子ども向け製品に「子供PSCマーク」が付いていたら、安全の強い目印になる。では、そのマークがあれば事故は起きないのか。国が一個ずつ試して合格を出したのか。答えは、どちらも違う。

マークが示すのは、製造・輸入事業者が国の技術基準への適合を確認し、対象年齢や注意事項を表示する、法律上の安全管理だ。一方で、対象年齢を外れた使用や誤った設置まで安全に変える力はない。しかも制度開始後も、マークなし製品を販売できる経過措置がある。今回の本題は、マークが保証する範囲と、保証しない範囲の境目だ。

段差に引っかかると大惨事に…ベビーカーや乳幼児用ベッドガードの事故防止呼びかけ 8日から子供PSCマーク表示義務付け|FNNプライムオンライン
段差に引っかかると大惨事に…ベビーカーや乳幼児用ベッドガードの事故防止呼びかけ 8日から子供PSCマーク表示義務付け|FNNプライムオンライン

ベビーカーでの散歩。横断歩道の信号が点滅し、走って渡ろうとしたその時、タイヤが段差に引っかかり、赤ちゃんを乗せたベビーカーが前のめりに倒れる大惨事に…。 今月8日から、ベビーカーと乳幼児用のベッドガードについて、国の安全基準をクリアしている事を示す「子供PSCマーク」の表示が義務付けられるのを前に、NITE=製品評価技術基盤機構が事故防止のための注意を呼びかけました。NITEの担当者:「子供PSCマークのついた、安全性の確認された製品を選ぶことが安心につながります。安全な製品を選ぶことなど、小…

今回の登場人物

  • 子供PSCマーク: 子ども向けの対象製品について、国の技術基準や表示義務に適合していることを事業者が示す法定マーク。PSCは「Product Safety of Consumer Products」の略だ。
  • 製造・輸入事業者: 基準への適合確認、自主検査、表示に第一の責任を負う。海外製品なら、日本へ輸入する事業者がこの役目を持つ。
  • 経済産業省: 制度を所管し、事業者の届出や法令順守を監督する役所。法令違反には命令・罰則があり、危害防止に必要な場合は回収などの措置を命じることがある。
  • NITE: 製品事故を集めて分析し、注意喚起する独立行政法人。読み方は「ナイト」。製品を一個ずつ認証する機関ではない。
  • 経過措置: 新制度へ切り替えるため、一定期間はマークなし製品の販売を認めるルール。安全上の注意を休んでよい期間、という意味ではない。

何が起きたか

FNNプライムオンラインは7月16日、乳幼児用ベッドガードとベビーカーに、子供PSCマークの表示を求める新しい規制が始まったと報じた。制度は2026年7月8日に施行された。

子供PSC制度は、消費生活用製品安全法に基づく。今回加わったのは、主として家庭用で、出生後60か月以内の子どもの転落防止用として設計された乳幼児用ベッドガードと、出生後36か月以内の乳幼児の運送用として設計されたベビーカーだ。これは規制対象を分ける定義であり、一律の使用上限ではない。ベッドガードは別途、出生後18か月未満には使わないよう求められている。

背景には重大事故がある。NITEが2015年から2026年6月までに受けた事故通知では、ベッドガードで子ども4人が死亡し、ベビーカーでは11件の重傷事故があった。ベッドガードでは製品とベッドの隙間への挟まり、ベビーカーでは転落や転倒、折り畳み部分への指の挟み込みなどに注意が必要とされている。

ただし、この4件と11件はNITEが把握した通知件数だ。日本で起きたすべての事故を数えた総数とは限らない。事故の深刻さは重く受け止めつつ、数字の範囲は広げないことが大切だ。

マークが示すもの

子供PSCマークの中心は、製品を売る前の責任をはっきりさせることにある。

対象製品を製造または輸入する事業者は、経済産業省へ届出を行う。そのうえで、製品が国の技術基準に適合するかを確認し、自主検査を実施する。検査の方法や結果などは記録し、3年間保存しなければならない。

製品には、子供PSCマークだけでなく、対象年齢、使用上の注意、届出事業者名などを、日本語で見やすく、簡単に消えない形で表示する必要がある。つまりマークは、丸いロゴ一個だけで完成する話ではない。技術基準、検査記録、注意表示、責任を負う事業者が一つの鎖につながって、初めて制度として働く。

販売事業者にも役割がある。経過措置が終わったあとは、基準や表示を満たしていない対象製品を販売できない。店舗だけでなく、インターネット通販も対象だ。「ネットの棚だから法律の外」という、便利すぎる抜け道は用意されていない。

