「3号年金を見直す」と聞くと、専業主婦や短時間で働く人のもとへ、明日から国民年金の請求書が一斉に届くような絵を思い浮かべるかもしれません。ここは慌てなくて大丈夫です。2026年9月に始まったのは、実態調査を行い、制度の在り方を検討するための検討会です。廃止日も、新しい保険料も、まだ決まっていません。

本当に動いているのは、「誰を会社員の年金へ移すか」「第3号として残るのは誰か」「事情があって働きにくい人をどう支えるか」という三つの線引きです。ひとまとめにすると制度が急に消える話に見えますが、仕分けるとニュースの温度が正しく分かります。

「3号年金」見直しで何が変わる? 年収130万円未満の“主ふ”ら対象、厚労省が対象縮小に向けた検討会を開始 | TBS NEWS DIG (1ページ)
「3号年金」見直しで何が変わる? 年収130万円未満の“主ふ”ら対象、厚労省が対象縮小に向けた検討会を開始 | TBS NEWS DIG (1ページ)

厚生労働省は9月、年金3号制度の対象縮小に向けた議論を始めました。国民年金では、加入者を3種類に分けていて自営業者などが対象の第1号、会社員や公務員などが対象の第2号、主婦など第2号が扶養する配偶者が対象… (1ページ)

今回の登場人物 ​

  • 第3号被保険者: 厚生年金に入る会社員や公務員などに扶養される、原則20歳以上60歳未満の配偶者です。本人が国民年金保険料を個別に納めなくても、その期間は基礎年金の納付済期間として扱われます。
  • 第2号被保険者: 会社員や公務員など、厚生年金に入る人です。勤務先と本人が保険料を負担します。
  • 第1号被保険者: 自営業者、フリーランス、学生など、第2号にも第3号にも当てはまらない人です。原則として国民年金保険料を自分で納めます。
  • 厚生労働省の検討会: 第3号制度の実態を調べ、今後の制度設計を議論する場です。2026年9月4日に初会合を開きました。決定ボタンではなく、まず設計図を描く机です。

何が起きたか ​

TBS NEWS DIGは9月8日、厚生労働省が第3号被保険者制度の対象縮小に向けた検討会を始めたと報じました。第3号は2025年12月末時点で約610万人。ピークだった1995年度の約1,220万人から半分ほどに減っています。

背景には、共働き世帯の増加や働き方の多様化があります。働いて厚生年金保険料を納める人と、配偶者の扶養に入り本人名義の保険料を納めない人の間で、制度の公平さをどう考えるか。いわゆる「年収の壁」が働く時間を抑えるきっかけになっていないか。長く続いてきた宿題が、あらためて机に載ったわけです。

ただし、検討会の開始は結論ではありません。ここを読み飛ばすと、会議の招集通知を制度廃止のお知らせだと思う、ちょっと気の早い展開になります。

決まったこと ​

まず、すでに法律で決まった部分から見ましょう。2025年の年金制度改正では、短時間労働者が厚生年金に入る範囲を広げることになりました。決まった線と、これから引く線を混ぜないためです。

現在、週20時間以上などの条件を満たす短時間労働者には、勤務先の規模や賃金に関する加入条件があります。企業規模の条件は段階的に緩められ、2027年10月に従業員36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上、2035年10月には企業規模を問わない仕組みへ進みます。月額賃金8万8,000円以上という要件も、2025年改正法で撤廃が決まり、厚労省は2026年10月の撤廃を予定しています。

現在第3号で、適用拡大の対象になった人は、第3号のままではなく、自分の勤務先で厚生年金へ入ります。保険料は本人と勤務先が分けて負担し、将来は基礎年金に厚生年金が上乗せされます。つまり「第3号を名簿から消して、全員を国民年金の自己負担へ放り出す」という一手ではありません。まず会社員側の社会保険へ移る人を増やす設計です。

この適用拡大によって第3号が減ることは見込まれます。けれども、それは第3号制度そのものをいつ、どんな条件で変えるかという次の議論とは別です。決まったレールと、これから引くレールを一本に見せないことが大切です。

130万円だけでは決まらない ​

第3号の説明では「年収130万円未満」がよく出てきます。これは第3号の生計維持関係を認定するための必要条件で、健康保険の被扶養者認定の扱いを踏まえて運用されています。ただし、国民年金の第3号資格と健康保険の被扶養者資格は別の制度です。今回の年金の見直しだけで、健康保険の扶養まで同じ形で変わるとはまだ決まっていません。

年齢、国内居住、配偶者が第2号被保険者であること、生計を主に配偶者に支えられていることなども関わります。制度は男女共通なので、条件を満たす夫も第3号になれます。実際には女性が大多数ですが、「女性だけの制度」と書くと法律上の仕組みを取り違えます。

