生ごみや紙を微生物に食べてもらい、燃料になるガスを取り出す。これがバイオガスです。では、ガスを4割増やす新技術が出たら、主役は巨大な発酵槽か、ものすごく働き者の微生物だと思いますよね。
ところが、今回の主役は発酵槽へ入れる前の工程です。袋、プラスチック、金属などが混ざった可燃ごみから、微生物が食べられる生ごみや紙をどれだけ拾い、食べやすくして渡せるか。台所で言えば「鍋」より「下ごしらえ」。鍋を最新型にしても、包装フィルムを具として煮たら困りますからね。

可燃ゴミを破砕し蒸気で分解した後の状態(三菱重工提供)三菱重工業は可燃ゴミを効率よく分解してバイオガスを生産する装置を開発した。プラスチックなどを取り除く工程を見直し、低圧、低温の蒸気を使う。既存技術と比べ、ガスの生産量を4割増やすことができる。ゴミ由来のバイオガスは化石燃料の代替燃料として重要性が増している。自治体や廃棄物処理会社、ガス大手などに提案を始めており、需要を取り込む。分解処理を見直し開発した「AdBio(アドバイオ)」は生ゴミや紙
今回の登場人物
- AdBio: 三菱重工業が開発するバイオマス高効率回収・資源化システムです。水蒸気を使う加水分解前処理で、可燃ごみから生ごみや紙などを取り出しやすくします。
- メタン発酵槽: 酸素の少ない環境で、微生物が有機物を分解する設備です。生じるガスは主にメタンと二酸化炭素で、発電や熱、燃料に使えます。
- 前処理: 発酵槽へ入れる前に、ごみを破砕し、異物を除き、発酵しやすい状態へ整える工程です。料理でいう下ごしらえ。地味ですが、今回のセンターです。
- 日本環境衛生センター: 廃棄物処理技術の内容や試験結果を検証する一般財団法人です。AdBioへ「実用化レベル」とする検証結果書を交付しました。
- 発酵残渣: ガスを取り出した後に残る液体や固形物です。肥料などに使える場合もあれば、脱水や排水処理、焼却が必要な場合もあります。
何が起きたか
日本経済新聞 NIKKEI GXは2026年9月14日、三菱重工業が、ごみ由来のバイオガスを従来方式より約4割増やせるとする前処理技術を開発したと報じました。自治体の可燃ごみや、包装が付いたままの食品廃棄物などを想定しています。
三菱重工の公式発表によると、AdBioは都市ごみへ水蒸気を使った加水分解処理を施し、生ごみや紙を選別・回収しやすくします。日本環境衛生センターは2026年5月29日、この技術へ廃棄物処理技術検証結果書を交付しました。
ここで「4割」を丁寧に仕分けておきましょう。三菱重工が示したのは、都市ごみを対象に、従来の破砕選別方式と比べてバイオガス発生量が約4割増える見込みです。発電量、利益、二酸化炭素削減量が4割増えると確認されたわけではありません。数字まで分別が必要。ごみの記事だけに、なかなか手間がかかります。
ここが本題
発酵槽の中では、微生物が生ごみや紙のような有機物を分解します。でも、家庭や店から出る可燃ごみは、微生物専用のランチボックスではありません。プラスチック包装、割り箸、金属片など、食べられない物が混ざっています。はい、ここがミソです。菌に気合を求める前に、まず献立を整えます。
この混合物を機械で砕くだけでは、紙や生ごみを十分に回収できないことがあります。食べられる物が選別側へ逃げれば、発酵槽へ渡す原料が減ります。逆に異物が槽へ入れば、ポンプや配管の負担になり、発酵後の残渣も使いにくくなります。
つまり、ガス量を決める最初の関門は、微生物の能力より「微生物の皿へ何を載せたか」です。発酵槽が優秀でも、皿が半分空なら働きようがありません。微生物にも、ない袖は振れない。袖はないですけど(笑)。
蒸気でほぐしてから選ぶ
AdBioは、夾雑物の多い可燃ごみを水蒸気と反応させます。夾雑物とは、目的の材料へ混ざった異物のことです。水と熱を使う加水分解で紙や生ごみをほぐし、その後の分離装置で、発酵に回せるバイオマスを拾いやすくします。
日本環境衛生センターの説明では、検証では反応の温度や処理時間、分離装置の回収性能などが評価されました。同センターは、AdBioが可燃ごみから厨芥、つまり台所ごみや食品くず、紙などを選別回収し、安定したバイオガス回収へつなげられる技術だとしています。
三菱重工は、ガスが増える理由を二つ挙げています。一つは、従来より多くのバイオマスを回収できること。もう一つは、紙などが微生物に分解されやすくなることです。「量を増やす」と「食べやすくする」が同時に効くわけです。
ここで、記事に出る「低圧」「低温」は比較の言葉です。常温の湯気でごみが勝手にほどける、という意味ではありません。何と比べて、どの条件を下げたのかが大切です。本文では「水蒸気による加水分解前処理」と説明するほうが、仕組みを誤解しにくいでしょう。
