沖縄タイムスの集計によると、名護市辺野古で進む普天間飛行場代替施設の関連事業費は、2006年度から2025年度までの累計で7835億円になりました。政府が2019年に示した総事業費の概算は約9300億円。二つの数字を単純に割ると約84%です。

ところが、施設の提供手続きまでにはまだ年数がかかる見込みです。では「お金を84%使ったのに、完成はずっと先」という数字は、直ちに予算超過を証明するのでしょうか。ここは、政治的な賛否をいったん横に置き、支出割合と工事の進み具合がなぜ同じにならないのかを整理します。

辺野古新基地の関連事業費、累計7835億円に 25年度は過去最高【支出額の推移表】 | 沖縄タイムス+プラス
辺野古新基地の関連事業費、累計7835億円に 25年度は過去最高【支出額の推移表】 | 沖縄タイムス+プラス

【東京】名護市辺野古の新基地建設を巡り、2006年度から25年度の関連事業の支出額が累計で約7835億円に上ったことが26日までに防衛省への取材で分かった。同省が示している総事業費9300億円の84%に達している。

今回の登場人物 ​

  • 普天間飛行場代替施設: 宜野湾市にある米軍普天間飛行場の機能の一部を、名護市辺野古のキャンプ・シュワブ周辺へ移すための施設です。政府は「辺野古移設」と呼び、沖縄県は公式ページで「辺野古新基地建設」という表現を用いています。呼称にも立場の違いが表れます。
  • 沖縄防衛局: 防衛省の地方機関で、辺野古側の工事や契約を担当します。
  • 大浦湾側: 埋め立て予定海域のうち、軟弱地盤への対策が必要になった側です。地盤改良工事の追加が、工期と事業費見直しの大きな理由になりました。
  • 総事業費の概算9300億円: 防衛省が2019年12月に示した見積もりです。確定した上限額ではなく、当時の計画と工事状況を基にした概略です。
  • 支出済額・関連事業費: 支出済額は、実際に国から支払われた額を積み上げた数字です。今回の入口記事は、沖縄防衛局の資料などを基に2025年度までの「関連事業費」を7835億円と集計しています。どこまでを含むか確認が必要で、工事の物理的な完成率とも別の指標です。

何が起きたか ​

沖縄タイムスは、辺野古の新基地建設を巡る2006年度から2025年度までの関連事業費が累計7835億円となり、2025年度の支出が過去最高だったと報じました。7835億円は、政府が2019年に示した総事業費の概算9300億円の約84%に当たります。同紙は、大浦湾側の軟弱地盤の改良を含む建設工事全体の完了は2033年4月ごろの見込みだとしています。

防衛省の公式説明では、変更後の計画に基づく工事に着手してから、埋立工事に約8年、飛行場施設を含む工事完了まで9年3か月、米側への提供手続き完了まで約12年を見込んでいます。大浦湾側の地盤改良工事に着手したのは2024年12月です。

二つの数字を単純に差し引くと約1465億円ですが、後で見るように、両者の集計範囲が同じかは確認が必要です。一方で、大浦湾側の地盤改良、埋め立て、飛行場施設の整備、認証や提供手続きなどが残る。この組み合わせが、「9300億円で収まるのか」という疑問を強めています。

ここが本題 ​

まず、最も大事な区別です。84%支出したことは、84%完成したことを意味しません。

工事では、設計、環境保全、仮設設備、資材の調達、護岸、地盤改良、監理など、目に見える完成形が現れる前にもお金が出ます。大きな契約の支払い時期と、海面が埋まる時期も一致しません。支出曲線と工事進捗の線は、最初から同じ傾きではないのです。

だから「84%支出、ならば工事も84%のはず」という読み方はできません。ただし逆に、「支出と進捗は違うから、84%という数字は心配材料にならない」と片づけることもできません。仮に同じ範囲として単純に差し引けば約1465億円となる一方で、長い工程が残っています。政府には、集計範囲をそろえた今後の費用見通しを具体的に説明することが求められます。

9300億円の中身 ​

防衛省が示す約9300億円の内訳は、環境保全措置など約700億円、仮設工事約2000億円、護岸工事約1500億円、埋立工事約3600億円、付帯工事約125億円、飛行場施設整備約625億円、キャンプ・シュワブ再編成工事約750億円です。

ここで注意したいのは、9300億円が2019年時点の経費の概略だということです。政府も2025年の国会答弁で、変更もあり得ることを前提とした見積もりだと説明しています。2009年には少なくとも3500億円以上と見積もっていましたが、大浦湾の地盤改良工事が必要だと分かったことなどを踏まえ、2019年に約9300億円へ改めました。

つまり、9300億円は「一円でも超えない天井」ではありません。同時に、いつでも自由に動かしてよい数字でもありません。政策判断や国会審議で使われ、国民が事業規模を理解する基準になっている以上、条件が変われば更新した見通しを示すことが求められます。

分母と分子をそろえる ​

「7835÷9300」という計算自体は簡単です。難しいのは、その二つが同じ範囲を数えているかです。

防衛省の9300億円は、「普天間飛行場代替施設建設事業等」の経費概略です。今回の沖縄タイムスは、沖縄防衛局の資料などを基に関連事業費を集計しています。記事の7835億円を9300億円と比べるなら、警備費、環境調査、再編成工事、周辺施設など、どこまで双方に含まれるかをそろえなければなりません。

