太陽光や風力の設備を、世界は記録的なペースで増やしている。よし、これで石油も石炭もガスも減り始めた――と言いたいところですが、計器を一つ見ただけでは、そこまでは分かりません。しかも人工知能(AI)を動かすデータセンターの電力需要が伸びている。再エネの「増えた」と化石燃料の「減った」は、いったいどこでつながるのでしょう。

今回の問いはそこです。設備の記録を喜びつつ、燃料の使用量まで確かめる。そのために、似ているようで違う三つの数字を見ていきます。

Solar panels operate April 28, 2026, at a farm in Christiana, Tenn. (AP Photo/Joshua A. Bickel, File)
Climate Week talks balance hope for clean energy against uncertainty over artificial intelligence

World and business leaders this week will grapple with the urgent costs of climate change.

今回の登場人物 ​

  • 再生可能エネルギー:太陽光、風力、水力など、自然の力を使う電源。この記事では主に、それらでつくる電気を指す。
  • 国際再生可能エネルギー機関(IRENA):各国の再エネ導入を調べ、統計を公表する国際機関。今回の報道では設備がどれだけ増えたかを示す。
  • 国際エネルギー機関(IEA):電気だけでなく、石油・石炭・ガスを含むエネルギー全体を分析する国際機関。ここでは燃料の使用量を確かめる。
  • 設備容量と発電量:「どれほど大きな発電設備を置いたか」と「実際にどれほど電気をつくったか」。前者の単位はギガワット(GW)、後者はテラワット時(TWh)。数字の名前が似ていても、測る対象は違う。
  • データセンター:AIなどの計算を担う多数のサーバーを置く施設。計算機を動かし、冷やすために電気を使う。

何が起きたか ​

AP通信は9月21日、ニューヨークの気候関連会合をめぐり、再エネの伸びへの期待とAIの電力消費への懸念を報じました。記事が紹介したIRENAなどの新しい報告によると、2025年に世界で追加された再エネの発電設備は693GWで、過去最高。2030年までに世界の再エネ設備容量を大きく増やす目標に向けては、今後も加速が必要だとしています。

ここで「693GWも増えたなら、化石燃料は減ったはず」と受け取りたくなる。でもIEAの2025年の集計では、世界の石油・天然ガス・石炭の需要はいずれも前年より増えました。増え方は鈍りましたが、「量が減った」とは別です。再エネの朗報と、化石燃料の使用量がまだ増えているという事実は、同じ年に両立します。

なお、新規設備の集計は機関や集計時点で数値が異なります。IRENAの2026年春の統計では2025年の増加は約692GW、IEAの年次レビューでは約800GWです。この記事の693GWは、APが今回の新報告から伝えた値です。異なる数字を一つに足したり、同じ統計として比較したりはできません。

まず、発電所の「大きさ」と「仕事量」を分けよう ​

設備容量は、発電所が出せる電力の大きさを示します。料理でいえばコンロの火力に近い。火力の強いコンロを増やせば、たくさん料理をつくれる可能性は高まります。でも、コンロを置いたことと、年間に何皿つくったかは別ですよね。太陽光は夜に発電せず、風力は風の具合で出力が変わります。設備が増えても、実際の発電量はその設備の使われ方を見ないと分かりません。

そこで二つ目の数字、発電量です。IEAの電力供給データでは、2025年の世界の発電量は前年より850TWh超増えました。太陽光の発電量だけで約600TWh増え、再エネと原子力を合わせた発電量の増加は、世界の発電量全体の増加を上回りました。ここまで聞くと「だったら化石燃料の発電は?」という質問が出てくる。いい質問です。

実は、世界全体の化石燃料による発電量は2025年に少し減っています。IEAによると、ガス火力は少し増えた一方、石炭火力の減少がそれを上回りました。石炭火力の発電量は約0.5%減です。だから「再エネが増えたのに化石燃料の発電も世界で一律に増えた」と説明してはいけません。電気をつくる現場では、再エネなどが需要の増加を上回ったという成果があります。

