ケーキや和菓子を売る街の店が苦しいと聞くと、つい「材料が高いからね」で話を閉じたくなります。もちろんそれは本当です。ただ、それだけで終えると半分しか見えていません。しんどいのは、材料が高い日に、客の財布も同じ日に慎重になるからです。

テレ朝newsの記事は、ケーキや和菓子などを扱う菓子小売業の倒産が増えていると伝えました。今回の本題は、値上げできない店が困る、という単純な話ではありません。節約ムードで「今日は甘い物いいか」が積み重なると、街の小さな店の採算はどこから崩れるのか。そこを見にいきます。

菓子店の倒産最多 1〜7月 小麦など原料価格高騰、消費者の節約志向で贈答需要減
菓子店の倒産最多 1〜7月 小麦など原料価格高騰、消費者の節約志向で贈答需要減

今年1月から7月までに倒産したケーキや和菓子などを扱う菓子小売業は45件に上り、過去30年間で最多となりました。 大きなところでは先月末、「お菓子の太子堂」が破産を申請しました。 年間の倒産件数とし

今回の登場人物

  • 菓子小売業: ケーキや和菓子などを作って売る店です。今回の入口記事が扱う45件は、この広い範囲の数字です。
  • 洋菓子店: ケーキ、シュークリーム、焼き菓子などを作って売る店です。菓子店の二重苦がとくに見えやすい例として掘ります。
  • 帝国データバンク: 企業の倒産や経営データを追う民間調査会社です。洋菓子店に絞った別の年度調査を公表しています。
  • 価格転嫁: 材料や光熱費が上がった分を、販売価格へどこまで乗せるかという話です。言い換えると「値札へ正直に書けるか」です。
  • 固定費: 売り上げが増えても減っても一定程度かかる費用です。家賃、人件費、設備費などが代表で、店の体力を地味に試します。
  • コンビニスイーツ: 手軽で値ごろ感のある甘い物です。洋菓子店にとっては、別世界の相手ではなく、かなり近い距離で競う相手です。

何が起きたか

テレ朝newsは、2026年1月から7月に倒産したケーキや和菓子などの菓子小売業が45件に達し、過去30年間の同じ時期で最多になったと報じました。前年1年間の58件を上回る可能性があり、45件のうち物価高が影響した倒産は15件、人手不足が影響したものは5件と伝えています。

これとは別に、帝国データバンクが2025年度を対象に行った洋菓子店の調査では、負債1000万円以上で法的整理となった倒産が65件となり、前年度の51件を上回りました。2年連続で過去最多です。45件と65件は対象期間も範囲も違うので、足して110件にしてはいけません。数字のプリンを勝手に合体させると、味ではなく集計が崩れます。

ここで大事なのは、「甘い物の人気が急になくなった」という話ではないことです。需要がゼロになったわけではありません。むしろ、材料、包装資材、人件費、水道光熱費が上がる一方で、店が価格を上げきれず、しかも客の側でも節約が進む。この二重苦がきついんです。

ここが本題

菓子店は、原材料高だけでもつらいです。でも本当に怖いのは、その日に客の「今月ちょっと抑えようかな」も一緒に来ることです。

ケーキは主食ではありません。誕生日や手土産なら別として、普段の一個は「小さなぜいたく」に入ります。家計がきつい時に真っ先に全部消えるわけではないけれど、回数は減りやすい。週1が隔週になり、隔週が月1になる。数字にすると地味でも、店のレジにはじわっと効きます。静かなのに効く。地味パンチがいちばん怖いやつです。

原価が上がるだけでは済まない

洋菓子店のコストは、小麦粉、砂糖、卵、バターだけではありません。箱、フィルム、保冷材、電気、ガス、水道、冷蔵設備、そして人の手が必要です。とくに小さな店ほど、製造から接客まで人が細かく動きます。

ここが量産品との違いです。大量に同じ物を流す工場型なら、一個あたりのコストを薄めやすい。でも街の店は、季節商品や生菓子の扱いもあり、手作業の比率が高い。だから、材料が少し上がるだけでも痛いのに、人件費や光熱費まで同時に上がると逃げ道が少ないんです。

しかも、値上げはボタン一つではありません。高くしすぎれば客が減るかもしれない。安いままなら利益が薄くなる。どっちへ転んでも気持ちは重い。経営者からすると、毎日が「薄い氷の上でホールケーキを運ぶ仕事」みたいなものです。落としたくないし、急いでも危ない。

