中国の輸出規制と聞くと、「日本向けが全部止まったのか、止まっていないのか」の二択で考えたくなる。だが企業の現場をじわじわ削るのは、全面停止より「手続きは残る。でも前より通りにくく、時間も読めない」という状態だったりする。
北京で7月17日、中国各地の日本人団体が集まり、レアアースや両用品目の輸出規制、航空便の減少、関係者と会いにくい問題を話し合った。本題は、なぜ企業団体が材料、許可、人の往来を同じテーブルに載せるのかである。どれも中国ビジネスを動かす、目立たないインフラだからだ。

日中関係が厳しさを増すなか、中国各地で企業活動を行う日本人の団体が北京に集まり、レアアースの輸出規制などについて意見交換を行いました。中国日本商会 本間哲朗会長「中国におけるレアアース輸出規制や両用
今回の登場人物
- 中国日本商会: 中国で事業をする日系企業などの団体。会員企業の課題を集め、中国側への要望や情報提供を行う。
- 全国日本人交流会: 中国各地の日本人団体などが北京に集まった今回の会合。29団体や総領事館関係者ら約200人が参加した。
- レアアース: 磁石や電子部品などに使う希少な金属元素のグループ。採掘量だけでなく、分離・精製工程も供給の鍵になる。
- 両用品目: 民間にも軍事にも使える材料、装置、技術など。英語ではデュアルユースと呼ぶ。
- 輸出管理コントロールリスト: 掲載された相手への中国原産の両用品目輸出などを禁じる仕組み。
- 注視リスト: 一般許可が使えなくなり、個別許可で厳しい審査を受ける対象。輸出が一律ゼロという意味ではない。
何が起きたか
テレ朝newsは7月18日、日中関係が厳しさを増すなか、中国各地で企業活動を行う日本人の団体が北京に集まり、各地のビジネス状況を意見交換したと報じた。
会合には中国各地の29の日本人団体や総領事館の関係者ら約200人が参加した。中国日本商会の本間哲朗会長は、レアアースや両用品目の輸出規制が厳しくなっていることに加え、日中間の航空便減少、中国側関係者との面会の難しさが日本企業のビジネスに影響していると述べた。
金杉憲治・駐中国日本大使は、日中関係が非常に厳しい局面にあるとして、「オールジャパン」で取り組む必要性を強調した。
これは規制緩和が決まった会議ではない。各地の現場が何に困っているかを持ち寄り、連携を確認した会合だ。成果を「問題解決」と先回りせず、なぜ約200人が情報を合わせる必要があったかを見る。
全面禁輸ではない、でも摩擦はある
背景には、中国が2026年に強めた対日輸出管理がある。
中国商務部は6月29日、新たに日本の20企業・組織を輸出管理コントロールリストへ、別の20企業・組織を注視リストへ加えた。中国側の説明では、対象は両用品目であり、日中間の通常の経済・貿易往来には影響しないとしている。
ただし二つのリストは同じではない。コントロールリストの対象へは、両用品目の輸出や、中国原産品を第三者が移転・提供することが禁じられる。注視リストでは一般許可を使えず、個別許可の申請時にリスク評価や用途に関する書面が必要となり、審査も厳しくなる。
つまり「日本の全企業に、あらゆるレアアースを一切売らない」という全面禁輸ではない。一方で、特定の対象や用途では禁止があり、注視対象では案件ごとの負担と不確実性が増す。「全部動く」と「全部止まる」の間に、広い灰色の実務がある。
レアアースについても、特定品目が日本向けに完全停止したとはこの記事の資料から言えない。入口記事が伝えたのは、輸出規制が実際の企業活動に影響しているという現場側の認識である。
許可の遅れは工場の時計を乱す
製造業では、材料が最終的に届くかだけでなく、いつ届くかが重要だ。
ある部材を使う工程が月曜日に始まる予定でも、輸出許可の見通しが立たなければ、生産計画や在庫の持ち方、顧客への納期回答を変えなければならない。許可が後で下りても、止めたラインや組み替えた配送が自動で元へ戻るわけではない。
