなくなる口座。損失を防ぐ金庫ではなく、利益にかかる税金をよける屋根だと思えばいい。
  • 個人向け国債: 個人が国にお金を貸し、半年ごとに利子を受け取る商品。「変動10年」「固定5年」「固定3年」の3種類がある。満期には額面の元本を国が返す。
  • 中途換金: 満期を待たず、国に国債を買い取ってもらうこと。個人向け国債では原則として発行から1年後に使えるが、利子の調整が入る。
  • 税制改正: 税金のルールを見直す手続き。ニュースになった案は、来年度の税制改正へ向けた検討事項であって、成立済みの新制度ではない。

何が起きたか

TBS NEWS DIGは7月14日、政府・与党がNISAの対象に国債を加える方向で検討に入ったと報じた。片山さつき財務大臣が岸田文雄元首相と会談し、年末へ向けて議論を進めるという内容だ。

ここで大事なのは、動詞が「加えた」ではなく「検討に入った」だということ。2026年7月15日時点で、個人向け国債をNISAで買えるようになったわけではない。どの国債を対象にするのか、NISAのどの枠を使うのか、いつ始めるのかも公表されていない。

一方、個人向け国債の利用を広げたいという政策の流れは、突然降ってきたものではない。金融庁が公表した6月12日の大臣会見では、片山大臣が、家計の資産構成の中でも個人向け国債はもっと選ばれてよい商品だとの考えを示し、財務省内で商品性を研究していると説明していた。ただし、この会見もNISA対象化を正式決定したものではない。

つまり、政策が向いている方角は見える。でも、地図に道路はまだ引かれていない。いま料金所へ行っても、係員さんが困るだけである。

二つの「守る」

このニュースを理解する最短ルートは、NISAと個人向け国債が、それぞれ何を守る仕組みなのかを分けることだ。

NISAが守るのは、運用で得た利益だ。現行制度では、つみたて投資枠で一定の投資信託を、成長投資枠で一定の上場株式や投資信託などを買える。通常なら課税される売却益や配当などが、制度の範囲内では非課税になる。

でも、NISA口座に入れた株の価格が下がることはある。投資信託が値下がりすることもある。「NISA」というラベルに元本保証の魔法は入っていない。NISAは商品の危険度を変える制度ではなく、利益への税金を変える制度なのだ。

個人向け国債が守るのは、商品の設計としての元本だ。財務省は、満期時の元本の返還と半年ごとの利子の支払いを国が行い、償還金額は額面100円につき100円だと説明している。市場価格が動く一般的な国債を途中で売買するのとは違い、個人向け国債は国による中途換金の仕組みも用意されている。

この二つを重ねる案が、今回のNISA対象化だ。もし個人向け国債の利子をNISAで非課税にする制度が実現すれば、元本の扱いは個人向け国債の商品性により、税引き後の受取額はNISAにより支えられることになる。

税の屋根と、商品の土台。似たような「安心」に見えるけれど、担当部署が違うわけです。

預金とは別物

では、NISAで個人向け国債を買えるようになれば、普通預金の代わりになるのか。ここで立ちはだかるのが「使いたいときに使えるか」という問題だ。

財務省の案内によると、個人向け国債は原則として発行から1年が経過するまで中途換金できない。1年後は1万円単位で中途換金できるが、原則として直前2回分の各利子(税引き前)に相当する金額へ0.79685を掛けた中途換金調整額が差し引かれる。発行時期によって計算式に調整があり、本人が亡くなった場合や大規模災害で被害を受けた場合などには1年未満でも換金できる例外があるが、普段使いでは「最初の1年」が基本ルールだ。

ここが、いつでも引き出せる普通預金との大きな違いになる。家賃、学費、急な修理代のように、近いうちに必要になる可能性があるお金は、利子の税金だけでは置き場所を決められない。お金には「いくら増えるか」だけでなく、「いつ出せるか」という仕事もある。

元本割れがないことと、すぐ現金に戻せることは別だ。冷蔵庫に食材があるのと、いま弁当になっているのが別なのと同じである。食べられるには食べられるが、昼休みは待ってくれない。

非課税の効き方

個人向け国債の利子は現在、原則として受取時に20.315%の税金が差し引かれる。NISA対象化の意味は、この税負担をなくせる可能性にある。

ただし、非課税になっても国債の表面上の金利が上がるわけではない。国が突然、利子を山盛りおまけしてくれる話でもない。同じ利子なら、税引き後に手元へ残る割合が増えるという話だ。

そして、国債は株式のような大きな値上がり益を狙う商品ではない。利益が大きいほど、非課税による金額上の効果も大きくなりやすい。安全性を重視する国債をNISAに入れる意味はあるが、「非課税枠は何に使っても同じ」ではない。

ここで、制度設計が重要になる。現行NISAには年間の投資上限と、生涯にわたる非課税保有限度額がある。国債が既存の枠を使うなら、国債を買った分だけ、同じ枠で株式や投資信託に回せる余地は小さくなる。逆に、国債向けの別枠が設けられるなら判断は変わる。

だが、どちらになるかはまだ分からない。だから現時点で「NISA枠は国債に使うべきだ」とも、「使うと損だ」とも言えない。箱の仕切りが発表される前に収納術を断言すると、だいたい棚板が足りなくなる。

家計の選択肢

それでも、この案が実現した場合の変化は見えている。NISAを「株や投資信託を買う人の制度」と感じていた人に、安全性を重視する商品から入る選択肢が加わることだ。

これまで値動きが怖くてNISA口座を使わなかった人でも、個人向け国債なら検討しやすいかもしれない。株式や投資信託を持つ人にとっても、同じ非課税口座の中で、値動きを受け入れて増やす資産と元本を重視する資産をどう組み合わせるか考えるきっかけになる。

ただし、国債を加えれば自動的に家計の資産形成がうまくいくわけではない。近く使うお金、数年後に使うお金、長く育てたいお金では、必要な性格が違う。国債追加案が広げるのは「正解」ではなく、「選べる範囲」だ。

政策側から見れば、個人が国債を持つ機会を増やす狙いもある。個人向け国債の販売を広げたい政府と、安全資産にも非課税の選択肢を求める家計。その二つが重なる場所に、今回の案がある。

まだ白紙の部分

今後見るべきなのは、国債追加という見出しの大きさより、細かな制度設計だ。対象は個人向け国債だけなのか。3種類すべてなのか。既存の成長投資枠を使うのか。別枠を設けるのか。中途換金した場合、非課税枠をどう扱うのか。ここが決まらなければ、家計にとっての使い勝手は評価できない。

中心問いへの答えをまとめよう。個人向け国債がNISA対象になれば、家計は「値動きを受け入れて増やす商品」だけでなく、「元本を重視して利子を受け取る商品」にも非課税枠を使える可能性がある。だが、NISAが元本を保証するわけではなく、個人向け国債には原則1年の中途換金制限がある。

非課税だから強い。元本を重視するから安心。どちらも半分は正しい。でもニュースを一段深く読むなら、「何への税金が消えるのか」「いつ現金に戻せるのか」までセットで覚えておきたい。

Sources