「退職代行の4分の1が消えた」「14社が倒産した」。数字だけを急いで読むと、そんな姿に見えるかもしれません。ちょっと待って、話はそこからです。調査が確認したのは、14事業者すべての倒産ではありません。

9月23日のテレビ朝日の記事を入口に、今回は52事業者中14事業者で継続を確認できないことは、14社倒産を意味するのかを考えます。答えは「意味しない」です。では何を数えた数字なのか。言葉を一段ずつほどきましょう。

退職代行 1年で4分の1がサービス停止か 52事業者のうち14事業者継続確認できず
退職代行 1年で4分の1がサービス停止か 52事業者のうち14事業者継続確認できず

「退職代行サービス」を提供する事業者の約4分の1がこの1年でサービスを停止した可能性があることが分かりました。 帝国データバンクによりますと、去年10月の時点で退職代行のサービスを行っていた52の事

今回の登場人物 ​

  • 帝国データバンク: 企業情報を扱う信用調査会社です。2025年10月時点でサービス実態のあった主な退職代行52事業者を調べました。
  • サービス継続未確認: ウェブサイトなどへ通常の方法でアクセスできず、サービスが続いていることを確認できない状態です。廃業や倒産まで確認した、という意味ではありません。
  • 倒産: 法律上の一語ではなく、一般には企業経営が行き詰まり、借金などの支払うべきお金を払えなくなった状態を指します。信用調査会社は一定の基準を置いて集計します。
  • 破産: 裁判所が関わり、お金を支払う側の財産を金銭に換えて、受け取る権利のある側へ配る法的な手続です。今回の調査で明示された退職代行事業者の破産は1件です。
  • 非弁行為: 弁護士や弁護士法人でない者が、報酬目的で法律事件について代理や和解などの法律事務を業として扱うことなど、弁護士法72条に触れる行為です。個別の行為が該当するかは、具体的な事情で判断されます。

何が起きたか ​

テレビ朝日の記事は、2025年10月時点で退職代行サービスを行っていた52事業者のうち、2026年9月までに14事業者でサービスの継続を確認できなくなったと報じました。割合にすると26.9%、およそ4分の1です。

調査元の帝国データバンクは、対象を「2025年10月時点でサービス実態のあった主な事業者」としています。国内に存在するあらゆる退職代行を一件残らず数えた名簿、という意味ではありません。52は調査対象の数です。14は、その対象のうち通常の手段で継続を確認できなかった数です。

14事業者の内訳では、10事業者が株式会社や合同会社などの「民間経営」。残りには弁護士法人や、法人として特定できた労働組合などが含まれます。そして、調査が倒産として明示したのは、2026年3月に東京で破産した「スマートヤメマス」の運営会社1件です。

ここが本題 ​

このニュースを正しく読むコツは、見つからない、止まっている、やめた、支払えないを同じ箱へ放り込まないことです。全部「営業していないように見える」という点では似ています。でも、確認できた事実の深さが違います。

帝国データバンクが今回の資料で使う「サービス停止」は、ウェブサイトなどのリンクを閲覧できないなど、通常の手段でサービス継続を確認できない状態です。ここ、もう一度だけ。「調べた時点で何を確認できたか」による区分です。「会社が破産したことを裁判所で確認した」という区分ではありません。

お店にたとえるなら、昼に行ったらシャッターが閉まっていて、電話もつながらない状態までを確認したところです。閉店したのか、臨時休業なのか、別の場所へ移ったのか、経営会社まで法的に行き詰まったのか。シャッター一枚から全部は読めません。その裏側まで、こちらの想像で埋めるわけにはいかないんです。

似ている言葉を分ける ​

まず「継続未確認」。これは、調査時点で通常の方法では続いていることを確かめられない状態です。ウェブサイトが消えた、リンクが開かないなどが手掛かりになります。サービスが実際には別経路で続いている可能性や、情報更新が遅れている可能性までは、この言葉だけでは排除できません。

次に「サービス停止」。今回の帝国データバンクの資料では、いま説明した継続未確認の状態につけた調査上の名称です。日常語の「完全に終了した」と同じ強さで読まないほうがよいでしょう。資料自身も「サービス停止の可能性」と書いています。

「撤退」や「廃業」は、事業者がそのサービスや事業をやめることです。採算や方針の変更で、借金を返せない状態でなくても事業はやめられます。帝国データバンクも、退職代行事業から撤退するケースが表面化していると分析していますが、14事業者すべてについて撤退理由を確定したとは書いていません。

そして「倒産」。帝国データバンクの説明では、日常的に使う倒産は法律用語ではなく、一般に企業経営が行き詰まり、支払うべきお金を払えなくなった状態を指します。同社は、銀行との取引が停止された場合や、破産などの法的手続が申請された場合など、一定の基準で集計しています。

