太陽光や風力の設備を、世界は記録的なペースで増やしている。よし、これで石油も石炭もガスも減り始めた――と言いたいところですが、計器を一つ見ただけでは、そこまでは分かりません。しかも人工知能(AI)を動かすデータセンターの電力需要が伸びている。再エネの「増えた」と化石燃料の「減った」は、いったいどこでつながるのでしょう。
今回の問いはそこです。設備の記録を喜びつつ、燃料の使用量まで確かめる。そのために、似ているようで違う三つの数字を見ていきます。
World and business leaders this week will grapple with the urgent costs of climate change.
今回の登場人物
- 再生可能エネルギー:太陽光、風力、水力など、自然の力を使う電源。この記事では主に、それらでつくる電気を指す。
- 国際再生可能エネルギー機関(IRENA):各国の再エネ導入を調べ、統計を公表する国際機関。今回の報道では設備がどれだけ増えたかを示す。
- 国際エネルギー機関(IEA):電気だけでなく、石油・石炭・ガスを含むエネルギー全体を分析する国際機関。ここでは燃料の使用量を確かめる。
- 設備容量と発電量:「どれほど大きな発電設備を置いたか」と「実際にどれほど電気をつくったか」。前者の単位はギガワット(GW)、後者はテラワット時(TWh)。数字の名前が似ていても、測る対象は違う。
- データセンター:AIなどの計算を担う多数のサーバーを置く施設。計算機を動かし、冷やすために電気を使う。
何が起きたか
AP通信は9月21日、ニューヨークの気候関連会合をめぐり、再エネの伸びへの期待とAIの電力消費への懸念を報じました。記事が紹介したIRENAなどの新しい報告によると、2025年に世界で追加された再エネの発電設備は693GWで、過去最高。2030年までに世界の再エネ設備容量を大きく増やす目標に向けては、今後も加速が必要だとしています。
ここで「693GWも増えたなら、化石燃料は減ったはず」と受け取りたくなる。でもIEAの2025年の集計では、世界の石油・天然ガス・石炭の需要はいずれも前年より増えました。増え方は鈍りましたが、「量が減った」とは別です。再エネの朗報と、化石燃料の使用量がまだ増えているという事実は、同じ年に両立します。
なお、新規設備の集計は機関や集計時点で数値が異なります。IRENAの2026年春の統計では2025年の増加は約692GW、IEAの年次レビューでは約800GWです。この記事の693GWは、APが今回の新報告から伝えた値です。異なる数字を一つに足したり、同じ統計として比較したりはできません。
まず、発電所の「大きさ」と「仕事量」を分けよう
設備容量は、発電所が出せる電力の大きさを示します。料理でいえばコンロの火力に近い。火力の強いコンロを増やせば、たくさん料理をつくれる可能性は高まります。でも、コンロを置いたことと、年間に何皿つくったかは別ですよね。太陽光は夜に発電せず、風力は風の具合で出力が変わります。設備が増えても、実際の発電量はその設備の使われ方を見ないと分かりません。
そこで二つ目の数字、発電量です。IEAの電力供給データでは、2025年の世界の発電量は前年より850TWh超増えました。太陽光の発電量だけで約600TWh増え、再エネと原子力を合わせた発電量の増加は、世界の発電量全体の増加を上回りました。ここまで聞くと「だったら化石燃料の発電は?」という質問が出てくる。いい質問です。
実は、世界全体の化石燃料による発電量は2025年に少し減っています。IEAによると、ガス火力は少し増えた一方、石炭火力の減少がそれを上回りました。石炭火力の発電量は約0.5%減です。だから「再エネが増えたのに化石燃料の発電も世界で一律に増えた」と説明してはいけません。電気をつくる現場では、再エネなどが需要の増加を上回ったという成果があります。
それでも燃料全体が減らないのはなぜ
