ラーメン市場は過去最大。それなら店も運営会社も、順調に見えそうだ。ところが大分では、人材派遣を本業とし、ラーメン店などを展開した会社が事業を停止し、破産申請の準備に入った。

これを「ラーメンの人気が落ちた」「店を増やしたから失敗した」と片づけるのは早い。確認できる業界数字は、市場の売上が伸びる一方、合計利益はほぼ半分になるという、もっとややこしい景色を示す。本題は、客が来ることと、会社にお金が残ることが別ゲームになっている理由だ。

【倒産速報】横浜家系、油そば…ラーメン店を複数展開 人材派遣会社が多角化も採算悪化、事業を停止【東京商工リサーチ】 | TBS NEWS DIG (1ページ)
【倒産速報】横浜家系、油そば…ラーメン店を複数展開 人材派遣会社が多角化も採算悪化、事業を停止【東京商工リサーチ】 | TBS NEWS DIG (1ページ)

大分市でラーメン店などを展開していた「ジョイントビズおおいた」が、破産の準備に入ったことがわかりました。東京商工リサーチ大分支店によりますと、「ジョイントビズおおいた」は2017年2月に設立され、人材派… (1ページ)

今回の登場人物

  • ジョイントビズおおいた: 2017年2月設立。人材派遣や業務請負を主力とし、2022年からラーメン店などの飲食事業へ進出した大分県の会社。
  • 東京商工リサーチ大分支店: 企業の信用情報や倒産動向を調べる民間調査会社の地域拠点。今回の事業停止や破産準備の情報源だ。
  • 事業停止: 会社が営業などの事業活動を止めた状態。裁判所が破産手続きの開始を決めたこととは同じではない。
  • 破産申請の準備: 裁判所へ破産手続きを申し立てるために整理を進めている段階。申請済み、開始決定済みとは限らない。
  • 価格転嫁率: 上がった仕入れ費や人件費などを、販売価格へどれだけ反映できたかを表す数字。
  • 労働集約型: 機械だけではなく、人の作業に大きく頼る商売。調理、接客、清掃がある飲食店は代表例だ。

何が起きたか

TBS NEWS DIGは7月17日午後6時36分、ジョイントビズおおいたが7月12日に事業を停止し、破産申請の準備に入ったと報じた。東京商工リサーチ大分支店の情報によるもので、負債総額は調査中である。

同社は人材派遣や業務請負を主力としていたが、人員の確保に苦戦したとされる。2022年には大分市で「横浜家系ラーメン 高崎家」を開き、飲食事業へ参入。その後、「ラーメンバリ豚」「油そば熊八商店」「朝ラーメンらいおん食堂」を展開した。

入口記事によると、飲食事業では食材価格の高騰などを背景に採算が悪化した。2026年3月に「朝ラーメンらいおん食堂」を閉じ、経費を減らそうとしたが改善に至らず、7月に事業を止めたという。

ここは言葉の段階を飛ばしてはいけない。7月12日に確認されたのは事業停止であり、7月17日時点では破産申請の準備である。「7月12日に破産した」とは書けない。負債額も公表されていないため、「巨額の負債だった」と想像で埋めることもできない。

市場が伸びても利益は太らない

帝国データバンクは、2025年度のラーメン店市場を8855億円と見込み、過去最高になるとした。ラーメンを食べる人がいなくなり、市場そのものが縮んだという話ではない。

ところが、同じ調査で判明した企業の純損益合計は171億円。前年度の356億円からほぼ半減した。売上の入る器は大きくなったのに、最後に残る部分は細くなったのである。

売上からは、麺、肉、野菜、調味料などの仕入れ費、ガスや電気、水道、家賃、人件費、設備の修理費などが出ていく。客数や一杯の価格が少し増えても、これらの費用がそれ以上に上がれば、利益は減る。

市場規模は、参加する店全体が受け取った売上に近い数字だ。利益は、そこから費用を引いた残り。大きなバケツへ水をたくさん入れても、底の穴が前より大きければ、水位は上がらない。市場の拡大と個社の苦しさは、矛盾せず同時に起きる。

今回の会社に市場全体と同じ比率の利益減少があった、とは言えない。個社の決算や店舗別損益は確認できないからだ。ただ、食材高による採算悪化が報じられた時期に、業界でも売上と利益のねじれが確認されていた、という背景にはなる。

値上げは「コスト分を足せば終わり」ではない

帝国データバンクの2025年3月調査では、仕入単価が上昇したと感じる飲食店は94.6%だった。ほぼすべての回答企業が、材料などを買う値段の上昇を感じていたことになる。

では、上がった分をそのままメニュー価格に足せばよいのか。同社の2025年7月調査で、飲食店の価格転嫁率は32.3%だった。これは個々の店が一律32.3%値上げしたという意味ではない。企業が上昇したコストのうち、どれくらいを価格へ反映できたと考えているかを集計した数字だ。

