交通機関の改正で「所要時間が98分延びます」と言われたら、普通はうれしくない。夜行バスなら、座席で過ごす時間がそれだけ増える。ところが同じ変更を見て、「これで東京へ行きやすくなる」と感じる町もある。
9月23日のTSKさんいん中央テレビ・FNNプライムオンラインが伝えた、夜行バス「スサノオ号」の経路変更がその例だ。出雲と東京を結ぶ便が、11月から倉吉・鳥取にも立ち寄る。なぜ、遅くなるバスが便利になるのか。答えは、時計の針だけでなく、「どこから一度で乗れるか」にある。

出雲市と東京を結ぶ高速夜行バスが11月から新たに鳥取市と倉吉市を経由して運行されることになりました。鳥取・倉吉と東京を直結する高速バスが約4年8か月ぶりに復活します。鳥取市と倉吉市に乗り入れを始めるのは、JRバス中国が運行する高速夜行バス「出雲・松江・米子―東京線(スサノオ号)」です。11月1日の出発便から、倉吉駅北口と鳥取駅南口を経由するルートで運行されます。倉吉市などが「首都圏直結」の交通手段の確保を目的にJRバスに乗り入れを要望していました。日ノ丸自動車と日本交通など3社が共同運行してい…
今回の登場人物
- スサノオ号:出雲、松江、米子などと東京を結ぶ夜行高速バス。今回の改正では倉吉駅北口と鳥取駅南口が加わる。
- JRバス中国:路線の変更内容や時刻表を公表しているバス事業者。運賃や割引の利用条件は、この公式案内で確認できる。
- 途中から乗る人と、端から端まで乗る人:同じバスの利用者でも、今回受け取る利点と負担は同じではない。この違いが記事の主役だ。
何が起きたか
JRバス中国の発表によると、変更は2026年11月1日出発便から。従来の出雲・松江・米子側の停留所に加え、倉吉駅北口と鳥取駅南口で乗り降りできるようになる。
東京行きの新しい時刻表では、出雲市駅を17時30分に出発。松江駅、米子駅を経て、倉吉駅北口が20時53分、鳥取駅南口が21時51分。東京駅日本橋口には翌朝8時3分に着く。
倉吉市の資料では、倉吉と東京を結んでいた以前の高速バス路線は2021年3月に廃止された。今回戻ってくるのは、既存の別路線を倉吉経由にする形の東京への直通便である。以前の路線を、そのまま同じ仕組みで再開するという話ではない。
では、この変更を出雲から乗る人の時刻表で見るとどうなるか。
| 出雲市駅から東京駅まで | 出発 | 到着 | 所要時間 |
|---|---|---|---|
| 改正前 | 18:40 | 翌日7:35 | 12時間55分 |
| 11月1日以降 | 17:30 | 翌日8:03 | 14時間33分 |
新旧の公式時刻表を比較すると、出発が70分早くなり、到着が28分遅くなる。合わせて98分の延長だ。「朝の到着が少し遅くなるだけ」と受け止めると、前日の予定が合わなくなるかもしれない。朝の話だと思っていたら、夕方の予定表まで書き直しです。
14時間33分は、全員の乗車時間ではない
さて、14時間33分と聞いて、途中から乗る人もそんなにかかるのか、と思いませんでしたか。
14時間33分は、出雲市駅から東京駅まで乗った場合の時間だ。新しい時刻表から計算すると、倉吉駅北口から東京駅までは11時間10分、鳥取駅南口からは10時間12分になる。途中で乗る人まで、出雲からの全行程を座席で過ごすわけではない。
もちろん、これだけで倉吉や鳥取から東京へ行く最速手段だとは言えない。飛行機や鉄道ならどうか、自宅から駅まで何分かかるか、東京のどこへ行くかで答えが変わる。今回の強みは「最速」と証明されたことではなく、その町から東京まで同じバスで行ける選択肢ができることだ。
たとえば、大きな荷物を持って移動する場面を考えてほしい。途中で降り、荷物を運び、次の乗り場を探し、発車を待つ。乗り換えとは、時刻表にある数分の移動だけではない。初めて使う駅なら、どの出口なのかを調べるところから仕事が増える。旅行なのに、出発前から小さな引っ越しの段取りをしている気分になる。
直通便は、その途中の作業を減らせる。夜のバスで十分休めるかは人によるし、長時間座る負担もある。それでも、荷物を積んで一度乗れば東京まで乗り換えない、という分かりやすさに価値を感じる人はいる。
つまり便利さは、「乗っている時間の短さ」だけでは決まらない。「乗るまでの行きやすさ」と「途中で何回、移動をやり直すか」も含まれるのだ。
一つの便を使う町が増えると、何を分け合うのか
今回の変更を路線の仕組みとして見ると、倉吉・鳥取専用の便を別に一本つくるのではなく、すでに走っている出雲―東京の便に、二つの町の利用者を加える形である。
