「おすすめ表示をやめる設定は、ちゃんと用意してあります」。そう言われても、その設定が洞窟の奥にあり、見つけて切り替えてもアプリを閉じたら元へ戻るなら、選べる感じはあまりしません。非常口の看板はある。でも扉が棚の後ろ。いや、それは避難させる気がありますか、という話です。
オーストラリア政府が公表した法案草案は、SNSの主なフィードを、個人向けのおすすめ中心にするか、自分がフォローした相手中心にするか、利用者へ選ばせる構想を含みます。本題は「オプトアウト機能がある」ことではありません。通知で気づけるか、最初から対等に選べるか、選択をアプリが覚えているか。権利を画面の中で本当に使える形へできるかです。
Australian social media users would be given a choice to opt out of algorithms under proposed laws announced by the government.
今回の登場人物
- Digital Duty of Care: デジタルサービスに、予測できる害を調べ、減らすための対応を求める制度案です。事故が起きてから通報を待つだけでなく、サービス側へ先回りの安全管理を求めます。
- My Feed, My Way: SNSで見る主なフィードを利用者が選ぶ、豪州政府の施策名です。おすすめ中心と、自分がフォローした相手中心のフィードを選ぶ構想です。
- レコメンダー機能: 閲覧時間、反応、フォローなどを手がかりに、「次はこれを見そう」と投稿を選び、順番を決める仕組みです。今回「アルゴリズム」と呼ばれている主役です。
- デフォルトフィード: アプリを開いたとき最初に出る主な画面です。選択肢が別の場所にあっても、毎回ここへ戻されるなら、実際の使われ方はデフォルトに強く引っぱられます。
- eSafety Commissioner: 豪州のオンライン安全を監督する独立規制機関です。草案ではDigital Duty of Careの順守を監視し、是正を求める役を担います。
- exposure draft: 議会で成立した法律ではなく、意見を集めるために公開された法案草案です。ここを飛ばすと、未来の予定を今日の決定のように読んでしまいます。
何が起きたか
AP通信は9月8日、オーストラリア政府が、SNS利用者に個人化されたおすすめ表示を使うかどうか選ばせる法案草案を公表したと報じました。
政府の「My Feed, My Way」構想では、SNS事業者が16歳を超える新規・既存ユーザーへ通知を送り、主なフィードを選ばせます。一つは、利用履歴などを使った個人向けのおすすめを含むフィード。もう一つは、友人や自分で選んだクリエイターなど、フォローした相手を中心に見るフィードです。
違反時の最大制裁金は1億920万豪ドルとされています。ただし、この案は9月8日に公開されたexposure draftです。政府は意見募集を経て2026年中に議会へ提出する方針ですが、まだ成立しておらず、利用者の画面がすぐ変わるわけでもありません。話が速いニュースほど、法律のほうはまだ靴ひもを結んでいることがあります。
ここが本題
見落としたくないのは、法律が「選択肢を置け」とだけ言っても、画面の作り方次第で選択をほとんど使わせないことができる点です。
SNSにはすでに、フォローしたアカウントだけを見るタブや、表示内容を調整する設定があります。それでも多くの人が最初に目にするのは、おすすめ中心のフィードです。設定が数段階奥にあったり、アプリを開き直すと元のフィードへ戻ったりすれば、形式上の選択肢と、実際に使える選択肢の間に溝ができます。
豪州案の実効性を決めるのは、大きく三つです。通知が目に入ること。最初のフィードを対等に選べること。そして、その選択をサービスが忘れないことです。一つずつ見ましょう。ここはアルゴリズムの難しい数式より、玄関のドアがどちらへ開くかの話なんです。
通知が入口になる
まず通知です。政府発表は、新しく登録する人だけでなく、すでに使っている人にも、主なフィードを選ぶ通知を出すとしています。
これは地味に見えて重要です。設定画面の奥に「フォロー中だけ表示」があっても、存在を知らなければ選べません。利用者へ通知を出せば、少なくとも「いま何を基準に並べられているのか」「別の見方があるのか」を考えるきっかけになります。選択肢は、置いてあるだけでは働きません。見える場所に出て、初めて選択肢になります。
ただし「通知した」の一言だけでは足りません。小さな文字で一度だけ出すのか、選択肢を同じ大きさで並べるのか、片方だけ目立つ色にするのか。ボタンの言葉が分かりやすいか。画面は中立な顔をしながら、親指をそっと片側へ押すことができます。いわゆるダークパターン、利用者を事業者に都合のよい操作へ誘導する設計です。
草案の本文は、担当相が規則で「利用者が自分で設定を管理する道具(user empowerment tools)」を指定できる骨組みを置いています。しかし、通知の文言やボタンの並びまでは固定していません。実効性の勝負は、これから作られる細部へ残っています。
初期設定は小さな権力者
次はデフォルト、つまり最初に開くフィードです。人は毎回、すべての設定を考え直してアプリを使うわけではありません。開いて、出てきたものを見て、気づけば指が上へ上へ。親指だけ妙に働き者です。
通信相のアニカ・ウェルズ氏は会見で、利用者に「アルゴリズムか、フォロー中のフィードか」を選んでもらう中立的な方式だと説明しました。少なくとも政府の説明上は、おすすめを当然の初期値にして、隅に小さな拒否リンクを置く形ではありません。
ここでAP記事の「opt out」という見出しだけを読むと、最初はおすすめがオンで、嫌な人だけが切る制度に見えます。けれど政府の構想は、おすすめへのopt inと、個人化されたおすすめからのopt outを並べ、主なフィードを選ばせるものです。どちらが実際の初期値になるか、選ばずに閉じた場合どうなるかは、最終的な規則と実装を見ないと断定できません。
なお、「アルゴリズムをオフにする」という言い方も、かなりざっくりしています。フォロー中の投稿を表示するだけでも、コンピューターは順番を決め、迷惑投稿を除き、広告を差し込みます。止める対象は、主に利用者の行動や関心から投稿を個人化して薦める仕組みです。全アルゴリズム禁止法ではありません。電源コードを抜く話ではないんですね。
