外食業の「特定技能1号」で、新たに海外から人を迎える入り口が止まった。全国の人数が上限に達する見込みになったからだ。ところが、日本ですでに同じ分野で働く人の転職まで止まったわけではない。

この組み合わせ、地方の店にはなかなか厳しい。制度の門は狭くなるのに、国内では職場の「席替え」が続くからだ。もちろん、働く人は制度の名簿に貼り付けるシールではない。本人の選択を守りながら、なぜ賃金が低く生活費が高い地域ほど空席を埋めにくくなるのか、そこを順番にほどいていこう。

「外食業」で受け入れ停止 激化する外国人“引き抜き合戦”と地方の人手不足の実態
「外食業」で受け入れ停止 激化する外国人“引き抜き合戦”と地方の人手不足の実態

「外国人との共生」を考えるシリーズの第三弾。今回は、いま地方で起きている“想定外の事態”を考えます。訪日観光客が増加する一方、各地で深刻化する「人手不足」。働き手を確保するための、外国人労働者の“獲得

今回の登場人物 ​

  • 特定技能1号: 人手の確保が難しい産業で、一定の技能と日本語力を持つ外国人が働くための在留資格。外食業も対象で、在留できる期間は通算5年が上限だ。
  • 在留資格認定証明書: 海外にいる人が日本で特定技能として働き始める際の重要な手続き。今回狭くなったのは、主にこの入り口だ。制度の建物ごと消えたわけではない。
  • 受け入れ機関: 特定技能の人を雇う会社や店。仕事だけでなく、住居や生活案内などの支援も担う。
  • 宮古島の飲食店と沖縄本島のホテル: 観光需要はあるのに、賃金と生活費の組み合わせで働き手を確保しにくい現場として、今回の入口記事に登場する。

何が起きたか ​

テレビ朝日は、沖縄県の宮古島などで起きている人材獲得競争を報じた。政府は2026年4月13日から、外食業の特定技能1号について、新たな在留資格認定証明書の交付を一時停止した。

出入国在留管理庁によると、外食業の特定技能1号は2月末時点で約4万6000人。5月ごろに受け入れ上限の5万人を超える見込みだった。だから4月13日以降に受理した新規申請は不交付とされた。一方、すでに外食業の特定技能1号で在留している人が、転職などに伴って出す申請は通常どおり審査される。

宮古島の民謡居酒屋では、本来この夏に7人の外国人スタッフが働く予定だったが、報道時点の在籍は3人。6月から働く予定だった4人の来日が遅れているという。沖縄本島のホテル運営会社は、特定技能1号を含む約150人の外国人を雇い、無料の個室寮や1日2食、ジム、買い物バスまで用意してきた。それでも、県外のより待遇がよい職場へ移る例があったと説明している。

ここが本題 ​

全国上限は「日本全体で何人受け入れるか」を調整する仕組みだ。けれど、店が困るのは全国平均ではなく、目の前のシフト表の空欄である。全国に5万人いても、宮古島の厨房に必要な3人がいるとは限らない。名簿の合計と、各地の配置は別問題なのだ。

しかも、新規の入り口は細くなったが、働く人には転職する道が残っている。同じ外食分野なら転職でき、勤務先を変える際は在留資格変更許可の手続きが必要になる。門は狭く、席替えは続く。制度は人数の総量にはブレーキをかけても、地域ごとの定着までは保証しない。

ここから地方の難しさが生まれる。「全国枠が埋まる」と「全国で公平に人手が満たされる」は、似た顔をしているが別人なんだね。

上限は合計を数え、空席までは見ない ​

まず、上限が数えているものを整理しよう。外食業の受け入れ見込数5万人は全国の合計だ。東京のレストランで働く1人も、沖縄のホテルで働く1人も、枠の上では同じ1人として数えられる。

ところが採用の現場には、入る人、辞める人、移る人がいる。ある地域で1人が県外へ転職したとき、全国の在留者数はほぼ変わらなくても、その店には空席が一つ生まれる。新規入国が続く時期なら、海外採用という選択肢がある。交付停止中は、その採用の入り口が狭い。

すると採用競争は、すでに国内にいる限られた人を巡る色合いが濃くなる。高い賃金、安い寮、通いやすさ、昇進の道、日本語や生活の支援。条件を積み上げられる企業ほど有利になる。これは「都会が必ず勝つ」という単純な話ではない。ただ、採用の選択肢が減れば、もともとの条件差が前に出やすくなる。