さらに、行政が後から基準不適合を確認すれば、法令に基づいて対応し、危害防止に必要な場合は回収などの措置を命じることがある。マークの価値は、「絶対に壊れない」と未来を予言することではなく、事故を減らす基準と、問題が起きたときにたどれる責任の線を作ることにある。

国の個別認定ではない

ここは誤解しやすい。乳幼児用ベッドガードとベビーカーに付く丸形の子供PSCマークは、国が店頭の商品を一個ずつ検査し、合格証を渡した印ではない。

制度は許可制ではなく、事業者による届出制だ。技術基準への適合も、製造・輸入事業者が責任を持って確認し、自主検査する。外部の試験機関を利用することはできるが、今回の二製品では、国が指定した第三者機関による検査が法律上必須という仕組みではない。

だからといって、「自己確認なら意味がない」とも言えない。事業者には届出、基準適合、検査、記録保存、表示が法的に義務づけられ、行政による立入検査や命令の対象になる。単なる「うちの商品、安全です」という宣伝文句とは、背負っている責任が違う。

たとえるなら、マークは無敵のバリアではなく、車体の安全基準と整備記録に近い。必要な基準を満たすことは大事だが、シートベルトを締めずに走っても守ってくれる魔法までは入っていない。

マークなしでも売られる

2026年7月8日に制度が始まったからといって、その日から売り場のマークなし製品がすべて違法になったわけではない。

乳幼児用ベッドガードには1年間の経過措置があり、2027年7月7日まではマークなし製品も販売できる。ベビーカーの経過措置は2年間で、2028年7月7日までだ。それぞれ翌日以降は、販売店に残っている在庫も含め、技術基準や表示義務を満たし、マークを付けた製品でなければ販売できない。

この期間にマークがないという事実だけで、直ちに危険品だとは判断できない。新規制の施行前から流通していた製品もあるからだ。反対に、経過措置中だから安全確認を後回しにしてよいわけでもない。購入時には対象年齢、固定方法、製品の状態、事故情報やリコールの有無まで確かめたい。

経過措置は売り場を新制度へ移すための助走路だ。助走中だから交通ルールが消える、という話ではない。

事故ゼロにはならない

基準に適合した製品でも、使い方や環境によって事故は起こりうる。ここが、マークの「保証しないもの」だ。

ベッドガードは、生後18か月未満の子どもには使わない。NITEによると、把握された死亡事故4件はいずれも18か月未満の子どもが、ベッドガードとマットレスなどの隙間に挟まれた事故だった。対象年齢を守り、取扱説明書どおりに固定し、隙間がないことを確認する必要がある。

ベビーカーでは、子どもを乗せたらシートベルトを締める。停車時はストッパーを使い、子どもを乗せたまま離れない。折り畳みや展開は子どもを離して行い、段差や溝では転倒や転落に注意する。どれも派手な裏技ではないが、事故はこうした日常の隙間から入ってくる。

製品は使ううちに傷み、部品が緩むこともある。マークが付いていても、破損や劣化をなかったことにはできない。対象年齢、設置、ベルト、ストッパー、点検は、マークの代わりではなく、マークと組み合わせる安全策だ。

売り場で見る順番

では、保護者は何を見ればよいのか。順番にすると難しくない。

まず、対象製品なら子供PSCマークを確認する。ただし、経過措置中はマークなしでも販売可能なため、マークの有無だけで即断しない。次に、子どもの月齢・年齢と製品の対象年齢が合っているか、注意表示を読めるか、設置するベッドなど使用環境に合うかを確認する。購入後も、説明書どおりに使い、破損や緩み、リコール情報を点検する。

けがや体調の異変がある場合は、まず子どもの安全を確保し、必要な受診や救急対応を優先する。製品は使用を中止し、状況が落ち着いてから製造・輸入事業者や販売店へ連絡する。事故情報が集まれば、注意喚起や製品改良、必要なら回収につながる。安全制度は、買った瞬間に閉じる箱ではなく、使用中の情報も戻して回す仕組みである。

ここで中心問いへの答えをまとめよう。子供PSCマークは、事業者が国へ届出をし、技術基準への適合、自主検査、対象年齢や注意事項の表示について法的責任を負っていることを示す。一方、国による一品ごとの認定でも、国指定の第三者機関による検査が一律に義務づけられた制度でも、事故ゼロの保証でもない。正しい年齢・方法で使う責任は残る。

マークを見る。注意表示も読む。使い方も守る。この三つをセットにしてこそ、子供PSC制度は売り場の丸い印から、家庭で働く安全策になる。

Sources