政府は2025年の質問主意書への答弁で、2006年度から2024年度までの支出済額を約6483億円としました。一方、質問で求められた「警備関連費」は、具体的な範囲が明らかでないため、支出済額から正確に特定することは困難だと答えています。この答弁は、同じ「辺野古の費用」でも、切り分け方によって数字の範囲が変わることを示しています。

2025年度までの7835億円は、その前年度までの政府答弁6483億円より1352億円多い計算です。ただし、この差をそのまま2025年度の純粋な工事進捗費と断定してはいけません。集計範囲や支払いの計上時期を確認する必要があります。引き算は正しくても、ラベルの確認を忘れると、数字だけが先に走り出します。

お金と工事は進み方が違う ​

公共工事の費用は、完成時に一括で払うわけではありません。設計や調査、仮設設備、資材、工事の出来高などに応じて支払いが進みます。逆に、完成間近に設備や認証、調整の費用が集中することもあります。

辺野古の場合、辺野古側では護岸や埋め立てが進みましたが、大浦湾側では軟弱地盤への対応が必要になりました。防衛省によると、2023年12月に地盤改良工事の追加などを含む変更承認がなされ、2024年12月に地盤改良へ着手しました。この工事は、砂を地中へ入れて地盤を締めるなど、完成後に地表から成果が見えにくい工程も含みます。

したがって、投入土砂の割合、護岸の長さ、地盤改良の本数、契約額、支出額、残りの年月は、それぞれ別の物差しです。どれか一つを「完成率」と呼べば、かえって全体を見失います。学校の文化祭でいえば、会場費を先に払っても準備が全部終わったことにはなりません。ただし、予算の大半を使ったのに大仕事が残っていれば、残金で足りるか尋ねるのは当然です。

84%が示すこと ​

では、7835億円と84%から確かに読めるのは何でしょうか。

一つ目は、事業がすでに非常に大きな公費を使う段階へ来たことです。賛成か反対かにかかわらず、残りの見通しを「工事中です」の一言で済ませられる規模ではありません。

二つ目は、2019年の概算をいまも比較の基準にするなら、残額と残工程の対応を説明する必要が強まったことです。残る主な工事ごとの見込み、物価や人件費の変化、契約変更、予備的な費用を、同じ範囲で示す必要があります。

三つ目は、予算超過の可能性を検討すべき材料にはなることです。軟弱地盤への工事が続き、長い工程が残る一方、概算の84%に当たる支出が積み上がった。この組み合わせは、見積もりを更新する必要がないか問う根拠になります。

84%が示さないこと ​

一方、この数字だけでは三つのことを断定できません。

第一に、工事が16%しか残っていないとも、逆に84%残っているとも言えません。支出率と物理的進捗率は別だからです。

第二に、最終額がいくらになるかは計算できません。残り工程の契約額、物価、設計変更、リスクへの備えが分からなければ、「最終的に1兆円」「もっと大幅に増える」と具体額を置くのは推測です。

第三に、この数字だけで事業の是非は決まりません。政府は、普天間飛行場の固定化を避け、危険性を除去するため辺野古移設が必要だと説明しています。沖縄県は、工期、費用、環境、基地負担などから計画へ反対しています。費用の透明性は重要ですが、安全保障上の目的、普天間の危険性、環境影響、地元の意思といった別の論点まで、84%一つで判定することはできません。

次に見る数字 ​

今後は、単年度の支出額だけでなく、少なくとも四つを同じ表で見る必要があります。

一つは、9300億円と同じ範囲で計算した累計支出額。二つ目は、工事区分ごとの契約額と支出額。三つ目は、地盤改良、護岸、埋め立て、飛行場施設、提供手続きという工程ごとの進捗。四つ目は、物価、人件費、設計変更を反映した最新の完成時総額です。

さらに、見通しは日付付きで示す必要があります。「当時の試算」なのか「現在の試算」なのかが混ざると、読者は数字の新旧を判別できません。2019年の9300億円と2025年度までの支出実績を並べる以上、その間に何が変わったかについて政府の説明が求められます。

私たち読者も、「84%も使った、だから完成間近だ」「まだ工事が残る、だから必ず破綻だ」と一足飛びに結論を出さないほうがいい。必要なのは、分母と分子、支出と進捗、概算と実績をそろえることです。数字は強い言葉ですが、名札を外すと急に誤解を連れてきます。

まとめ ​

辺野古関連事業費の累計7835億円は、2019年時点の総事業費概算9300億円の約84%です。これは、巨額の公費がすでに支出され、残額と残工程の関係について詳しい説明が必要な段階に来たことを示します。

ただし、84%支出は84%完成ではなく、最終的な予算超過額を確定する数字でもありません。集計範囲、工事区分ごとの支出、物理的な進捗、最新の物価と設計変更をそろえて初めて、単純差し引きで約1465億円となる額で足りるかを判断できます。大きな数字ほど、勢いで読むより、同じ物差しで測り直す。それがこのニュースのいちばん大事な読み方です。

Sources ​