製造業の不正が出ると、話はすぐ「誰がやった」「その人を処分したか」に寄ります。もちろん責任の確認は欠かせません。ただ、ニデックグループで認定された品質に関する不適切行為は844件です。ここまで数が膨らむと、一人の悪知恵だけで説明するのは、雨漏りだらけの家でバケツ一個を叱るようなものです。

今回の本題は、844という大きな数字に驚いて終わることではありません。業績やコスト、納期への圧力がかかる一方、品質を守る人と仕組みが弱り、異常を見つけても上へ伝え、止め、直す流れが働かなかったのではないか。その「仕組みの故障」を読むことです。再発防止で本当に見るべきなのも、反省の言葉に加えて、現場が止められる設計へ変わるかどうかです。

ニデック、品質不正844件 調査委の報告受け会見 承認なく材料変更 自動車部品で産地偽装(日刊自動車新聞) | 自動車情報・ニュース - carview!
ニデック、品質不正844件 調査委の報告受け会見 承認なく材料変更 自動車部品で産地偽装(日刊自動車新聞) | 自動車情報・ニュース - carview!

ニデックは9月4日、品質不正などの疑いに関する外部委員会の調査報告書を公表した。確認された品質不正は844件に上り、同日都内で開いた記者会見で岸田光哉社長は「製造業の根幹である品質保証において不適切行為が確認されたことを極めて重く受け...

今回の登場人物 ​

  • ニデック: モーターを中心に幅広い製品を手がける企業グループです。今回、外部専門家による調査委員会が品質に関する不適切行為を調べました。
  • 品質保証: 製品が顧客と約束した仕様や手続きに合うかを確かめ、問題があれば出荷や工程を止める役目です。完成品を最後に眺める係ではなく、設計から出荷までのブレーキ役です。
  • 変更管理: 材料、工程、設計などを変えるとき、影響を確かめ、必要なら顧客の承認を得る仕組みです。料理で材料を替えるだけなら「今日はこれで」で済みますが、自動車部品ではそうはいきません。
  • 重要品質事案: 今回の報告で、役員や拠点長の関与、法令違反の疑いなど、特に重要だと区分された事案です。認定844件のうち60件でした。
  • ガバナンス: 組織が間違った方向へ走ったとき、発見し、止め、説明し、直すための統治の仕組みです。難しい言葉ですが、要するに「アクセルを踏む人だけでなく、ブレーキと計器も働いているか」です。

何が起きたか ​

日刊自動車新聞が9月4日夜に配信した記事によると、ニデックグループの品質不正などを調べた調査委員会は、品質に関する不適切行為を844件認定しました。このうち重要品質事案は60件です。

844件には、顧客の承認を得ない材料や工程の変更、検査データの不適切な書き換え、廃棄対象部品の再加工などが含まれます。これとは別に、生産地表示などに関する不適切行為も6件確認されました。EE Times Japanの詳報によれば、調査では約9万人へのアンケート、聞き取り、電子データの調査などが行われました。

ここで二つ、早合点を避けましょう。まず、844件すべてが同じ内容、同じ重さではありません。次に、現在と過去の役員ら31人を対象にした電子データの調査などでは、経営層が具体的な不適切行為を指示したり、知りながら黙認したりした事実は確認されなかったとされています。だから「経営トップが全部命令した」とは書けません。

では、個々の現場が勝手にやっただけなのか。いや、話をそこまで細くすると、報告が描いた問題から外れます。

ここが本題 ​

不適切行為をした本人の判断は問われます。けれど、844件が複数の事業や拠点で積み重なり、長く見つからず、見つかっても直らなかったなら、「なぜその判断が繰り返し通ったのか」を調べないと再発防止になりません。ここがミソです。人を見ることと、仕組みを見ることは二者択一ではありません。

EE Times Japanは調査報告の分析として、業績、コスト削減、納期など様々な業務上の圧力の中で不適切な判断が積み重なり、不健全な状態が定着したと伝えています。さらに、車載・小型モーターの三つの事業本部では、2021年から2025年に品質保証部門の人員が約48%減っていたと報じられました。

この48%は強い手がかりです。ただし、「人員が減ったから844件が起きた」と一本の矢印で断定はできません。何人いれば十分だったか、仕事量や製品構成がどう変わったか、権限や技能が足りていたかも確かめる必要があります。それでも、アクセル側の目標が重くなる時期に、ブレーキ役が細くなっていたなら、統制の設計を問い直す理由には十分です。