「戻らない」が選択を守る
三つ目は、選んだフィードをサービスが覚えているかです。ウェルズ氏は、利用者が何度でも選び直せると説明しました。首相のアンソニー・アルバニージー氏も「真の、持続する選択」を与えると述べ、政府発表はプラットフォームに利用者の選択を尊重させるとしています。
大事なのは、「いつでも変えられる」と「勝手に戻らない」は別だということです。前者は利用者が考え直す自由。後者はサービスが利用者の決定を守る義務です。アプリを閉じるたびおすすめフィードへ戻り、また切り替えさせられるなら、自由というより毎朝の小テストです。三日目あたりで、だいたい負けます。
この問題は空想ではありません。欧州連合のデジタルサービス法は、大規模プラットフォームなどへ、個人のプロファイルに基づかない推薦の選択肢を求めています。それでもオランダでは、FacebookとInstagramが利用者の非個人化フィードの選択を保持せず、画面移動や再起動で戻す設計などが争われました。裁判所は、選択を直接使いやすくし、アプリを閉じても保持するようMetaへ命じています。
つまり豪州政府が「enduring」と言うなら、最終規則では再起動、ログインし直し、別画面への移動、アプリ更新の後まで見なければなりません。設定項目の有無を数えるだけでは、利用者の選択が守られたか分からないのです。
形だけの順守
もう一つ、選択後の使い勝手もあります。おすすめを断った人だけ、検索やメッセージなど別の機能まで使いにくくする。フォロー中フィードをわざと寂しく、遅く、見づらくする。そんな設計なら、法律には従った顔をしつつ、利用者をおすすめ側へ押し戻せます。
ABCは、こうした「protest design」、つまり規制へ形式的に従いながら、非推薦側を不便にする可能性を報じています。豪州政府も欧州での経験を見ていると説明しましたが、今回の法案本文には、非推薦フィードの機能をどこまで同等に保つかが具体的に書かれていません。
そして、フォロー中フィードが必ず時系列順になるとも限りません。政府発表が約束しているのは、友人や自分で選んだクリエイターの投稿を見る選択です。新しい順に並べることまでは明記していません。「昔のTwitterみたいな完全時系列表示が法律で保証される」と書けば、一歩先まで言いすぎです。
法案はまだ骨組み
Digital Duty of Careは、フィード選択だけの制度ではありません。オンラインサービスに危険を評価させ、設計機能を適切に管理し、対策の効果を定期的に見直させる広い枠組みです。草案では少なくとも年1回のリスク評価も求めています。
その中でフィード選択は、担当相が規則で対象サービスと具体的な操作道具を指定する仕組みです。言い換えると、法案本文は「利用者に操作盤を渡せるようにする」ところまで。操作盤にどのボタンを置き、どれくらい大きくし、選択をいつまで記憶するかは、後の規則へかなり委ねられています。
だから今の段階で評価すべきなのは、方向性と未確定部分の両方です。政府が新旧ユーザーへの通知と、主フィードの選択を打ち出したのは、設定の奥に機能を置くだけより踏み込んでいます。一方、それが法律の最終文と実際のアプリでどう保証されるかは、まだこれからです。
日本から見る理由
この草案が直接守るのは、オーストラリアの利用者です。日本で同じ通知が明日出るわけではありません。そこは正直に線を引く必要があります。
それでも日本の読者に意味があるのは、SNSの「選べます」を測る物差しが具体的になるからです。設定は見つけやすいか。最初の画面はどちらかへ誘導していないか。選択は次に開いたときも残るか。拒否した人だけ機能を削られていないか。この四つを見れば、機能の宣伝ではなく、実際の主導権が誰にあるかを判断できます。
将来、日本で推薦システムの透明性や利用者の選択を議論するときも、「オプトアウトを置けば終了」では足りません。規制当局が確認する対象は、規約の一文だけでなく、画面の動きと選択後の体験まで含むべきです。アルゴリズムの問題はコードの中だけにあるのではなく、ボタンの位置にも住んでいます。ずいぶん身近な住民です。
まとめ
オーストラリア政府の草案は、16歳を超えるSNS利用者に、個人化されたおすすめ中心のフィードと、フォローした相手中心のフィードを選ばせる構想を示しました。新規・既存ユーザーへ通知し、何度でも選び直せるようにする方針です。
しかし、法案はまだ成立前です。全アルゴリズムを禁止するものでも、時系列表示を保証するものでもありません。通知の見せ方、最初のフィードの決め方、再起動後も選択を保持するか、非推薦側の機能を不当に落とさないかは、最終規則と実装で確かめる必要があります。
「選べる機能があります」だけで安心しない。見つけられる、対等に選べる、選択が残る。この三つがそろって、ようやく画面の主導権が利用者へ戻ります。豪州案の本当のテストは、法律の見出しではなく、アプリを二度目に開いた瞬間に始まるわけです。
Sources
- AP「Australian social media users to be offered choice to opt out of algorithms」
- Australian Government「My Feed, My Way」
- Online Safety Amendment (Digital Duty of Care) Bill 2026 exposure draft
- Australian Government「Press conference, Canberra」
- ABC News「Labor proposes social media algorithm choice under new digital duty of care」
- ABC News「What could your social media feeds look like without the algorithm?」
- European Union「Digital Services Act」
- Amsterdam Court of Appeal「ECLI:NL:GHAMS:2025:2886」