「札幌が副首都へ前進」と聞くと、つい地図の上に新しい肩書きが貼られる話に見えます。でも、本当に大事なのはラベルではありません。東京が大きな災害で止まった日に、国の仕事を札幌でどこまで回せるのか。その現場力です。看板だけ立派でも、電話、データ、職員、電力が動かなければ、国版の避難訓練で名札だけ配って終わる感じになります。

TBS NEWS DIG / 北海道放送は8月18日夜、北海道と札幌市が副首都構想で専門部署を設置し、申請に前向きだと伝えました。今回の本題は、大阪との競争や政治的な好き嫌いではありません。札幌が本当に「首都中枢機能の全部または大部分」を一定期間代替するなら、何が必要なのかです。

【副首都構想】北海道と札幌市が専門部署設置で申請に前向き…専門家からは「人口減少の時代にいらない」疑問の声も  議論は生煮え? | TBS NEWS DIG (1ページ)
【副首都構想】北海道と札幌市が専門部署設置で申請に前向き…専門家からは「人口減少の時代にいらない」疑問の声も 議論は生煮え? | TBS NEWS DIG (1ページ)

災害やテロに備えて首都に代わる場所を東京以外に整備する副首都構想。北海道と札幌市は、18日、専門部署を設置し申請に前向きですが、その効果に疑問を投げかける専門家もいます。午後5時から直接会談を行った鈴… (1ページ)

今回の登場人物

  • 副首都: 大規模災害で東京圏が首都中枢機能を維持しにくい時に、その全部または大部分を一定期間代替し、多極分散型経済圏の中核にもなる道府県です。
  • 首都中枢機能: 政治、行政、司法、危機管理、経済運営など、国の中心で止まると困る機能のまとまりです。
  • 指定: 総理が「ここを副首都にする」と告示する手続きです。ただし指定された瞬間に機能が生えるわけではありません。
  • BCP: 事業継続計画。災害時でも重要業務を止めないための手順書です。副首都は国全体の BCP に近い話です。
  • 政令: 法律の大枠を受け、内閣が細かい要件を定めるルールです。副首都の具体条件も今後ここで詰められます。

何が起きたか

HBC の記事によると、北海道と札幌市は副首都構想をめぐり専門部署を設け、申請に前向きです。記事は、副首都の要件を政府が今後、人口や経済規模などを基準に政令で定め、総理が都道府県を指定すると説明しています。また、専門家コメントとして、人口減少時代に一か所の副首都が本当に必要なのか、目的が曖昧ではないか、という疑問も紹介しました。

ここでまず線を引きます。現時点で、北海道・札幌が正式に申請した、要件が政令で確定した、どの省庁機能を移すかが決まった、という確認までは取れていません。確認できるのは、道と市が副首都指定を目指す姿勢を示し、専門部署や連絡調整の枠組みを進めていることです。

一方、北海道の公式ページは7月29日時点で、北海道・札幌が副首都指定に向けて協議を進めていると説明しています。知事会見でも、首都圏との同時被災リスクの低さや国の出先機関の集積を理由に適地だとの見方が示されました。つまり「関心」や「意欲」は確かにある。でも、それと「機能する」は別の到着点です。

ここが本題

副首都を本気で考えるなら、質問は一つです。札幌で、東京の止められない仕事をどこまで、どの速さで、どの安全性で引き継げるのか。

この問いに答えるには、建物があるかより先に、業務の棚卸しが要ります。危機管理、閣議補佐、各省庁の基幹判断、予算執行、金融・物流の情報連携、国会や裁判所との接続、自治体との調整。どの仕事を何時間以内に代替し、どの仕事は東京復旧まで待てるのか。まずそれを決めないと、「副首都」の中身はただの気合いになります。

副首都は、観光都市に勲章を足す話ではありません。国の仕事の非常用配線図を、東京以外にも作る話です。

指定と稼働は別の話

7月成立の副首都関連法は、指定と整備の枠組みを作りました。ただし以前この repo で扱った通り、法律ができたから即日でどこかが副首都として動くわけではありません。指定要件は政令で詰められ、道府県の申出、議会の議決、総理の指定、その後の整備方針という段階があります。

