観光客が増える街にホテルを出すなら、広いレストランも手厚い接客も載せた「全部盛り」が強そうに見える。だが札幌・すすきので7月17日に開業したのは、無料朝食、Wi-Fi、ランドリーなど、旅行者がよく使う機能を絞って備えるホテルだった。

これは単なる節約ではない。札幌では宿泊需要が強い一方、ホテルを動かす人手には制約がある。本題は、IHGが北海道で初めて展開する「ホリデイ・イン・エクスプレス」という必要十分型のブランドが、この二つの条件にどうはまるかだ。

『なぜ札幌に外資系ホテルが急増?』1泊1.5万円からの中価格帯でインバウンドや家族旅行の新たな受け皿へ〈北海道札幌市〉|FNNプライムオンライン
『なぜ札幌に外資系ホテルが急増?』1泊1.5万円からの中価格帯でインバウンドや家族旅行の新たな受け皿へ〈北海道札幌市〉|FNNプライムオンライン

ホテル不足が指摘されている札幌市に7月17日、新たに外資系のホテルが誕生した。なぜ続々と外資系が進出してきているのか。札幌市の繁華街すすきのに17日、また新たなホテルがオープンした。「ホリデイ・イン エクスプレス札幌すすきの」地上13階建て一等地のホテルを運営するのは、スイートルーム1泊45万円という高級ホテル「インターコンチネンタル札幌」も運営する外資系の大手ホテルグループ。札幌に新たに登場したホテルはどんな特徴なのか。「こちらの部屋、ソファを含めて最大4人が泊まれる部屋だが、一番の特徴はロ…

今回の登場人物

  • ホリデイ・イン・エクスプレス札幌すすきの: 2026年7月17日に開業した223室のホテル。札幌市中央区南5条西6丁目にある。
  • IHG: インターコンチネンタルホテルズグループ。世界各地で複数のホテルブランドを運営する企業グループ。
  • ホリデイ・イン・エクスプレス: 無料朝食やWi-Fiなど、宿泊に必要な機能を分かりやすくそろえるブランド。今回が北海道で初めての施設だ。
  • 客室稼働率: 用意した客室のうち、実際に使われた割合。79.3%なら、100室のうち約79室が埋まった計算になる。
  • 延べ宿泊者数: 一人が三泊すれば「3人泊」と数える数字。実際の人数とは違い、何泊分の需要があったかを表す。
  • 機能型ホテル: この記事では、豪華な付帯サービスを何層も重ねるより、宿泊者がよく使う機能を選んで提供するホテルという意味で使う。公式の価格区分ではない。

何が起きたか

FNNプライムオンラインは7月18日、札幌で外資系ホテルの開業が相次ぐなか、価格を抑えた中間帯の客室を用意する動きが出ていると報じた。

今回開いたホリデイ・イン・エクスプレス札幌すすきのは223室。公式発表によると、無料朝食、無料の高速Wi-Fi、フィットネスセンター、セルフランドリー、軽食などを扱うExpress Caféを備える。ホテルが公表した開始価格は確認できないため、この記事では「いくらから泊まれる」とは書かない。

注目したいのは、IHGが札幌へ新しいブランドを持ち込む際、豪華な宴会場や複数の大型レストランを前面に出す形ではなく、日々の宿泊で使われやすい機能をまとめたことだ。

ただし、この一軒だけを見て「すべての外資ホテルが高級路線を捨てた」と結論づけるのも早い。札幌には高級、長期滞在、ビジネスなど複数の需要があり、各社の戦略も違う。ここではIHGの一つの選択として深掘りする。

部屋は増えたが、需要も強い

札幌市の統計では、2024年度末の市内宿泊施設は418軒、客室数は3万5817室だった。2019年度末は317軒、3万2004室なので、5年間で施設は101軒、客室は3813室増えた。

施設数ほど客室数が増えていないのは、小規模な宿泊施設も加わった可能性などが考えられるが、内訳を見ずに理由は断定できない。確かなのは、札幌の宿泊供給が新型コロナ禍前より増えていることだ。

それでも2024年度の延べ宿泊者数は1720万8000人泊、客室稼働率は79.3%だった。月別では2024年7月と8月がともに86.3%、2025年2月は88.8%に達した。100室のホテルなら、年度平均は約79室、2025年2月は約89室が使われる水準である。供給が増えたから部屋が余った、とは簡単に言えない。

