スマートフォンの平均購入額が初めて8万円を超えた。そう聞くと、「高いiPhoneを買う人が平均を上げただけでしょ」と片づけたくなります。価格差は確かに大きい。でも、それだけでは市場全体で起きている値上がりを読み落とします。
テレ朝NEWSは、MM総研の調査でスマホ利用者の平均購入額が8万1747円になったと報じました。今回見るのは、人気機種の値札ではありません。生活インフラになった端末が、なぜ市場全体で高い買い物へ変わっているのかです。

調査会社MM総研によりますと、スマートフォン利用者の端末購入金額は平均で8万1747円でした。 前回の1月の調査から2976円上昇し、初めて8万円台となりました。 iPhoneは11万4234円、A
今回の登場人物
- MM総研: 携帯電話や通信サービスの市場調査を行う会社です。半年ごとに利用料金や端末の購入額を調べています。
- 平均購入額: 利用者が端末を買ったときの金額の平均です。毎月の通信料金でも、全機種の店頭定価の平均でもありません。
- iOS: iPhoneで動く基本ソフトです。この記事では、ほぼiPhone側の価格群を表します。
- Android: Googleの基本ソフトを使う端末群です。低価格から高価格まで機種の幅が広く、一つのブランドではありません。
- メモリー: 写真やアプリを保存したり、処理中のデータを置いたりする半導体です。AI向け需要などで価格が上がると、端末コストを押し上げる可能性があります。
何が起きたか
テレ朝NEWSの記事によると、MM総研の最新調査でスマートフォンの平均購入額は8万1747円でした。前回の2026年1月調査から2976円上がり、初めて8万円台に乗りました。iPhoneは11万4234円、Androidは6万2612円です。
確認できるMM総研の2026年1月調査では、全体が7万8771円、iOSが11万650円、Androidが5万9707円でした。前回の2025年7月は全体7万6021円です。調査をまたいだ細かな違いには注意が要りますが、全体とAndroidの双方が上がっている流れは、「iPhoneだけが押し上げた」では説明しきれません。
さらに長く見ると、MM総研の2021年7月調査から2026年1月までに、全体の平均購入額は1万7692円、約29%増えました。一度だけ新製品が高かったというより、数年かけてスマホの買い物そのものが重くなっています。
ここが本題
平均購入額は、同じ機種の価格が何円上がったかだけで決まりません。買う人がどのOS、どの価格帯、どの容量、どの販売経路を選んだかでも動きます。
つまり平均は、市場の値札と消費者の選び方が混ざった数字です。クラスの平均身長が伸びても、全員が同じだけ伸びたとは限らない。背の高い新入生が増えたかもしれません。平均は便利ですが、単独で犯人を指名する刑事ではないんです。
iPhoneの影響は大きい
まず、iPhoneの高さを無視するのも間違いです。最新調査でiPhoneとAndroidの平均差は5万円を超えます。日本ではiPhone利用者が多いため、iPhoneの価格や買い替え機種の構成が全体平均へ与える影響は大きいと考えられます。
2022年には円安などを背景にiPhoneが値上げされ、MM総研は2023年1月調査の平均購入額上昇について、iPhone値上げの影響が大きいと説明しました。高価格帯の比率が増えれば、全体の平均も上がります。
ただし、そこで話を閉じるとAndroidの6万2612円が残ります。Androidは安い端末から折りたたみ式の高級機まで幅広い市場です。その平均も6万円を超えたということは、「iPhone対それ以外」という二択より、端末全体の価格帯が上へ動く力を見たほうがよいわけです。
高機能化で下限も上がる
スマホはこの数年で、5G通信、高性能カメラ、大容量バッテリー、高精細画面、防水、生体認証などを標準に近づけてきました。MM総研は2026年1月の調査で、5G端末の比率上昇やカメラ、バッテリーなどの機能向上を、購入額が上がる背景に挙げています。
