「実質賃金がプラス」と聞くと、ようやく景気の神様がこちらを向いた感じがします。ずっと逆風だった人ほど、「じゃあ今月からスーパーで深呼吸できるのか」と思いますよね。気持ちはかなり分かります。

でも今回の数字で大事なのは、祝杯をあげることではありません。3月のプラスは、賃上げが続いたことと、物価の伸びが少し鈍ったことが同時に起きた結果です。つまり「日本の家計が完全に持ち直した」というより、「追い風が吹いた月が3か月続いた」という読み方のほうが正確です。

【速報】3月の実質賃金 3か月連続プラス 基本給が伸びて物価上昇が鈍化 厚生労働省 | TBS NEWS DIG (1ページ)
【速報】3月の実質賃金 3か月連続プラス 基本給が伸びて物価上昇が鈍化 厚生労働省 | TBS NEWS DIG (1ページ)

物価の変動を反映した働く人1人あたりの今年3月の「実質賃金」が前の年の同じ月と比べて1%増え、3か月連続でプラスとなりました。厚生労働省によりますと、基本給や残業代などを合わせた今年3月の1人あたりの現金… (1ページ)

今回の登場人物

  • 実質賃金: 給料の額面から物価の影響を引いたものです。給料が増えても値上がりがもっと強ければ、実質では目減りします。
  • 名目賃金: 物価を引く前の、額面の給料です。ニュースでは「現金給与総額」などで出てきます。
  • 所定内給与: 基本給や毎月決まって払われる手当の部分です。残業代やボーナスより、賃上げの持続力を見やすい数字です。
  • 春闘: 労働組合と企業が毎年おこなう賃上げ交渉です。去年の結果が、今年の月例賃金にじわっと効いてきます。
  • 物価上昇の鈍化: 値上がりが止まった、ではなく、上がる速さが前より弱くなった状態です。ここ、けっこう大事です。

何が起きたか

TBS NEWS DIG によると、厚生労働省が8日に公表した今年3月の毎月勤労統計で、物価変動を反映した実質賃金は前年同月比1.0%増となり、3か月連続でプラスでした。現金給与総額は31万7254円で2.7%増、基本給にあたる所定内給与は3.2%増でした。

厚労省は、去年の春闘の影響で基本給が伸びていることと、物価の伸びが前年より抑えられていることが要因だとみています。つまり、給料側が少し強くなり、値上がり側が少し落ち着いた。その綱引きで、3月は家計側が勝った形です。

本題

中心問いへの答えを先に言うと、今回の本題は「ついに生活が楽になる」と言い切ることではなく、このプラスが一時的な追い風なのか、持続する改善なのかを見分けることです。

実質賃金は、景気の機嫌を一発で言い当てる魔法の数字ではありません。給料が増えた月でも、電気代や食料品が強く上がればすぐ削られますし、逆に物価が少し落ち着けば見た目は急に良くなります。だから今回は、3か月連続プラスという見出しだけで安心するより、中身を分解して見る必要があります。

まず良い点は、所定内給与が3.2%増と強めに伸びていることです。基本給の伸びは、残業がたまたま増えたとか、一回きりの手当が乗ったという話より腰が据わっています。ここが伸びているなら、少なくとも企業の賃上げが数字の土台にはなっています。

ただし、土台ができたことと、家計が余裕を感じることは別です。人間、統計表を見て夕飯を一品増やしたりはしませんからね。実際の体感は、食料、家賃、教育費、通信費みたいな毎月逃げない支出で決まります。物価の伸びが鈍ったとはいえ、下がったわけではありません。ここを雑に読むと、「プラスならもう大丈夫でしょ」と数字の前でフライングしてしまいます。

もう一つ見落としやすいのが、実質賃金は平均の数字だということです。平均がよくなっても、全員の暮らしが同じ速度で軽くなるわけではありません。大企業と中小企業、正社員と非正規、都市部と地方では、賃上げの届き方も物価の痛み方も違います。部屋全体の室温は上がったけれど、窓際はまだ寒い、みたいな状態は普通に起きます。

