「宮崎は住みやすい。でも、働きたい会社がない」。この一言は、観光パンフレットを豪華にしても解けない種類の問題です。
宮崎市が使う「若者回復率」は、男性34.5%に対して女性マイナス7.7%。女性は、10代で多くが市外へ出たあと、20代で戻るどころか、差し引きでさらに出ていったことを示します。これを「若い女性は都会が好き」で済ませると、地方創生の核心を丸ごと落とします。本題は、戻って働き、キャリアを作りたいと思える選択肢が地域にあるかです。

人口約40万人を抱える宮崎市で、若年層の流出が止まらない。特に20代女性の「若者回復率」はマイナス7.7%と、戻る人数よりも転出する人数の方が多い深刻な状況にある。市が行うモヤモヤアンケートや、活路を見出そうとする地元企業の先進的で柔軟な働き方などの取り組みを追った。宮崎市が2024年度に行った調査によると、10代で転出した人が20代でどれだけ戻ったかを示す「若者回復率」において、男女で大きな差が出ている。男性が34.5%だったのに対し、女性は「マイナス7.7%」。これは、戻ってくる人数よりも…
今回の登場人物
- 宮崎市: 人口約40万人の県庁所在地です。若者、とくに女性の流出を課題として、企業や経済団体と対策を進めています。
- 若者回復率: 10代の転出超過に対し、20代の転入超過でどれだけ埋め戻せたかを見る宮崎市の指標です。同じ人を追跡したUターン率ではありません。
- 転出超過・転入超過: 出ていく人が入ってくる人より多い状態が転出超過、その逆が転入超過です。人口の「出入りの差し引き」です。
- 固定的性別役割分担意識: 「男は仕事、女は家庭」のように、役割を性別で決めつける考え方です。
- アンコンシャス・バイアス: 本人が気づかないまま持つ思い込みです。採用、配属、昇進、育児の期待などに影響することがあります。
何が起きたか
7月23日のFNNプライムオンラインは、宮崎市で若い女性の流出が続き、市が「モヤモヤ」や本音を聞くアンケートを進めていると報じました。記事では、宮崎市の若者回復率が男性34.5%、女性マイナス7.7%と紹介されています。
この数値は、2020年の国勢調査などを基に宮崎市が算出したものです。宮崎市の提出資料で公式に確認できるのは、男性34.5%、女性マイナス7.7%という値と指標の定義です。FNNの別記事は内訳として、10代の転出超過が男性993人、女性1066人、20代では男性が343人の転入超過、女性がさらに82人の転出超過だったと紹介しています。
市は2026年6月22日から7月31日まで、市内在住の10~20代の若者と、10代以上の女性を対象に3分アンケートを実施しています。生活や職場で感じる「モヤモヤ」を集め、今年度中に分析・公表する予定です。
まず「Uターン率」ではない
若者回復率という名前から、「10代で出た女性100人のうち何人が帰ったか」と読みたくなります。しかし、この指標は同じ人を追跡していません。
10代という年齢層で、転出が転入を何人上回ったか。次に20代という年齢層で、転入が転出を何人上回ったか。その二つを比べます。進学で出たAさんが就職で戻ったかを追うのではなく、年代ごとの人口移動の差し引きを見る物差しです。
だから34.5%は「男性の3人に1人がUターンした」という意味ではありません。マイナス7.7%も「女性の7.7%が宮崎を嫌っている」という意味ではありません。女性の20代という層で、戻る力より出ていく力がなお強かったことを表します。
この限界を押さえても、数字の重さは消えません。むしろ、進学だけでなく就職や転職の時期にも女性の純流出が続くと分かるため、問題を学校の立地だけでは説明できなくなります。
本題は「帰郷したいか」より「帰郷して何ができるか」
FNNの街頭取材では、宮崎の気候や暮らしやすさを評価する声がある一方、「仕事の幅」「選べる企業や業種」「経験を積める環境」が足りないという声が出ました。これは大事な切り分けです。街を好きであることと、その街へキャリアを預けられることは別です。
実家が近い、家賃が比較的安い、食べ物がおいしい。それでも、やりたい職種がない、昇進の先が見えない、給与差が大きい、育児は女性が担う前提が強いなら、戻る判断は難しくなります。住みやすさだけで採用市場は作れません。