もう一つ注意したいのが、「106万円の壁」と呼ばれてきた賃金条件です。こちらは短時間労働者が勤務先の厚生年金へ入る条件の話です。130万円は第3号の生計維持認定で意識される基準、月額8万8,000円は短時間労働者が勤務先の厚生年金・健康保険へ入るために現在使われている賃金条件です。似た数字が並びますが、同じ改札ではありません。片方が動いたから、もう片方も同時に消えるとは限りません。

保険料ゼロの中身 ​

「第3号は保険料を払っていない」という言い方には、少し補助線が要ります。第3号本人へ個別の請求がなく、その期間が基礎年金の納付済期間として扱われることは事実です。第3号分を含む基礎年金の費用は、第2号被保険者と事業主が負担する厚生年金保険料や国庫負担を通じ、制度全体で賄われます。

第3号の配偶者だけが、自分の妻や夫の分を追加料金として払っているわけではありません。費用は特定の一家庭の財布だけに結びついていないため、公平さの議論も、特定の家庭同士を単純に比べるだけでは整理できません。

1986年に第3号制度ができた背景には、扶養される配偶者にも本人名義の基礎年金を確保する目的がありました。制度を変えるなら、その所得保障を何で置き換えるのかまで考えなければなりません。看板を外す話と、雨をしのぐ屋根をどう残すかはセットなんです。

これから決めること ​

厚労省が現時点で示しているのは、実態調査を行い、第3号の在り方を検討することです。対象をどこまで狭めるのか、外れた人の保険料や給付をどうするのか、関連制度をどう扱うのかといった具体案は、まだ示されていません。

とくに大事なのが、出産・育児、家族の介護、病気や障害などで十分に働けない人への配慮です。同じ「年収130万円未満」でも、働く時間を自分で調整した人と、働きたくても難しい人では事情が違います。年収という一本の定規だけで切れば、線はすっきりしても、生活の違いをこぼします。

厚労省は2026年度に、学生を除く20〜59歳、年収260万円以下の男女約2万人へのウェブ調査と、第3号を中心とする約70人への詳細な聞き取りを予定しています。家族構成、就業時間、健康状態、介護、制度変更後に働き方をどう変えるかなどを調べる計画です。この調査結果を踏まえて線引きを考えるため、現時点で「子どもが何歳なら残る」「何年後に全廃する」といった答えは出ていません。

読者の生活で見る ​

では、今働いている人は何を見ればいいのでしょう。確認するのは、自分が第3号かどうかだけではありません。週の労働時間、勤務先の規模、賃金、勤務先で厚生年金へ入る時期。ここも一つずつ、別々に見る必要があります。

ここで将来の負担先は、まだ一つに決まっていません。第3号から外れた人が勤務先の厚生年金に入れば、保険料は本人と勤務先が負担し、給付も上乗せされます。勤務先の厚生年金に入らず第1号になる仕組みなら、現行の国民年金保険料は2026年度で月額17,920円を本人が納めます。ただし、対象者をどちらへ移すのか、保険料や給付をどう設計するのかは検討中です。

短時間労働者への適用拡大で勤務先の厚生年金・健康保険へ移れば、給与から本人負担分が差し引かれ、手取りが減ることがあります。一方で、勤務先も保険料を負担し、老齢厚生年金の上乗せに加えて、一定の条件で障害厚生年金や遺族厚生年金の保障も加わります。「負担が増える」だけでも、「将来必ず得する」だけでもありません。いまの手取りと将来の保障を同じ表に載せて考える話です。

今後のニュースでは、制度名より線引きを見てください。誰が厚生年金へ移るのか。誰が第3号に残るのか。残らない人にはどんな負担と保障が用意されるのか。この三問が出ていなければ、「見直し」の中身はまだ半分しか見えていません。

まとめ ​

第3号被保険者の見直しは、即時廃止が決まったニュースではありません。成立済みなのは、短時間労働者への厚生年金適用を段階的に広げ、その結果として第3号から第2号へ移る人も増える仕組みです。

その先にある第3号制度そのものの対象、保険料、給付、育児や介護などへの配慮は、2026年9月に議論が始まった段階です。130万円という一本の線を乱暴に引き直すのではなく、働き方と生活事情の違いをどう制度に写すかが本題になります。

「なくなるのか」だけを追うと、いちばん大事な部分を見失います。見るべきは、誰がどの制度へ移り、負担と保障がどう組み替わるのか。年金の話は漢字が多いですが、問いは意外と生活そのものです。

Sources ​