桜の異変を探す、と聞くと、葉が枯れていないか、枝が折れていないか、と上を見たくなる。ところが今回は、足元にも大事な情報がある。幹の穴や根元に出てくる、木くずのようなものだ。

9月23日の神戸新聞は、兵庫県でクビアカツヤカミキリの被害が広がっていると報じた。この虫の成虫は赤い胸部が目立つ。でも、桜を守るうえで見逃したくないのは、まだ木の中にいる幼虫なんです。なぜ虫そのものより、その「食べた跡」を探すのか。ここを押さえると、秋の散歩で木を見る目が少し変わる。

「クビアカツヤカミキリ」止まらぬ被害 兵庫県内13市町、桜など4年で973本犠牲 生息域拡大なぜ?
「クビアカツヤカミキリ」止まらぬ被害 兵庫県内13市町、桜など4年で973本犠牲 生息域拡大なぜ?

桜の木などを食い荒らして枯らす特定外来生物クビアカツヤカミキリの被害が、兵庫県内で広がっている。成虫が初めて確認されてから今年8月末までの4年間で、被害木は千本に迫る。街路樹が倒木する危険性に加え、桜の名所などへの悪影響も懸念される。専門家が早期発見による被害の拡大防止を呼びかける中、県も10月から、通報者に商品券を贈る取り組みを始める。(門田晋一)

今回の登場人物 ​

  • クビアカツヤカミキリ:桜や桃、梅などを加害する外来のカミキリムシ。兵庫県の説明では、成虫は触角を除いて体長2〜4センチほど。木を内側から食べる主役は幼虫だ。
  • フラス:幼虫が出す木くずとふんの混ざったもの。木の外に押し出されるので、見えない内部の被害を探す手がかりになる。
  • 木の管理者と自治体:公園、街路、学校、個人の敷地など、それぞれの木について確認や対策を進める側。見つけた人が写真と場所を伝えることで、この人たちの仕事につながる。

何が起きたか ​

兵庫県でクビアカツヤカミキリの成虫が初めて確認されたのは、2022年6月の明石市だった。県の2026年9月時点の案内では、確認地域は13市町に広がっている。

一方、県が公開した8月31日現在の集計では、2022年以降の被害木は計973本。ここは数字のラベルが大切だ。表の項目は「被害木数(フラス発生木)」であって、「枯れた木の数」でも「切り倒した木の数」でもない。973本すべてが失われた、と読み替えてはいけない。地域数と本数の集計時点も同じではない。

県は10月からの発見通報促進策も準備している。県の対策資料では、事前登録した県民からフラスの情報を募り、確認できた通報の上位者にデジタルギフト券を贈る仕組みを計画している。9月9日の知事会見でも、秋以降のフラス発見への協力が話題になった。

夏の虫なのに、なぜ秋から探すのか。ここからが今回の本題だ。

成虫がいなくなっても、木の中の食事は終わらない ​

兵庫県の説明では、成虫が見られるのは主に6〜8月。成虫として生きる期間は2週間から1か月ほどだ。一方、幼虫は木の中で2〜3年を過ごす。外で目立つ姿になっている期間より、木の中に隠れている期間のほうがずっと長い。

成虫だけを見張って安心するのは、玄関だけ見回って、壁の中まで無事だと判断するようなもの。肝心なところが、外からは見えないんですね。

森林総合研究所の防除手引によると、幼虫が食べる場所には、樹皮のすぐ内側の、養分を運ぶ部分が含まれる。木にとっては、ただ表面を少しかじられたという話ではない。食べられた箇所より先の枝が枯れたり、多くの幼虫に食害されて木全体が枯れたりすることがある。

葉や花が見えるから、内部も無事だとは限らない。かといって、一本ずつ幹を割って中を確認するわけにもいかない。点検のために桜を壊してしまったら、話が一周してしまう。

そこで役立つのがフラスだ。中で食べている幼虫が木くずやふんを外に押し出すため、幹の穴や根元に痕跡が現れる。虫が見えなくても、そこにいる可能性を知らせてくれるわけだ。

県の案内では、フラスの排出は3月下旬〜11月ごろに見られる。成虫を探せる夏だけより、観察できる期間が長い。秋の発見に意味があるのは、この生活の時間差による。ただし、冬にも同じように活発に出し続ける、と考えるのは違う。虫の姿が消える季節と、木の内部の被害を確認する機会は、きれいには重ならないのである。

