蛇口をひねれば、どの町でも透明な水が出る。それなのに、春日部市では料金収入全体が約38%増える改定、幸手市では平均34.3%、足利市では平均49.4%の値上げになった。おいおい、同じ水なのに、どこでそんな差がつくんだ――と思うよね。

じつは、水道料金で払っているのは「水そのもの」よりも、浄水場を動かし、何百キロもの管を保ち、古くなった設備を取り替える費用だ。いや、ここがミソなんですよ。水道は、町ごとに持っている巨大な道具一式を、利用者みんなで割り勘する仕組みである。今回の本題は、この割り勘の条件が自治体ごとにどう違うのか、だ。

水道料金の値上げが各地で拡大 自治体ごとに“差”も 埼玉では複数自治体が10月から30%超値上げ|FNNプライムオンライン
水道料金の値上げが各地で拡大 自治体ごとに“差”も 埼玉では複数自治体が10月から30%超値上げ|FNNプライムオンライン

埼玉県などで10月から水道料金の大幅値上げが相次ぐ。全国でも値上げの動きが広がるなか、飲食店からは負担増を懸念する声も上がっている。一方で、自治体ごとに料金改定の有無や支援策に差が生じている。イット!が取材したのは、コシのある太麺にモチモチの食感…。「噛むたびに小麦の香りが口に広がる」と、うどん好きの間でも評判の「武蔵野うどん」の店。しかし、店主は“ある現実”を前に思わず苦笑いを浮かべた。手打ちうどん纒(埼玉・狭山市)小峰久男店主:いよいよここに来て“水道”が上がるのかって…。食材が軒並み値上…

今回の登場人物 ​

  • 水道事業者:多くは市町村などが運営する。水をつくって届け、料金を集め、設備を維持する主体だ。
  • 給水収益:家庭や事業所が払う水道料金による収入。利用量や利用者が減ると、基本的には細くなる。
  • 料金回収率:水を届ける費用を、水道料金でどこまで回収できたかを示す数字。100%を下回れば、料金収入だけではその費用を賄えていない。
  • 有収率:浄水場などから送り出した水のうち、料金請求につながった水の割合。漏水などが多いと下がる。
  • 管路更新率:水道管全体のうち、その年度に新しくした割合。0.5%なら、単純計算で全体を一巡するのに200年かかる速さだ。ただし、管の種類や寿命が一様ではないので、これはあくまで目安である。

何が起きたか ​

FNNプライムオンラインは、2026年10月から埼玉県春日部市が水道料金収入全体で約38%増える改定を行い、幸手市が平均34.3%引き上げると報じた。春日部市では下水道使用料も平均約25%上がる。栃木県足利市はすでに同年4月、平均49.4%の改定を実施している。

ここで最初に、数字の読み方をそろえておこう。数字だけ先に走らせると、話がすぐ迷子になる。春日部市の「料金収入全体で約38%増」は、すべての家庭の請求額がきっちり38%上がるという意味ではない。公式資料では、2か月で28立方メートル使う一般家庭の水道料金は、月平均1727円から2503円になる例が示されている。基本料金、口径、使用量によって上がり方は変わる。

ではなぜ、29%台の自治体もあれば、49%台の自治体もあるのか。答えを先に言うと、値上げ率は「人口減少率の順位表」でも「古い管の多さランキング」でもない。人口と水の使用量、抱えている設備、更新の時期、漏水、これまで料金を据え置いた年数、手元資金、そして一度に上げるか段階的に上げるか。その合計で決まる。

水道は、水より「水の通り道」にお金がかかる ​

まず押さえたいのは、水道が固定費の大きい事業だということだ。固定費とは、利用量が少し減っても、すぐには小さくならない費用のこと。浄水場の機械、人員、監視設備、そして道路の下に張り巡らされた水道管は、今月みんなが節水したからといって、翌月に3割短くはならない。管に「利用者が減りましたので自主的に縮んでください」とお願いしても、まあ聞いてくれない。

国土交通省の資料は、水道を設備産業と位置づけ、給水量が減っても費用が同じ割合では減りにくい構造を示している。ここは数字が大きいけれど、順番に見れば大丈夫。同省の別の検討資料では、有収水量は2023年度を100とした場合、2050年度に約77まで減る見通しだ。料金水準を変えなければ、給水収益も約2.3兆円から約1.8兆円へ縮む試算になっている。

たとえば、100人で長いホースを持っている町を考えよう。住民が70人になり、水の使用量が3割減っても、ホースが自動で3割短くなるわけではない。むしろ古くなれば交換費用が来る。残った70人で、ほぼ同じ長さのホースを維持する。この「1人あたりの割り勘」が重くなるのが、水道料金を押し上げる基本形だ。

ただし、人口が同じように減る町でも、必要なホースの長さは違う。住宅が密集する町と、広い範囲に家が点在する町では、利用者1人あたりの管路が違う。水源を自前で確保するのか、ほかの事業者から水を買うのかでも費用は変わる。標高差が大きければポンプも要る。水は同じでも、届け方は町の地形と歴史を背負っている。蛇口だけ見れば一緒でも、舞台裏は町ごとに別公演なのだ。

