「パジェロ復活」と聞くと、つい昔の人気車が帰ってきた話だと思いますよね。もちろんそれは半分当たりです。1982年に始まった名前ですし、日本仕様は2019年、海外向け仕様は2021年に生産を終えていますから、「おかえり」と言いたくなる気持ちはよく分かります。けれど今回の本題は、そこじゃないんです。三菱自動車が見せたのは、懐かしい名前を棚から下ろしてきました、という話より、「これからのSUVの並べ方を変えます」という宣言のほうでした。
しかも、その宣言はかなり具体的です。新型パジェロは単なる新車ではなく、会社が「フラッグシップ」と呼び、さらに今後出していく「パジェロシリーズ」の第1弾だと位置づけられました。つまり、スター選手一人の復帰というより、チーム全体の組み立てを変えていく作戦です。代打の切り札というより、打線の組み替えに近い。そう見ると今回の発表の狙いが見えやすくなります。

三菱自動車工業は9月2日、グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール(東京都港区高輪)において新型クロスカントリーSUV「パジェロ」のワールドプレミアイベントを開催した。
今回の登場人物
- パジェロ: 三菱自動車のクロスカントリーSUVです。悪路に強い本格SUVとして育ってきた看板車で、今回の新型はその最新世代です。
- フラッグシップ: 会社やブランドの顔になる最上位モデルのことです。「うちの実力はこれです」と前に出す看板役ですね。
- パジェロシリーズ: 今回、三菱自動車が打ち出した考え方です。一台だけの名前復活ではなく、パジェロを軸に複数のSUVへ広げていく構想を指します。
- 中期経営計画: 数年単位で「どこで、何を、どう売るか」を決める会社の設計図です。気合いの標語ではなく、投資や商品計画の土台になります。
- ラダーフレーム: はしごのような骨格の上に車体を載せる構造です。悪路に強い本格SUVや商用車で使われ、今回のパジェロの性格を表す要素です。
何が起きたか
Car Watchは9月3日、三菱自動車が前日に新型パジェロを世界初公開したと報じました。パジェロは1982年に初代が登場し、4世代の累計生産台数は329万台を超え、170以上の国と地域で親しまれてきた車名です。
今回の新型は、2.4リットルのディーゼルターボ、最高出力150キロワット、最大トルク480ニュートンメートル、8速オートマチック、最低地上高230ミリといった本格SUVらしい仕様を備えています。ここだけ見ると「ごつくて頼もしい新型ですね」で終わりそうです。でも今回は、そこだけで読むと少しもったいない。
大事なのは、会社の説明の仕方です。三菱自動車はこの新型をフラッグシップと呼び、「この後に続くパジェロシリーズ」の第1弾と説明しました。Car Watchが伝えた発表イベントの説明では、今後はコンパクトSUVやスモールSUVも含む「パジェロシリーズ」を構想しているとされます。つまり今回のニュースは、「大きなパジェロが出ました」だけではなく、「パジェロという看板の下にSUV群を並べ直します」という話なんです。
本題
では、なぜ三菱自動車は「懐かしの復活」で終わらせず、シリーズ戦略として見せたのか。
答えはかなりシンプルです。一台の人気に頼るより、ブランドの意味を広げたほうが会社全体の戦い方になるからです。人気車の復活は話題になります。でも話題だけだと、発売の瞬間に花火が上がって終わることもある。そこで三菱自動車は、「パジェロ」という名前を一車種の名札ではなく、SUV群の基準点として使おうとしているわけです。
中期経営計画でも、2026年度から2029年度にかけて「特色ある商品への集中」が強調されています。言い換えると、何でも満遍なく並べるより、「三菱らしい」と分かる商品に資源を寄せる方針です。その流れの中でパジェロシリーズを見ると、筋が通ります。悪路性能、信頼性、冒険へ出る道具らしさ。本格SUVとして長く積み上げたイメージを、ゼロから新しい名前で育て直すのではなく、パジェロに集めるわけです。