洋菓子では「400〜600円帯」が苦しい

帝国データバンクの調査では、中価格帯の競争も重荷として示されています。洋菓子店のケーキは、一個400円台から600円台に乗りやすい。一方で、コンビニや大手チェーンのスイーツは、手に取りやすい価格と入手のしやすさを持っています。

ここで比較されるのは、味だけではありません。「ついで買いできるか」「夜でも買えるか」「今日はそこまで特別じゃないけど甘い物はほしい」に応えられるかも勝負です。街の洋菓子店は、特別感では勝てても、日常の便利さでは不利になりやすい。

ここからは、とくに洋菓子店で二重苦がどう表れるかを見ます。節約局面では、人は高級品を全部やめるより先に、「そこそこ良いものを、少しだけ減らす」動きをしがちです。つまり、毎日ではないけどたまに買うケーキが削られやすい。豪華すぎるぜいたくでも、最安の代替でもない。その真ん中が削られるわけです。

ここは感覚の話で済ませないほうがいいところです。家計の側から見ると、米や電気代のような「止めづらい支出」が先に家計簿を占領します。すると、誕生日ケーキは守っても、平日のプリンや週末の焼き菓子は回数調整の対象になりやすい。店から見ると、一回の単価が少し下がるより、「来店の頻度」が落ちるほうがじわじわ効きます。常連さんの一歩が半歩になるだけで、月末の数字は想像以上に軽くなってしまうんです。

しかも洋菓子店は、売れ残りを長く置きにくい商品が多いです。生菓子はとくにそうです。売れる見込みに合わせて仕込みを絞れば品ぞろえの魅力が落ちるし、強気に作れば廃棄のリスクが増える。商売としては、毎日が「今日は何個焼くのが正解なんだ問題」です。しかも答えは、翌日にはまた変わります。

倒産件数は「店の努力不足」ではない

倒産が増えると、つい「時代に合わせられなかったのでは」と言いたくなることがあります。でも、この見方は雑です。もちろん個々の店ごとの差はあります。ただ、複数の費用が同時に上がり、需要の伸びも弱い状況では、がんばりだけで吸収できない部分があります。

内閣府の消費動向や総務省の家計調査を見ても、家計は物価高の影響を受け続けています。そういう局面では、消費者は悪くないし、店も怠けていない。家計防衛と店の採算が、同じニュースの両側でぶつかっているだけなんです。ここを「どっちが悪い」にすると、急に話が貧しくなります。

もう一つ大事なのは、倒産件数の数字にも集計の線引きがあることです。帝国データバンクの年度集計は、負債1000万円以上で法的整理に至ったケースが対象です。つまり、表に出る数字は「かなり苦しくなって、ついに倒れた店」の数です。営業時間を縮めた、スタッフを減らした、予約販売中心にした、店頭商品を減らした。そういう手前のしのぎは、この件数には直接は出てきません。表に見える45件や65件の後ろには、まだ数字になっていない我慢もかなりあると見たほうが自然です。

日本の読者にとって何が大事か

この話は、甘い物好きだけの話ではありません。中小の飲食や小売り全体にかなり近い構図だからです。値上げしないと持たない。でも値上げすると客が離れる。しかも客の側も、本当に余裕がない。街の店が急に消えるとき、その裏ではだいたいこの板挟みが起きています。

だから、菓子店の倒産を「材料高の一言ニュース」で処理すると、次に別の業種で同じことが起きても理解できません。大事なのは、コスト上昇と需要後退が同時に来ると、小さな店ほど逃げ道が狭いと分かることです。

店がなくなるのは、買い物の選択肢が一つ減るだけではありません。手土産の文化、地域の小さな雇用、普段のちょっとした楽しみも一緒に細ることがあります。大げさに言う必要はないですが、「あの店なくなったのか」で終わらせるには惜しい話なんですよね。

まとめ

街の菓子店が苦しいのは、原材料高だけが原因ではありません。包装資材、人件費、光熱費が上がる一方で、客の節約も進み、「小さなぜいたく」や贈答品を買う回数が減りやすい。洋菓子では、そこへコンビニや大手チェーンとの競争も重なります。

つまり本題は、「値上げできるかどうか」だけではなく、「価格を上げにくい日に需要まで細る」ことです。菓子店の倒産増は、物価高が家計へ届く話と、家計防衛が街の店へ返ってくる話が、一本の線でつながっていることを見せています。

Sources