春日部・幸手・足利、同じ値上げでも中身が違う ​

春日部市では、2024年度の料金回収率が94.99%だった。水を届ける費用を料金だけで全額は回収できていない。管路の老朽化率は44.33%、更新率は0.47%。1980年代に整備した管が順次、法定耐用年数を迎える一方、更新は追いつきにくい。

市の審議会は、2026年度から2030年度までの財政を見通すと、50%を超える改定が必要だと答申した。だが市は負担を一度に載せず、2026年10月に約38%、さらに2028年4月にも改定する段階方式を選んだ。つまり38%は「必要額が38%だった」というより、「いつ、どこまで上げるか」という政策判断を含む数字だ。

幸手市は、1994年4月以来、基本料金を改定してこなかった。2026年10月の平均34.3%改定まで、30年以上の間が空いている。市の経営戦略では、人口は2024年度の4万8628人から2035年度に4万1760人へ14.1%減る見込みだ。2023年度の料金回収率は98.61%、有収率は87.33%、管路更新率は0.16%。2026年度から2035年度の建設改良費は約28.2億円を見込む。

足利市の改定前料金も1996年以来、約30年間据え置かれていた。市によると、2024年度は水を届ける費用と料金収入の差が約2億7000万円あり、事業全体で約5143万円の赤字だった。現状のままでは2029年度に資金が底をつく見通しだったという。有収率は69.1%で、全国平均より約20ポイント低い。審議会は最大64%の改定幅を示したが、市は平均49.4%を選んだ。

数字がぎっしり並んだが、見る場所はここだ。3市を並べると、値上げ幅を決めるつまみが見えてくる。春日部は老朽管と段階改定、幸手は人口減少と低い更新ペース、足利は収支差に加えて低い有収率と資金枯渇の時期が重い。どれか一つで説明するのではなく、複数のつまみがどこまで回っているかを見る必要がある。

「古い管が多い町ほど高い」でもない ​

ここが少しややこしい。春日部市の比較資料では、2022年度の利用者1人あたり管路延長は7.55メートルで、管路老朽化率は42.3%だった。一方、久喜市は1人あたり13.48メートルと長いが、老朽化率は15.5%だった。長い管を抱えていても、整備した年代が新しければ、今すぐ更新の山が来るとは限らない。

逆に、値上げしていない町が「経営上手」とも限らない。お、安い、優等生だ、と即決するのは少し早い。更新を先送りしている、過去の蓄えを取り崩している、一般会計などから支援を受けている、近いうちに改定する――いろいろな可能性がある。学校のエアコンで考えると分かりやすい。同じ台数でも、今年一斉に交換する学校と、5年後に交換する学校では、今年の出費が違う。エアコンが若返る魔法ではなく、請求書が来る年の違いだ。

国土交通省の「水道カルテ」では、対象1347事業者のうち、料金回収率が100%未満で、基幹管路・浄水施設・配水池の耐震化率もすべて全国平均未満だった事業者が248あった。収入の確保と設備更新の両立に苦しむ事業者があることを示す数字だ。ただし、この分類だけで「料金を低くしたから耐震化が遅れた」という因果まで証明できるわけではない。安いか高いかだけでなく、その料金で何を直せる計画なのかまで見ないと、経営の健康診断にはならない。

私たちは請求書のどこを見ればいいのか ​

さて、自分の請求書の話に戻ろう。値上げのお知らせを見たら、率だけで驚いて終わらず、次の四つを確認するといい。

一つ目は、自分の口径と使用量で実際にいくら変わるか。平均改定率は、自分の家の改定率ではない。二つ目は、料金回収率と収支の見通し。三つ目は、管路経年化率・更新率と、今後の工事計画。四つ目は、一回の改定で終わるのか、段階改定なのかだ。

それから、有収率も大事だ。浄水場から100杯送り出して、請求できたのが69杯なら、残りは漏水などで収入になっていない。管を直して有収率が上がれば、限られた水と費用を無駄にしにくくなる。ただし、その工事そのものにもお金がかかる。節約のために財布を買う、みたいな一瞬の矛盾があるが、長期では必要な投資なのだ。

水道料金の差は、水の品質に値札を付けた差ではない。その町で、何人が、どれだけの設備を、いつ更新しながら支えるかという差だ。人口減少、老朽化、固定費。この三つが重なると割り勘は重くなる。ただし最終的な値上げ幅は、漏水、蓄え、据え置き期間、改定の分け方まで含めた「町ごとの家計簿」で決まる。水の味比べではなく、家計簿の読み比べというわけだ。

蛇口の向こうには、地下の長いホースと、未来の交換費用がある。請求書が上がったとき、本当に見るべきなのはパーセントの大きさだけではない。「この町は、どの設備を、いつまでに直すのか」。そこまで読めば、水道料金は突然の罰金ではなく、インフラの割り勘として見えてくる。

Sources ​