「ロシアへの100%関税」と覚えると、今回の仕組みをほぼ逆向きに理解してしまいます。
狙われるのはロシアだけではありません。ロシア産の石油や天然ガスを買い、その一方で米国へ商品を売る第三国です。ロシアとの取引を続けるなら、米国市場で高くつく。その二つを天秤に載せるのが「二次関税」です。

アメリカ連邦議会上院の超党派議員は14日、ロシア制裁法案を公表しました。この法案が成立した場合、ロシア産の石油・ガスを輸入する国からの輸入品に、100%の関税が課されます。上院の超党派議員は14日、中国やインドなどロシア産の石油・ガスの主要輸入国5カ国からの輸入品に対し100%の関税を課すなどとするロシア制裁法案の修正版を公表しました。この法案は、去年の夏から上院で審議されていましたが、トランプ大統領がプーチン大統領との交渉を優先する考えを示したことから、採決は見送られていました。アメリカメデ…
今回の登場人物
- 二次関税: 主な制裁対象ではなく、その対象と取引する第三国からの輸入品に関税をかける仕組みです。今回はロシア産エネルギーの買い手へ圧力を届ける案です。
- 第三国: 米国でもロシアでもなく、ロシアから石油や天然ガスを買う国です。制裁ニュースなのに中国、インド、日本などの名前が出るのは、この立場にいるからです。
- 米国の輸入者: 第三国の商品を米国へ持ち込み、通関時に関税を納める企業です。外国政府が関税を直接振り込むわけではありません。
- Sanctioning Russia Act: ロシアと、その取引相手への制裁・関税を強めようとする米議会の法案です。大事なので先に言いますが、まだ法律ではありません。
- 日本のロシア産LNG: 日本が発電や都市ガス向けに輸入する、ロシア産の液化天然ガスです。日本が今回の議論と無関係ではない理由です。
何が起きたか
FNNプライムオンラインは7月15日、米上院の超党派議員が改訂したロシア制裁法案について報じました。報道によると、ロシア産の石油・天然ガスを輸入する主要国を対象に、米国へ入る商品へ最大100%の関税を課せる案が盛り込まれています。
ここで、古い案と新しい案を分けます。数字が派手なので、旧案の500%と最新草案の最大100%を同じ引き出しに放り込まないようにしましょう。
米議会の公式サイトCongress.govに載る「Sanctioning Russia Act of 2025」は、2025年4月1日に上院へ提出された法案です。一定条件のもと、ロシア産の石油製品やウランを取引する国からの輸入品へ、少なくとも500%の関税を課す内容でした。Congress.gov上の状態は「Introduced」、つまり提出段階です。
一方、2026年7月10日には、共和・民主両党の上院議員4人が、トランプ政権と更新版を前進させる合意に達したと公式発表しました。7月14日には改訂案が公表されたと複数の報道が伝え、米議会のNeal下院議員とWyden上院議員も、最新草案が大統領に最大100%の関税権限を与えるとして反対声明を出しています。
ただし、この記事の執筆時点でCongress.govに確認できる法案本文は旧版です。対象国の定義、例外の正確な条件、大統領が使える権限の範囲を示す改訂後の正式条文は確認できていません。
したがって、最大100%は成立済みの税率ではありません。日本が対象だとも、例外だとも確定していません。「法案の設計が報じられた段階」と「関税が始まった状態」の間には、議会審議と成立という大きな橋があります。まだ渡っていない橋です。
ここが本題
では、二次関税はどうやってロシアへ圧力を届けるのでしょう。
登場する取引は二つあります。ここは矢印を二本に分けると、ぐっと見通しがよくなります。
一つ目は、ロシアから第三国へのエネルギー輸出です。第三国が石油や天然ガスを買えば、その代金はロシア側の収入になります。
二つ目は、第三国から米国への輸出です。第三国の企業は自動車、機械、衣類、電子機器など、さまざまな商品を米国市場へ売っています。
二次関税案は、この二つ目の出口へ関税を置きます。ロシアから買った石油そのものを米国へ持ち込む場面だけが対象なのではありません。ロシア産エネルギーを買う国から米国へ入る商品を高くし、その国全体に取引の再計算を迫るのが肝です。
流れを矢印にすると、こうなります。
- 第三国がロシア産エネルギーを買う
- ロシアが輸出収入を得る
- 米国が、その第三国からの輸入品に高い関税をかける
- 第三国の企業が米国市場で売りにくくなる
- 第三国の政府や企業が、ロシアとの取引を続けるか考え直す
米議会調査局は、二次制裁を、主な制裁対象と関わる第三者を思いとどまらせ、対象が第三者の資金や物資へアクセスするのを難しくする措置だと説明しています。
つまり、ロシアだけを正面から押すのではありません。ロシアと取引する相手の出口を狭くして、取引網の外側から圧力をかけるわけです。
第三国の天秤
第三国の立場で考えてみましょう。
ロシア産エネルギーには、価格、輸送距離、既存のパイプラインや長期契約、安定供給など、国ごとに異なる購入理由があります。簡単に別の供給元へ交換できるとは限りません。
しかし、その取引を続けた結果、自国の幅広い商品が米国市場で高関税を受けるなら話は変わります。ロシアからエネルギーを買って得る利益と、米国向け輸出で失う利益を比べる必要が出るからです。
