道路工事のわきで、赤い誘導灯を振る人を見かけますよね。暑い日も寒い日も、すぐ横を車が通る。あの場所へAIカメラとLED表示板を置く動きが広がっています。すると見出しは、つい「警備員がいらなくなる」に寄りがちです。

でも、そこだけ読むと大事なところを落とします。交通誘導AIの本当の価値は、人間を丸ごと消すことではありません。車と向き合う危険な場所を機械に任せ、人は離れた場所から監視し、例外へ対応する。その仕事の引っ越しこそが本題です。AIさん、魔法で現場を無人島にする係ではないんですね。

「死亡事故がゼロの世の中を」──苦節7年、危険な作業をAIで省力化 全国で稼働する「交通誘導AI」の現在地
「死亡事故がゼロの世の中を」──苦節7年、危険な作業をAIで省力化 全国で稼働する「交通誘導AI」の現在地

AIカメラとLED表示板で工事現場の交通誘導を行うシステムが、既に全国の国道などで動いている。9月9日開催の展示会「AIエキスポ」で、開発元のKB-eyeに話を聞いた。

今回の登場人物 ​

  • 交通誘導AI: カメラ映像から車両や歩行者を検知し、LED表示板などへ「進む」「止まる」を出す仕組みです。今回はKB-eyeのシステムが中心です。
  • KB-eye: 屋外警備向けのAIシステムを開発・提供する企業です。片側交互通行や工事区間の枝道、車両出入り口などで使う製品があります。
  • オペレーター: AIの動きを見守り、歩行者、緊急車両、突破車両、機械の異常といった予定表に載らない事態へ対応する警備員です。
  • NETIS: 国土交通省の「新技術情報提供システム」です。公共工事で新技術を検討しやすくするカタログで、登録されたら国が事故ゼロを保証する、という制度ではありません。
  • 片側交互通行: 工事で道路の片側しか使えないとき、両方向の車を順番に通す運用です。判断が食い違えば正面衝突につながりかねないため、両端の連携が重要です。

何が起きたか ​

ITmedia NEWSは2026年9月14日、AIカメラとLED表示板を使う交通誘導システムの広がりを報じました。記事によると、現場の交通量を見て表示を切り替え、区間内の停車や逆走なども監視します。

国土交通省が公開した技術資料でも、KB-eyeの仕組みは、一般車、自転車、工事車両、歩行者などをカメラで見ながら解析し、危険な動きを0.8秒以内にオペレーターへ知らせると説明されています。片側交互通行では、少なくとも2人分の配置を減らせるという整理です。

ここで「おお、では人間は撤収だ」と早合点してはいけません。KB-eyeの公式FAQは、運用にはオペレーターが必ず必要だと明記しています。会社の説明でも、AIが基本の誘導を続け、人が突破車両や緊急時へ対処する「ハイブリッド警備」が前提です。

ここが本題 ​

交通誘導の仕事を、ひとまとめに「旗を振る」と考えると、AIが人へ勝つか負けるかの話になります。でも実際の仕事は、三つに分けると見えやすいんです。いや、ここがミソなんですよ。

一つ目は、車が来たかを見つける。二つ目は、どちら側を通すか決めて、表示する。三つ目は、決めた通りに動かない相手へ対応する。最初の二つは、カメラ、画像解析、LED表示板が休憩なしで繰り返しやすい仕事です。三つ目は、救急車が来た、歩行者が規制内へ入った、車が表示を無視した、機材がずれた、といった例外の連続です。

AI導入の要点は、この三つを全部まとめて人から奪うことではありません。人とAIの腕相撲にしてしまうと、肝心の安全が画面の外へ出ます。繰り返し部分を機械へ渡し、例外対応の人を車道の端から少し離す。仕事の数より、仕事をする場所を変えるわけです。

車道に立つ時間を減らす ​

警察庁によると、2024年末の警備員は全国で58万7,848人でした。このうち60歳以上は47.0%、65歳以上は34.3%、70歳以上は20.9%です。警備業は、中高年が社会を支える大切な受け皿である一方、屋外の暑さや長時間の立ち仕事、車両との近さを考えた安全設計が欠かせません。

数字の扱いには注意が要ります。入口記事には別の年齢比率も登場しますが、警察庁が公表した「警備員全体」の公式値は60歳以上47.0%です。対象を交通誘導員だけに絞った数字と、警備員全体の数字を混ぜると、分母がこっそり着替えてしまいます。

厚生労働省の確定統計では、2024年に警備業で28人が労働災害により亡くなりました。ただし、これは警備業全体の人数で、28人全員が交通誘導中だったわけではありません。一方、政府の省人化資料は、交通誘導では脇見などをした車両に誘導員がひかれる事故が多発していると指摘しています。