「破産」はその中にある法的手続の一つです。裁判所は、破産手続を、裁判所が開始を決定し、原則として破産管財人が財産を金銭に換えて債権者へ配当する手続だと説明しています。管財人は財産を管理・処分する役、債権者はお金を受け取る権利のある側です。つまり破産は、サイトが見えないという観察とは確認する資料も手続も違います。

これらを階段のように一方向へ並べるのも危険です。ウェブサイトが止まっていても法人が別事業を続けることはありえます。反対に、裁判所が関わる整理手続へ入る前からサービスが止まることもあります。言葉は「重い順のレベル表示」ではなく、それぞれ違う事実を指す札なんです。

14と1を足し替えない ​

今回の数字を式にすると、こうなります。

  • 調査対象: 52事業者
  • 通常の手段でサービス継続を確認できない: 14事業者、26.9%
  • 14事業者のうち民間経営: 10事業者
  • 調査で明示された倒産: 1件

「14事業者で継続未確認」を「14社倒産」に置き換えると、観測した状態を法的・経営的な結論へ勝手に強めてしまいます。しかも対象には株式会社だけでなく、弁護士法人や労働組合なども含まれます。「14社」という呼び方からして、調査の区分を正確に写していません。

逆に、「倒産は1件だから、残り13は問題なく営業している」と読むのも違います。13事業者は継続を確認できないままです。分からないものを、反対側の確定へ押し込まない。数字の読み方としては地味ですが、ここがいちばん丈夫です。

なぜ継続しにくくなったのか ​

帝国データバンクは、背景として価格競争と、法令などのルールを守って業務を進める負担を挙げています。退職代行の平均料金は、2025年の約2万8,000円から直近では約2万7,000円へわずかに低下しました。大手法律事務所なども参入し、退職意思の通告だけなら民間代行より安い場合もあるとしています。

もう一つが、どこまで業務を扱えるかという境界です。一般の民間事業者が本人の意思を会社へ伝えることと、未払い残業代、有給休暇、退職日、慰謝料などについて本人を代理して交渉することは同じではありません。

東京弁護士会は、弁護士等でない者が、報酬目的で法律的な問題について本人を代理して相手方と話し合うことは非弁行為になると説明しています。未払い残業代の有無や金額、契約期間途中の退職、パワハラの慰謝料などを例に挙げています。また、「提携先の労働組合に任せる」として有償で法律問題の処理をあっせんする行為や、労働組合による交渉も、形だけで一律に適法になるわけではないと注意しています。

一方、厚生労働省は、労働組合を、労働者が主体となって労働条件の維持・改善などを目的に組織する団体と説明しています。憲法28条は団結権、団体交渉権、団体行動権を保障しています。だからといって、ウェブサイトに「労働組合」と書いてあれば、どんな法律問題でも扱えるという白紙の通行証になるわけではありません。運営主体と、実際に依頼する仕事の中身を分けて見る必要があります。

なお、ここで示しているのは公表資料に基づく一般的な境界です。個別の契約や職場との争いがどの法的評価になるかを決めるものではありません。退職事情には、未払い賃金、ハラスメント、体調、雇用期間など、外からは見えない事情があります。利用した人を責める材料にする話でもありません。

利用者にとって数字の意味は何か ​

この調査から持ち帰るべきなのは、「退職代行は全部危険だ」でも「14社が倒産した」でもありません。サービスの看板が似ていても、運営主体、扱える業務、継続状況、料金が同じではない、ということです。

とくに、単に退職意思を伝えてほしいのか、残業代や有給、退職日などについて相手と交渉する必要があるのかで、必要な専門性は変わります。広告の大きな文字だけでなく、誰が運営し、何を引き受け、何を引き受けないのかを見る。その区別が重要になったことを、14という数字は示しています。

同時に、サイトが見えないだけで運営法人の破産まで決めつけないことも大切です。サービスの継続性を心配する視点と、企業の法的状態を確かめる視点は別々に持つ。ニュースの数字を強く言い換えると、分かりやすくなったようで、事実からは遠ざかります。

まとめ ​

52事業者中14事業者、26.9%で確認されたのは、通常の手段ではサービス継続を確認できない状態です。帝国データバンクはこれを資料上「サービス停止」と区分しつつ、「停止の可能性」と表現しています。14事業者すべての倒産を確認したわけではありません。

調査が明示した倒産は、2026年3月の「スマートヤメマス」運営会社の破産1件です。継続未確認は観測上の状態、撤退は事業判断、倒産は経営が行き詰まった状態、破産は裁判所が関わる法的手続。 ここを分ければ、数字は急に騒がしくなくなります。ニュースは静かに読んだほうが、むしろ深く見えることがあるんですよ。

Sources ​