テストで99.9点を取ったら、答案を冷蔵庫に貼ってよい。かなり立派だ。けれど、重いロボットアームが動く工場や倉庫では、残りの0.1%を「ほぼゼロ」と片づけてよいとは限らない。

ロボット制御を手がけるMujinの滝野一征CEOは、確率的に答えを出すAIを物理世界でそのまま使う危うさを「99.9%なら1000回に1回」という例で語り、同社はAIと数理的な動作計画を組み合わせて「100%」を実現すると説明した。ここで大事なのは、99.9%か100%かの数字比べではない。AIが間違えたとき、機械を危険な方向へ動かさない仕組みまで用意されているかだ。

【現地取材】日本スタートアップ大賞獲得のMujin・滝野CEO、フィジカルAIで物流現場の変革に自信
【現地取材】日本スタートアップ大賞獲得のMujin・滝野CEO、フィジカルAIで物流現場の変革に自信

「世界中の現場支えるインフラに」、グローバル市場開拓に挑戦と表明 経済産業省は9月25日、社会課題の解決や新産…

今回の登場人物 ​

  • Mujin:工場や物流倉庫のロボットに「次にどう動くか」を計算させる制御技術を開発する日本企業。ロボットの筋肉を作るというより、現場で動きを決める頭脳と交通整理係に近い。
  • モーションプランニング:ロボットが周囲の物にぶつからず、目的の場所まで腕や関節をどう動かすか計算する技術。カーナビの経路検索を、ロボットの体の動きにしたようなものだ。
  • 確率的AI:画像やセンサーの情報から、「これは箱である確率が高い」といった形で答えを選ぶAI。柔軟さはあるが、答えに不確実さが残る。
  • 決定論的制御:同じ状態と同じ入力なら、同じ結果を返すように組まれた制御。再現と検証には強い。ただし「絶対に間違わない」の別名ではない。
  • 機能安全:異常を見つけたら安全に止めるなど、制御の働きによって危険を減らす考え方。賢く動く技術と、危ないときに止まる技術は、似ているようで別科目なのだ。

何が起きたか ​

LOGI-BIZ onlineは2026年9月28日、Mujinが「日本スタートアップ大賞2026」で内閣総理大臣賞を受賞したことを受け、滝野CEOへのインタビューを掲載した。

記事で滝野CEOは、一般的なAIは確率的に答えを出すため、物理世界では99.9%の正しさでも不十分になりうると説明した。そしてMujinは、AIとモーションプランニングを組み合わせ、15年間の現場データを背景に「100%の精度」を実現していると述べた。

ここには二つの注意書きが要る。まず、「100%」はMujin側の表現である。公開記事だけでは、何を何回試し、どんな条件で、何を失敗と数えた結果なのかまでは分からない。無故障や無事故が独立に証明された、という話ではない。

もう一つ。日本スタートアップ大賞は、経済産業省の案内によれば、事業のビジョン、新規性や革新性、挑戦性、成長性などを評価する表彰だ。受賞は大きな成果だが、製品の安全性を一台ずつ審査する認証制度ではない。表彰状を安全証明書へ早着替えさせるのは、さすがに衣装係が働きすぎである。

99.9%の正体 ​

まず聞くべきなのは、「何の99.9%ですか」です。パーセントだけが先に登場すると、数字は立派でも自己紹介はまだ途中なんですよ。

画像から箱を見分ける正答率かもしれない。箱を一度でつかめた成功率かもしれない。決められた経路を走り切った割合かもしれない。どれもパーセントで書けるが、安全上の意味は同じではない。

さらに、0.1%の誤りがすべて事故になるわけでもない。AIが箱の向きを取り違えても、別のセンサーが異常を見つけて止まれば、人や設備への被害は避けられる。反対に、数字上はめったに起きない誤りでも、その一度が人のいる方向への動作なら、軽く扱えない。

だから「99.9%なら1000回に1回事故が起きる」とは言えない。入口記事の表現は、物理世界では小さな誤り率も無視できないことを伝える例としては分かりやすい。ただし、実測した事故率ではない。この線を越えると、説明が急に事故予報になってしまう。

数字には名札が要る。何を一回と数えたか。どんな環境で測ったか。失敗とは何か。危険につながる誤りと、やり直せる誤りを分けたか。99.9という数字だけが名刺を持って現れても、こちらはまだ相手の仕事が分からないのである。