外食の値上げには、お客さんの選択がついて回る。ラーメン一杯を100円上げたとき、材料費を回収できる一方、来店頻度が下がるかもしれない。価格を据え置けば客を守れるかもしれないが、店がコストをかぶる。正解のボタンが一つあるのではなく、どちらを押しても別の痛みが出る。

しかもラーメンは、麺だけを仕入れて出す商売ではない。スープを仕込み、具材を準備し、注文ごとに調理し、器を洗い、店内を清掃する。材料の値上がりと人件費を別々の箱に入れて考えられない。全部が一杯の原価へ集まる。

人を扱う本業と、人が必要な新事業

今回の会社を読むうえで特徴的なのは、本業の人材派遣・業務請負でも人員確保に苦戦し、飲食事業も人手を多く使う商売だったことだ。

人材派遣は、派遣会社が雇用する人を別の企業の職場へ送り出す事業。業務請負は、「人を貸す」というより、決められた仕事を会社として引き受ける形だ。契約の仕組みは違うが、働く人を確保できなければ売上をつくりにくい点は共通する。

飲食店も、券売機を置けば人が不要になるわけではない。仕込み、調理、清掃、発注、接客がある。店を複数運営すれば、各店のシフトを埋め、店長を育て、休みや急な欠勤にも対応する必要がある。

帝国データバンクの2026年4月調査では、非正社員が不足していると答えた飲食店は59.1%だった。これは今回の会社の人員数を示す数字ではないが、外食業界でアルバイトやパートなどの確保が広い課題になっていることを示す。

人が足りないと、営業時間を短くする、既存の従業員へ仕事が集中する、採用費を増やす、といった対応が必要になる。売れる時間に店を開けられなければ機会を逃し、無理に開ければ現場の負担が増す。人手不足は「求人票が埋まらない」という紙の問題ではなく、売上と費用の両方へ効く。

多店舗化は原因と断定できない

同社は2022年の飲食参入後、複数の店を展開した。時系列だけを見れば、「急に広げたから倒れた」と言いたくなるかもしれない。

しかし、その因果を確認できる決算、借入、店舗別の収支、出店資金の内訳は公表されていない。出店による固定費がどれほどだったかも分からない。したがって、多店舗化が破産準備の直接原因だったとは断定できない。

確認できるのは、東京商工リサーチ大分支店の情報として、本業の人員確保難と、飲食事業の食材高・採算悪化が報じられたこと。3月に一店を閉じて経費圧縮を試みたこと。そして7月12日に事業を止めたことだ。

ここから安全に言える読みは、複数の労働集約型事業を運営する会社にとって、人手と仕入れ費の両方が重い環境だった、までである。出店は会社の成長を狙う手段にもなりうる。結果だけを見て、最初から失敗と決まっていた物語にしてはいけない。

倒産件数も期間をそろえて読む

帝国データバンクによると、2025年の飲食店倒産は900件、同じ暦年のラーメン店倒産は59件だった。一方、東京商工リサーチによる2025年度のラーメン店倒産は57件である。

59件と57件は近いが、前者は1月から12月、後者は4月から翌年3月で、調査会社も集計条件も同じではない。二つを足して116件にしたり、2件減ったと比べたりしてはいけない。

件数は業界の厳しさを測る一つの材料だが、「ラーメン店は全部危ない」と示す数字でもない。市場は過去最大で、利益を出す企業もある。正確な姿は、需要がある一方、コストと人手の圧力に耐えられない企業も出る、という濃淡のあるものだ。

日本の読者にとって何が変わるか

この話は、ラーメン一杯の値札を見る目を少し変える。

値上げを見れば、つい「便乗では」と思うかもしれない。だが、仕入れ値が上がり、価格へ移せる割合が低く、人も足りないなら、値上げは店を続けるための調整でもありうる。逆に値段が据え置かれていても、営業時間、具材、量、従業員の負担のどこかで吸収している可能性がある。

もちろん、すべての値上げが妥当だと外から断定することもできない。大切なのは、客が多いか少ないかだけで経営の健康を判断しないことだ。行列があっても、売上から費用を引いたあとに何が残るかは見えない。

まとめ

ジョイントビズおおいたは7月12日に事業を停止し、7月17日時点で破産申請の準備に入っていた。負債総額は調査中で、法的な破産開始が決まったとまでは確認できない。

ラーメン市場は2025年度に8855億円と過去最大の見込みだが、判明した企業の純損益合計は前年度の356億円から171億円へほぼ半減した。飲食店では仕入れ上昇を感じる企業が94.6%、価格転嫁率は32.3%、非正社員不足は59.1%だった。

中心の答えは、市場が伸びて客がいても、食材費と人件費を価格へ十分移せず、働く人も確保できなければ、会社に残る利益と体力は細る、である。今回の一社だけから業界全体の崩壊は言えない。だが「人気があるから大丈夫」という一枚絵では、外食のしんどさを説明できないことは、はっきり見える。

Sources