外国人需要も戻っている。2024年度の外国人宿泊実人数は217万9393人、延べ宿泊者数は383万879人泊で、実人数は前年度より35.2%増えた。2025年度上期も、来札観光客数は約961万1000人、外国人宿泊者数は約94万1000人で、後者は前年同期比17.2%増だった。

数字の読み方は「外国人だけで札幌が満室」ではない。国内客もおり、季節やイベントで変動も大きい。それでも、増えた客室を吸収するだけの需要が続いてきたことは分かる。

「必要十分」は客にも運営にも効く

旅行者がホテルで欲しいものは、旅の目的によって違う。朝は早く街へ出たい人には、時間をかける豪華なコース料理より、料金に含まれた朝食が使いやすい。スマートフォンやパソコンを使う人にはWi-Fi、数日滞在する人にはランドリーが役立つ。

ホリデイ・イン・エクスプレス札幌すすきのは、そのよく使われる機能を見える形でそろえた。言ってみれば、全部入りの工具箱ではなく、旅行で出番の多い道具を手前に並べたセットだ。

運営側にも意味がある。サービスの種類が増えるほど、調理、配膳、受付、清掃、設備管理などの仕事は複雑になる。提供時間も担当者も増え、客室以外の場所を動かす人が必要になる。

逆に、提供する機能を選び、セルフランドリーのように宿泊者自身が使える設備を組み合わせれば、サービスの価値を残しながら運営を整理しやすい。IHGが実際に何人の配置を減らしたかは公表されていないため、省人化の効果を数字では言えない。それでもブランドの設備構成から、サービスを無制限に足す設計ではないことは読める。

人手不足は「部屋を建てれば解決」を止める

観光庁の2026年版観光白書が紹介した全国522の宿泊施設への調査では、72.2%が人手不足と答えた。北海道全体を対象にした帝国データバンクの2026年1月調査では、正社員が不足していると答えた企業は58.0%、非正社員は33.2%だった。

前者は全国の宿泊施設、後者は北海道の全業種を含む企業調査であり、「札幌のホテルだけの人手不足率」ではない。調査対象を混ぜて、札幌の現場を小数点まで断定してはいけない。ただ、宿泊業と北海道企業の双方で人手が制約になっている背景は確認できる。

ホテルは建物だけでは営業できない。客室清掃、フロント、設備保守、朝食の準備など、毎日やり直す仕事が多い。昨日きれいにした部屋も、今日の宿泊後にはもう一度整える必要がある。完成した製品を棚に積んでおく商売とは違い、売れるほど日々の作業も増える。

だから需要が強いからといって、サービスを足せるだけ足すことが正解とは限らない。客が評価する機能を残し、運営負担を複雑にしすぎない設計に価値が出る。人手不足が今回の出店を直接決めた証拠はないが、人手が限られる市場で機能型ブランドが持つ合理性はここにある。

供給増と高稼働は矛盾しない

ホテルが増えるニュースでは、「もう作りすぎでは」と「まだ足りない」の二択になりがちだ。だが、札幌の数字はその中間を示す。

客室は2019年度より増えた。一方で2024年度の稼働率は79.3%で、外国人宿泊者も増えた。つまり供給増と需要増が同時に進んだ。将来も必ず高稼働が続くとは限らないが、少なくとも足元を供給過剰の一語で片づける材料ではない。

新規ホテルにとっては「部屋を増やす」だけでなく、既存のホテルとどう違う使い方を提示するかが重要になる。IHGの答えは、無料朝食やWi-Fi、ランドリーなどを分かりやすくまとめたブランドだった。豪華さの競争とは別の軸で、観光客や出張客の需要を取りにいく選択である。

宿泊者にとっても影響がある。選択肢が増えれば、部屋の広さや星の数だけでなく、「朝食込みか」「洗濯できるか」「街へ出やすいか」といった、自分が実際に使う機能で比べられる。ホテル選びが、豪華か安いかの二択ではなくなる。

まとめ

札幌では宿泊施設も客室も増えたが、延べ宿泊者数と外国人需要も伸び、2024年度の客室稼働率は79.3%だった。一方、全国の宿泊施設では人手不足が広く指摘されている。

その環境でIHGが開いたのが、無料朝食、Wi-Fi、ランドリーなどをそろえた223室のホリデイ・イン・エクスプレスだ。中心の答えは、需要が強くても人手は無限ではないため、宿泊者がよく使う機能へ絞るブランドは、満足度と運営の回しやすさを両立させやすい、である。ただし、これを外資全体の一斉転換とは言わない。一軒の選択から、札幌のホテル競争に「必要十分」という軸が加わったことを読むのがちょうどいい。

Sources