これは「道が完全に閉鎖された」というより、料金所が増え、必要書類も増え、通過時間を予測しづらくなる状態に近い。車は通れるかもしれない。しかし、到着時刻が読めなければ、次の荷物や作業員を待たせることになる。
7月1日にJETROが報じた大連のセミナーでも、両用品目などの輸出規制強化を受け、日系企業から実務負担の増加を懸念する声が出ていた。制度を守るための確認、社内の法務・調達との調整、取引先からの書類回収は、一件ごとには小さく見えても積み重なる。
日本政府も輸出管理措置への懸念を中国側へ伝え、適切な対応を求めている。中国側の「通常の貿易には影響しない」という説明と、日本企業側が感じる実務負担は、同時に存在している。どちらか一方を消してはいけない。
航空便と面会も事業インフラである
入口記事が輸出規制と並べて、航空便の減少や中国側関係者との面会の難しさを挙げたのは重要だ。
飛行機は観光客だけを運ぶものではない。工場の品質確認、設備の保守、顧客との商談、現地法人の経営会議、行政への説明にも人が移動する。オンライン会議で済む仕事は増えたが、現物を見たり、関係者と細部を詰めたりする仕事まで全部画面へ移せるわけではない。
ANAの2026年夏秋の案内には、北京、上海、広州、深圳、大連、青島、杭州など中国本土への路線が載っている。したがって「日中の直行便がほぼない」とは言えない。一方、入口記事が伝えるように、便数減少が現地企業の活動へ影響しているという声もある。路線が存在することと、必要な時間・場所へ十分な便があることは別だ。
面会も同じである。関係者と会うまでの時間が延びれば、許可や説明、問題解決の速度が落ちる。材料の流れ、人の流れ、意思決定の流れは別々に見えて、企業活動ではつながっている。
なぜ企業団体は対話を切らないのか
JETROの中国進出日系企業調査には791社が回答している。回答数は中国にいる全企業数ではないが、調達、販売、製造、輸出入を現地で続ける日本企業の厚みを示す。
現地事業がある企業は、日中関係が難しいからといって、翌朝すべての工場、顧客、従業員との関係を箱へ入れて持ち帰れない。逆に、市場が重要だから規制を無視してよいわけでもない。法令を守りつつ、許可の見通しや手続きの透明性を高め、現場の詰まりを減らす必要がある。
そこで企業団体が持つ役割は、個社だけでは伝えにくい共通課題を集めることだ。ある都市の便数、別の都市の面会、製造業の許可負担を共有すれば、何が一社特有で、何が広い問題かを見分けやすい。
対話を続けることは、中国側の主張をすべて受け入れることでも、すぐ譲歩が得られることでもない。連絡路を残し、現場で起きている事実を伝え、予測できない部分を少しでも減らす実務である。
日本の読者が見るべき三つの流れ
このニュースは「レアアースが止まったか」だけで追わないほうがよい。
見るべき一つ目は物の流れ。どの品目、企業、用途が禁止や審査の対象か。二つ目は手続きの流れ。個別許可に何が必要で、期間の見通しが立つか。三つ目は人の流れ。便数や面会環境が、保守、営業、行政対応へどう響くかだ。
全面停止なら影響は目立つ。だが、許可が遅い、会えない、移動しにくいという摩擦は、ニュースの一行になりにくいまま企業の時間と費用を削る。交流会が三つをまとめて話した理由は、そこにある。
まとめ
北京の全国日本人交流会では、29団体や総領事館関係者ら約200人が、レアアース・両用品目の輸出規制、航空便、面会の難しさなどを共有した。規制緩和が決まったわけではないが、各地の実務問題を一つの地図に載せる場になった。
中心の答えはこうだ。中国ビジネスは全面禁輸でゼロになるときだけ止まるのではない。材料の許可、人の移動、関係者との面会が少しずつ詰まるだけでも、生産や判断の速度は落ちる。だから日系企業団体は、厳しい関係の中でも対話の窓口を残そうとする。これは親睦のための会合ではなく、事業の摩擦を減らすための地味で重要な調整の場である。