品質保証は、出荷直前のスタンプ係ではない ​

品質保証を「最後にOK印を押す部署」と考えると、なぜ人や権限が重要なのか見えません。本来は、変更の理由を確認し、試験が十分かを問い、顧客への説明が必要なら出荷を止める役です。仕事は製品が完成した後ではなく、材料選びや工程変更の時点から始まっています。

ところが、納期が迫り、数字の達成が強く求められる中で、品質側が「待った」をかけると、短期的には邪魔に見えます。消防訓練も、何も燃えていない日は面倒に見えるのと同じです。でも、そこでブレーキを外すと、問題が起きた後の回収費用、顧客説明、再検査、信用低下がまとめて返ってきます。ここは、笑って済ませられる帳尻ではありません。

大事なのは、品質担当者の根性を増やすことではありません。止める権限、経営へ直接上げる経路、異議を唱えても不利益を受けない運用、十分な人数と技能、変更履歴を追える記録が必要です。「勇気を持って報告しよう」という標語だけでは、重い扉に「元気よく開けよう」と貼るのと変わりません。取っ手と蝶番を直す話が要ります。

844件をどう読めばいいのか ​

件数は問題の広がりを示しますが、それだけで製品の危険度は分かりません。承認手続きの逸脱、検査データの扱い、材料や工程の変更、表示の問題では、顧客や製品への影響が違います。重要品質事案60件という分類も含め、一件ずつ影響評価と顧客への説明が必要です。

同時に、「直ちに事故が報じられていないから手続きだけの問題」と片づけるのも危険です。品質の約束は、結果として壊れなかったかだけでなく、合意した材料、工程、検査を守ったかで成り立ちます。たまたま転ばなかったから赤信号無視が青信号になるわけではありません。

反対に、844件という数字から、すべてのニデック製品が危険だと一般化することもできません。調査の認定範囲と、各製品の安全性評価は別です。怖い見出しへ一足飛びせず、「どの製品の、どの約束が、どの期間に、どう破られ、影響は何か」を会社が示すかを見る必要があります。

それで何が変わるのか ​

日本の製造業にとって、この問題は一社だけの話ではありません。人手不足の中で、開発を速め、コストを下げ、納期を守りながら、品質の確認を薄くしないという難題は多くの会社にあります。数字を達成した部門だけが評価され、止めた品質部門が「売上を邪魔した」と見られるなら、組織は静かに危ない方へ学習します。

再発防止を見るときは、研修回数や標語の数だけでなく、仕組みが実際に変わったかを見たいところです。品質保証の人員と専門性は回復したか。事業部から独立して問題を上げられるか。顧客承認のない変更をシステム上で止められるか。通報後に調査と是正が終わるまで追跡できるか。経営陣の評価に品質指標が入ったか。ここまで来て、ようやく「再発防止」が名詞から動詞になります。

そして、会社が今後公表する影響調査や顧客対応も重要です。調査報告書を出すことはゴールではありません。どの問題をいつまでに直し、第三者が何を確かめるのか。進捗が悪いときも出せるのか。信頼は、一度の謝罪会見で満タンになるポイントカードではなく、面倒でも正しい手順を毎回積み直して戻るものです。

まとめ ​

ニデックの品質に関する不適切行為844件は、数の大きさだけでも重大です。ただ、そこから「悪い人が大勢いた」とだけ結論づけると、再発を生んだ土台を見落とします。調査が示したのは、業績や納期などの圧力、品質保証機能の弱まり、異常を止められない管理が重なった可能性です。

経営層による具体的な指示や認識した上での黙認が確認されなかったことと、経営が仕組みへの責任を負うことは両立します。トップが一件ずつ命令しなくても、止めにくい目標、報告しにくい空気、細い品質部門を放置すれば、組織は間違った方向へ進めてしまうからです。

読者が次に見るべきなのは、処分者の人数だけではありません。品質担当が本当に止められるか、変更が記録されるか、顧客への説明が続くか、改善状況を第三者が検証できるか。844件のニュースを「びっくりした」で終わらせず、ブレーキを付け直せたかまで追う。それが、この問題を仕組みとして読むということです。

Sources ​