大雨のニュースで「土砂崩れ」と聞くと、遠くの山を思い浮かべるかもしれません。ところが今回、住宅の裏の斜面や、東京の住宅地にある擁壁が崩れたと報じられました。家の近くに何があるか。そこから話を始めたほうがよさそうです。
被害に遭われた方に心を寄せながら、ここでは一つの問いに絞ります。自分の住む場所で、土砂災害の危険をどう確かめるか。「大雨の予報が出たら気をつける」より、一歩だけ具体的にしてみましょう。

台風25号による大雨の影響で神奈川県や千葉県を中心に土砂崩れが相次ぎ、警察などによりますと、午前1時までに2人が死亡し、4人と連絡が取れていません。記者「土砂崩れでしょうか、住宅のそばにある道路が完全に…
今回の登場人物
- 土砂災害警戒区域: 急な斜面や渓流などを調べ、土砂災害で命が脅かされるおそれがある場所として都道府県が指定する区域。自宅の「場所」の情報だ。
- 土砂キキクル: 気象庁が大雨による土砂災害の危険度を地図上の1キロ四方ごとに色で示す情報。今と数時間先の「雨による危険の高まり」を見る。
- 市町村の避難情報: 自治体が地域に出す高齢者等避難や避難指示。発令されたら、その指示に従って安全を確保する。
- 擁壁(ようへき): 高低差のある土地で土を支える壁。今回の東京・目黒区でも崩落が報じられたが、その原因や構造上の問題は調査段階で、土砂キキクルだけで個々の壁の強さは判定できない。
何が起きたか
TBS NEWS DIGは9月22日午前4時18分、台風25号による大雨の影響で神奈川県や千葉県を中心に土砂崩れが相次いだと報じました。記事は同日午前1時までに警察などが把握した状況として、2人の死亡と、4人と連絡が取れていないことを伝えています。数字はその時点の報道であり、その後の状況を示すものではありません。
神奈川県では住宅に土砂が流れ込み、三浦市内で複数の崩落が発生しました。県は人命救助などのため自衛隊に災害派遣を要請しています。千葉県では道路に流れ出た土砂の撤去作業中に男性作業員が転落し、死亡しました。東京・目黒区では前日の夕方、住宅街で約3メートルの擁壁が崩れ、駐車中の車に土砂が当たりました。目黒区の現場でけが人は報じられていません。
ここで、これらを「全部同じ土砂崩れ」とひとまとめにはできません。自然の斜面、道路上の土砂、人工の擁壁では、現場の条件も管理の仕組みも違います。個々の崩落原因を、記事だけで決めつけることもできません。それでも、雨の下で暮らす人が事前に何を確認できるか、という共通の問いはあります。
ここが本題
土砂災害に備える地図は、頭の中で2枚重ねにします。1枚目は「うちの家は、土砂が来るおそれのある場所か」。もう1枚は「今、その周辺で雨による危険がどこまで高まっているか」。
1枚目に使うのが、自治体のハザードマップなどで確認できる土砂災害警戒区域です。2枚目が、気象庁の土砂キキクルと、市町村からの避難情報です。住所だけ見ても今の雨は分からない。雨だけ見ても自宅と斜面の位置関係は分からない。だから、重ねて見るんです。
「うちの市は雨がひどいらしい」で終えると、どの家が特に危ないかが見えません。逆に、ハザードマップを一度見て安心してしまうと、降り続く雨による危険の変化を見落とします。地図は一枚で完成するわけではありません。
1枚目は、ふだんの地形
土砂災害警戒区域は、都道府県が地形などを調べて指定します。気象庁も、急な斜面や渓流の近くに住む人は、自宅が該当するか平時からハザードマップで確かめるよう呼びかけています。寝室や家族の普段いる部屋が、斜面に近いかも見ておきたいところです。
ここで気をつけたいのは、区域は避難を考えるための地図だということ。「色が付いていないから絶対安全」という合格証ではありません。区域指定は特定の自然現象を対象にし、人工の擁壁一つひとつの状態まで保証する仕組みではないからです。今回の目黒区の擁壁についても、その土地が指定区域内だったか、なぜ崩れたかを確認せずに語ることはできません。
