犬や猫が飼いきれないほど増え、食事も治療も掃除も追いつかなくなる。そんな「多頭飼育崩壊」を見ると、「なぜもっと早く減らさなかったのか」と言いたくなるでしょう。その責任は軽くありません。でも、叱って動物を引き取るだけでは、次の崩壊を防げないことがあります。

多頭飼育崩壊の背景には、経済的な困窮、病気、高齢化、判断力の低下、周囲からの孤立などが重なる場合があります。つまりこれは、動物の危機であると同時に、人の暮らしが崩れ始めた警報でもある。では、飼い主の自己責任で終わらせると、なぜ予防につながらないのでしょうか。

増える保護犬・保護猫 飼い主の高齢化で深刻化する“多頭飼育崩壊” 命支える保護団体の“苦悩”|FNNプライムオンライン
増える保護犬・保護猫 飼い主の高齢化で深刻化する“多頭飼育崩壊” 命支える保護団体の“苦悩”|FNNプライムオンライン

今週は「動物愛護週間」です。飼い主の高齢化などを背景に今、保護されるペットが増えています。動物の命を支える民間の保護団体の苦悩を取材しました。埼玉・八潮市に民間の動物シェルター「NPO法人ねこひげハウス」があります。映像に映るのは、ゆっくりとエサを食べる1匹のネコです。8月中旬、大雨で増水した川に流されていたところを助け出されました。NPO法人ねこひげハウス・石川砂美子代表理事:びしょびしょ、ずぶぬれになって、低体温で衰弱しているところを見つけてくれた。活動に賛同した人から譲り受けた住宅を改装…

今回の登場人物 ​

  • 多頭飼育崩壊: 多数の動物を飼ううちに、世話、衛生、治療、繁殖管理が追いつかなくなった状態です。単に「たくさん飼っている」ことではなく、飼い主、動物、周辺環境のいずれか、または複数に悪影響が出ていることが問題です。
  • 動物愛護管理部局: 自治体で、動物の適正な飼育について相談や指導などを担う部署です。犬や猫の状態は見られても、飼い主の家計や介護を単独で立て直せる部署ではありません。
  • 社会福祉部局: 高齢、障害、生活困窮など、人の暮らしに関する相談や支援を担う部署です。飼い主の生活には関われても、動物の保護や繁殖管理には別の専門性が要ります。
  • 保護団体: 行き場を失った動物の保護、治療、譲渡などを担う民間団体です。重要な受け皿ですが、人手、場所、資金には限りがあります。
  • 多機関連携: 一つの窓口へ全部背負わせず、福祉、動物行政、住宅、医療、民生委員、動物病院、保護団体などが情報と役割をつなぐ考え方です。

何が起きたか ​

FNNプライムオンラインは、保護される犬や猫が増え、民間の保護団体が重い負担を抱えている現場を報じました。記事に登場する埼玉県八潮市の「NPO法人ねこひげハウス」では、約100匹の犬や猫が暮らし、その多くが高齢だったり、病気を抱えたりしています。46人のボランティアが交代で世話をしていますが、代表は、全ての動物へ十分に手をかける時間が足りないと語っています。

記事では、2024年に高齢の飼い主が病気で施設へ入り、飼い続けられなくなった群馬県内の事例も紹介されました。また、ペットケア企業が全国120の保護団体などへ行った調査では、直近1年間に保護依頼が増えたと答えた団体が約半数、活動費に自費負担が生じている団体が約8割でした。

ここで数字を広げすぎないことが大切です。FNNはこれを「全国120の保護団体などに行った調査」と紹介していますが、記事本文には調査主体の社名、対象の選び方、回答率などの詳細までは示されていません。したがって、日本の全保護団体の正確な割合だとまでは言えません。それでも、取材先のシェルターで約100匹を46人が支え、年間約30匹をみとっているという事実は、救出後にも長いケアが続くことを示します。

ここが本題 ​

「飼い主が悪い」で話を終えると、原因の入口が見えなくなります。責任を問うことと、原因を確かめることは別の仕事です。

たとえば、避妊・去勢をしないまま繁殖が進んだのなら、繁殖管理の責任は飼い主にあります。ただ、その人が費用を払えなくなったのか、病気で世話が難しくなったのか、認知機能が落ちて頭数を把握できなくなったのか、周囲へ助けを求められなかったのかで、再発を防ぐ方法は変わります。

原因を見ずに動物だけを移しても、人の暮らしの困りごとは残ります。そこへ新たな動物が入れば、同じことが起きるかもしれない。環境省が多頭飼育問題を「動物の問題」と「人の問題」に分けずに扱うよう求めるのは、この再発の輪を切るためです。

三つの崩れが重なる ​

環境省のガイドラインは、多頭飼育問題を頭数だけで定義していません。適切に飼育管理できず、飼い主の生活状況、動物の状態、周辺の生活環境という三つに悪影響が出ている状態だと整理しています。

この三つは、ばらばらに悪くなるとは限りません。飼い主が病気で掃除できなくなる。室内の衛生が悪化する。動物の感染症やけがに気づきにくくなる。臭いや鳴き声で近所との関係が悪くなり、飼い主がさらに孤立する。孤立すると、相談はもっと遅れる。こうして困りごとが輪になって回ります。