暮らしは時給一本勝負ではない ​

入口記事が宮古島で示したのは、賃金だけを比べても実態が見えないことだ。取材先の事業者によると、島で一人暮らしをすれば家賃は月8万〜10万円ほど。ガソリンは7月時点で1リットル190円前後だったという。離島の物流費も商品価格に乗りやすい。沖縄の賃金水準が低い一方で生活費が高ければ、給料日に受け取る額より、月末に残る額が問題になる。仕事選びは時給だけの一科目ではなく、住まいも交通も含めた「暮らしの総合点」なのだ。

東京の取材では、午後10時以降の時給が1850円だと話す留学生がいた。沖縄から東京へ移り、時給が1.5倍以上になったという人も紹介された。ただし、これは全国平均の比較ではなく、取材した個人の例だ。ここを「外国人はみな東京へ行く」と膨らませてはいけない。

それでも、住居支援の重さはよく分かる。宮古島のリゾートバイトでは、光熱費込み月1万円からの寮が仕事選びの決め手の一つになっていた。沖縄本島のホテルも無料の個室寮を整えている。寮は福利厚生の飾りではない。実質的な手取りを増やす、もう一枚の給与明細に近い。

転職できることは欠陥ではない ​

ここで「では地方から移れない制度にすればいい」と急ぐのは危ない。特定技能の人にも、より安全で、収入が高く、将来につながる職場を選ぶ理由がある。転職できることは、人を職場に縛り付けないための大切な仕組みでもある。

入口記事では専門家が、法律上の権利や人権に留意したうえで、地域で働くことを条件にする制度変更も検討の余地があると述べた。これは専門家の提案であり、決定済みの政策ではない。また、地域限定には、本人の職業選択や、不当な待遇から離れる力を弱めない設計が欠かせない。

だから本当の課題は、移動を止めることではなく「残ってもよい」と思える条件をつくれるかだ。賃金だけで都市部と競えないなら、住まい、食事、交通、資格取得、管理職への道、相談相手まで含めて比べる必要がある。福利厚生のおまけ欄をにぎやかにする話ではない。暮らしの総合点を、雇用条件として設計する話である。

全国上限に必要なもう一枚の地図 ​

全国の人数だけで制度を点検すると、地域の穴は見えにくい。必要なのは、どこに何人いるかに加え、求人が何件あり、何人が定着し、どこへ移り、住居費を引いた後にいくら残るかという地図だ。

テレビ朝日が紹介した沖縄県の7月の求人倍率は、接客で約2.7倍、調理で約1.8倍だった。求人倍率は職種の不足感を示す一つの数字だが、特定技能の人だけを数えたものではない。それでも、現場の空席が「全国の上限に達したから解決済み」ではないことは分かる。

上限を増やすか減らすかだけでなく、停止中の申請がどう処理されるか、地域別の不足がどう変わるか、企業が定着のために何を改善したかを見る。制度の議論には、このもう一枚の地図が要る。合計欄だけ立派な表計算は、現場に持っていくとだいたい困る。セルは満員でも、厨房は空いているからだ。

私たちの生活にも返ってくる ​

地方の飲食店やホテルの人手不足は、経営者だけの問題ではない。営業時間が短くなる、予約を受けられない、観光客を迎えてもサービスを供給できない。地域で暮らす人にとっても、食事や移動や介護など、日常を支える仕事の担い手をどう確保するかにつながる。

同時に、外国人を単なる「不足分」として数えない視点も要る。来日する人には生活があり、家族への送金や将来の計画があり、職場を選ぶ基準がある。選ばれる地域になる努力を飛ばして人数だけ割り振れば、制度は長続きしにくい。

今後見るべきは、外食業の上限が動くかだけではない。交付停止の例外がどう運用されるか、地域別の採用・離職のデータが示されるか、住居を含む待遇が改善するか。この三つを見ると、ニュースが「5万人で止まった」で終わらなくなる。

まとめ ​

外食業の特定技能1号は、全国の受け入れ上限に達する見込みから新規の交付が一時停止された。一方、すでに国内で働く人の転職申請は通常どおり審査される。海外から新たに採用することは難しくても、働く人はよりよい条件へ移れるわけだ。

だから、低い賃金と高い生活費を抱える地域ほど空席を埋めにくい。答えは働く人を縛ることではなく、全国の総数だけでなく地域の不足と暮らしの条件まで見て、選ばれ、定着できる仕事をつくることにある。

Sources ​