「SNSや動画を3時間以上見る子が増え、勉強時間は減った」。数字が二つ並ぶと、頭の中ではすぐに「スマホが勉強時間を奪った」という物語が完成しがちです。数字はまだ自己紹介しかしていないのに、こちらで犯人役まで決めてしまうわけです。

今回の本題は、スマホを禁止すべきかどうかではありません。全国学力・学習状況調査から、何が確認できて、どこから先はまだ推測なのか。この境界線を見つけることです。

fnn.jp

今回の登場人物

  • 全国学力・学習状況調査: 小学6年生と中学3年生を対象に、教科の力だけでなく生活や学習の状況も見る国の調査です。
  • 国立教育政策研究所: 文部科学省系の研究機関で、調査問題や質問調査の報告書を公表します。
  • SNS・動画視聴時間: 2026年度の設問では、スマホだけでなく携帯電話、PC、タブレット、ゲーム機、テレビなどでSNSや動画を見る時間です。学習時間とゲーム時間は除きます。
  • 相関と因果: 相関は「二つのことが一緒に動く傾向」、因果は「一方がもう一方を起こした関係」です。似ていますが、同じではありません。

何が起きたか

FNNプライムオンラインは2026年8月3日、全国学力・学習状況調査について、平日にSNSや動画を3時間以上見る割合が小学6年生で37.3%、中学3年生で49.1%だったと報じました。

同じ記事によると、学校の授業以外で平日に1時間以上勉強する割合は、小6で50.3%、中3で61.7%でした。5年前はそれぞれ62.8%、75.8%だったとも報じています。ここは大事なので、数字の名札を付け直しましょう。

  • 37.3%と49.1%は、SNS・動画を3時間以上見る割合
  • 50.3%と61.7%は、学校外で1時間以上勉強する割合
  • 62.8%と75.8%は、その勉強時間についてFNNが紹介した5年前の割合

つまり、後ろの四つは正答率ではありません。利用時間と勉強時間の数字です。またFNNは、利用時間が長い児童・生徒ほど各教科の点数が低かったとも伝えていますが、記事中の割合と点数を混ぜてはいけません。数字は制服が似ていても、所属クラスが違います。

質問の中身

「スマホ時間」と短く呼びたくなりますが、2026年度の公式質問票はもう少し広く聞いています。対象はスマートフォンや携帯電話に加え、PC、タブレット、ゲーム機、テレビなどです。そのうえで、学習のために使う時間とゲームをする時間を除き、SNSや動画視聴などに使う時間を尋ねています。

これは端末の総利用時間ではありません。授業でタブレットを使った時間も、ネットで調べ学習をした時間も、ゲーム時間も、この設問が数えようとしている中心から外れます。見ているのは、複数の機器をまたいだ「学習とゲーム以外のSNS・動画時間」です。

だから、この調査だけを根拠に「スマホという機械が悪い」と言うのは範囲がずれます。テレビで動画を見る時間も入り得ますし、スマホで勉強した時間は除かれます。問題があるとすれば、まず検討すべきは端末の名前より、時間の使われ方です。

相関と因果

長時間利用の層ほど点数が低い傾向が見えたとしても、それだけで「SNSや動画が学力低下の原因」とは証明できません。国立教育政策研究所の公開データも、二つの値の関係の強さを示す相関係数は、因果関係まで示すものではないと注意しています。

なぜでしょう。間に入り得る要素がたくさんあるからです。

たとえば、睡眠時間が短い子は、夜に画面を見る時間が長く、翌日の学習にも集中しにくいかもしれません。家庭で静かに勉強できる場所があるか、塾や部活動にどれだけ時間を使うか、勉強につまずいて動画へ逃げ込みやすくなったのか。向きが逆で、「動画が勉強を減らした」だけでなく、「勉強がつらくなった結果、動画時間が増えた」可能性もあります。

雨の日には傘を持つ人が増えます。でも、傘が雨を降らせたわけではありません。相関と因果の違いは、だいたいこの傘くらいの距離感です。

もちろん、「因果が証明されていないから気にしなくていい」という結論にもなりません。3時間以上という長さや、勉強時間が短くなっている傾向は、生活の時間配分を点検する入口になります。ただし入口は、ゴールテープではない。追加の分析や、家庭ごとの事情を見る必要があります。

もう一つ大切なのは、集団の傾向を一人の子の診断書にしないことです。「3時間以上」の集団で平均点が低めでも、その中の全員が低得点という意味ではありません。逆に、利用時間が短い集団の全員がよく勉強できているとも限りません。平均は集団の輪郭を見せますが、個人の事情を当てる占いではないのです。家庭で使うなら、全国平均を子どもへ突きつけるより、本人の睡眠や宿題、集中しやすさが実際にどう変わっているかを一緒に確かめるほうが筋が通ります。

5年前比較の注意

FNNが紹介した5年前との比較にも、慎重さが要ります。経年比較は、同じ質問文、同じ対象機器、同じ回答区分で測ってこそ意味がはっきりします。

国立教育政策研究所の過年度資料を見ると、以前は「携帯電話やスマートフォンでSNSや動画視聴などをする時間」と尋ねていた年度があります。一方、2026年度はPC、タブレット、ゲーム機、テレビなどまで明示的に広げています。さらに、小学校の児童質問では一部にランダム方式が導入されています。

したがって、5年前の勉強時間の割合が下がったこと自体はFNN報道として紹介できますが、その変化をそのままSNS・動画設問の変化と一本の線で結ぶのは危険です。物差しの目盛りや質問の置き方が変わっていないかを確かめてからでないと、「5年間でスマホがここまで悪化させた」とは言えません。

家庭と学校での使い道

では、このデータは何に使えるのでしょうか。

まず、家庭で「何時間使ったか」を一つの数字に丸めず、中身を分けて話すきっかけにできます。動画、SNS、ゲーム、学習、友人との連絡では役割が違います。睡眠、食事、部活動、勉強とのバランスも一緒に見る。スマホを取り上げるか放置するかの二択より、ずっと現実的です。

学校や行政にとっても同じです。「長時間利用が多い」という注意信号は使えますが、一律禁止の効果までこの調査が証明したわけではありません。ルールを作るなら、睡眠や学習時間が実際に改善するか、困っている子ほど別の場所で画面時間が増えないか、といった検証が要ります。

そして読者側には、見出しの数字へ名札を付ける習慣が役に立ちます。誰を対象に、何を含め、何を除き、何と比べた数字なのか。そこまで確認すると、ニュースは少し地味になります。でも理解はぐっと丈夫になります。

まとめ

2026年度の調査で、SNSや動画を平日3時間以上見る割合が小6で37.3%、中3で49.1%だったこと、学校外で1時間以上勉強する割合が小6で50.3%、中3で61.7%だったことをFNNは報じました。また、利用時間が長い層ほど点数が低い傾向も伝えています。

ただし、設問はスマホだけを測ったものではなく、学習とゲームを除く複数機器でのSNS・動画時間です。見えているのは関係の傾向であって、スマホが学力低下を起こしたという因果の証明ではありません。

高校生向けに2文で言えば、こうです。長いSNS・動画時間と短い勉強時間、低めの点数が同じ調査で見えても、どれが原因かはまだ決まらない。数字を生活改善の注意信号には使えるけれど、スマホ一律禁止の判決文として使うのは早い。

Sources