「Wi-Fiのマークは出ているのに、ネットが開かない」。こうなると、つい「回線が切れた」とひとまとめにしたくなります。気持ちは分かります。でもネットは、一本のひもでつながっているわけではありません。途中で何人もの係が仕事をしている、と考えてみてください。

9月23日に起きたJCOMの障害を報じたITmedia NEWSの記事を入口に、今回は一つだけ掘ります。ネットが使えないとき、回線そのものが切れたとは限らないのはなぜか。 原因当てではありません。むしろ、原因が発表されていない段階で当てにいかないための話です。

JCOM障害「インターネットが使えない」 サポート窓口もつながりにくく
JCOM障害「インターネットが使えない」 サポート窓口もつながりにくく

「DNS設定をGoogle Public DNSに変更することで一時的に使えるようになった」という報告も。

今回の登場人物 ​

  • Wi-Fi: スマホやパソコンと、自宅のルーターを無線でつなぐ仕組みです。Wi-Fiにつながった表示は「家の中の入口に着いた」という意味で、インターネットの目的地まで行ける保証ではありません。
  • アクセス回線: 自宅のモデムやルーターから、通信事業者の設備へ出ていく道です。ケーブル、光回線など方式は違っても、「家から事業者まで」の区間を受け持ちます。
  • DNS(Domain Name System): example.comのような名前を、通信先を識別する番号「IPアドレス」へ結びつける仕組みです。いわばインターネットのアドレス帳。目的のサイトの行き先を調べる係です。
  • JCOM: インターネット接続サービス「J:COM NET」などを提供する事業者です。今回の障害ではサービスだけでなく、カスタマーセンターにも電話がつながりにくくなりました。

何が起きたか ​

ITmedia NEWSの記事は9月23日午後1時4分、JCOMが同日朝からシステム障害を公表し、J:COM NETが利用できない状態になっていると伝えました。午前10時24分の公式Xで告知され、カスタマーセンターや各種サポートへの問い合わせもつながりにくくなっていました。この時点で、原因と復旧見通しは発表されていませんでした。

その後、TBS NEWS DIGは、障害が午前8時55分ごろから発生し、JCOMが午後8時すぎにインターネット接続サービスの復旧を発表したと報じました。原因は調査中とされています。

つまり、復旧時刻が分かったことと、原因が分かったことは別です。ここ、似た顔をして並んでいますが別人です。

ここが本題 ​

画面に出る「インターネットに接続できません」は、診断名ではありません。最終的な症状です。スマホからウェブサイトまでの間には、少なくとも次のような役割の違う区間があります。

  1. スマホやパソコンが自宅のWi-Fiにつながる
  2. モデムやアクセス回線を通って通信事業者のネットワークへ出る
  3. DNSでサイト名に対応する行き先を調べる
  4. 調べた宛先までデータを運び、相手のサービスから返事を受ける

どこか一つが止まっても、利用者から見える結果はだいたい同じです。「開かない」。ネットは舞台裏でずいぶん細かく分業しているのに、エラー画面はまとめて一言。かなり無口な案内係なんですね。

Wi-Fiは家の中の一歩目 ​

まずWi-Fiです。スマホのWi-Fiマークが出ていると、「ネットにつながっている」と感じますよね。ところが、その表示が主に示すのは、端末とWi-Fiルーターの間で無線通信が成立していることです。ルーターの先にあるアクセス回線や事業者設備まで正常だとは限りません。

たとえるなら、Wi-Fiはマンションの部屋からエントランスまでの廊下です。廊下を歩けても、建物の外の道路が通行止めなら目的地には行けない。反対に、一台の端末だけWi-Fiにつながらないなら、家の外より端末側や無線区間に目を向ける余地があります。ここで大事なのは、症状の範囲によって疑う層が変わる、という考え方です。

JCOMの通常のサポート案内も、ケーブルモデムの「ONLINE」ランプなどを正常動作の目安として示しています。ランプは万能の判定機ではありませんが、Wi-Fiの電波と、その先の回線状態を同じものとして扱わないための手掛かりにはなります。

アクセス回線は家の外への道 ​

次がアクセス回線です。これは家庭の機器から事業者の設備へ通じる区間。ここで物理的な断線や設備障害が起きれば、もちろんインターネットへ出られません。ただし、「出られない」という結果だけを見て、必ずこの区間が切れたと決めることはできません。