地図を見るときは「何色か」に加え、自宅と斜面・崖・谷の位置を確かめる。市町村のハザードマップには避難先も載っていますが、避難先への道が斜面の下を通っていないかまで確認できると、判断が一段具体的になります。玄関を出てから地図を初めて開くのでは、ちょっと忙しすぎますからね。
2枚目は、変わる雨の危険度
土砂キキクルは、雨による危険の高まりを1キロ四方ごとに5段階の色で示し、10分ごとに更新します。気象庁は、直近60分の雨量と、土の中に雨がどれほどたまっているかを表す「土壌雨量指数」を組み合わせ、最大6時間先までの予測も使っています。
土壌雨量指数といっても、難しい計算式を覚える必要はありません。雨は地面に落ちた瞬間に全部消えるわけではなく、土の中に残ります。だから「今は小雨になった」だけで、斜面の危険がなくなったとは決められない。気象庁が今の雨量だけでなく、土の中に残った水を指標に入れるのはそのためです。
2026年5月から防災気象情報の名称が改められ、土砂災害には「レベル3土砂災害警報」「レベル4土砂災害危険警報」などが使われています。色の意味をざっくり押さえましょう。黄は避難先と経路を確認する段階。赤は高齢者など避難に時間がかかる人が危険な場所から離れる段階。紫は、危険な場所にいる人が避難する段階です。黒は災害が切迫、または既に起きている可能性を示すため、黒まで待ってはいけません。
ただし、色は「この家の、この壁が、何時何分に崩れる」という予言ではありません。1キロ四方という広さの中には、斜面から離れた場所も近い場所もあります。雨による危険の高まりと、自宅の地形や自治体の情報を合わせて判断する必要があります。
避難情報は、地図より先に動く合図になる
市町村から避難指示が出たら、キキクルの色を理由に様子見はしません。気象庁は、避難指示などが出た場合はキキクルにかかわらず速やかに避難行動をとるよう求めています。反対に、避難指示を待つだけでも足りません。危険な場所にいて、赤や紫で危険度が上がっているなら、自分でも早めに避難を判断することが大切です。
「避難=必ず遠くの指定避難所へ走る」でもありません。安全に移動できるうちは区域外などの安全な場所へ。道路が冠水したり、外に出るほうが危険になったりしたら、崖から離れた部屋や近くの頑丈な建物で身を守るなど、その場でできる安全確保を考えます。どの行動が適切かは現場の状況で変わるため、自治体の案内を優先してください。
今回の報道には、土砂の撤去作業中の死亡も含まれています。片づける段階にも危険があります。崩れた土砂や傷んだ斜面の近くへ、状況を確かめようとむやみに入らないことも大事です。片づけを急ぎたい気持ちは分かりますが、まず人の安全です。
このニュースをどう自分の場所へ引き寄せるか
土砂崩れの件数や被害の大きさだけを見ていると、「怖かった」でニュースが終わってしまいます。けれど、読者にできる確認はあります。ふだんのうちに自宅のハザードマップで地形と避難先を見ておく。大雨のときは市町村の避難情報と土砂キキクルを見て、今の危険度を確かめる。この順序です。
地図は万能ではありません。擁壁の状態や、一軒ごとの斜面の強さまで画面が教えてくれるわけではない。地面の亀裂や急な濁りなど、普段と違う変化に気づいたら、その場を離れて自治体などへ知らせる必要もあります。危険を感じたときに「まだ通知が来ていないから」と待たないことです。
ニュースに出た住宅と自宅が同じ条件とは限りません。だからこそ、映像の印象だけで「うちは大丈夫」も「どこも危ない」も決めない。場所の地図と、今の雨の地図を重ねる。それが、この報道から持ち帰れる、いちばん実用的な読み方です。
まとめ
台風25号による崩落は、住宅の裏の斜面や住宅地の擁壁など、暮らしの近くで報じられました。被害の詳しい状況や個々の原因には、まだ確認が必要です。一方、私たちの避難判断には、確認済みの手がかりがあります。
土砂災害警戒区域で「どこに住んでいるか」を知り、土砂キキクルと自治体の情報で「今どれほど危険が高いか」を知る。二つを重ね、危険な場所では早めに動く。地図を眺めて終わらず、自分と家族の行動につなげてください。