もし各地から東京まで別々の便を走らせるなら、それぞれの便で利用者を集める必要がある。一つの便が複数の町に立ち寄れば、異なる場所から乗る人が、同じ東京行きの座席を利用できる。これは経路から読み取れる仕組み上の特徴であって、今回の便がどれだけ増収になるか、何人増えるかまで確定した話ではない。
その代わり、立ち寄る場所が増えることで、先に乗っている人の行程は長くなる。新しい町に直通の便利さを届けるために、もともと乗っていた地域の人は、より長い乗車時間を引き受けることになる。
学校帰りに友達を何人か送りながら帰る車を想像すると、少し分かりやすい。途中で降りる友達は助かるが、最後まで乗る人は遠回りになる。全員が同じ車で移動していても、同じだけ便利になるわけではない。バスは公共の交通なので事情はもっと複雑だが、時間と乗りやすさの交換が起きる点は似ている。
だから、この改正を丸ごと「便利になった」「不便になった」の一言で評価するのは難しい。出雲から早い時間に東京へ着きたい人には、負担が増える。一方、倉吉から乗り換えずに東京へ向かいたかった人には、新しい選択肢が生まれる。
同じ時刻表でも、どの停留所に指を置いて読むかで、ニュースの意味が変わるんですね。
運賃も、距離だけの物差しでは読めない
新しい公式時刻表では、大人片道の運賃は5,500〜20,000円。運行日や便によって変わる仕組みで、JRバス中国の案内は、基本の運賃を全区間同額としている。
つまり、この便では単純に「途中から乗るのだから、短くなった距離の分だけ安い」とはならない。いつ乗るかを含めて予約時の金額を確認する必要がある。5,500円は幅の下限であって、毎日その値段で買えるという意味ではない。いちばん安い数字だけを財布の予定表に書くのは、まだ早い。
さらに、倉吉市の支援により、倉吉駅北口で乗り降りする利用には期間限定で約3割引が案内されている。ここでも重要なのは、割引の対象が「倉吉という名前の付いた予約」だけで決まるわけではないことだ。
事業者は、割引を受けるには実際に倉吉駅北口で乗車または降車する必要があり、別の停留所へ変更する場合には事前の変更手続きが必要だと明記している。安くなるから倉吉発で買い、別の場所から乗ればよい、とはならない。
今回の記事で注目したいのは支援の是非ではなく、「自分が使う停留所と日付で、いくらになるか」という比較だ。遠い停留所まで移動して割引を使うなら、その移動時間や費用も加わる。バス代だけを抜き出したら安くても、旅行全体で同じ結論になるとは限らない。
使う人は、東京に着いてからの予定まで置いてみる
出雲から乗る人なら、まず17時30分発に間に合うか。仕事や授業が終わってから乗れるのかを確認したい。東京駅には翌朝8時3分の到着予定なので、その後の乗り換えや待ち合わせも、改正前のままにはできない。
倉吉や鳥取から乗る人なら、今まで使っていた経路と、家を出て目的地に着くまでを並べてみるとよい。途中の乗り換えがなくなる代わりに、何時に出るのか。東京駅から最終目的地までどれくらいか。夜行バスで休めるかも含め、自分の旅行に合うかを考える。
「速さ」で劣る部分があっても、「乗り換えなし」で選ぶ人はいる。逆に、直通であっても、出発時刻や体への負担から別の手段を選ぶ人もいる。どちらも自然な判断だ。
今後の見どころは、直通の便利さを得る地域の利用がどれだけ生まれ、時間が延びる地域の利用者にどう受け止められるかだろう。現時点の発表だけで、運行が長く続くとか、利用者が必ず増えるとまでは言えない。路線の仕組みと、その結果は分けて見ておきたい。
まとめ
スサノオ号は、倉吉・鳥取に立ち寄ることで、出雲から東京までの所要時間が98分延びる。その一方で、途中の町には東京まで乗り換えずに行ける選択肢が加わる。
これは、速さと乗りやすさを、一つの便で分け合う変更だ。便利になったかどうかは、自分の停留所、出発時刻、運賃、目的地までの移動を並べて初めて分かる。時刻表のいちばん長い数字だけで、全員の旅を代表させないようにしたい。
Sources
- TSKさんいん中央テレビ・FNNプライムオンライン:スサノオ号の倉吉・鳥取経由を報じた記事(2026年9月23日) — 入口報道。本文中の経過年数表現は採用していない。
- JRバス中国:スサノオ号の倉吉・鳥取乗り入れと倉吉市助成について — 11月1日出発便からの変更、運賃、割引の条件。
- JRバス中国:2026年11月1日改正時刻表(PDF) — 新しい停留所、出発・到着時刻、所要時間、運賃。
- JRバス中国:2025年4月1日改正時刻表(PDF) — 改正前の出雲市駅18時40分発・東京駅翌7時35分着。
- 倉吉市:2026年度6月補正予算事業説明資料(PDF) — 旧路線の2021年3月廃止と、既存便の経由による直通化の経緯。