「サンマ不漁」と聞くと、つい「もう魚そのものが消えかけているのでは」と思いませんか。食卓の記憶と直結しているぶん、気持ちはかなり分かります。秋の主役が急に欠席気味だと、こちらも落ち着かない。

でも今回の本題は、最低水準とされたのは日本の漁場になりやすい1区と2区の来遊見通しであって、総資源量そのものが最低と断言した話ではないという点です。サンマのニュースは「どれだけいるか」と「どこへ来るか」がごちゃっと混ざりやすい。そこを分けるだけで見え方がかなり変わります。

日本の近海にやってくる可能性のあるサンマの量が過去最低水準 サイズも小さく… | TBS NEWS DIG (1ページ)
日本の近海にやってくる可能性のあるサンマの量が過去最低水準 サイズも小さく… | TBS NEWS DIG (1ページ)

今年、日本近海にやってくるサンマの量が過去最低の水準となる見通しであることがわかりました。また、サイズも小さくなるとみられます。水産研究・教育機構 冨士泰期 主任研究員「(漁に)行っても、なかなかた… (1ページ)

今回の登場人物

  • 水産庁: 日本の漁業行政を担う役所です。今回は、2026年のサンマ長期漁況予報を公表し、資源管理や国際交渉にも関わっています。
  • 水産研究・教育機構: 魚の資源評価や漁況予報を出す研究機関です。サンマがどこにどれだけ分布しそうかを科学的に見積もります。
  • 1区・2区・3区: サンマ予報で使う海域区分です。ざっくり言えば、日本の漁場に近い側から順に見るための地図だと思えば大丈夫です。
  • 来遊量: 魚が日本近海の漁場へ来る量の見通しです。「海のどこかにいる総量」とは同じではありません。
  • 1歳魚: 今季の漁の中心になりやすい若いサンマです。割合が小さいと、漁場でまとまって見つかりにくくなる可能性があります。
  • NPFC: 北太平洋漁業委員会です。北太平洋の公海でサンマなどを管理する国際枠組みで、各国の漁獲ルールに関わります。

何が起きたか

TBS NEWS DIGが7月28日に伝えたのは、水産庁が公表した2026年サンマ長期漁況予報です。日本漁船の今季の漁獲対象になりうる1区と2区の推定分布量は合計42.9万トンで、前年の109.9万トンを大きく下回りました。比較できる24年間で最低水準です。

さらに、漁獲の中心になりやすい1歳魚の割合は17.2%で、前年の59.6%から大きく低下しました。西へ向かう回遊も平年より約26日遅れると予測されています。魚が来るのが遅く、来ても小さめで、公海寄りに分布しやすい。漁師さんからすると、サンマが「今日はちょっと遠くにいます」とだけ連絡してくる感じです。しかも動きが読みにくい。

ただし、ここで「総資源量が最低」と言い切るのは正確ではありません。今回の予報が低いと示しているのは、日本漁船の今季の漁獲対象になりうる1区と2区の推定分布量です。3区の魚は当年に日本近海へ来ず、一部が翌年に加わると見込まれています。だから「いま日本の漁場に来にくい」と「北太平洋全体で一匹残らず減った」を同じにしてはいけません。

ここが本題

サンマのニュースで大事なのは、資源量と来遊量を分けることです。

資源量は、海の広い範囲にサンマがどれくらいいるかという話です。来遊量は、そのうちどれくらいが日本の漁場へやって来るかという話です。たとえるなら、学校全体の生徒数と、今日たまたま図書室に来た人数は別ですよね。図書室がスカスカでも、学校が空っぽとは限らない。

今年の予報が厳しいのは後者です。1区と2区の見通しが42.9万トンまで落ち、1歳魚の割合も低い。しかも西方回遊は約26日遅れ、公海寄りで小型魚主体になりやすい。日本の漁船にとっては、「近くに、ちょうどいいサイズで、ちょうどいい時期に来る」条件が崩れやすいわけです。

なぜ「来る量」が減ると厳しいのか

日本の漁業にとって大事なのは、魚が理論上どこかに存在することだけではありません。実際に獲りに行ける場所と時期にいるかどうかです。サンマが公海寄りに分布し、回遊が遅れ、小型魚が多くなると、操業は遠くなり、燃油は多く要り、鮮度管理も難しくなります。