ここに二次関税の圧力があります。ロシアとのエネルギー取引額が比較的小さくても、米国への輸出がその何倍も重要なら、第三国には購入量を減らす動機が生まれます。反対に、米国市場への依存が小さい国や、別の市場へ輸出を振り替えられる国には、同じ税率でも効き方が弱いかもしれません。
第三国が取り得る行動も、一つではありません。ロシアからの購入を減らす、別の産油国・ガス供給国へ切り替える、米国と例外を交渉する、輸出価格を下げる、米国以外へ販路を移す。どれを選ぶかは、エネルギーと貿易の両方の事情で決まります。
制裁はボタンを押せば必ず同じ答えが出る自動販売機ではありません。相手に選択を迫る道具ですが、選ばれる答えまでは保証しないのです。
誰が関税を払うのか
もう一つ、税の矢印を正しく見ておきましょう。
米国へ商品を輸入する際、通関で関税を納める直接の主体は米国側の輸入者です。たとえば輸入価格100ドルの商品に100%の関税がかかれば、単純な計算上の関税額は100ドルです。
ただし「だから店頭価格が必ず2倍になる」とは限りません。米国の輸入企業が一部を負担することも、第三国の輸出企業が値下げすることも、消費者価格へ転嫁されることもあります。調達先そのものが別の国へ変わる可能性もあります。
要するに、関税はロシアへ直接送る請求書ではありません。まず米国の輸入取引にコストを置き、その痛みを通じて第三国の輸出企業や政府へ圧力を返す設計です。
このため、制裁する米国側も無傷ではありません。輸入価格が上がれば、米国企業の仕入れや消費者の負担へ跳ね返る可能性があります。Neal氏とWyden氏の反対声明も、対ロシア圧力の必要性は認めながら、大統領へ広い関税権限を渡すことや、米国家計への影響を問題にしています。
「ロシアに厳しくするか、しないか」だけの二択ではないのです。誰にどれだけ権限を渡し、第三国と米国内の負担をどう抑えながら圧力をかけるか。そこが議会で争われる部分です。
日本は対象なのか
日本の読者がいちばん気になるのは、ここでしょう。
FNNの報道では、日本はロシア産天然ガスの輸入をめぐって法案の影響を受け得る国として登場します。一方で、輸入量や削減努力に応じた例外の対象になり得るとも報じられています。
しかし、例外条件にある「15%」が何を分母にした割合なのかは、報道間でも説明が一致していません。改訂後の正式条文が未確認である以上、「日本へ100%関税がかかる」「日本は免除される」のどちらも断定できません。
それでも日本に関係があるのは、ロシア産LNGが現実のエネルギー供給に組み込まれてきたからです。
資源エネルギー庁のエネルギー白書2024によると、ロシア極東のサハリン2は、2023年に日本が輸入したLNGの約9.3%を供給し、日本の総発電量の約3%に相当しました。これは2026年の現在値ではありません。ただ、「明日からゼロにすれば終わり」と簡単に言えない背景を示す数字です。
日本には、ロシアのエネルギー収入を減らす国際的な圧力と、電気やガスを安定して確保する必要があります。さらに、対米輸出への影響まで天秤に加わる可能性がある。二次関税は、外交の話をエネルギー調達と企業の輸出判断へつなげます。
だから日本について今言える正確な表現は、「無関係ではないが、適用も例外も未確定」です。短いですが、この一文がいちばん大事です。
次に見るべきもの
まず確認すべきは、改訂後の正式な法案本文です。対象となる購入国をどう決めるのか、石油と天然ガスを別々に扱うのか、15%の分母は何か、大統領がどの条件で税率を変えたり例外を認めたりできるのか。そこが分からなければ、国別の影響は確定できません。
次に、上下両院の審議と採決があります。超党派の議員が支持していても、法案は可決されるまで法律ではありません。上下両院で内容が違えば調整も必要です。
そして成立した場合でも、第三国がどう反応するかを見なければ効果は分かりません。調達先の変更、ロシア側の値下げ、米国との例外交渉、輸出先の付け替えによって、圧力の届き方は変わります。
今回の中心問いへの答えをまとめましょう。
二次関税は、ロシア産エネルギーを買う第三国の対米輸出を高くすることで、その国にロシアとの取引利益と米国市場での損失を比べ直させます。狙いは、購入削減や調達先変更を促し、ロシアのエネルギー収入を細らせることです。
ただし、これはまだ法案です。最大100%という数字に目を奪われる前に、「誰への関税か」「誰が直接払うか」「何がまだ決まっていないか」の三つを押さえる。それだけで、このニュースはかなり深く読めます。
Sources
- FNNプライムオンライン「米超党派議員が対ロシア制裁法案を改訂」
- Lindsey Graham上院議員「更新版ロシア制裁法案を前進させる政権との合意」
- Congress.gov「S.1241 — Sanctioning Russia Act of 2025」
- Richard Neal下院議員「Neal, Wyden Oppose Giving Trump New, Unilateral Tariff Power」
- Congressional Research Service「U.S. Sanctions: Overview for the 119th Congress」
- Congressional Research Service「U.S. Sanctions on Russia」
- 資源エネルギー庁「エネルギー白書2024」