前処理は三つの仕事をする
環境省は、メタン発酵前の選別設備に三つの目的があると整理しています。異物を除くこと。次の設備へ運びやすくすること。そして、発酵しやすくすることです。
一つ目は機械を守ります。金属や硬い異物が混ざれば、破砕機、ポンプ、配管などを傷める恐れがあります。二つ目は流れを整えます。大きさや水分がばらばらな原料を扱いやすくします。三つ目は微生物を助けます。有機物を細かく、均一にすれば、分解が進みやすくなります。
現場の実例も同じ方向を向いています。環境省が紹介する食品リサイクル施設では、包装プラスチックや割り箸を人手だけで分けるのには限界があるため、廃棄物を砕き、遠心力を使う装置で不適物を除いてから発酵槽へ送っています。
発酵槽だけを眺めていると、この入口の苦労が見えません。でも実際には、原料の回収量、異物、粒の大きさ、水分、栄養の偏りが、槽の安定運転へつながります。前処理は前座ではありません。ほぼ会場設営と出演者選びを握っています。舞台が始まる前に、勝負の半分が済んでいるわけです。
「実用化レベル」の読み方
日本環境衛生センターの検証結果書は大きな一歩です。企業が「できます」と言うだけでなく、技術内容、試験運転、性能などを専門機関が確認したからです。
ただし、「実用化レベル」は「全国の自治体が今すぐ採用すべき」という合格通知ではありません。ここは判子一つで全国一斉導入、とはいかないんですね。ごみの中身は地域や季節で変わります。処理量、既存設備、敷地、電気代、排水の行き先も違います。技術として動くことと、ある自治体で長期に安く動くことは、別の問いです。
約4割増も同じです。三菱重工は、都市ごみを従来の破砕選別方式で扱う場合との比較として示しています。最初からきれいに分別された食品廃棄物、農業廃棄物、紙の少ないごみで同じ増加率になるとは限りません。4割はAdBioの名札ではなく、条件付きの比較結果なんです。
増えたガスだけでは採算は決まらない
前処理を強くすれば、良いことだけが増えるわけでもありません。環境省は、選別設備の能力を上げるほど、設備費と消費エネルギーが増えると注意しています。水蒸気を作る熱、装置を動かす電気、部品交換、停止して清掃する時間も要ります。
ガスを発電へ使うなら、発生量から設備の自家消費を引いた正味の電力を見る必要があります。都市ガス原料や燃料へ使うなら、ガス中の不純物を除く工程も要ります。発酵後の残渣を肥料にできなければ、脱水や排水処理、焼却の費用が残ります。
だから導入後に見る数字は、ガス量だけでは足りません。1トンのごみから得たガス、前処理で使った電気と熱、連続運転できた時間、異物による停止、残渣の量と行き先、処理費用まで並べて、ようやく全体像になります。
三菱重工は既存のメタン発酵施設へ追設できると説明しています。これも可能性としては重要です。ただし、どの施設にもポンと置ける家電ではありません。蒸気、電力、搬送経路、敷地、排水、既存槽との容量バランスを確認する必要があります。取扱説明書の最初に「まず現地を見ます」と書きたくなる設備です。
それで何が変わるのか
日本の自治体にとって、可燃ごみから発酵向け原料を多く回収できれば、焼却する量を減らしながら、電気や熱、燃料を作れる可能性があります。住民へ細かな分別を追加で求めず、既存の可燃ごみ収集と組み合わせられる点も検討材料です。
一方、混合収集は機械選別の設備と面積が要り、発酵残渣へ異物が残れば肥料利用が難しくなります。住民が生ごみを分ける方式は原料をきれいにしやすい反面、専用容器、回収回数、協力の呼びかけが必要です。機械が賢くなっても、収集の設計が消えるわけではありません。
今後の見どころは、実際の都市ごみを長期間処理したときにもガス増加と安定運転が続くか、前処理のエネルギーを差し引いて得になるか、残渣をどう使うかです。自治体ごとのごみの中身で、4割という看板が何割になるのか。そこからが商用化の成績表です。
まとめ
AdBioでバイオガスが約4割増えると見込まれる理由は、発酵槽を巨大化したからではありません。水蒸気で可燃ごみをほぐし、生ごみや紙を多く回収し、微生物が分解しやすい状態で発酵槽へ渡すからです。
説明し返すなら、こうです。発酵槽は、渡された原料しかガスにできない。だから異物を除き、食べられる部分を増やし、食べやすくする前処理がガス量を左右する。ただし4割は三菱重工が特定条件で示すガス発生量の見込みで、発電量や利益、CO2削減が4割増える意味ではありません。
ごみ処理の主役は、派手な反応槽だけではない。入口で何を選び、出口の残り物までどう扱うか。結局、下ごしらえから片付けまでです。エネルギーは、その長い台所仕事の途中で生まれるんです。