だから「人を減らせば人件費が下がる」だけで読むのは浅い。規制区間の両端という、車が最初に入ってくる場所へ人が立つ時間を減らせるなら、危険にさらされる時間そのものを短くできます。安全の成果は、社員数を何人削ったかではなく、車のすぐ横に人が立つ時間をどれだけ減らしたかで測るべきなんです。

人が残るのは失敗ではない ​

AIに任せたのにオペレーターが必要なら、中途半端ではないか。そう思ったんじゃないですか。むしろ逆です。

道路は、工場のベルトコンベヤーより気まぐれです。車種も速度もばらばらで、歩行者、自転車、工事車両が同じ空間へ入ります。雨、逆光、雪、工事機材の移動で、カメラの見え方も変わります。しかも、表示を無視する人までゼロにはできません。機械が同じ判断を疲れず続け、人が想定外だけを引き受ける。役割分担としては、かなり筋が通っています。

ただし、人を残せば自動的に安全になるわけでもありません。オペレーターが画面を何台見るのか。警報が重なったとき、どちらを先に処理するのか。通信が切れたら表示をどう止めるのか。現場へ駆けつける手段はあるか。人を道路から外した後は、監視席の設計が次の安全装置になります。

これは航空機の自動操縦に少し似ています。自動化の目的は、操縦士を透明にすることではありません。通常の操作を機械へ任せ、異常を見つけて引き継げるようにすることです。もっとも、道路工事で機内アナウンスは流れません。流れても通行人が少し困ります(笑)。

許可は全国共通の合格印ではない ​

KB-eyeの公式FAQは、400現場以上の導入と、36都道府県での道路使用許可取得実績を掲げています。入口記事の取材時点・集計範囲とは数字が異なるため、単純には足せません。いずれも企業が公表する実績であり、第三者が全件を監査した統計ではないことも押さえておきたいところです。

道路使用許可は、製品に一度スタンプを押せば全国どこでも使える免許ではありません。工事場所、道路の幅、交通量、配置、表示方法などを示し、現場ごとに警察や道路管理者、発注者と調整します。NETIS登録も導入検討の材料であって、「この機械ならどんな現場でも安全」というお守りではありません。登録番号を見せても、危険が「では失礼します」と帰るわけではないんです。

見るべきは、導入件数だけではないんです。AIが止めた回数、オペレーターが介入した回数、見逃し、誤検知、通信停止、突破車両、ヒヤリとした事例を残し、次の現場へ反映できるか。事故が起きなかった日にも、危険の手前で何が起きたかを数える必要があります。

成功をどう測るか ​

「事故はありませんでした」だけでは、導入効果を比べにくいんです。事故はもともと毎日起きるものではないため、短い実証でゼロでも、それだけで機械が安全にしたとは言い切れません。人が車道の近くに立った延べ時間、警報の件数、手動介入までの時間、通信停止時に安全側へ切り替わったかを一緒に見ます。

オペレーターの負担も測る必要があります。警報が多すぎれば、本当に危険な通知が埋もれます。一人が複数現場を見るなら、同時に異常が起きたときの応援体制が要る。AIが疲れなくても、画面を見る人の集中力は無限ではありません。監視席へ移した疲れを、数字から消してはいけないわけです。

さらに、導入前と同じ交通量、工事区間、時間帯で比べるのが基本です。山間部の昼間と、都市部の夜間を並べて「こちらが安全」と言っても、条件が違いすぎます。安全の評価は、派手な一発勝負より、地味な条件合わせが強い。ここでも主役は、少々おとなしい仕事です。

それで何が変わるのか ​

交通誘導AIが広がれば、警備員の仕事は「道路の端で合図する人」から、「複数のセンサーと表示を管理し、例外へ対応する人」へ移っていきます。体力だけでなく、状況判断、機器の理解、記録、警察や発注者との調整が大切になります。

これは、働く人を減らすだけの話ではありません。ここ、人数表だけ見ていると見落とします。高齢の警備員や、暑さの厳しい日の担当者を危険な場所から外しつつ、経験は判断役として生かせます。うまく設計できれば、人手不足と労働安全へ同時に手を入れられます。

一方で、「AIを置いたから警備員は半分でよい」と人数だけ先に削れば、監視と緊急対応が薄くなります。省人化で浮いた人をどこへ移し、誰が最終判断し、機械が止まったときどう戻すか。そこまで決めて初めて、安全技術になります。

まとめ ​

交通誘導AIの価値は、人間を現場から消すことではありません。車の検知や定型的な表示を機械へ任せ、警備員を車道のすぐ横から監視と例外対応へ移すことです。つまり、無人化より「危険からの退避」が先です。

説明し返すなら、こうです。AIは通常の誘導を疲れず繰り返せる。でも、道路には緊急車両、歩行者、突破、悪天候、機材トラブルがある。だから人は残り、立つ場所と仕事が変わる。人が残るのは自動化の失敗ではなく、安全を完成させる役割分担なんです。

Sources ​