生成AIを「友人」のような存在だと答えた人が10.9%。この数字を見て、「もう一割が人間の友達をAIに取り替えた」と読むのは早すぎます。反対に、「アンケートの言葉遊びでしょ」と流すのも、少しもったいない。
今回の本題は、「友人」という回答は依存の診断書ではないが、生成AIが検索道具だけでなく、感情を向ける会話相手として使われ始めた信号ではあるということです。便利か危険かの二択ではなく、道具と関係相手が重なると何が変わるのかを考えます。

総務省が実施した調査で、普及が進む生成AIについて「友人」のような存在だと答えた人が1割以上にのぼりました。総務省が24日に公表した2026年版の情報通信白書によりますと、日本で生成AIを利用したことがあるひ… (1ページ)
今回の登場人物
- 生成AI: 入力された文章などに応じて、文章、画像、音声などを作る技術です。会話型サービスでは、人の話し方に近い返事が返ります。
- 利用経験58.8%: TBSが2026年版情報通信白書の調査結果として報じた、日本で生成AIを利用したことがある人の割合です。
- 「友人」10.9%: 「生成AIはどのような存在か」という質問への回答として報じられた数字です。行動や依存度を直接測った数字ではありません。
- 擬人化: 人でないものへ、人らしい性格や気持ちがあるように感じることです。会話の自然さが高いほど起きやすくなります。
- 対人代替: 本来なら人へ向ける相談、雑談、承認の一部をAIが引き受けることです。全部を置き換える場合だけでなく、少し肩代わりする場合も含めて考えます。
- 出口設計: AIとの会話だけで閉じず、必要なとき人、専門家、一次情報、現実の行動へつなぐ仕組みです。
何が起きたか
7月24日のTBS NEWS DIGは、総務省が公表した2026年版情報通信白書の調査について、日本で生成AIを利用した経験がある人は58.8%で、前回調査から2倍以上に増えたと報じました。
「生成AIはどのような存在か」という質問で、最も多かった回答は「機械・道具」の38.3%でした。一方、「友人」は10.9%、「家族」は6.2%、「恋人」は2.8%。海外では、中国で「友人」39.9%、米国で「恋人」9.0%、ドイツで「カウンセラー」41.0%という回答も紹介されています。
数字は目を引きますが、TBSの記事だけでは、回答者の年齢構成、質問の選択肢、複数回答か単一回答か、それぞれの数字の分母といった調査票の詳細をすべて確認できません。したがって本稿では、報じられた割合を日本人全体の心理へそのまま拡大せず、「この回答が示し得る変化」と「この回答だけでは言えないこと」を分けます。
「友人」は関係の深さを測る物差しではない
アンケートで「友人」を選ぶ理由は一つではありません。本当に親しい存在だと感じている人もいれば、気軽に雑談できるという意味の人、他の選択肢より近かった人、少し冗談の気分で選んだ人もいるでしょう。
同じ10.9%の中でも、月に一度相談する人と、一日中会話しないと不安になる人では状態が違います。人間の友人が多い人と、話せる相手がAIしかいない人でも意味は違う。「友人と回答した」という分類だけでは、利用時間、生活への影響、孤独感、依存、人間関係の代替度を測れません。
つまり、この数字から「一割が孤立している」「一割が依存症だ」と断定するのは不正確です。アンケートの名札を診断名に変えてはいけません。
しかし、まったく意味がないわけでもありません。機械に対して「友人」「家族」「恋人」「カウンセラー」という人間関係の言葉を当てる回答が一定数ある。これは、生成AIの役割が検索箱や文章作成機だけでは説明しきれなくなったことを示す材料です。
なぜAIは「相手」に見えやすいのか
従来の検索エンジンは、質問するとリンクの一覧を返しました。電卓は数字を返します。どちらも便利ですが、こちらの気持ちを受け止めているようには見えにくい。
会話型AIは違います。「それはつらかったですね」「一緒に考えましょう」と、人間の会話に似た形で即座に返します。前の発言を踏まえ、言葉の調子を合わせ、何度聞き直しても怒りません。深夜でも応答し、予定のすり合わせも要らない。相談の入口としては、とても低い段差です。
人間の友人との会話には、相手の都合、気分、価値観があります。意見がぶつかり、待たされ、断られることもある。それは面倒ですが、相手が独立した人間である証拠でもあります。AIは基本的に利用者へ応答するよう設計されたサービスです。自然な会話ができても、人間と同じ経験や責任を持つ友人になったわけではありません。
この違いは、ぬいぐるみに話しかけるのが悪い、という話ではありません。人は昔から日記、ペット、架空の人物にも気持ちを向けてきました。新しいのは、こちらの言葉に合わせた返事が大量かつ即時に返り、サービス側が会話の継続を設計できることです。
