モバイルバッテリーのニュースを見ると、つい「安物は危ないんでしょ」で話を片づけたくなります。気持ちは分かります。けれど今回の話で本当にぞっとするのは、値札の安さそのものより、事故が起きたあとに「誰が作ったの」「どこに連絡すればいいの」「同じ製品をまだ売ってない?」が追えなくなる流通なんです。
CBCテレビの記事は、粗悪なモバイルバッテリー問題を追う中で、表示の怪しさだけでなく、事業者の実体が見えにくい販売の穴を報じました。ここが本題です。発火をゼロにする魔法はなくても、事故のあとに止血できる流通は作れる。逆にそこが壊れていると、制度は名札だけ付いていて、肝心の連絡先が機能しない状態になりかねません。

去年1年間で起きたモバイルバッテリーによる火災は482件(ゴミ収集車・ゴミ処理施設からの出火を除く)。年々急増している中、通販サイトに出回る“粗悪品”が問題となっています。私たちは、半年にわたって海外製… (1ページ)
今回の登場人物
- PSEマーク: 電気用品安全法にもとづく表示です。ざっくり言うと「安全ルールに従って販売する前提に乗っています」という入口の札で、絶対安全の免罪符ではありません。
- 経済産業省: 電気用品安全法を所管する役所です。モバイルバッテリーの表示ルールや、連絡が取れない事業者の公表、リコール情報の案内を担います。
- 製造・輸入事業者: モバイルバッテリーを日本で作るか、日本に持ち込む側です。経産省のFAQでは、対象となるモバイルバッテリーの製造・輸入事業者には届出が必要で、2019年2月1日以降はPSEマークがない製品を販売できません。
- リコール: 不具合が見つかった製品を回収したり、交換したり、使用中止を呼びかけたりする仕組みです。事故を「起きたら終わり」にしないための、大事な非常口みたいなものです。
何が起きたか
今回の入口記事は、CBCテレビが2026年8月9日8時30分に配信した続報です。前提として、2025年にはモバイルバッテリーの火災が482件起きています。記事の集計では、ごみ収集車やごみ処理施設の中で起きた分を除いた件数です。つまり「捨て方の問題」だけを数えているのではなく、持ち歩き、使い、充電する日常の近くで、すでにかなり事故が起きているわけです。
前段の調査では、CBCが6製品を買って調べ、OKIエンジニアリングがそのうち5製品に安全関連の4試験を実施したところ、異常は確認されませんでした。一方で、6品中5品は表示容量に届かず、1品は表示の約10分の1程度でした。ここ、ちょっとややこしいんですが大事です。
容量が足りないことは、「表示が当てにならない」ことは示しても、そのまま「すぐ発火する」とは言えません。逆に、安全試験で異常が出なかったことも、「完全に安全」とまでは言えません。テスト結果と、表示の正しさと、長期の事故リスクは、きれいにイコールで結ばれないんです。現実、そういうところがやっかいなんですよね。
そのうえでCBCは、経産省が2026年6月に公表した、電話とメールを計3回試みても連絡が取れなかった事業者リストに注目しました。32社について登記を取り寄せて住所を訪ねたところ、7社は移転済みだったり、空きテナントだったりしたと報じています。中には4階で登記されているのに建物は3階建て、という例も紹介されました。現実なのに、にわかには信じがたい話です。
容量と安全試験のズレ
ここで「容量不足なら危険」「PSEがあれば安心」と二択にすると、話を浅く見ます。今回の調査が示したのは、むしろその単純な見方では足りないということです。
表示容量が大きく盛られていれば、消費者は性能を誤認します。これはそれだけで問題です。ただ、性能の誇大表示と発火リスクは同じ話ではありません。一方、安全試験で目立つ異常が出なかった製品でも、流通経路や表示責任があいまいなら、事故が起きたときの追跡は別のところで詰まります。
要するに、今回いちばん怖いのは「買った瞬間の当たり外れ」だけではなく、「外れだったと分かったあとに社会が動けるか」なんです。ここを見ないと、テスト結果の一行に安心しすぎたり、値段の一行に恐がりすぎたりして、論点がすべります。
PSEは入口