それでも燃料全体が減らないのはなぜ ​

三つ目の数字が、石油・石炭・ガスを世界全体でどれだけ使ったかです。電気はエネルギーの大切な一部ですが、すべてではありません。自動車や飛行機の燃料、工場で使う熱や原料などもあります。火力発電の数字だけで、化石燃料全体の使用量を言い切れない理由はここにあります。

IEAのレビューでは、2025年の世界のエネルギー需要は1.3%、電力需要は約3%増えました。石油需要は0.7%、ガスは約1%、石炭は約0.4%の増加です。再エネなど低排出のエネルギーは、増えたエネルギー需要の約6割を担いました。それでも、増えた需要のすべてを埋めて、既存の化石燃料の使用量まで押し下げるには至っていません。

お風呂の水位にたとえるなら、蛇口から入る水を減らす努力をしながら、別の蛇口がまだ開いている状態です。ただし「再エネは化石燃料を少しも減らしていない」という意味ではありません。IEAは、2019年以降に導入された太陽光、風力、電気自動車などのクリーン技術によって、2025年の化石燃料需要が、導入されなかった場合に比べ年35エクサジュール超抑えられたと推計しています。エクサジュールは大きなエネルギー量の単位で、この推計値は世界の化石燃料使用量の約7%に相当します。「増えなかった場合より少なくなった」と「前年より実際に減った」は違う。ここは指で押さえておきたいところです。

AIの電力は、どこに入るのか ​

AP通信の記事では、AIを動かすデータセンターの電力と水の使用が会合の大きな話題になっています。ただ、AIの需要増を、そのまま「石炭やガスの増加量」に換算することはできません。どの地域で、どの時間帯に電力を使い、その増加分を何が発電するかで答えが変わるからです。データセンターの所在地の電源構成も、世界共通ではありません。

IEAによれば、2025年の世界の電力需要増には建物や産業の幅広い用途が関わり、データセンターは世界全体では増加分の一部でした。一方、米国ではデータセンターが電力使用量の増加分の半分を占めています。世界では「一部」、米国では「半分」。主語を入れ替えると、ニュースの形ががらりと変わります。AIだけを犯人にするのも、急増する需要を見落とすのも、どちらも電力の設計を誤らせます。

問うべきは、データセンターの電力をいつ・どこで・どう供給するかです。新しい再エネ設備が同じ地域にあっても、必要な時間に電気を届けられなければ別の電源が要ります。送電線や蓄電池、需要を調整する仕組みの整備も関わります。これはAIだけの特別ルールではなく、電気を使う設備が大きく増えるときに共通する話です。「AIが増えるから必ず化石燃料が増える」と結論を急ぐより、供給と需要を同じ時間、同じ場所で照らし合わせる必要があります。

日本から見ると、何を確かめればいい ​

このニュースはニューヨークでの会合を扱っていますが、読み方は日本のエネルギー政策や新しいデータセンターの計画にも使えます。設備の増加が発表されたら、まず実際の発電量を見る。次に電力需要と火力発電がどう動いたかを見る。そして電気以外も含む石油・ガス・石炭の使用量を確かめる。この順番なら、世界の記録を日本の結果と取り違えずに済みます。

逆に、化石燃料の総需要だけを見て「再エネ導入は無意味」と決めるのも早い。さっきのIEAの推計が示すように、化石燃料の使用を抑える効果と、前年からの総量の変化は違う指標です。政策や企業の計画を見るときも、設備容量だけで万歳せず、燃料の総量だけで努力をゼロ点にしない。この二枚の成績表を並べるのが、いちばん正直です。

まとめ ​

再エネ設備が記録的に増え、実際の再エネ発電も伸びました。2025年には世界の化石燃料による発電量が少し減る成果もありました。それでも、電気以外の用途を含む石油・石炭・ガスの需要は、世界全体ではまだ前年より増えています。

つまり、設備を増やすのは必要な前進です。でも目的地を確かめるなら、発電量、電力需要、化石燃料の総使用量まで見る。AIのデータセンターも、その需要がどこで、いつ、何の電源につながるかで評価する。再エネの記録を祝うときほど、燃料の計器も一緒にのぞく。それでようやく、前に進んだ距離が分かるんです。

Sources ​