しかも、指定されたとしても、それで国の仕事が回る保証にはなりません。ここが一番よく誤解される点です。学校の避難所を紙に書いただけでは避難できないのと同じで、国のバックアップ拠点も、名前より運用のほうがずっと重い。

通信回線、認証基盤、データ複製、職員の参集手段、家族の滞在環境、災害時の医療、空港と鉄道の維持、発電所と送電網、衛星回線、民間クラウドとの契約、警備体制、記者会見設備。こういう地味な装備が一つでも抜けると、会議室があっても国は回りません。

札幌に必要なのは「遠いこと」だけではない

北海道・札幌の強みとしてよく挙がるのは、東京圏との同時被災リスクが比較的低いことです。これは大事です。首都直下地震や南海トラフ巨大地震の議論を考えると、同じ帯に全部集めるのは危ない。

ただし、「東京から離れている」だけでは副首都になりません。離れているだけなら、ただ遠いだけです。重要なのは、その距離の中で国の意思決定を止めずにつなげる設備があるかです。

たとえば、各省庁の重要データは平時からどこまで複製されるのか。重要会議の承認権限は誰がどこで代行できるのか。東京で通信障害が起きた時、札幌側は独立して発信・受信できるのか。首都機能の代替は、地理より先に配線の問題です。電源タップが足りなければ、広い部屋でも仕事が始まらないのと少し似ています。スケールはぜんぜん笑えませんが。

職員が来られるか、家族が暮らせるか

副首都論で見落とされがちなのが、人の移動と生活です。政府機能はサーバーだけで動きません。判断する人、処理する人、警備する人、支える家族がいて初めて回る。

大規模災害時に、どの職員が何時間で札幌へ来るのか。来られない場合、札幌に常駐・準常駐のバックアップ人員をどう置くのか。宿泊施設、保育、学校、医療、食料、燃料は足りるのか。ここまで考えないと、「引っ越せば何とかなる」話になってしまいます。

企業の BCP でも、本社機能の代替拠点は机だけでは成立しません。副首都はその国版です。しかも民間より複雑です。総理周辺だけでなく、複数省庁、自治体、インフラ事業者、警察、消防、自衛隊、金融機関までつながるからです。

訓練しない副首都は、たぶん紙の上だけ

本当に重要なのは訓練です。年に一度でも、東京の一部機能が止まった想定で、札幌側へ権限とデータと会議を実際に切り替えられるか。通信が遅れたらどうするか。職員が欠けたら誰が代替するか。電力が不安定ならどの業務を優先するか。

この訓練がない副首都は、たぶん本番で動きません。避難訓練をしていない学校の非常口みたいなもので、場所は知っていても流れは体に入っていないからです。

だから今後の見どころは、札幌が指定されるかどうかだけではありません。どの国機関のどの業務を、平時からどれだけ実装し、何回訓練し、その結果どこを直すかです。ニュースの焦点は、政治の旗より手順書の厚さへ移るべきです。

日本の読者にとっての意味

この話は北海道のご当地ニュースだけではありません。首都機能が東京に寄りすぎているなら、災害時に全国へ返ってくる問題だからです。行政判断が止まれば、自治体支援、物流、金融、社会保障、治安、外交まで遅れます。

だから副首都論を「大阪か札幌か」の応援合戦だけで読むと薄い。読者が見るべきは、国が自分の BCP をどこまで本気で組み直すのかです。札幌が候補なら、同時被災リスクの低さに加え、通信、電力、交通、データ、人員、訓練の準備をどこまで詰めるのかが問われます。

まとめ

HBC が伝えた今回の副首都ニュースは、北海道と札幌市が専門部署を置き、申請に前向きだという段階です。そこ自体は前進です。ただし、副首都の本当の勝負は指定の前後にあります。

中心の答えはこうです。札幌が副首都になるなら必要なのは、名前より先に、東京が止まった日に国の仕事を回すための通信、データ、電力、人員、生活基盤、そして訓練です。指定と稼働は別物で、後者まで詰めないと副首都はポスターで終わります。

Sources