経産省のFAQによると、対象のモバイルバッテリーは製造・輸入事業者の届出が必要で、2019年2月1日以降はPSEマークなしでは販売できません。さらに、PSEの近くには届出事業者名、定格電圧、定格容量の表示が必要です。
ここでのPSEは、たとえるなら遊園地の入場ゲートです。ゲートを通るにはルールがある。でも、ゲートがあることと、園内の全部が永遠に無事故だという話は別です。だからPSEを見るのは大事。でもPSEだけ見て終わると、入口で満足して本編を見ずに帰る人になってしまう。
今回の論点では、PSEの有無以上に、その表示に書かれた事業者名や連絡先が、事故後の追跡に耐えるかが重要です。表示があっても、連絡がつかない。所在地が実態とずれる。そうなると、回収の呼びかけも、事故原因の分析も、同じ製品がまだ売られていないかの確認も弱くなります。
追えないとリコールが詰まる
経産省は、対象製品なら使用を中止し、販売店や製造・輸入事業者へ相談し、リコール情報を確認するよう呼びかけています。これ自体はまっとうです。問題は、その相手にたどり着けるかどうかです。
経産省のオンライン取引に関するページも、所在地や連絡先が分からない販売事業者がいること、そうなると法令順守の確認や事故分析が難しくなること、海外からの直販では違反製品があることを課題として挙げています。つまり役所の側も、「ネットで売られる物は、事故後に責任の糸をたぐりにくい場合がある」と見ているわけです。
リコールは、告知を出したら自動で回る機械ではありません。誰の製品か分かる。連絡先が生きている。販売経路が追える。そういう地味だけど超重要な土台があって初めて動きます。ここが抜けると、火事のあとに消火器の説明書だけ渡されるようなもので、肝心の対応先に届かない状態になります。
買う側が見る場所
では消費者は何を見ればいいのか。まず、PSEマークの近くにある事業者名、定格電圧、定格容量の表示です。次に、商品ページや梱包で問い合わせ先を確認できるかどうかです。これだけで事業者の実在性や製品の安全性まで断定はできませんが、事故後にどこへ連絡するのかを買う前に確かめる材料にはなります。
次に、リコール情報です。経産省は製品安全ガイドでリコール情報を公開しています。買う前も、使っている途中も、ときどき確認する価値があります。モバイルバッテリーは毎日持ち歩くぶん、問題が起きたときの距離が近い。ポケットの中で社会問題と密着しなくていいんです。
ただし、ここを全部「自己責任」で片づけるのも違います。通販の画面だけで事業者の実在性を見抜けと言われても、消費者には限界があります。見分ける努力は必要。でも、追跡できる表示を徹底させること、問題のある出品に対応すること、事故情報と販売情報をつなぎやすくすることは、制度やモール側の宿題です。
制度とモールの意味
この問題は、個人の買い物術の話で終わりません。事故が起きたあとに追えない商品が広く流通すると、法令に沿って届け出て表示している事業者との公平な競争も損なわれかねません。それは市場としてかなり困る構図です。
だから大事なのは、「安い物に気をつけよう」で終わらず、「事故後に責任の線が切れない流通をどう作るか」を見ることです。モールには出品者確認や問題のある出品への対応が問われるし、行政には連絡不能事業者の公表に加え、消費者が販売ページの時点で判断しやすい情報設計も求められます。
値段は目に入りやすいです。でも、本当に見るべきなのは、事故が起きたあとに名前が残るか、連絡がつくか、回収の声が届くか。ニュースの怖さは、だいたい派手な炎の手前より、そのあと責任が霧みたいに消える瞬間に宿るんです。
まとめ
今回の粗悪モバイルバッテリー問題で怖いのは、安さそのものではありません。容量表示の怪しさやPSE表示の有無も大事ですが、もっと深い論点は、事故後に製造・輸入事業者を追いにくく、リコールや再発防止が進みにくくなる流通です。
PSEは入口として重要です。でも入口だけでは足りません。事業者名や連絡先が実態に結びついているか、リコールにつながる責任の線が切れていないか。そこまで見て初めて、「安全に買う」が少し現実的になるわけです。