ここで起きるのは、最高級機だけの豪華化ではありません。「ふつうの一台」に求められる基準が上がります。数年前なら上位機種の機能だったものが中位機種にも入り、安いモデルでも部品点数や性能要求が増える。高級ホテルのスイートだけでなく、ビジネスホテルの標準設備も増えたようなものです。宿泊は快適になりますが、昔と同じ値段には戻りにくい。
一方で、すべての機能が全利用者に必要とは限りません。カメラ性能を重視しない人、ゲームをしない人にとっても、市場の標準が上がれば選択肢の下限が持ち上がります。「使わない機能のぶんまで高い」と感じる人が出るのは自然です。
部材高はじわりと効く
端末の価格には、半導体、画面、カメラ部品、電池などの費用が入ります。さらに組み立て、人件費、物流費、為替の影響も受けます。MM総研は、部材、人件費、物流費の上昇を端末価格の背景として挙げています。
2026年には、AI向けサーバー需要の強さなどを背景に、DRAMやNANDフラッシュと呼ばれるメモリーの価格上昇が懸念されています。スマホも同じ種類の部品を使うため、メーカーが調達するコストを押し上げる方向には働きます。
ただし「AI需要のせいで平均8万1747円になった」とは言えません。部材価格が端末の店頭価格へ何円転嫁されたかを、この平均だけから分解できないからです。為替、容量構成、新製品の発売時期、割引、購入者の選択も混ざります。コスト上昇は一人の犯人ではなく、値札を押すチームの一員です。
割引が見え方を変える
スマホの買い方には、一括購入、分割払い、端末返却を条件に月々の負担を抑えるプログラム、中古端末などがあります。店頭で「月々1円」「実質半額」に近い表示を見ても、それが端末の販売価格全体を意味するとは限りません。
分割払いは、8万円を8千円に変える魔法ではありません。支払う時期を分けます。返却プログラムは、所有し続けない代わりに負担を軽くする仕組みです。どちらも合理的な選択肢ですが、毎月の数字だけを見ると、端末そのものが高くなった感覚を弱めます。
また、電気通信事業法のルール変更で、端末の大幅割引には上限があります。通信契約とのセット値引きだけで高い本体価格を隠す販売はしにくくなりました。以前と同じ広告を見ても、買い方の条件は同じとは限りません。
高くなると買い替えが遅れる
価格が上がれば、多くの人は高級機へ一直線に進むのではなく、今の端末を長く使います。電池を交換する、中古を選ぶ、一世代前の機種を買う、容量を抑える。平均購入額の上昇と買い替え期間の長期化は、同時に起こりえます。
ここで平均だけを見ると、「みんなスマホへ8万円以上払える」と誤解します。実際には、買い替えを先送りした人は、その時点の購入額調査に現れにくい。買った人の平均が上がる一方で、買わなかった人の我慢は数字の外にあります。
端末を長く使うことは、家計や環境にとって良い面があります。ただ、OSの更新が終わる、電池が劣化する、故障時の部品がないといった問題も出ます。学校、仕事、行政手続きまでスマホ前提になるほど、「高いから持たない」という選択は難しくなります。
家計で見るべき三つの値段
スマホの負担を考えるなら、本体の表示価格、買い方を反映した実際の支払総額、毎月の通信料金を分けます。さらに返却条件、保証、修理費、電池交換費も確認します。
本体が安くても高い通信プランが長く続けば総額は増えます。逆に本体が高くても、長く安全に使えれば一年あたりの負担が下がる場合があります。大事なのは「8万円は高いか安いか」を一発判定することではなく、自分が何年使い、最後に所有するのかまで含めて比べることです。
社会全体では、低価格で長く更新される端末、中古流通、修理しやすさ、電池交換の選択肢が重要になります。スマホがぜいたく品ではなく生活インフラなら、最高性能競争だけでなく、必要十分な端末を手頃に維持する道も要るからです。
まとめ
スマホの平均購入額が8万円を超えた背景には、高価なiPhoneの影響があります。でも、Androidの平均も6万円を超え、5G化や高機能化、部材・人件費・物流費の上昇など、市場全体を押し上げる要因もあります。
しかも平均は、値札だけでなく「実際に何を買ったか」が混ざる数字です。買い替えを延期した人の負担感までは映しません。だから本題は、iPhoneが高いかどうかではない。生活に欠かせない端末を、誰が、どんな条件で、何年使えるのか。8万1747円は、その問いを開く入口です。