しかも今回のプラスは、賃金だけの勝利でもありません。厚労省の説明通り、物価の伸びが去年より鈍ったことも効いています。つまり、賃金が強くなった話と、インフレが少し一服した話が両方あって初めて生まれた数字です。片方だけ見て景気回復を断言すると、話の半分を落とします。

どこがまだ心もとないのか

今回のプラスは、去年の春闘の効果が月例賃金に広がっていることを示しますが、今年後半まで同じ勢いで続く保証はありません。企業の賃上げ余力は業種によってかなり違いますし、中小企業では価格転嫁が十分できず、基本給を上げ続けるのがしんどいところもあります。

さらに、実質賃金は平均の数字です。平均が上がっても、非正規、地方、育児や介護で労働時間が限られる人の体感まで同じように改善するとは限りません。経済ニュースの平均値って、全員に同じ毛布を配るタイプではなく、部屋全体の温度計みたいなものなんです。暖房はついたけど、窓際はまだ寒い、みたいなことが普通に起きます。

だから見るべき次のポイントは三つです。基本給の伸びが4月以降も保てるか。物価の鈍化が続くか。そして賃上げが大企業だけの話で終わらないか。この三つがそろって初めて、統計上の改善が生活の改善へ近づきます。

特に所定内給与が伸び続けるかはかなり重要です。残業代が増えても、それは景気の波や人手不足で上下しやすい。一方、基本給に近い部分が上がるなら、会社が来月以降も払う前提で賃金水準を上げたことになります。家計に効くのは、派手な一時金より、毎月じわっと効くこっちです。

逆に怖いのは、物価がまた先に走ることです。実質賃金は差し算なので、給料が増えても、食料やエネルギーが再加速すればすぐ削られます。今回の改善は、賃金の頑張りだけでなく、値上がりのスピードが少し落ち着いたことにも支えられている。だから原油や食料の国際価格がまた荒れれば、せっかくの追い風も思ったより長く続かないかもしれません。

言い換えると、今回の数字はゴールテープではなく中間地点です。ずっと上り坂だった道が、ようやく少し平らになってきたかもしれない。でも、その先にまた坂があるのか、ここから本当に歩きやすくなるのかは、次の数か月を見ないと分からない。景気って、たまに一回いい数字が出た瞬間に全員で喜びたくなるんですが、だいたい次のテストもあります。

日本の読者にとっての意味

日本の読者にとってこのニュースが重要なのは、賃上げが「企業のいい話」で終わらず、「家計が耐える話」から「少し選べる話」へ変わるかを測る数字だからです。実質賃金が安定してプラスなら、消費が戻りやすくなり、企業はまた売れやすくなる。そうなれば次の賃上げにもつながりやすい。ここはかなり大きい循環です。

逆に、このプラスが春だけの追い風で終わるなら、家計はまた節約モードへ戻ります。すると消費が弱くなり、企業も賃上げに慎重になる。せっかく一歩前へ出たのに、また元の位置へ戻るわけです。経済って、ときどき長い階段を一段だけ上がって、ドヤ顔した瞬間に横風が吹くんですよね。

だから今回の数字は、景気の勝利宣言ではなく、「持続できるか」の中間テストとして読むのがいちばんしっくり来ます。3か月連続プラスは確かに明るい材料です。ただ、本当に大事なのは、これが一度きりの春風ではなく、家計の向きを変える普通の風になるかどうかです。

まとめ

3月の実質賃金が3か月連続でプラスになったのは、去年の春闘による基本給の伸びと、物価上昇の鈍化がかみ合った結果です。だから今回の中心問いへの答えはこうです。これは家計回復の兆しではあるけれど、もう安心と言い切るには早い。

見るべき本題は、所定内給与の伸びが続くか、物価の鈍化が続くか、そして賃上げが広く行き渡るかです。数字がよくなっただけで生活が軽くなるわけではありませんが、少なくとも「追い風が吹き始めたか」を判断する材料としては、かなり大事な一枚です。

Sources