「週休3日」と聞くと、働く時間も1日分すっと消えるように感じます。金曜の夕方が一日早く来る。そんな夢のカレンダーを開きたくなりますが、長崎県庁の制度は少し違います。
給与は変えず、1週間当たりの平均勤務時間は38時間45分のまま。一定期間の合計勤務時間を、週4日勤務を組めるよう配分します。休みは増える。でも仕事時間は減らない。本題は、この「4日圧縮」が短時間労働と何が違い、長い勤務日の負担を本人、家庭、同僚、住民サービスのどこへ動かすのかです。

「週休3日」という新しい働き方が、自治体にも広がりを見せています。東京都や千葉県など全国17都府県で導入が進む中、長崎県庁でも10月から希望する職員を対象とした「選択的週休3日制」が本格導入されます。給与… (1ページ)
今回の登場人物
- 長崎県庁の選択的週休3日制: 希望する職員が、フレックスタイム制を使って週の勤務を4日へ寄せ、もう1日を週休日にできる制度です。
- フレックスタイム制: 決められた期間の合計勤務時間を保ちながら、日ごとの始業・終業時刻や勤務時間の配分を柔軟にする仕組みです。
- 週38時間45分: 長崎県の一般的な職員に定められた、休憩を除く1週間当たりの勤務時間です。今回の制度でも基本的に短くなりません。
- 短時間勤務: 1日や週の所定労働時間そのものを短くする働き方です。4日へ同じ時間を詰める今回の仕組みとは、まずここが違います。
- 週休日: 勤務時間を割り振らない日です。有給休暇を毎週1日使う話ではなく、勤務日の組み方を変えて増やします。
何が起きたか
TBS NEWS DIGは9月13日、長崎県庁が10月から本格導入する選択的週休3日制を伝えました。希望する職員は、給与を維持したまま、週38時間45分の勤務を4日に配分できます。
県議会は6月定例会で、週休3日を可能にするフレックスタイム制に関する条例改正案を審査しました。テレビ長崎の7月報道によると、従来は育児や介護などをする職員に限られていた対象を、希望する全職員へ広げます。ただし、利用は所属長が、公務の遂行に支障がない範囲で承認します。勤務日は午前7時から午後10時の間で調整します。
県は2024年度から試行を進め、2026年7月には本格導入を前に利用を試しています。取材に応じた職員は、3歳と1歳の子どもと過ごす時間を増やすため制度を選び、ある日は午前8時に出勤して午後7時まで勤務していました。これは一人の利用例です。全員が同じ時刻で働くわけではありません。
休みと時間は別もの
まず数字を机に置きましょう。週38時間45分は、分に直すと2,325分です。5日へ均等に配れば1日7時間45分。4日へ均等に配れば、1日当たり約9時間41分になります。どちらも休憩時間は別です。
つまり、増えるのは「勤務しない日」であって、基本の勤務時間が週1日分減るわけではありません。カレンダーの赤い日が増えても、時計の合計は同じです。時間が消えたのではなく、引っ越した。家具なら段ボールで済みますが、勤務時間は残り4日にきっちり収まります。
ここが短時間勤務との違いです。短時間勤務は、たとえば育児や介護などの事情に合わせ、週や日の勤務時間そのものを減らす仕組みです。制度の設計によって給与や担当業務の扱いも変わりえます。一方、長崎県庁の今回の制度は、報道された基本形では給与と週の勤務時間を保ち、配分を変えます。
「週休3日制」という同じ看板でも、中身は一つではありません。労働時間を減らし給与を維持する型、時間と給与をともに減らす型、時間を4日へ圧縮して給与を保つ型があります。看板だけ見て比べると、別の料理を同じお皿だと思ってしまうんですね。
本人へ移る負担
4日圧縮の分かりやすい利点は、まとまった休みを作れることです。平日にしか開いていない窓口や病院へ行く、家族と過ごす、通勤回数を減らす。遠距離通勤なら、往復が1回減る効果も小さくありません。休日が点ではなく面になると、できることは増えます。
その代わり、勤務日は長くなります。集中力が落ちる時間帯はないか。長時間座る、画面を見る、住民対応を続ける負担はどうか。仕事後に通院、買い物、家事をする余力は残るか。週の合計が同じでも、1日に受け止める重さは同じではありません。
特に注意したいのは、「選べるのだから自己責任」で終わらせないことです。利用を希望した職員でも、実際に長い日を続けてみれば合う、合わないはあります。途中で通常勤務へ戻しやすいか、勤務間の休息を確保できるか、管理職が疲労や時間外勤務を把握できるか。選択肢は、出口もあってこそ選択肢です。
家庭へ移る負担
子育てや介護と相性がよい人もいれば、長い勤務日が家庭の予定とぶつかる人もいます。週休日に子どもと長く過ごせても、勤務日の送迎、夕食、寝かしつけを誰が担うのか。家族やパートナーへ平日の負担が寄れば、世帯全体では「休みが増えた」と単純に言えません。