三つ目の数字が、石油・石炭・ガスを世界全体でどれだけ使ったかです。電気はエネルギーの大切な一部ですが、すべてではありません。自動車や飛行機の燃料、工場で使う熱や原料などもあります。火力発電の数字だけで、化石燃料全体の使用量を言い切れない理由はここにあります。
IEAのレビューでは、2025年の世界のエネルギー需要は1.3%、電力需要は約3%増えました。石油需要は0.7%、ガスは約1%、石炭は約0.4%の増加です。再エネなど低排出のエネルギーは、増えたエネルギー需要の約6割を担いました。それでも、増えた需要のすべてを埋めて、既存の化石燃料の使用量まで押し下げるには至っていません。
お風呂の水位にたとえるなら、蛇口から入る水を減らす努力をしながら、別の蛇口がまだ開いている状態です。ただし「再エネは化石燃料を少しも減らしていない」という意味ではありません。IEAは、2019年以降に導入された太陽光、風力、電気自動車などのクリーン技術によって、2025年の化石燃料需要が、導入されなかった場合に比べ年35エクサジュール超抑えられたと推計しています。エクサジュールは大きなエネルギー量の単位で、この推計値は世界の化石燃料使用量の約7%に相当します。「増えなかった場合より少なくなった」と「前年より実際に減った」は違う。ここは指で押さえておきたいところです。
AIの電力は、どこに入るのか
AP通信の記事では、AIを動かすデータセンターの電力と水の使用が会合の大きな話題になっています。ただ、AIの需要増を、そのまま「石炭やガスの増加量」に換算することはできません。どの地域で、どの時間帯に電力を使い、その増加分を何が発電するかで答えが変わるからです。データセンターの所在地の電源構成も、世界共通ではありません。
IEAによれば、2025年の世界の電力需要増には建物や産業の幅広い用途が関わり、データセンターは世界全体では増加分の一部でした。一方、米国ではデータセンターが電力使用量の増加分の半分を占めています。世界では「一部」、米国では「半分」。主語を入れ替えると、ニュースの形ががらりと変わります。AIだけを犯人にするのも、急増する需要を見落とすのも、どちらも電力の設計を誤らせます。
問うべきは、データセンターの電力をいつ・どこで・どう供給するかです。新しい再エネ設備が同じ地域にあっても、必要な時間に電気を届けられなければ別の電源が要ります。送電線や蓄電池、需要を調整する仕組みの整備も関わります。これはAIだけの特別ルールではなく、電気を使う設備が大きく増えるときに共通する話です。「AIが増えるから必ず化石燃料が増える」と結論を急ぐより、供給と需要を同じ時間、同じ場所で照らし合わせる必要があります。
日本から見ると、何を確かめればいい
このニュースはニューヨークでの会合を扱っていますが、読み方は日本のエネルギー政策や新しいデータセンターの計画にも使えます。設備の増加が発表されたら、まず実際の発電量を見る。次に電力需要と火力発電がどう動いたかを見る。そして電気以外も含む石油・ガス・石炭の使用量を確かめる。この順番なら、世界の記録を日本の結果と取り違えずに済みます。
逆に、化石燃料の総需要だけを見て「再エネ導入は無意味」と決めるのも早い。さっきのIEAの推計が示すように、化石燃料の使用を抑える効果と、前年からの総量の変化は違う指標です。政策や企業の計画を見るときも、設備容量だけで万歳せず、燃料の総量だけで努力をゼロ点にしない。この二枚の成績表を並べるのが、いちばん正直です。
まとめ
再エネ設備が記録的に増え、実際の再エネ発電も伸びました。2025年には世界の化石燃料による発電量が少し減る成果もありました。それでも、電気以外の用途を含む石油・石炭・ガスの需要は、世界全体ではまだ前年より増えています。
つまり、設備を増やすのは必要な前進です。でも目的地を確かめるなら、発電量、電力需要、化石燃料の総使用量まで見る。AIのデータセンターも、その需要がどこで、いつ、何の電源につながるかで評価する。再エネの記録を祝うときほど、燃料の計器も一緒にのぞく。それでようやく、前に進んだ距離が分かるんです。