内閣府が紹介した宮崎市の説明では、市内在住・在勤者の平均給与収入額を比べると、18~30歳女性は男性の73.4%、51~60歳女性は52.3%でした。職種、勤務時間、雇用形態などを調整した「同じ仕事の賃金差」ではないため、これだけで差別の大きさを確定はできません。それでも、年齢が上がるほど収入差が広がる地域の姿は、将来のキャリアを考える材料になります。
性別役割の仮説は、まだ「仮説」
宮崎市は、女性が戻りにくい理由の一つとして、固定的な性別役割分担意識や無意識の偏見が影響している可能性を挙げています。ただし市自身が「理由の一つ」「影響しているのではないか」と表現しています。
つまり、若者回復率だけから原因は証明できません。大学や専門学校の選択肢、産業構成、賃金、求人の数、転勤、結婚、家族の事情、交通、娯楽など、人口移動には多くの要因があります。街頭インタビューの数人の声も、女性全員の考えではありません。
だからこそアンケートが必要です。ただし回答者を無作為に選ぶ調査でなければ、強い問題意識を持つ人が多く答える可能性があります。集まった「モヤモヤ」は課題を発見する材料として有用ですが、市全体の割合を正確に測る世論調査とは役割が違います。結果が出たら、回答者の年代、職業、居住歴、回答数と一緒に読む必要があります。
「女性に戻ってもらう」を出生数の話だけにしない
若い女性の流出が話題になると、すぐ「将来の出生数が減る」という説明へ寄りがちです。人口推計では重要な要素ですが、それだけを強調すると、女性を地域の人口を増やす手段として扱いかねません。
本来の問題は、一人ひとりが仕事と生活を選べるかです。宮崎市の生産年齢人口は、市の推計で2020年の23.3万人から2060年には16.3万人へ減る見通しです。女性が能力を生かせる職場を作ることは、出生のためではなく、企業が人材を確保し、サービスを維持し、地域で所得と意思決定を増やすために必要です。
女性が選べない職場は、男性にとっても働きやすいとは限りません。長時間労働、転勤前提、育児休業を取りにくい空気、単線型の昇進などは、性別を問わず介護や子育てをする人を遠ざけます。女性のマイナス7.7%は、地域の職場設計全体を点検する入口になります。
企業の「柔軟さ」は福利厚生の飾りではない
FNNは、宮崎県内企業の取り組みとして、完全リモート勤務、配偶者の育児休業を後押しする仕組み、理由を問わず年度内に最大5カ月休める制度などを紹介しました。
大事なのは、珍しい制度のコレクションを作ることではありません。どの仕事なら遠隔でできるか、休んだ人の仕事をどう分担するか、利用しても昇進や評価で不利にならないか、管理職が制度を本当に認めるか。制度が紙にある状態から、選択肢として使える状態へ移す必要があります。
さらに、柔軟な働き方だけで職種の少なさは解消しません。企業誘致、地元企業の新事業、専門職の採用、起業支援、大学との連携など、「どんな仕事があるか」そのものを増やす取り組みが要ります。帰ってきてほしいと広告する前に、帰ってきた人へ何を任せるのかを作る。順番はそこです。
成果は「意識が変わった」だけで測らない
宮崎市の今後の対策を見るときは、セミナー参加者数やアンケート回答数だけでなく、実際の変化を追いたいところです。
20代女性の転出超過は縮んだか。希望する職種の求人は増えたか。男女の賃金差、管理職比率、育児休業の利用と復職、柔軟な勤務制度の実利用はどう変わったか。市外へ出た若者に、戻らない理由と戻る条件を継続して聞いているか。数年かけて同じ指標を追わなければ、施策が人口移動へ届いたかは分かりません。
若者回復率も、2020年の一枚の写真です。コロナ禍、その後のリモート勤務、企業の採用状況で条件は変わります。次の国勢調査などで同じ計算をし、女性のマイナスが改善したかを比較して初めて、数字は政策の成績表になります。
まとめ
宮崎市の若者回復率で女性がマイナス7.7%だったことは、「女性が宮崎を嫌っている」という人気投票ではありません。10代で市外へ出る人が多いうえ、20代でも女性の転出超過が続いたという人口移動の警報です。
2文で言い直すなら、こうです。宮崎市の課題は、若者を帰省させることではなく、女性が戻って仕事とキャリアを選べる地域にすること。若者回復率だけでは原因を証明できないが、雇用、賃金、職場文化を調べるべき方向ははっきり示している。