水揚げ量の推移を見ると、この変化の重さが分かります。サンマの国内水揚げ量は2014年に22万トンありましたが、2025年は6万トンでした。もちろん、水揚げ量は来遊だけでなく、操業条件や資源管理の影響も受けます。それでも、食卓から見える「少ない」は、かなり長い流れの上にあります。

遠い海まで追えばいいじゃないか、と思うかもしれません。ところが、それも簡単ではありません。遠洋化すると燃油費が増え、魚を持ち帰るまでの時間も伸びます。サンマは鮮度が値段に直結しやすい魚です。遠くまで行くほど、取れた魚をどう高く売るかという別の勝負まで付いてきます。魚を追う話のはずが、途中から採算の問題が前に出てくるわけです。

では「資源そのもの」はどう見るべきか

ここで雑に「全部、気候変動のせい」と一本化するのも危ないです。海洋環境の変化は回遊や分布に影響しうる重要な要素ですが、今回の予報だけで単独原因を断定することはできません。資源の増減には、再生産の状況、海洋環境、国際的な漁獲圧、年級群の強弱など複数の要素が絡みます。

しかも、北太平洋漁業委員会ではサンマの資源評価について完全な合意に至っていません。2026年の公海の漁獲上限も、4月の会合では前年度比5%削減にとどまりました。各国が同じ前提で「海に何匹いるか」をきれいに共有できているわけではない、ということです。

だからこそ、日本の読者が押さえるべきなのは「今年の予報は、日本の漁場に来る量がかなり厳しい」という確かな部分と、「資源全体の見え方には国際的な不確実さがまだある」という部分を分けることです。ニュースは一文に圧縮したくなりますが、海の話はそんなに素直に一列に並んでくれません。

日本の漁業はどう適応を迫られるのか

適応の方向は、まず操業の組み方です。来遊が遅れ、公海寄りに偏るなら、出漁判断、燃油負担、漁場探索のやり方をより慎重にしないといけません。次に、量だけでなく単価で稼ぐ工夫です。鮮度維持、流通の工夫、加工との組み合わせがこれまで以上に重要になります。

水産研究・教育機構も6月26日、漁場の遠隔化に対応する新しい操業体制の実証試験を始めると公表しました。資料が課題に挙げるのは、遠い漁場まで行く燃油費と、漁獲してから水揚げするまで時間が延びることによる鮮度低下です。つまり適応とは、船をただ遠くへ走らせることではありません。どのタイミングで出て、どんな状態で持ち帰り、鮮魚や加工品としてどう価値を保つかまで組み直すことです。予報の数字は、そのまま漁業の事業設計の問題につながっています。

もう一つは、資源管理と国際交渉です。サンマは公海をまたいで回遊するので、国内の工夫だけでは資源管理が完結しません。NPFCでの管理が十分か、資源評価の不確実さをどう埋めるかは、日本の漁業者だけでなく消費者にとっても他人事ではありません。秋の食卓は、意外と国際会議の空気にも左右されます。

つまり、今年の予報は「サンマ絶滅」の宣言ではありません。でも、日本の漁業が従来どおりの近海中心の感覚で待っていれば済む、という話でもない。来る場所、来る時期、魚の大きさが変わるなら、漁業の側も戦い方を変えないと苦しいんです。

まとめ

2026年のサンマ予報で最低水準とされたのは、日本漁船の今季の漁獲対象になりうる1区と2区の推定分布量42.9万トンです。これは前年109.9万トンを大きく下回り、比較できる24年間で最低水準ですが、総資源量そのものが最低だとそのまま言い換えてはいけません。

今回のニュースの核心は、日本の漁場に魚がどう来るかが厳しくなっていることです。1歳魚の割合は17.2%に下がり、西方回遊は約26日遅れ、公海寄りで小型化しやすい。そうなると、日本の漁業は遠洋化による燃油費や鮮度の課題に向き合わざるをえません。サンマの話は「魚がいるかいないか」の二択ではなく、「どこへ、いつ、どんな形で来るのか」と「それにどう適応するか」の話なんです。

Sources