今回、JCOMは公式に「システム障害」と説明し、J:COM NETが利用できないことと、問い合わせ窓口がつながりにくいことを公表しました。一方で、どの設備や機能が原因だったかは示していません。したがって、「ケーブルが切れた」「特定のサーバーが落ちた」「攻撃を受けた」といった具体的な原因は、公式発表からは確認できません。

広い地域で多くの人が似た症状を報告していれば、自宅一軒だけの配線より、共通して使う事業者側の仕組みを疑う材料にはなります。でも材料は結論ではありません。探偵ドラマならここで音楽が鳴りますが、現実の障害対応は、ログと設備確認がそろうまでエンディングに行けないんです。

DNSが止まると「道はあるのに行き先が分からない」 ​

DNSは、ウェブサイトの名前をIPアドレスへ変換します。先ほどのアドレス帳の出番です。ブラウザーに人間向けの名前を入力すると、端末はDNSへ「この名前の住所はどこですか」と問い合わせ、返ってきたIPアドレスを使って通信先を探します。

もしこの名前解決がうまくいかなければ、アクセス回線が物理的につながっていても、普段どおりサイトを開けないことがあります。道路は残っているのに、カーナビが住所を引けない状態、と考えると近いでしょう。だから「ウェブが開かない」だけでは、道路に当たる回線が切れたのか、住所検索に当たるDNSで止まったのかを見分けられません。

ITmedia NEWSの記事は、利用者から「DNS設定をGoogle Public DNSへ変えたら一時的に使えた」という報告が相次いだと伝えています。これはDNS周辺を調べるきっかけにはなります。しかし、JCOMが原因をDNSだと発表したわけではありません。設定変更の前後に復旧が進んだ、端末内に以前の情報が残っていた、通信経路や対象サービスが違った、といった別の可能性も、利用者の報告だけでは除けません。

まして、SNSの成功例をそのまま全員向けの設定変更手順にはできません。DNSの変更は、名前の問い合わせ先を通信事業者から別の事業者へ切り替える操作です。Google Public DNSの公式手順も、変更前のサーバー情報を控えて、必要なら元へ戻せるようにすること、機器や基本ソフトごとの正式な手順は提供元の資料で確認することを求めています。

今回は原因が公表されておらず、一部利用者の報告が全員に当てはまるとも確認できないため、この記事では設定変更を勧めません。報告は報告、原因は公式調査。この二つを混ぜないのが大切です。

事業者窓口も一つの層 ​

通信の技術的な経路とは別に、障害情報へたどり着く経路もあります。公式サイト、アプリ、電話窓口、公式SNSです。今回はカスタマーセンターにも電話がつながりにくくなりました。

つまり、サービスが止まったときに頼る案内口も、同じ障害の影響や問い合わせ集中を受けることがある。病院への道が混んでいるとき、案内電話まで一斉に鳴るようなものです。これは障害の原因を示しませんが、「情報が取れないから自宅だけの故障だ」とは言い切れない理由になります。

利用者側から見れば、端末一台の問題なのか、家中の機器なのか、公式が広域障害を告知しているのかを順に分けて眺めると、少なくとも“どの層の話か”を整理できます。ここでの目的は、手元で原因を断定することではありません。公式情報が足りないときに、憶測へ飛びつかないことです。

復旧しても原因は空欄のまま ​

今回確認できるのは、午前8時55分ごろの発生、午後8時すぎのインターネット接続サービス復旧、問い合わせ窓口の混雑です。原因は調査中です。復旧したからといって、SNS上の有力説が自動的に正解へ昇格するわけではありません。

ニュースを読むときは、「ネットが使えない」を一枚の故障にしない。Wi-Fi、アクセス回線、DNS、相手のサービス、そして事業者の案内経路まで、役割の違う層が重なっていると知る。それだけで、「Wi-Fiマークがあるのになぜ」「DNSを変えた人がいるから原因はDNSだ」といった早合点をかなり減らせます。

まとめ ​

9月23日のJCOM障害は午前8時55分ごろから発生し、JCOMは午後8時すぎにインターネット接続サービスの復旧を発表しました。原因は調査中で、カスタマーセンターにも電話がつながりにくくなりました。

中心問いへの答えはこうです。「ネットが使えない」は、何層もある仕組みの最後に見える共通の症状だから、回線そのものの切断とは限らない。 Wi-Fiが生きていても回線の先で止まり、回線が生きていてもDNSで名前を引けず、さらに公式情報へ行く窓口まで混みます。ネットは一本のひもではなく、係の違うリレーなんです。バトンがどこで止まったかは、公式の調査結果を待って見極めましょう。

Sources ​