一台より棚で売る
ここで言うシリーズ戦略は、「大中小をそろえます」という単純なサイズ展開だけではありません。もっと大事なのは、買い手が車の違いと共通点を理解しやすくなることです。
たとえば大型の本格SUVがパジェロで、その周辺にコンパクトSUVやスモールSUVが並ぶとします。全部が同じ車になるわけではないけれど、「パジェロらしい価値を持つ仲間」として見せやすくなる。売り場で商品がばらばらに置かれているより、「この棚はこういう家族です」と示されたほうが、初めて見る人にも分かりやすい。車名が、型式を見分ける札から、選ぶための地図へ変わるんですね。
三菱自動車は、新型パジェロを2026年度に生産拠点のタイを皮切りに、日本、オーストラリアへ投入し、次年度以降に東南アジア、中南米、中東など世界およそ100カ国へ順次広げる計画です。これは一台の車をどこで売るかという話であると同時に、どの市場へ、どの看板を持っていくかの設計でもあります。看板が強ければ、後ろに並ぶ商品も見てもらいやすい。スーパーで、知らない調味料より定番ブランドの新商品が手に取られやすいのと少し似ています。身近なたとえですが、案外ここが本質です。
仕様は土台だ
もちろん、新型そのものがフラッグシップにふさわしい中身を持たなければ、この戦略は空回りします。だからラダーフレーム、2.4リットルディーゼル、150キロワット、480ニュートンメートル、8速オートマチック、最低地上高230ミリといった数字には意味があります。「旗だけ立派で中身は軽い」では、シリーズの親玉になれませんからね。
ただし、これらの数字自体が今回の中心ではありません。エンジン出力や最低地上高は、フラッグシップと呼ぶ根拠にはなる。でも、三菱自動車があえて「シリーズの第1弾」と言った意味はその先にあります。性能を見せるのは入口。本題は、その性能とイメージを持つ車名を、商品群全体の軸に据えることです。
シリーズ化には難しさもあります。コンパクトや小型のSUVを増やしたとき、本格SUVとしてのパジェロらしさをどこまで共通させるのか。名前だけ貼って、乗り味も使い方もばらばらなら、かえって看板が薄くなります。今回示されたのは方向であって、各車の詳細や発売時期まで出そろったわけではありません。成功を先回りして祝う段階ではないんです。
日本の読者にとっての意味
日本の読者にとって重要なのは、「パジェロが戻る」以上に、「三菱自動車がどこで勝負を絞る会社なのか」が見えやすくなったことです。自動車ニュースは新型の見た目やスペックに目が行きがちですが、会社がどの名前に投資し、どの市場へどう広げるかを見ると、次に何を重ねようとしているかまで読めます。
今回は、タイ、日本、オーストラリアを先行市場とし、その後に東南アジア、中南米、中東へ広げる計画が示されました。ここからうかがえるのは、世界のどこでも同じ売り方をするというより、三菱の強みが通じやすい地域からパジェロを軸にSUV戦略を組み立てる姿です。ただし、実際にシリーズがどうそろい、買い手に共通の価値が伝わるかはこれからです。
懐かしい名前の再登場を喜ぶだけでも楽しい。でも、そこだけ見ていると、会社の次の一手を読み損ねます。ニュースは、たまに名札の下にある設計図まで見せてくれるんです。
まとめ
新型パジェロのポイントは、人気車の復活そのものではありません。三菱自動車がパジェロをフラッグシップに据え、今後のシリーズの第1弾として打ち出したことです。
つまり会社は、一台のノスタルジー商品ではなく、SUVの商品群をパジェロという強い看板で束ねようとしている。新型の本格的な仕様はその土台であって、本題は名前の働かせ方にあります。「昔の名車が帰ってきた」で読むと半分、「三菱はSUVをどう並べ直すのか」で読むと全体が見える。そこが今回のいちばん面白いところなんです。