モバイルバッテリー規制のニュースを見て、「丸いPSEが菱形になるらしい」で終えると、たぶん大事なところをかなりこぼします。マークの形は見た目の話ですが、本題は見た目じゃありません。誰の自己申告で市場に出せるのか、誰の確認を通って初めて売れるのか。その責任の置き場所が動こうとしているんです。
テレ朝NEWSが2026年8月31日夜に報じたのは、発火事故が相次ぐモバイルバッテリーについて、第三者機関による検査の義務化など、安全規制を強化する方針が決まったという話です。ここでの中心問いはシンプルです。なぜ今、メーカーの自主確認中心のPSEから、第三者検査つきのPSEへ重心を移すのか。答えは、事故が増える市場で「安全でした」の言い方だけでは足りなくなっているからです。

発火事故が相次ぐモバイルバッテリーについて、第三者機関による検査の義務化など安全規制を強化する方針が決まりました。 モバイルバッテリーを巡っては発火事故の件数が2021年の51件から去年は192件と
今回の登場人物
- PSEマーク: 電気用品安全法にもとづく表示です。電気製品が国の定めた安全ルールに沿って販売される前提を示す札みたいなものです。ただし、付いていれば未来永劫ノーミス、という魔法の印ではありません。
- 丸形PSE: 「特定電気用品以外」の製品に使われる表示です。現在、リチウムイオン蓄電池はこの区分に入っており、事業者が自ら技術基準適合を確認して表示します。
- 菱形PSE: 「特定電気用品」に使われる表示です。危険のおそれが高い製品向けで、登録検査機関による適合性検査が必要になります。
- 経済産業省: 電気用品安全法を所管する役所です。モバイルバッテリーの規制見直しや、事故防止策を進めます。
- NITE: 製品評価技術基盤機構です。製品事故情報を集めたり、注意喚起をしたりする機関で、事故の傾向を見るうえで重要なデータ元です。
- 登録検査機関: 特定電気用品について、第三者として適合性検査を行う機関です。いわば「作った人の自己採点だけではなく、外部採点も必要にする」仕組みの担い手です。
何が起きたか
テレ朝NEWSによると、経済産業省の審議会は2026年8月31日、発火事故が相次ぐモバイルバッテリーについて、第三者機関による検査の義務化など法規制を強化する方針を決めました。記事では、発火事故件数が2021年の51件から2025年には192件へ急増したと伝えています。
同記事は、製造工程での異物混入などが確認されていることを背景として挙げています。現在はメーカーの自主検査による丸形のPSEマークが表示されていますが、今後は第三者の検査を受けた菱形のPSEマークが必要になる方向です。政府は今後、具体的な品質基準を定めたうえで、2026年度中に政省令を改正し施行する方針だと報じられています。
ここでまず大事なのは、「PSEがあるのに事故が増えたの?」という疑問を素通りしないことです。そこ、いい引っかかりです。むしろそこからが本題です。
ここが本題
今回の規制強化は、「PSE制度があるのに事故が増えているなら、どこを変えるべきか」という問いへの答えです。そして政府が動かそうとしているのは、単純な注意喚起ではなく、「誰が安全を証明するか」という責任の置き方です。
経産省の資料では、現在のリチウムイオン蓄電池は「特定電気用品以外」の電気用品です。この区分では、事業者が技術基準への適合を確認し、丸形PSEを表示して販売します。もちろん好き勝手に売ってよいわけではありませんが、基本の入口は“自分で確認して、自分で表示する”方式です。
一方、特定電気用品は、危険が生じるおそれが高い製品として位置づけられ、登録検査機関による適合性検査が必要です。こちらが菱形PSEです。つまり今回の見直しは、「作った人が確認しました」中心の世界から、「外部の検査を通ってください」中心の世界へ、ゲートの作りを変えようとしているわけです。
丸から菱形へ、というとロゴの話みたいですが、実態はロゴデザイン会議ではありません。責任の通し方の会議です。
なぜ自主確認では足りないのか
では、なぜそこまで変える必要が出たのか。理由は大きく2つあります。事故の増え方と、事故原因の性質です。
まず件数です。テレ朝NEWSは、モバイルバッテリーの発火事故が2021年の51件から2025年の192件へ増えたと報じました。NITEも、2021年から2025年までの5年間で、リチウムイオン電池搭載製品の事故が2,140件あり、製品別ではモバイルバッテリーの事故が最も多いとしています。しかも事故は春から夏に増え、8月にピークを迎える傾向があるとされます。暑いと人間もしんどいですが、電池もわりとしんどいんです。
次に原因です。経産省やNITEの説明では、製造時の異物混入や電極体の巻きズレのように、作る段階の異常が事故につながる場合があります。もちろん落下や高温放置といった使い方の問題もあります。ただ、製造段階に由来する事故が目立つなら、「使い方に気をつけよう」だけでは片手落ちです。市場に出る前の確認を、もう少し外から厳しく見る必要がある、という発想になるのは自然です。
要するに今回の見直しは、消費者の注意力に全部を背負わせる方向ではなく、販売前のゲートを重くする方向なんです。
ただし「第三者検査なら絶対安全」ではない
ここで逆に気をつけたい誤解もあります。第三者検査になるなら、もう安心して何でも買えるのか。そこまで言うと、また話が雑になります。
第三者検査は、事業者の自己確認だけに頼らないぶん、入口の信頼性を高める効果が期待できます。でも、それで事故がゼロになるとは言えません。電池は、製造不良だけでなく、落下、圧迫、高温、非純正充電器との組み合わせなど、使われ方でも傷みます。経産省も、PSEの確認に加え、リコール情報の確認や、高温環境を避けること、衝撃を与えないことを呼びかけています。
つまり責任は移るけれど、消えるわけではありません。メーカーや輸入事業者の責任が消えるわけでもないし、消費者の注意が不要になるわけでもない。変わるのは、「市場に入る前の証明を、自己申告中心から第三者確認つきへ寄せる」という重心です。
日本の読者にとっての意味
このニュースが日本の読者にとって重要なのは、モバイルバッテリーが特別な人だけの道具ではないからです。通学、通勤、旅行、災害時の備え。もう生活インフラの端っこにしっかり座っています。だから規制の変更は、ガジェット好きの小話ではなく、ふつうの人の安全の話です。
読み方のコツは、「PSEがあるかないか」だけで終えないことです。これからは、PSEの形が何を意味するのか、そこに第三者検査が入っているのか、という“証明の中身”を見る必要が出てきます。見た目は小さなマークでも、中身は「誰が責任を背負って市場に出したか」の表示なんです。
高校生向けに言い換えるならこうです。今回の規制強化は、「宿題やった」と本人が言うだけの状態から、「先生にも見せてから提出してね」に近づける話です。もちろん先生が見てもミスはゼロじゃない。でも、自己申告一本よりは、だいぶマシですよね。
まとめ
モバイルバッテリー規制の本質は、丸形PSEが菱形PSEになる見た目の変化ではありません。メーカーの自主確認中心だった仕組みから、第三者検査を通した証明へ重心を移し、「誰が安全を確認したのか」を厳しくすることです。
事故件数が増え、製造工程の異常も問題になるなかで、「使う側が気をつけて」で済ませない方向へ進むのは自然です。ただし、第三者検査は万能ではありません。今回のニュースは、絶対安全の宣言ではなく、責任の入口を重くし直す話として読むのがいちばん正確です。