だから対策も三つ必要です。飼い主の生活を支えること、動物の飼育状態を改善すること、周辺の生活環境を戻すこと。動物だけを保護する方法は、緊急時には欠かせません。しかし、それだけで三つすべてが改善したとは限らないのです。

もちろん、福祉的な事情があれば不適切飼育を見逃してよい、という話ではありません。動物が飢えている、病気が放置されている、衛生状態が深刻だという場面では、動物の安全確保を急ぐ必要があります。支援は免罪符ではない。むしろ、危険を止めたうえで再発を防ぐための土台です。

救出だけでは終われない ​

多頭飼育崩壊が表面化したとき、分かりやすく見えるのは動物の数です。しかし、保護したその日から、治療、給餌、清掃、人に慣れるためのケア、譲渡先探しが始まります。高齢や病気の動物は、新しい飼い主がすぐ見つかるとも限りません。

FNNの記事で、ねこひげハウスが助けを求める全ての動物を受け入れられないと説明したのは、気持ちが足りないからではありません。場所、人手、医療費には上限があります。一つの崩壊現場から一度に多数の動物が来れば、すでに保護されている動物のケアにも影響します。

ここで保護団体へ「何とかしてください」と荷物を丸ごと渡すと、問題が家庭からシェルターへ移っただけになりかねません。行政が保護団体の善意を前提にし続ければ、その団体自身が資金や人手の限界へ近づきます。命を守る最後の網を、細い一本の糸にしてはいけないわけです。

早く気づく人を増やす ​

予防で重要なのは、崩壊してから大規模に救出するより前に、変化を見つけることです。環境省のガイドラインは、相談窓口を明確にし、家族や親族、近隣住民にも情報を伝えることが、早期対応に重要だとしています。

早期の兆しは、動物行政だけに届くとは限りません。高齢者の見守りで訪問する福祉職、家賃や住環境を確認する住宅部局、飼い主が通う医療機関、動物を診る獣医師、地域の民生委員が、別々の断片を持つことがあります。

ただし、情報を集めればよいという単純な話でもありません。個人情報や本人との信頼を守りながら、必要な範囲で連携する設計が要ります。また、「動物が多いらしい」というだけで、住民を決めつけたり監視したりしてはいけません。多頭飼育と多頭飼育崩壊は同じではないからです。見るべきなのは頭数だけでなく、世話が行き届き、人と動物と周囲の暮らしが保たれているかです。

相談した瞬間に全てを取り上げられると思えば、飼い主は助けを求めにくくなります。相談窓口が、頭数の把握、不妊・去勢、治療、家計、住まい、今後飼える数を関係機関と一緒に考える入口だと伝わることが、早期相談へのハードルを下げます。

支援と責任を両立する ​

自己責任という言葉が強く響くのは、飼うと決めた人に責任があるからです。最期まで世話をすること、繁殖を管理すること、病気なら治療すること、難しくなったら早めに相談すること。この基本は変わりません。

でも、責任を果たせなくなった人を非難するだけでは、動物の状態は良くなりません。必要なのは、本人ができること、家族が担えること、公的支援で扱えること、専門家や保護団体が補うことを分ける作業です。環境省が示す連携は、「みんなで何となく助ける」ではなく、役割の空白をなくすためのものです。

飼い主側にも、元気なうちに備えられることがあります。自分が入院したら誰が世話をするか。費用はいくらか。避妊・去勢は済んでいるか。連絡先や動物の持病を家族と共有しているか。高齢になってから飼い始める場合は、その動物の寿命まで見通せるか。これは高齢者にペットを飼うなという話ではなく、飼い主と動物の時間を両方守る準備です。

地域でつなぐ ​

自治体に求められるのは、相談を受けた部署が「うちの担当ではありません」で終わらない導線です。動物の相談から生活困窮支援へ、福祉の訪問から動物行政へつなげる。必要なら住宅、保健、医療、法律の窓口も加わる。最初に受けた一人が全部解決するのではなく、次の扉を開ける仕組みにするのです。

保護団体への支援も、寄付を呼びかけるだけでは足りません。行政との役割分担、緊急保護の費用、医療や一時預かりの連携、ボランティアが長く続けられる体制が必要です。FNNが紹介した調査では、寄付や事業収入だけで活動費を賄えず、自費負担が生じているとの回答が約8割でした。少なくとも、この調査の範囲では、民間側の持ち出しが広く生じていることが分かります。

私たちにできることも、無理な個人救出だけではありません。異変を感じたら、自治体の動物愛護窓口や福祉相談へつなぐ。保護団体へ寄付や継続的な支援をする。自分や家族のペットについて、もしもの世話を話し合う。派手ではありませんが、崩壊前に支える道具になります。

まとめ ​

多頭飼育崩壊を飼い主の自己責任だけで終わらせると、困窮、病気、高齢化、孤立といった背景が残り、相談が遅れ、動物の救出後に再発する危険も残ります。だから予防には、動物の安全確保と飼い主の生活支援を同時に進める必要があります。

責任を曖昧にするのではありません。飼い主の責任、行政の役割、専門家の仕事、地域の見守りを、切れ目なくつなぐのです。多頭飼育崩壊は、動物だけの警報ではない。人と地域の暮らしからも鳴っている警報として受け止めてこそ、次の崩壊をより早く防げます。

Sources ​