木くずだけで虫の名前は決まらない ​

ここで「木くずが落ちていたら、全部クビアカだ」となると、今度は早合点だ。

森林総合研究所の手引には、コスカシバやゴマダラカミキリなど、ほかの虫が出すフラスとの違いも載っている。木くずに見えるものを発見しただけで、種類まで確定できるわけではない。探す人に求められるのは、いきなり昆虫鑑定士になることではなく、確認できる情報を渡すことだ。

県は、成虫やフラスを見つけた場合、専用フォームか市町の窓口への連絡を案内している。写真と場所があれば、確認する側が対象の木にたどり着きやすくなる。通報は「ここにクビアカが絶対いる」という断言ではなく、「この木を確認してほしい」という連絡でよい。

クビアカツヤカミキリは、外来生物法に基づく特定外来生物でもある。環境省は、生きたままの移動や飼育などを原則として禁止している。成虫を見つけても、確認してもらうために持ち帰ったり、別の場所へ運んだりせず、写真と場所を自治体や土地・施設の管理者へ伝えよう。捕獲や処置については、その場の管理者や自治体の案内に従いたい。

公園に桜が何十本もあるなら、「公園の桜です」だけでは探し直すことになる。幹全体と気になる部分の様子、周囲の目印を、安全な場所から記録しておけば、同じ木を再び確認するための助けになる。写真を撮るために車道へ出たり、他人の敷地へ入ったり、木に登ったりはしない。見つけた情報は、場所と結び付いて初めて対策に使いやすくなるのだ。

逆に、その場で幹を削ったり、手持ちの薬を穴に入れたりするところまで、散歩の延長で進めないでほしい。公園や街路の木には管理者がいるし、対策は被害の程度などで変わる。見つける仕事と、処置を決める仕事は、分けてつなぐのが大切だ。

早く見つければ、その一本を必ず救えるわけではない ​

「早期発見」と聞くと、早く見つければ簡単な処置で元通り、と思いたくなる。そうであってほしいですよね。ただ、そこは約束できない。

森林総合研究所の地域対策の手引では、被害の程度や地域の広がりに応じて、薬剤による防除、成虫を外へ出しにくくする網かけ、伐採などを組み合わせる考え方が示されている。被害が重い木では薬剤が十分に届かない場合もあり、一本ごとの状態を見なければならない。

さらに、侵入が始まったばかりの地域では、被害木を早く見つけて伐採し、そこから虫が広がるのを防ぐ対応もある。つまり、早く見つけた結果、その木を切る判断になることもあるのだ。

それでも早期発見が重要なのは、守る対象が「見つけた一本」だけではないからだ。その木から成虫が出て、周囲の木へ被害が広がる前に対応できれば、近くの桜を守るための時間を得られる。

花見で思い出のある木を切るとなれば、簡単に納得できる話ではない。だからこそ、何が確認され、なぜその処置が必要なのかという説明も欠かせない。ただ、目の前の一本を残すことと、並木全体を守ることが、いつでも同じ判断になるとは限らない。この難しさを抜きに「早く見つければ大丈夫」と言ってしまうのも不正確だ。

通報が増えたら、次に見るのは対策へのつながり ​

県の発見通報促進策は、専門家だけでは見回りきれない場所に、普段その道を歩く人の目を生かそうとするものだ。毎日の通学路や犬の散歩道なら、いつもと違う木くずに気付けるかもしれない。

ただし、通報数そのものが、被害を減らした成果になるわけではない。写真と場所を受け取り、種類を確認し、管理者に伝え、処置を決め、その後も確かめる。この流れにつながって初めて、発見が対策になる。

通報の呼びかけが広がれば、これまで見つかっていなかった被害が表に出る可能性もある。したがって、今後の確認本数が増えたとしても、その数字だけで「対策が失敗した」とは判定できない。新たに広がった分と、調査で見えるようになった分を区別する必要がある。

私たちが確認したいのは、発見した木がその後どう扱われ、周囲の木への見回りにつながったか、というところだ。木くずを見つけるのは入口。その先の仕事までつながってこそ、桜を守る手がかりになる。

まとめ ​

クビアカツヤカミキリは、成虫として見える期間より、幼虫として木の中を食べる期間のほうが長い。だから、赤い胸部の成虫を探すだけでなく、内部から出てくるフラスを早く見つけることに意味がある。

フラスらしきものを見つけても、種類を決めつけず、写真と場所を自治体などへ伝える。早期発見は、その一本が必ず助かるという保証ではない。それでも、周囲へ広がる前に確認し、対策を選ぶ時間を増やせる。春に上を向いて花を見るために、秋は少し足元も見ておこう。

Sources ​