もちろん、家族内で納得して分担でき、まとまった一日が大きな助けになる家庭もあります。大切なのは、制度の良し悪しを一つの家族像で決めないことです。小さな子どもがいる人だけでなく、介護中の人、一人暮らしの人、治療や学びに時間を使う人でも効果は違います。
取材された職員の前向きな体験は、制度が役立つ具体例です。ただし、一人の成功例を全職員の効果に広げることはできません。逆に、長い勤務日が合わない人がいても、制度全体の失敗とは限らない。選択制を評価するときは、平均だけでなく、誰が使えて誰が使いにくいかを見ます。
職場へ移る負担
職員が一人休む日は、その人の仕事が自動で休眠するとは限りません。電話、窓口、議会対応、災害対応、他部署との調整は動きます。担当者不在でも仕事が回るよう、情報共有や代理対応を整えなければ、同僚へ負担が寄ります。
長崎県の行財政運営に関する資料では、2024年度に週休3日などへ対応する特例フレックスタイム制を38所属で試し、勤務時間の割り振り調整が難しいこと、窓口部署や同じ所属で多くの職員が使う場合の管理方法を整理する必要があることを課題に挙げていました。制度の弱点を県自身が先に見つけているわけです。
本格導入で問われるのは、その課題へどう手当てしたかです。予定表を見える化する、仕事を複数人で扱えるようにする、会議を特定の曜日へ寄せすぎない、窓口の最低人数を確保する。ここを職員の頑張りで埋めると、制度は柔軟になった顔をしながら、現場だけが柔軟体操を続けることになります。
住民サービスはどうなる
県庁の働き方なので、最後に受け取るのは県民です。担当者の週休日でも相談が止まらないか。申請や照会への返答が遅れないか。災害や緊急対応に必要な人数を保てるか。ここは「職員の福利厚生」と「行政サービス」を対立させず、両方を測る必要があります。
働きやすさが上がれば、採用や離職防止、仕事への集中に良い影響が出る可能性はあります。しかし、県は効果を見込んでいる段階であり、本格導入後の結果はこれからです。「休みが増えたから生産性も必ず上がる」「一日が長いから必ずサービスが落ちる」と、先に結論を置くことはできません。
見るべき数字は、利用者数だけではありません。利用した部署、途中で戻した人、時間外勤務、有給休暇、病気休暇、窓口の待ち時間、県民からの問い合わせへの対応などです。平均の残業が減っても、特定の人へ偏っていないかも大事です。数字は一つだとポスター、組み合わせると評価になります。
成功の条件
第一は、本当に選べることです。上司が勧める空気で半ば強制されないこと。逆に「忙しい部署で使うのは申し訳ない」という空気で利用を諦めなくてよいこと。制度が紙の上だけで開いていても、職場の空気に鍵がかかっていれば使えません。
第二は、長い勤務日をさらに残業で延ばさないことです。週38時間45分を4日へ寄せた上に時間外勤務が重なれば、圧縮の負担は一気に増えます。勤務間の休息、健康管理、業務量の調整を一緒に運用する必要があります。
第三は、チームで仕事を渡せることです。「その人しか分からない」を減らすことは、週休3日のためだけではありません。休暇、病気、異動、災害時にも役立ちます。制度をきっかけに仕事の属人化をほどけるなら、休む人以外にも意味があります。
それで何が変わるか
この制度の価値は、休みが一日増えたという見た目だけでは決まりません。同じ時間を4日に配ることで、まとまった自由時間を得たい人には新しい選択肢になります。一方、勤務日は約9時間41分になり、本人の疲労、家庭内の分担、同僚の代理対応へ負担が移る可能性があります。
だから本格導入後は、「利用率が高いか」だけでなく、「利用しても仕事と生活が無理なく続くか」を見たい。県民へのサービスを保ち、利用しない職員へしわ寄せせず、長い勤務日の健康を守れるか。成功は、休みの数より時間の置き場で決まります。
長崎県の試みは、全国の公務員にそのまま同じ効果が出る証明ではありません。業務、職場の人数、窓口の有無、地域事情が違うからです。ただ、週休3日の中身を見分けるよい教材にはなります。カレンダーを開いたら、次に時計も見る。これで看板に振り回されにくくなります。
まとめ
長崎県庁の選択的週休3日制は、給与と週38時間45分を基本的に維持し、勤務を4日へ圧縮する仕組みです。4日へ均等に配れば、休憩を除く勤務は1日約9時間41分。労働時間そのものを減らす短時間勤務とは違います。
まとまった休日は、子育て、介護、通院、学び、休養に使える大きな利点です。同時に、長い勤務日の疲労、家庭内の分担、同僚の代理対応、住民サービスへ負担が動く可能性があります。効果は人と部署によって違い、本格導入後の検証が必要です。
休みの数だけではなく、時間と仕事をどこへ置くかを見る。週休3日をきちんと理解する合言葉は、これです。