ドイツ東部ザクセン=アンハルト州の州議会選挙で、AfDが約44%を得て第1党となる見通しです。「それならAfDの州政府ができるんだね」と思いますよね。うん、そう急ぎたくなる数字です。

でも、ちょっと待って。ここは選挙速報の次のページをめくるところです。第1党になることと、州首相を選べることは別です。今回の本題は、得票率44%の大きさを薄めずに、「勝った」と「政府をつくった」の間にある議会の算数を確かめることです。

Far-right AfD wins key German state election but may fail to secure majority
Far-right AfD wins key German state election but may fail to secure majority

Projections show Alternative für Deutschland on 44.4% of vote in Saxony-Anhalt after huge turnout, with votes still being counted

今回の登場人物 ​

  • AfD: 「ドイツのための選択肢」という政党。今回、暫定集計と報道機関の予測で最大勢力になっている。ただし、最大勢力と州政府は同じ意味ではない。
  • 州議会(Landtag): 州の法律や予算を審議し、州首相を選ぶ議会。有権者が配った議席に、もう一度仕事が回ってくる場所だ。
  • 州首相: 州政府を率いる人物。有権者が直接選ぶのではなく、州議会議員が無記名投票で選ぶ。
  • CDU: 今回の予測でAfDに次ぐ勢力。AfDとの協力を拒む立場を示している。
  • BSW: 予測では議席を得る政党の一つ。多数派づくりの計算を左右しうるが、どこかとの連立が決まったわけではない。
  • Brandmauer: 直訳すれば「防火壁」。AfDとは協力しないという政治上の線引きで、法律で鍵をかけた扉ではない。

何が起きたか ​

The Guardianは9月6日、AfDが州議会選挙で約44%を得て第1党になるとの出口調査を報じました。ただし、記事を読むときは見出しの “wins” に「確定」の判子を押さないこと。確認時点の州選管ページは、2661投票区のうち2660投票区を数えた中間結果と表示していました。

議席も同じです。ZDFが同日23時22分に示した予測は、AfDが39議席、州議会全体が83議席、過半数が42議席でした。さて、39、83、42。ここではこの三つを別々の引き出しに入れてください。39はAfDの予測議席、83はその予測での総議席、42は州首相を最初の投票で選ぶのに必要な過半数です。

州の公式FAQによると、通常の83議席のうち41議席は選挙区で選ばれ、議席配分には原則5%の得票条件も関わります。予測で5%付近にいる政党が線を越えるかどうかは、単なる小数点の話ではありません。州議会に誰が座り、多数派の組み合わせがいくつ残るかを動かします。

州議会の通常の基準議席は83ですが、小選挙区の結果による超過議席と調整議席で総数が増える場合があります。だから最終議席が動けば、過半数の線も動きます。いや、電卓は便利ですが、開票より先にゴールテープを切らせてはいけません。

三つの速報 ​

選挙の夜に出てくる数字には、いくつか種類があります。まず出口調査は、投票所を出た有権者への調査から全体を推し量るもの。次に報道機関の予測は、出口調査や開票データを使い、最終的な得票や議席を見積もります。そして中間結果は、選管が実際に集計した票を途中段階で示すものです。

どれも選挙を早く理解するために役立ちますが、同じ札ではありません。出口調査に「開票結果」、議席予測に「確定議席」と書き換えたら、ニュースの速度は上がっても精度が置いていかれます。今回なら、約44%という大勢、39議席という予測、選管の中間結果をそれぞれラベル付きで使うのが安全です。

中間結果だから価値がない、という話でもありません。ほぼ全投票区の開票を反映し、大勢を知る材料にはなります。ただし正式な確認手続きが残っている以上、記事の動詞は「決まった」ではなく「見通し」「予測」「中間結果」と一段ずつ選ぶ。小さな言葉ですが、ここが記事のブレーキです。ブレーキは遅く走るためではなく、曲がり角をちゃんと曲がるためにあります。

一位と多数派 ​

選挙は、まず各党に議場の座席を配ります。けれど州政府のトップを決めるのは、その座席に着いた議員による次の投票です。最大の一団になっただけでは、委員長席まで自動で付いてこない。教室の席替えに、そんな豪華特典はありません。