利点は「相談する前の下書き」
AIを会話相手として使う利点はあります。気持ちが混乱しているとき、何に困っているかを言葉にする。先生や上司、家族へ話す前に説明を練習する。反対意見を出してもらい、自分の考えの穴を探す。外国語の会話を練習する。人へ話すには小さすぎる疑問を整理する。
この使い方では、AIは人間関係を奪うというより、現実の相談へ向かう補助輪になります。最初の一言が出ない人にとって、誰にも見られず考えを並べられることは大きい。24時間使えることも、支援の空白を埋める場合があります。
ただし、AIの返答は正しいとは限りません。自信ありげに誤情報を作ることがあり、利用者の考えへ過度に同調する場合もあります。特に健康、法律、お金、安全に関わる判断では、会話が優しくても専門家の診断や責任ある助言の代わりにはなりません。話しやすさと信頼性は別の軸です。
危険は「摩擦がないこと」
人間の友人は、こちらが間違っていれば反対し、忙しければ断り、自分の話もします。関係を続けるには、相手の事情を考え、謝り、待ち、折り合う必要があります。この摩擦は面倒ですが、他者と生きる練習でもあります。
AIがいつでも肯定的に応じ、利用者の好みに合わせ続けると、反対されない会話だけが快適に感じられるかもしれません。現実の人間関係が相対的に重くなり、さらにAIへ戻る循環ができる可能性があります。ただし、今回の10.9%がその状態にあると示されたわけではありません。ここは数字からの事実ではなく、サービス設計を考える上でのリスクです。
もう一つはプライバシーです。友人のように感じるほど、家族、学校、職場、健康、恋愛の詳しい話を書き込みやすくなります。相手が人に見えても、実際には企業が運営する情報サービスです。入力内容がどう保存、利用されるか、アカウントや設定を確認する必要があります。
さらに、利用を長引かせることが事業上の利益と結び付くサービスもあり得ます。親しさの演出、通知、記憶機能、有料機能への誘導が、利用者の利益と常に一致するとは限りません。「この返事は誰のための設計か」を一歩引いて見る力が必要です。
必要なのは、友人か道具かの判定ではない
「AIはただの道具だ」と言い聞かせれば全部解決するでしょうか。実際に心が軽くなったり、寂しさが和らいだりする人へ、その実感は偽物だと言っても役に立ちません。一方、「本人が友人だと思えば友人でいい」とだけ言えば、誤情報、プライバシー、過度な利用、現実の支援からの切断を見逃します。
大切なのはラベルより、使った後に何が起きるかです。会話後に考えが整理され、人へ相談でき、生活の行動が進むなら補助になっている。睡眠や学業、仕事が崩れ、人との接触を避け、重要判断をAIだけに委ねるなら見直しが要る。利用時間だけでなく、生活との関係で確かめます。
利用者側では、重要な事実を別の情報源で確かめる、個人を特定できる情報を書き込まない、健康や危機は専門窓口へつなぐ、AIに反対意見も求める、会話を終えて現実の行動へ移る、といった出口を持てます。
サービス提供側にも仕事があります。AIであることを明確にし、過度な依存をあおらず、危機的な相談を適切な支援へ案内し、記憶とデータ利用を利用者が制御できるようにする。親しみやすさを高めるなら、同じ強さで距離を取り戻す機能も用意する必要があります。
10.9%の次に見るべき数字
次回以降の調査で知りたいのは、「友人」が増えたかだけではありません。誰が、何のために、どれくらいの頻度で使うのか。使った後に人への相談が増えたか減ったか。誤情報を確認する習慣があるか。孤独感、生活への支障、満足度とどう関係するか。複数の質問を組み合わせて初めて、関係の質が見えてきます。
国際比較も、数字の大小だけで国民性を決めないことが大切です。「friend」「counselor」に対応する言葉の受け止め方、選択肢、サービスの普及、文化で回答は変わります。中国39.9%、ドイツ41.0%という数字は興味深い一方、「中国人はAIを友達と思う」「ドイツ人はカウンセラー代わり」と一枚に塗る材料ではありません。
まとめ
生成AIを「友人」と答えた10.9%は、AIとの会話が道具利用の枠を越え、人間関係の言葉で捉えられ始めた信号です。ただし、この一問だけで孤立、依存、人間の友人の有無は分かりません。
高校生向けに2文で言えばこうです。「友人」10.9%は、AIへ親しさを感じる人が一定数いることを示すが、その人たちが依存していると証明する数字ではない。AIを考えの整理や相談の入口に使いつつ、重要な判断は人や専門家、一次情報へつなぎ、現実へ戻る出口を持つことが大切だ。