決定論が助けること ​

では、Mujinが強調する決定論的なモーションプランニングには、どんな意味があるのか。

同じ条件なら同じ結果を返す仕組みは、試験しやすい。ある状況で危険な動きをしたとき、同じ条件を再現して原因を追いやすい。動いてはいけない範囲、速度、関節の角度といった制約も、計算へ明示的に入れられる。気分で近道を始めないのは、ロボットとしてかなり大切な長所だ。

確率的AIと数理的な制御を分担させる考え方にも筋が通る。たとえばAIが荷物の形や位置を見つけ、その情報を受け取ったモーションプランニングが、衝突しない経路を計算する。ひらめき担当と、定規を持つ担当を分けるわけだ。会議でも一人くらい定規を持つ人がいると助かる。

ただし、「同じ入力なら同じ出力」の前には、「入力が現実を正しく表していれば」という大きな条件が付く。センサーが人を見落とした。荷物が想定より重かった。床が滑った。部品が壊れた。プログラムが考慮していない物が置かれた。現実世界は、入力欄をきれいに埋めてから登場してくれるとは限らない。

決定論は、動作を再現し、調べ、制約する力を高める。だが、現実の不確実さを消す魔法ではない。ここを分けておかないと、「再現できる」と「安全である」が、いつの間にか同じ椅子に座ってしまう。

安全は重ねて作る ​

国際標準化機構(ISO)が定める機械安全規格のISO 12100は、安全を一つの精度で判断しない。機械の一生を通じて危険源を探し、起こりやすさと被害の大きさを見積もり、危険を取り除くか、十分に小さくする。そのうえで、実施した対策を検証し、残る危険を伝えるという順番を取る。

産業用ロボットのISO 10218も、ロボット本体だけでなく、周辺設備と組み合わせたシステム全体を分けて扱う。非常停止、柵やセンサー、人が入ったときの停止、設置後の確認など、安全は何枚も重ねる。ロボット界のミルフィーユだ。食べられはしないが、層が一枚では困る。

ここで機能安全が登場する。正常時にうまく動くことだけでなく、異常を検出し、安全な状態へ移ることを設計する。AIの判断に自信がないときは動かない。センサー同士の情報が食い違えば止まる。制御装置が故障しても、危険な動作を続けないようにする。精度競争では見えにくいが、物理世界ではこちらも主役だ。

Mujinは自社の記事で、確率的AIと決定論的な数理モデルを組み合わせ、事故リスクを極限まで抑えると説明している。また、MODEX 2026で展示した制御ハードウェア「MCX2」について、安全規格への適合を掲げている。ただし、個別製品についての説明を、同社の全技術や全現場の安全保証へ広げることはできない。規格名にも、ちゃんと担当範囲がある。

現場で聞く五つの質問 ​

日本では人手不足を背景に、工場や倉庫でロボットを使う場面が増えている。導入する側が見るべきなのは、パンフレットの大きな数字だけではない。

聞きたいのは五つだ。第一に、何を一回と数えた精度か。第二に、失敗をどう定義したか。第三に、どんな照明、荷物、速度、人の配置で試したか。第四に、判断できないときや故障時にどう止まるか。第五に、その動作と安全対策を誰が、どんな方法で確かめたか。

100%という表現を見たら、ただ疑うのでも、ありがたがるのでもなく、条件を聞く。99.9%を見たら、残り0.1%だけでなく、その誤りを受け止める仕組みを見る。数字にけんかを売る必要はない。数字へ住所を尋ねればいい。

まとめ ​

物理制御で99.9%が足りないことがあるのは、残りの誤りが現実の人や物へ触れるからだ。ただし、99.9%をそのまま事故率へ変換することはできないし、「100%」も条件のない絶対安全を意味しない。

決定論的なモーションプランニングは、動作を再現し、制約し、検証しやすくする。これは安全づくりの強い材料になる。それでも、センサー、部品、周囲の人、システム統合まで含めた危険は残る。

要するに、ロボットの安全は「賢い答えを出すこと」と「間違えたとき危険側へ進まないこと」の二本立てだ。100点の答案だけでなく、非常口の場所まで見る。物理世界のAIを読むときは、そのくらい用心深いおじさんでちょうどいい。

Sources ​