今回の予測でAfDは39議席。単独では42に3議席足りません。ほかの会派から州首相候補への票を得るなどしなければ、最初の投票では過半数に届かないわけです。

じゃあ、AfDとBSWの39プラス5で44だから決まりか。これも早い。足し算ができることと、二つの党が候補者や政策で合意することは別です。逆に、AfD以外の5党も予測議席を合計すると44になりますが、こちらも電卓の上で即席の連立政府が生まれるわけではありません。政治は算数を使います。でも、算数だけでは動きません。そこが少々ややこしく、かなり大事です。

ここでもう一つ。州首相候補へ票を入れることと、その候補が所属する党と正式な連立を組むことも同じではありません。候補者への協力、投票での棄権、閣内に入る連立では意味が違います。今回は無記名投票なので、表向きの議席の足し算だけで個々の投票を完全には読めません。だから報道で「連立の可能性」と「州首相選挙で票を得る可能性」を見かけたら、いったん別の棚に置く必要があります。

州首相を選ぶ手順 ​

州憲法65条では、州首相を州議会が討論なしの無記名投票で選びます。最初は全議員の過半数が必要です。誰も届かなければ、7日以内にもう一度選挙を行います。

それでも決まらない場合、州議会はさらに14日以内に任期を途中で終えて選挙をやり直すかを判断します。解散が過半数を得なければ、直ちに次の州首相選挙へ進み、今度は投じられた票の過半数を得た人が選ばれます。

つまり制度は、「一発で決まらなければ即おしまい」ではありません。段階を踏みながら、多数をつくれる候補を探す仕組みです。新しい州首相が就任するまでは、現州政府が職務を続けられます。州政府の椅子を空席のまま放り出さないための引き継ぎレーンですね。

防火壁は法律ではない ​

さて、ここでBrandmauerが効いてきます。CDUの幹部は選挙後も、AfDとは協力しない方針を改めて示しました。この線が守られるなら、AfDは第1党でも他党の票を集めにくくなります。

ただしBrandmauerは、AfD候補への投票を法的に禁じる条文ではありません。各党が自分たちに課す政治的な約束です。「壁」という名前でも、州議会の建築基準法ではないんです。

BSWも単純な連立札ではありません。ZDFのライブ報道では、BSW側はAfDのウルリヒ・ジークムント氏でもCDUのスヴェン・シュルツェ氏でもない、超党派的な候補を提案しました。AfD側はこれを拒否しています。したがって「BSWがどちらにつくか」だけで筋書きを固定すると、交渉の途中を結末にしてしまいます。

日本からの読み方 ​

このニュースが日本の読者にくれるのは、ドイツ政治の固有名詞だけではありません。選挙結果を見るとき、「どの党が一番多かったか」と「誰が政府をつくれるか」を分ける習慣です。

約44%というAfDの得票見通しは重い。けれど、その重さを正確に読むには、残る議席、過半数、他党の協力方針まで見なければなりません。「第1党だから州政府」「他党が拒否するから絶対に州政府をつくれない」のどちらも、一足飛びです。

次に見る数字 ​

まず州選管の最終得票と最終議席です。州の公式案内では、選挙区委員会が9月14日までに結果を確認し、州全体の第2票の最終結果は9月22日に確定する予定です。予測で5%前後にいる政党が議席を得るかでも、総議席と多数派の組み合わせは変わります。

その次が各党の交渉です。誰を州首相候補にするのか。CDUの協力拒否は維持されるのか。BSWはどんな条件を示すのか。そして州議会の投票がどの段階で決まるのか。ここまで見て、ようやく「選挙で一番だった党」と「州政府を率いる側」の関係が見えてきます。

まとめ ​

AfDは暫定集計と予測で約44%の第1党です。しかしZDFの議席予測は39議席で、過半数は42。州首相を選ぶのは州議会なので、第1党という順位だけでは州政府は決まりません。

覚えておきたいのは、議席を配る選挙と、その議席で政府をつくる交渉は別工程だということ。速報で「勝者」を見たら、次に過半数の線を探す。これだけで、選挙ニュースの解像度はぐっと上がります。

Sources ​